• 配信日:2023.06.14
  • 更新日:2024.04.19

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破壊的イノベーションの起こし方

破壊的イノベーション=性能が一時的に低下するイノベーション


破壊的イノベーションとは、主要顧客から見た性能が一時的に低下するイノベーションのことです。

破壊的イノベーションの起こし方

画像のグラフでは横軸に時間、縦軸に既存製品の主要顧客が重視する性能をとっています。クリステンセンはこのグラフにまず赤い点線の「顧客が利用可能な性能」を引きました。多くの顧客にとって利用可能な性能には上限があり、その上限は時間が経過しても大きく上昇しないということを表しています。

その一方、技術者たちは日進月歩で技術を向上させていきます。グラフの青線のタイプのイノベーション(既存製品の主要顧客が重視する性能が時間と共に上がっていくイノベーション)が「持続的イノベーション」です。持続的イノベーションの競争においては、歴史のある大企業がほぼ必ず勝利します。

対して、既存製品の主要顧客が重視する性能が一時的に下がるタイプのイノベーションもあります。グラフの緑の線で表したものです。このタイプのイノベーションは、赤い転線で示した「既存製品の既存顧客が利用可能な性能」より低くなるイノベーションのため、既存製品の顧客にとっては不要なもの(オモチャ)と判断されやすい傾向があります。歴史ある大企業は、大事な顧客から不要だと思われる製品に対してまず投資しません。従って破壊的イノベーションに手を出すことができないという特徴があります。

新規参入企業は、当初性能が低いプリミティブな製品を開発し、大企業が獲得してきた顧客以外の層にアプローチすることで、大企業が拾いきれなかったニーズに対応し、そこから徐々に性能を上げていきます。性能が上がっていき、「大企業の既存顧客が利用可能な性能」の曲線を超えた瞬間を私は「破壊の瞬間」と呼んでいて、この瞬間以降、大企業の既存顧客から見ると、これまでの持続的イノベーションを続けてきた製品でも、破壊的イノベーションで生まれた製品でも、どちらも自身のニーズを満たす製品となります。そうなると、破壊的イノベーション由来の製品の方がコストが安かったり、操作が簡単だったり、持ち運びが可能だったりと、持続的イノベーションとは別の部分で優れていることが多く、顧客が移ってしまうという現象が起きます。これにより持続的イノベーションを続けてきた企業が「破壊」されてしまうのです。

クリステンセンの定義した2つのイノベーション


改めてクリステンセンが定義した「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」について整理します。

破壊的イノベーションの起こし方

持続的イノベーション( Sustaining Innovation )
・従来製品よりも優れた性能で、要求の厳しいハイエンドの顧客獲得を狙うもの
・持続的イノベーションの中には、性能が少しずつ向上する漸進(ぜんしん)的なものもあれば性能が一気に向上する画期的なものもある。どちらにせよ、主要顧客から見た製品の性能が向上していくイノベーション

破壊的イノベーション( Disruptive Innovation )
・既存製品の主要顧客には性能が低すぎて魅力はないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品をもたらす

破壊的イノベーションは、大企業がその製品をオモチャだと認識している間に、市場を奪っていくという特徴があるのです。

破壊的イノベーション(新規事業)の起こし方


破壊的イノベーション(新規事業)を起こすためには「人の行く 裏に道あり 花の山」という考え方が重要です。

破壊的イノベーションとは、少なくとも短期的には、主要顧客が重視する性能を引き下げる効果を持つインベーションです。そのため既存優良企業の最重要顧客は、破壊的イノベーションによって生まれた製品やサービスを「あんなものはオモチャだ」と必ず言います。

しかし大手優良企業を失敗に導いたのは破壊的イノベーションであることから、新規事業を考える際は、既存の大企業と正面から戦う「持続的イノベーション」の競争ではなく、大企業が自ら道を譲るような「破壊的イノベーション」の形に持ち込むことが望ましいのです。

