- 配信日:2023.04.12
- 更新日:2024.07.08
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーション事例~KOAのIMS導入と試行錯誤の事例
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『イノベーション活動の試行錯誤~世界トップシェアを誇る電子部品メーカーから学ぶオープンイノベーション徹底解剖』のお話を編集したものです。
KOA株式会社 KPS-3イニシアティブ IMS 推進センターゼネラル・マネージャーの坪木 光男(つぼき みつお)さまに、
KOA株式会社がこれまでに行ってきた新規事業創出への取り組みや、IMS(イノベーションマネジメント・システム)導入の経緯などについてお話しいただきました。
イノベーションに興味のある方は、ぜひご覧ください。
◆目次
・KOA株式会社の概要
・KPS(KOA Profit System)活動
・2030年ビジョンに向けたKOAの挑戦
・KOAの新規事業への取り組み事例〜風速センサ『Windgraphy』〜
・イノベーションに向けた長年の試行錯誤
・IMS導入の経緯
・KOAにおけるIMSの役割
KOA株式会社の概要
KOA株式会社は、抵抗器などの電子部品を開発している企業です。従業員数は全体で 4,000 人ほどで、 2021 年度の売上は 650 億円に達しています。日本全体の企業で見ると中規模で、抵抗器にこだわった事業を続けてきました。
弊社( KOA株式会社)はワールドワイドにビジネスを展開しており、抵抗器ではトップシェアの企業です。しかし、抵抗器の事業の市場規模はそれほど大きくなく、トップシェアといえど、売上は 1,000 億円弱程となっています。売上の約 40 % を自動車関連が占めている状態です。
KOA株式会社のミッション・価値観・KPS活動
弊社ではミッションとして、弊社を支える『5つの主体(スタークホルダー)』との強い信頼関係の構築を掲げています。
また経営の価値観として「循環」「有限」「調和」「豊かさ」の4つを掲げており、これらの価値観は私(坪木氏)が入社した 20 年以上前から変わっていません。
もう1つ弊社における重要なポイントに、 KPS 活動があります。「 KOA Profit System 」の略称で、弊社でのイノベーションにおいて重要な活動です。「全員参加で新しい経営システムづくりを目指す」という目標を設定し、画像右の KPS-1からスタートして、現在は KPS-3に取り組んでいます。
KOA株式会社の沿革
弊社の売上の推移は画像のとおりです。先ほど説明した「 KPS-1」「 KPS-3」などは、画像下部にあるグラフの横軸の転換期にあたります。
1985 年の急激な円高によって赤字になった際、現場の改善を重ねる KPS-1がスタートしました。 2000 年ごろに IT バブルが弾けて、事業構造改革を掲げ、品質重視の自動車の分野に舵を切りました。リーマンショック以降は、新たな価値創出活動を行うべく、既存事業(EV / 環境対応車への対応強化)の深化や新事業に取り組んでいるところです。
KPS(KOA Profit System)活動
KPS 活動は時代ごとに、 KPS-1、KPS-2、KPS-3と継続して進めてきています。
KPS-1では「徹底したムダの廃除」を目指し、トヨタ生産方式を導入して現場の改善活動を行ってきました。
KPS-2では、品質マネージメントシステムを導入し、「お客様からご指名いただく会社」を目指して事業構造の改革を行ってきました。それまでは携帯電話やパソコンなどに使われる抵抗器を中心に扱ってきたのですが、価格競争が激しい領域だけでは事業としての存続が厳しくなり、新たに自動車業界へチャレンジしたのが KPS-2です。
KPS-3では、「高付加価値な製品・新しいビジネスの創出」を目標に取り組んでいます。しかし、この取り組みがなかなかうまく行っていないのが現状です。 KPS-1、 KPS-2は自社内での取り組みだったため、自分たちが努力をすれば目標の達成は可能でした。一方 KPS-3は、市場・顧客などの価値を生み出すことを目標にしているため、自社だけの取り組みだけで達成するのは難しいフェーズだといえます。
KPS-3を掲げた弊社は、会社ホームページで「 2030 年ビジョン」を公開し、自社が将来どうなっていたいのかというビジョンを発信し始めています。
自動車の製造・販売台数の未来
2030 年ビジョンとあわせてご覧いただきたいのが、こちらの画像です。自動車の車種別販売台数を予測した図を載せています。
温室効果ガス問題やエネルギー問題などを考慮すると、環境対応車の割合が大きくなってきます。環境対応車の販売台数が伸びると、エンジン車と比較して弊社の厚膜(あつまく)チップ抵抗器が約 1.5 倍、電気自動車では約 1.6 倍使われると推定しています。
弊社としてこの傾向は追い風ではあるのですが、本業が忙しくなる分、現状は新規事業に取り組むにはやや厳しい状況ですが、長期視点で考え、既存事業と並行して新規事業を行っていくことを考えています。
2030年ビジョンに向けたKOAの挑戦
2030 年ビジョンに向けた弊社の挑戦として、2022 年から 2030 年までを3つのフェーズに分けて取り組みを進めようと考えています。現状は確実な成長に向けた基盤づくりに当たる、フェーズ1の段階です。
事業領域としては、既存事業は環境対応車などに向けて拡大を行いながら、新規事業としてセンサやセンサモジュールなどに手を広げようと考えています。KPS-3は全社活動であり、既存ビジネスも新事業も市場・お客様にとっての価値を創出するのが目的です。その手段として IMS の考え方を導入することを宣言しました。
KOAの新規事業への取り組み事例〜風速センサ『 Windgraphy 』〜
弊社では新規事業への取り組みをいくつか行ってきました。その事例を紹介します。
『 Windgraphy 』は弊社の温度センサ素子を利用した風速センサです。超多点同時観測により、再現性の高い風速分布の計測・可視化を手軽に実現するシステムです。開発にあたり、気流計測の専門家やユーザに困り事をヒアリングし、さまざまな課題を解決する方法を考えました。高度な研究開発環境を手軽に実現することで、空調関連で発生する CO2 の削減と、快適性の向上に貢献し、持続可能な社会と、人々の豊かな暮らしの実現を目指しています。
『 Windgraphy 』には、従来の風速計には無かった4つの特徴があります。
- 1. 配線が簡単
- 2. 風速の超多点同時測定が可能
- 3. 気流の動きをその場で可視化できる点
- 4. 専用ソフトウェアで便利に可視化・データ化ができる
『 Windgraphy 』はこれまで弊社が得意としてきた電子部品とは異なる分野ですが、長い時間をかけて取り組みを進めてきました。
元々は、温度センサ素子のPR用として、パネルに組み込んだ『風の見える化パネル』を展示会用に開発し出展したことがスタートです。これが注目を集め、事業になるのではと思い活動を開始しました。
しかし、新規事業の経験がほとんどない自社だけでは難しいということになり、プロジェクトを組み、外部のコンサルなどの協力を得ながらマーケティングをしてきました。当初は『風の見える化パネル』の有償貸出などを行って価値検証をしましたが、市場規模などの観点からビジネスとして継続するには難しいと判断しました。ただ、「気流分布の可視化」というコンセプトは価値があると判断し、仮説・検証を繰り返しながら3次元計測できる風センサユニットにビジネスの可能性を見出しました。その後『 Windgraphy 』のテスト販売を行い、7年ほどかけて事業化を達成しました。