• 配信日:2020.08.04
  • 更新日:2023.09.01

オープンイノベーション Open with Linkers

高い金属加工技術で、NO! と言われた案件もチャレンジ【株式会社 クライン】

※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。

東京都と岩手県に事務所を構える、金属加工業の株式会社クライン様。金属加工の企業は他にもたくさんありますが、『クラインだからこそ頼みたい』というお客様が多くいらっしゃるのだとか。今回は代表取締役であり「お客様係」でもある、荒井信喜様にお話を伺ってきました。

社長も社員も、みんな同じ目線から

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株式会社クライン 代表取締役 荒井様

リンカーズ 長友

今日はよろしくお願いいたします。創業から14年ほどで従業員数が100名を超えていますが、何かきっかけなどはあったのでしょうか。

クライン 荒井様

株式会社クライン自体は平成15年(2003年)創業ですが、実は祖父が建てた会社が前身としてあります。元々はHDD(=ハードディスクドライブ)のアクチュエータ部分の金属加工で大きくなりました。その会社がバブル後の景気低迷により倒れまして、平成15年に「株式会社クライン」として再建をしました。


ー 創業のタイミングで何か変えられたことはあったのですか?

当時、厳密にはそれよりも前ですが、業界全体が大量生産という形から少しずつ離れていっていたので、株式会社クラインでは、思い切って多品種少量生産の方向に舵を切りました。前は年に生産するアイテムが1,000程度だったのですが、現在では2.5倍ぐらいになっていますね。
ー現在の業界としてはどのようなところがあるのですか? 納入先としてはSONYさんが半分、残りの3割強が半導体の製造装置です。製造装置の中でも前工程を担当させてもらうことが多いですね。後工程は中国や台湾のメーカーが台頭してきていて、そこで戦っても未来はないと思いました。

社名の由来は「クラインの壷」

リンカーズ 長友

クライン様の企業名は「クラインの壷」が由来とのことですが、その意図はどのようなものですか?

クライン 荒井様

[当時何かでクラインの壷を見かけたことがあって「これだな」と思って決めたのですが、いま振り返ると「私の自信のなさの表れ」だなと。クラインの壷っていつの間にか表にいってるじゃないですか。つまり、上も下も同じ平面状に立っている。会社、つまり組織はトップ一人では成り立ちませんので、私(社長)と機械を操縦しているパートさんも同じ立場でいれたらいいなと思ってその名前にしました。

ーそれは再建当時の荒井様の心境を反映しているのでしょうか? そうですね、新しい会社になった時点で前のところとは違いますよと。だから「みんな一緒くたでやっていこうよ!」という気持ちもありましたね。

名刺に「お客様係」と書いてある理由は・・・?

リンカーズ 長友

社員の方と同じ立場で仕事をしていくうえで、工夫されている点はありますか?

クライン 荒井様

工夫というか、意識しているのは「言葉ではなくて、行動で示す」ということですかね。

例えば我々の業界の場合、ご年配の創業者の方が残っているケースが多く見られます。そうした創業者の方のモチベーションって「お金」、つまりリッチになりたいという想いが強い。 ただ、そうした姿勢が社員に見えてしまうとモチベーションが下がるかなと思います・・・少なくとも私が社員だったらそう思います。クラインの社員たちに、そう(=社長がお金持ちになるために会社経営をしていると)思われないように気をつけているのはありますね。 細かなところかもしれませんが、例えば私が車を買うときは金額を社員に伝えます。「中古車で予算は300万円!」という感じで。 というのも、車そのものはお金を生み出さないじゃないですか。(自分が)リッチになるために会社を経営しているのではない、ということを言葉としてではなく、そうした行動でみんなに知ってもらえればなと思っています。 ー名刺の「取締役」の上に「お客様係」と書かれているのも、そうした想いからですか? 私が直接営業をかけることも多いですからね。立場上は取締役ですが、みんなと同じ目線で会社を見ているということを意識したくて入れました。

8年前からテレビ会議を導入!リアルタイムでのコミュニケーションを重視

リンカーズ 長友

社員の中にはコミュニケーションがあまり得意でない方もいらっしゃると思うのですが、そういった点で何か工夫されていることはありますか?

クライン 荒井様

コミュニケーションを少しでも早くしようと思い、8年前からテレビ会議を導入しています。今となっては普通かもしれませんが。東京と岩手の事務所は常につながっているんです。

こうすることで遠隔地にいてもコミュニケーションが素早く行えます。例えば、金属加工でミスをしてしまったときには、テレビを通じて状況を見せてもらうことでタイムリーに対応策を考えることができます。会議も基本的にはテレビでやってしまいます。あとは、テレビ会議を導入して出張が激減したので、経費的にもよかったと思います。

加工技術や製品の安売りをしないコストダウン

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公式ホームページの加工事例は、すべて荒井様が撮影

リンカーズ 長友

クライン様の営業スタイルとしてはどのような感じなのでしょうか?