破壊的イノベーションの起こし方

そのためにはまず基本戦略を定めることが重要です。主に3つの戦略が考えられます。

  • 1. 新市場型破壊
  • 2. ローエンド(効率向上)型破壊
  • 3. 持続的イノベーションで、あくまでもハイエンドを目指す

破壊的イノベーションを起こす王道戦略・覇道戦略

破壊的イノベーションの起こし方

「持続的イノベーション」は、イノベーションの方法としては王道です。そのため、多くの企業が「持続的イノベーション」を採用しがちで、経営資源が多い企業が競争に勝つという特徴があります。

対して、ニーズはあるものの何らかの制約があるために解決策がない状況や市場を見つけて(無消費の機会)、新市場型破壊的イノベーションを行うのが、1つ目のイノベーションの覇道です。

もし新市場が見つからなかった場合、ローエンド(効率向上)型の破壊的イノベーションを目指すという方法もあります。これが2つ目の覇道です。顧客がオーバースペックだと思う製品・サービスに対して適切な性能・低コストの製品・サービスを提供する方法です。

このような基本戦略のうち、どれを採用するか考えることがイノベーションのスタートといえます。

顧客がかなえたいジョブを探す

実績のある競合企業が喜んで無視するか、背を向けるような「破壊」の足がかりを見つけることが破壊的イノベーションにおいて重要です。そのためには「無消費者」をターゲットにします。

無消費(ノンコンサンプション)とは、片付けたいジョブが何らかの「制約」によって妨げられている状況のことです。「制約」とは「スキル」「アクセス」「時間」「資力」のいずれかが不足している状況のことを意味します。この「制約」を解消する製品やサービスを開発することが「無消費者」をターゲットにし、破壊的イノベーションを起こすチャンスになるのです。

もし、多様なメンバーを集めて「無消費」の状況を探しても見つからなかった場合は「満足過剰の顧客を探す」のが効果的。満足過剰な状況とは、ある顧客グループにとって、ある特定の製品・サービスの性能が向上しても、満足度のアップにはつながらない状況のことです。

満足過剰な顧客を見つけたら、その顧客にシンプルかつ低価格で「必要十分」なソリューションを提供することで「ローエンド(効率向上)型の破壊的イノベーション」を起こすことができます。

どこにとって破壊的なイノベーションかを考える


「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」といっても、どこにとって「持続的」「破壊的」なのかを考えると、次の4パターンに分けられます。

破壊的イノベーションの起こし方

  • ・自社にとって持続的
  • ・自社にとって破壊的
  • ・他社にとって持続的
  • ・他社にとって破壊的

最もおすすめしたいのは、「自社にとって持続的」かつ「他社にとって破壊的」なビジネスを見つけることです。自社としては新しいことをやらずとも他社との競争で優位に立てます。

次におすすめなのは、「自社にとって破壊的」であり「他社にとっても破壊的」であるビジネスを見つけることです。自社にとって破壊的な場合、対応できる企業の買収などを含め別組織でビジネスを進めることが肝になるでしょう。

その次は「自社にとって持続的」であり「他社にとっても持続的」なビジネスを見つけること。競合より自社の方が大きいのであれば競争で優位に立てます。

「自社にとって破壊的」かつ「他社にとって持続的」なビジネスは避けるべきです。競争で勝利する確率は極めて低いと考えられます。ただし破壊的イノベーションを起こした企業を買収したり、組織を新設したりして独立性を維持したまま経営するという手段もあります。

講演者紹介

破壊的イノベーションの起こし方

玉田 俊平太 氏
関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科長・教授 博士(学術)(東京大学)

【略歴】
ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーション理論の指導を受ける。
筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。
研究・イノベーション学会評議員。日本経済学会、日本知財学会会員。
元日経 IT イノベーターズ会議アドバイザリーボードメンバー。
Re-Innovate Japan アドバイザリーボードメンバー。
平成 23 年度 TEPIA 知的財産学術奨励賞会長大賞受賞。
著書に『日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社、2015年)、『イノベーション政策の科学:SBIR政策の評価と未来産業の創造』(東京大学出版会 、2015年)、『産学連携イノベーション―日本特許データによる実証分析』(関西学院大学出版会、2010年)等、監訳に『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2000年)、『イノベーションへの解』(翔泳社、2003年)等がある。

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