- 配信日:2023.06.09
- 更新日:2024.07.01
オープンイノベーション Open with Linkers
技術戦略と技術価値評価の関係性〜経営戦略と一体化したアプローチ〜
技術戦略・テクノロジープラットフォーム・技術価値評価の関係性
ここまで、技術戦略そのものの重要性について説明してきました。次の話として、では具体的にどのように技術戦略を作成・運用していくのかについて考えていきたいと思います。その方法として「テクノロジープラットフォーム」や「技術価値評価」を学んでいく必要があると思います。
先ほど、技術戦略とは「どのような製品をいつリリースするかを決定すること」だとご説明しました。例えば、ニーズ調査やマーケット調査によって得られる情報から「 2025 年までにこういう開発をしたい」「 2030 年までにこういう製品に仕上げてリリースしたい」といった目標が、技術戦略として生まれます。
その際、企業は1つの製品だけを開発しているわけではありませんし、また1つの技術だけでは製品は完成しませんので、技術戦略を達成するために必要な技術を整理すると、上図のように複数の製品に対して複数の要素技術が連なる構造として表現されます。
この構造図のうち、各製品の要素技術には、いわゆるコア技術と周辺技術というものがでてきます。上記図ではコア技術を青色で表現していますが、基本的にはコア技術は自社で、周辺技術は外部連携を行うといった選択をしていくことになります。また、製品をまたいで横串を見ていくと、共通する要素技術も出てくるでしょう。それらの技術をマージしたり、類似技術としてカテゴリー分類したりすると、このまとまりが自社にとって重要な技術領域であるという事も見える化してきます。このまとまりは、後述する「テクノロジーポートフォリオ」でも1つの単位として用います。
テクノロジープラットフォームの作成に必要なテクノロジーポートフォリオ
さて、上記のように要素技術を分解し、コア技術や横串での共通性を整理したら、これを「テクノロジーポートフォリオ」の中に埋め込んでいきます。これは各要素技術がどのようなポテンシャルを秘めているのかをマッピングし、X年後にどのようになるかの予測をプロットして、本当に将来性のある技術なのかを可視化するものです。同時に、投資している技術が仮に予想通りに成長したとして、X年後のバランスは健全なのかを可視化するものでもあります。もしこの段階で、現在・将来に技術価値が高いものを開発していないことがわかれば、技術戦略に立ち戻って考えるということになります。
テクノロジーポートフォリオを見ると、技術戦略に対して様々な示唆を得ることができます。例えば、
- ・X年後の将来に向けた投資が不十分である可能性
- ・作りたい製品のコア技術が既に古くなっており、差別化が困難である可能性
- ・重要だと思っていたコア技術も実は市場としての将来性は暗い可能性
- ・製品としては周辺技術でも将来的な価値は高い可能性
などです。これらのフィードバックから技術戦略を見直し、また見直し後の技術戦略でポートフォリオを見て確認し、というサイクルを回して最終的なテクノロジープラットフォームを構築していきます。
また、上図のテクノロジーポートフォリオは参考として利益性と市場成長性の2軸で整理していますが、この軸は企業毎・業界毎にアレンジしていきます。テクノロジーポートフォリオをインターネットで検索すると、例えば技術の重要度や市場シェア、成功確率や予想売上高など様々な観点がでてきます。ただ私の感覚では、後述する技術価値評価とも関連しますが、そもそもプロット位置に疑義がつきやすいものは軸として避けた方が、関係者の納得感を得られやすくフェアなものとなりやすいかと思います。
すべては技術戦略からスタートはしていきますが、上記の手順をふんでいく中で試行錯誤のサイクルがまわり、技術戦略そのものもブラッシュアップされていくことがわかります。技術戦略から思考はスタートするが、技術分解やテクノロジーポートフォリオをみて技術戦略にも変更が生まれ、それが完成すると戦略的な製品開発が可能になるという関係性になるわけです。
そして試行錯誤をへて最終的なテクノロジーポートフォリオが確定したら、そこに掲載されている要素技術名を整理して「テクノジープラットフォーム」となるわけです。
検索エンジンでテクノロジープラットフォームと検索すると、大手企業が公表している図を見ることができます。これらの図を見ると、「自社が得意な技術の名称を、綺麗なデザインで羅列したもの」という印象で、実務に使えない・中身がないという印象を受けるかもしれません。実際、私自身も、最終的な公表用に作図したものにそれほど情報が詰め込まれているとは思いませんが、ここまでご説明したように、それは結果を整理したものに過ぎない故かと思います。これらの結果そのものではなく、ご説明した試行錯誤のプロセスを通していることが適切な技術戦略の作成に役立っているといえるでしょう。
テクノロジープラットフォームと技術価値評価の関係性
さて、上記のテクノロジーポートフォリオをみて、1つの疑問を持ったご参加者もいるかと思います。「各要素技術を、どうやってポートフォリオ上にプロットしたらいいのか?」ということです。どのバブルサイズでどこにプロットするのかのためのテクニックが「技術価値評価」です。
せっかくポートフォリオで可視化しようとしても、プロットする基準が社内で統一されていなければ、プロット結果に意味はなくなります。極端な話、「僕の研究は価値が高いのである」という担当者の「想い」でプロット位置を決定しても、横比較に意味がなくなってしまうことは明らかかと思います。より標準化された観点からプロットしていくのが技術価値評価の目的です。