クライン 荒井様

直接営業したり展示会にでたり、クラインのホームページから依頼が来ることも多いですよ。
どのお客様にも必ず「当社は値段のみの勝負はしておりません!」と言い切ってしまいます。「それでもクラインに任せたい!」といってくださる企業様と、一緒にお仕事をさせていただきます。開発にしっかり費用をかけられるお客様でないと、最終的にお互いうまくいかなくなってしまうことがありますから。

ーホームページの加工事例はいつ頃作られたのですか? 3年ほど前でしょうか。「当社で作った製品を一番愛しているのは私だな」と思い(笑)、撮影もすべて自分でやりました。 ーえっ!? てっきりプロの方に依頼したのかと思っていました・・・ と申しますのも、一生懸命作った製品を社会の役にたてたいという思いがすごく強いので、全て自身で行いました。

コストダウンにつながる提案

クライン 荒井様

前身の会社でよかった点は、難しい案件がきたときに「よし、やってみよう!」と思える風土があったことです。

図面を見て「これは・・・」と冷や汗をかくようなものであっても、いったんは持ち帰って社内でできるかを必ず確認します。持ち帰った後によくよく考えみたら、やっぱり「NO!」ということもあるのですけど・・・(笑) でもそうした場合にはしっかりと理由をお伝えします。「御社の要望に応えるには●●という技術・機器が必要なのですが、弊社にはそれらが揃っていないため申し訳ないのですがお受けできません」と。ときには対応可能な他の企業さんを紹介することもあります。

リンカーズ 長友

仕事がたくさん集まる企業とは、難しいものでも「やってみよう」と思える、つまり、困難を楽しめるところなのでしょうね。クライン様の強みとしては他にどのようなところがあるのでしょうか?

他には、
  • 開発試作から量産まで提案型で対応すること
  • 「クラインの製品は組み立てやすい」という評価
  • 大手メーカーとの取引実績

などがあります。試作段階から図面を見せていただくことでそのクセもわかりますから。 ー図面のクセというのは具体的にいいますと・・・? 例えば刃物が入りにくい、この形状では精度を出しにくいなどですね。そういった場合はその製品がどこに使われるのかをしっかりと聞いたうえで、ベースとなる図面を拝見することで、「この用途ならばこれだけの寸法はいらないのでは」といった具合により新しい提案ができたりもします。 また、組み立てやすいということは作業工数が減るということなので、結果的にコストダウンにつながるとアピールすることができます。そして、大手企業との取引実績はお客様に安心感と信頼感を感じていただけます。

材料原価は5%程度。残りの95%は職人による付加価値


多くの金属素材を扱うが、裏を返せば職人のやりがいにつながっている。

リンカーズ 長友

さまざまな種類の金属を扱っていると、その全てを扱える人を育てるのは難しいのではないかと想像しますが、如何でしょうか。

クライン 荒井様

製造でいえば3年ぐらいでやっと半人前かなという感じです。ただ、職人たちにとっては毎日違う形状・素材の加工ができるので面白いのではないかと思います。

クラインでは基本的に図面から、それぞれの職人が自ら加工方法を考えます。金属は加工を進めるうちに反ってしまったり、くわえる場所(=加工する際に固定する場所)が悪いと加工精度が出なかったりするのですが、機械自体の加工精度はかなり高いところまで来ているので、あとは職人の工夫によるところも大きいです。 ー成果物としては同じでも、その過程は違うということですか? そうです。実際、金属加工には正解がありませんから。 また、クラインの材料原価は5%ぐらいで、残り全ては製造加工を担当する職人による付加価値となりますので、とても誇り高い仕事だと思っています。会社の利益を生み出すのも1人1人にかかっていると伝えています。 ー精度の高い製品を作るだけでなく、経済的な観点からも考えなくてはならない点がすごく面白そうですし、従業員のモチベーションアップにもつながりそうですね!

製造業のこれから 技術伝承

リンカーズ 長友

大手の開発部門からお話を伺うと、若い方に技術伝承ができないという悩みをよく耳にします。開発の担当者と現場との乖離といいますか・・・、そうしたものを感じることはありますか?

クライン 荒井様

ありますね。さまざまなお客様と打ち合わせをしていて、詳細なヒアリングを要する割合は以前より増えましたね。

実際、SONYさんも同じ危機感を持っているようで、若い方にもっと技術的なことを教えていき、今ある工場をもっと活かさないといけないというのはあります。 大手企業さんが派遣社員をたくさん使い始めたころから、製造業全体のレベルが下がったと思います。技術的な面もそうですが事務処理の技術や、-我々みたいなメーカーを探す目利き力ー、も落ちていると感じます。今後は、若手技術者にそうした状況や製造業の基礎となるところをしっかりとお伝えしていく必用がありますね。

株式会社 クライン

    所在地:
  • 【東京本社】  東京都青梅市藤橋3-2-12
  • 【岩手事業所】 岩手県遠野市上郷町板沢10地割1番3
  • 【三重オフィス】三重県津市緑が丘2-3-6
  • 設立:2003年
  • 電話:【本社・三重オフィス】0428-31-8200 【岩手事業所】0198-65-3373
  • 資本金:2,000万円
  • 公式ホームページ:http://www.cline.co.jp/

あとがき

~株式会社 クライン様の魅力~


  • 社長を含めたすべての社員が同じ目線でお客様を見ている

  • いかなる依頼に対しても「NO!」とは言わない。まずはチャレンジしてみる

  • 金属加工を行う職人1人1人のやりがいがとても大きい


代表取締役の荒井様は、謙虚でありながらも自社製品にかける想いと愛情を感じられる方でした。社員とお客様、そして自社製品にまっすぐ向き合っているからこそ、多くのお客様から信頼されてきたのだと思います。