• 配信日:2023.06.09
  • 更新日:2024.07.01

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技術戦略と技術価値評価の関係性〜経営戦略と一体化したアプローチ〜

技術価値評価の進め方


技術戦略と技術価値評価の関係性〜経営戦略と一体化したアプローチ〜

さて、技術価値評価を進めるにあたり、前提として「技術は本来比較できるものではない」ことをおさえておきましょう。本来的に技術に価値の優劣などありませんが、あくまで「企業」の「ビジネス推進」という枠組みのために、無理やり「ビジネス的価値」という共通の基準で比較することになります。価値がある/ないのような表現は、本来意図している表現ではありませんし、心象的にも疑義を感じますので、注意するようにします。

企業研究者は限られた予算を配分しなければならないため、便宜上、優先度をつける必要があります。そのため、「自社のビジネス的価値への貢献度」という観点を共通のモノサシとして技術を比較し、優先度を判断します。

そのため、技術的難易度と技術価値を混同しないように注意しましょう。難しいことを成功させたとなると論文的価値は高いですが、このことと、上記のテクノロジーポートフォリオ上で高い位置にプロットできるかはまったく別な話になります。

また、技術価値評価は相対的なものであるということも前提としましょう。すべての技術が誰にとっても等価であるはずはなく、同じ技術を持っていても、それを使いこなして利益を出せる企業とそうでない企業は存在します。
あくまで、自社が属する市場環境の中で、自社の他の様々な要素を考えたときに、この技術が収益貢献できるかという話であり、同じ技術でも環境や主語が異なれば違った評価結果になると思います。

技術価値評価とは


さて、技術開発は実は出し手となる資金の特性によって求められる意味合いが異なります。企業は投資した金額に対するアウトプットのバランスを重視するため、研究開発におけるインプット、すなわち投資資金の特性によって求められるアウトプットの特性も変わってくるということです。

元になる資金は以下の2つに分類できるでしょう。

  • ・有利子負債(借入金など)
  • ・余剰資金(内部留保など)

有利子負債とは、銀行借入などのリスク資金のことです。返済しないと利子が膨らんでいくため、自社にとって保有しているだけでコストになります。この資金を投資する場合、回収が遅れればキャッシュフローがマイナスにふれてしまうリスクが大きく、極端な話、投資効果が発揮されなければ倒産に直結しかねない資金です。そのため、研究開発としても確実性が重視されますし、単に技術開発ができるか否かだけでなく、いつできるかも重視されます。

一方、余剰資金とは、内部留保や投資家から調達した資金などを指します。このような資金は利子を払うわけではありませんし、元々が余剰資金ですので、仮に失ったとしてもそれだけでは倒産には直結しません。そのため、どちらかというと実現した場合のインパクトや、タイミングよりも希少性が重視されるかと思います。

出し手の資金により、そもそも期待される成果が異なるわけですから、その価値評価も異なる手法を用いるのが一般的となろうかと思います。有利子負債を基にした研究開発の場合、しっかりとした事業計画書が作られていることを前提に、DCF 法(将来生み出されるであろう現金を投資額と利息の価値で割り引いて現在価値とする計算式)を用いて現在価値を算出し、定量化して評価する場合が多いでしょう。

一方で、余剰資金を基にした研究開発では、生み出すフリーキャッシュフローだけでなく、より定性的な影響力等の要素を含めたスコア表を作成し、各スコアに重みをつけながら定量化する評価手法(ニュースコア、 STAR など)が用いられるかと思います。

期待される成果に応じて、最適な手法を選択しましょう。
各技術を評価し、テクノロジープラットフォーム上にプロットしていくことで、自社のテクノロジーポートフォリオを可視化し、技術戦略にフィードバックすることができます。

事業計画書の重要性


ここまで紹介した評価手法のどれを用いるにしても、「共通認識に基づく事業計画書の作成」はとても重要になります。

DCF 法であれ、ニュースコア法であれ、その計算の基になるのは各研究テーマが企画されたときに作成される事業計画書になります。どの手法も、この事業計画書の内容がある程度正しいことを前提として、数値に置き換える手法にすぎません。根本的に、事業計画書の記載水準が社内でそろっていなければ、いくら定量化手法の中身をこねくり回しても意味がないのです。例えば、各研究員が自分に都合の良い市場解釈のもとに事業計画を作成したとすれば、どの研究テーマも非常に価値が高いとみえてしまいます。仮にこれを経営者が見た場合、意図を誤解して投資判断を下してしまう可能性が高くなってしまうでしょう。

私の経験からすると、事業計画書の作成レベルは、かなりばらつきがあるのが一般的ではないかと思います。またそもそも根拠とした数値がリサーチ会社によって全然異なっていたり、市場の見方を都合よく解釈したり(例:EV が普及した場合としなかった場合は同時に成立しない)、横比較に意味がなくなるようなケースは現場あるあるではないかと思います。これらの整理が必要という認識はあっても、なかなか十分できていないのが実態ではないでしょうか。

ここまでご説明してきたように、効果的な技術開発を進めるためには、自社が進むべき方向にきちんと技術開発も寄り添って進んでいるかをテクノロジープラットフォームのような形で可視化する必要があります。開発テーマの作成や企画には、技術的な観点だけでなく、経営視点が重要であることがお伝えできていれば幸いです。

企業の効果的な技術開発に向けて、研究開発に関わる方々には経営戦略の観点も念頭に置いていただきたいと思いますし、企画部門の方々にも技術的な理解力をもって戦略構築をしていただければと考えています。

【補足】

本記事のお話について詳しい内容をご希望の方は、講演者である一般社団法人 新技術応用推進基盤が展開している研修がございますので、そちらもご参考ください。

※上記ページでは4つの研修の紹介がありますが、今回のお話の内容と関連しているのは、「技術価値評価研修」と「技術マーケティング研修」の2つです。

講演者紹介

技術戦略と技術価値評価の関係性〜経営戦略と一体化したアプローチ〜

谷村 勇平 氏
マグナリープ株式会社 代表取締役社長 / 一般社団法人 新技術応用推進基盤 代表理事
リンカーズ株式会社 オープンイノベーション研究所 客員研究員

【略歴】
東京工業大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科修了。
国内大手通信企業においてクラウドサービスの企画・開発・運用にたずさわった後、米国系大手戦略コンサルティングファーム 2 社にて、トレンド技術の事業化や技術開発戦略の構築を支援した。
現在は表情解析の AI ツール等を提供するマグナリープ株式会社にて代表取締役をつとめつつ、「技術とビジネスをつなげ、新事業を創出する」ことをテーマとした一般社団法人 新技術応用推進基盤にて代表理事をつとめる。

「執筆 / 講演(抜粋)」
・ポスト製造業の世界と化学企業の未来(月刊化学経済)
・3D プリンターの産業応用への課題と AI 化・オープンソース化の検討(株式会社技術情報協会)
・近未来の働き方を想像する:もしも銭形警部が人工知能を使いこなしたら、警察はルパンを逮捕できるのか?( IT media )
・データベースド=プラントイノベーション(主催:バンコク日本人商工会議所)
・AI / IoT 導入勝利のセオリー(主催:リンカーズ株式会社オープンイノベーション研究所) ほか多数

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