- 配信日:2022.08.16
- 更新日:2024.08.07
オープンイノベーション Open with Linkers
マーケティングによる企業改革と価値創造
事業戦略を担う横河電機マーケティング本部の機能
横河電機のマーケティング本部は、普通のマーケティング本部と違っています。以下に列記したものは全てマーケティング本部の「 Roles & Resposibilities 」としてデザインされています。
【横河電機 マーケティング本部の役割】
- 1. デジタルマーケティング
- 2. マーケット・インテリジェント( MI )
- 3. マーコム
- 広報・広告
- Webマーケティング
- 4. ブランディング
- 5. 次期中期・長期事業計画案
- 6. 新事業開拓
- R & D
- M & A ・戦略的アライアンス
- 7.特許戦略
- 8. 標準化戦略
- 9. オープンイノベーション
- 10. 渉外( Government affair )
- 11. 工芸デザイン
- ・課題の本質の見極め、定義と分析
- ・Make or Buy の判断
- ・社内外ネットワーク機能
- ・社内外ネットワークのハブ機能
- ・人材育成
- ・Customer (顧客)
- ・Consortia (学術)
- ・Competiter (競合他社)
- ・Cooperator (補完者・パートナー)
- ・Community (サイバー空間を含むコミュニティ)
- ・Control (監督官庁・行政機関による制御)
1~4 は通常のマーケティング部門の担当になります。5~11 は通常のマーケティング部門が持っていない機能になります。本来は経営企画部門が持つものですが、全てマーケティングの傘下にある状態です。私から見るとこれら全てが「マーケティングアセット」という立ち位置になります。
イノベーションを担う横河電機の R & D ( Research and Development )
横河電機では R & D を「イノベーションセンター」と呼んでいて、大体 150 人ほどの規模で運用しています。日本だけで 150 人で、その他にインド、アメリカ、スイスにも人員がいて、全体だと 300 人強います。
イノベーションセンターでは、お客様が抱える課題に対して事業部が保有していない技術を補完する形での研究開発を行っています。
さらにイノベーションセンターの重要な役割として、お客様とともに潜在課題を発掘・顕在化し、その解決手段を考え、事業創出につながる研究開発を行うことがあります。
前者はどちらかというと垂直思考で、「問題解決型」と呼ばれています。後者は水平思考で、「問題開発型」と呼ばれています。水平思考ができる人材は多くありませんが、私たちイノベーションセンターの人材は垂直思考も行いつつ、水平思考を使って問題開発を行うことを心がけています。
研究テーマ数とオープンイノベーションの伸長
研究テーマ数と共創先の推移
研究テーマの件数は 2016 年以降年々伸びています。しかし使えるリソースは限られているので、件数を増やすだけではいけません。どの研究をやるかだけでなく、どの研究をやめるかも決める必要があるのです。
結果、2016 年から 2020 年までに研究テーマ数は約2倍になりました。
また共創活動による研究の数も増えています。社内の共創先件数は 2016 年から 2020 年までの5年間で5倍になり、社外の共創先件数は同じ期間で 7.5 倍に伸びました。
技術開発( R & D )と事業開発と知財開発は常に並走する
R & D の中ではどうしても PoC ( Proof of Concept :概念実証)が増える傾向があります。つまりコンセプトをお客様に示さなければならず、早い段階でどういったものをやりたいか明らかになってしまいます。かつアジャイル開発(アジャイルソフトウェア開発)はスピードも要求されます。
これまでのアジャイル開発は「 Water Fall 型」でリニア(直線型)にフェーズが進んでいきました。もちろん横河電機でもアジャイル開発を取り入れており、日本のみならずインド、中国、アメリカ、ヨーロッパ各国、シンガポールなど、どこかで分散し、24 時間地球のどこかで開発が進んでいるというスクラムを組んでいます。
ここで注意すべき点は、こういった技術開発には事業開発が並走し、さらに知財部が当初から関わってくるということです。横河電機では開発の後半から知財部が関わってくることが多かったのですが、初期の段階から入ってきます。
なぜこのようなことをしているかというと、パートナー企業との間で起こり得る知財に関する障害をあらかじめ取り除くという目的はもちろん、開発の価値や、知財ポートフォリオの観点(知財をいかに経営につなげていくか)で知財部を早くから巻き込むためです。
また、スクラムでアジャイル開発をしていると、本社からすると何が開発されるかはブラックボックスになりがちです。この状態が続くと知財に関するチェックが入らず、開発者たちが意図的にではなく知らないうちに何らかの特許に接触してしまう可能性があります。そのため、技術開発( R & D )と事業開発と知財開発は常に並走する必要があると考えています。
スピード重視のオープンイノベーションと C & D
オープンイノベーションで「 A VUCA WORLD 」を乗り越える
今の世の中は「 A VUCA WORLD 」であり、指数関数的に変化しています。そしてもう1つあるのが「 Big Bang Destructive 」というものです。
かつて、技術の成長はゆっくりとしたものでした。しかし現在の技術は急速に成長しています。この現象を「 Big Bang Destructive 」と呼んでいます。
最初のイノベーターはいるのですが導入者数が突起し、そして一気に終わりを迎えます。 B to B ではこのようなケースは少ないのですが、 B to C では増加しています。
しかし、横河電機は「 NIH Syndrome ( Not Invent Here Syndrome :別の組織や国が発祥であるという理由で技術や製品、アイデアを採用しないこと)」の傾向があります。なぜなら横河電機のデザイン・開発における憲章(バイブル)の1行目に「まず自社で開発するべき」とあり、どうしても NIH Syndrome に陥りがちだからです。
それではいけないので「 Make or Buy (作るか買うか)」の判断をしなければなりません。
そこでマーケティング本部の中にオープンイノベーションのチームを持っていて、次のような役割を与えています。
最近は特に「社内外ネットワーク機能」「社内外ネットワークのハブ機能」を強化しています。
R & D から C & D へ
C & D とは「 Connect & Development 」のことです。 C とは、いかに外界との接点を増やすかということで、イノベーションセンターのリサーチャーたちにも今までの顧客( Customer )だけでなく6つの C に対して強く接点を持たせようとしています。
この試みはすでにかなり進行していて、 R & D センターのプロジェクトの9割は「 Consortia 」や「 Customer 」、一部では官庁系と協力したりもしています。今後は競合他社と協業することもあるかもしれません。
まとめ ~ 指数関数的な社会の変化への対応が大切 ~
今世紀は最も前途有望で、最も危機をはらんだ時代です。そしてこれからの未来は現在の延長上にはないと思った方がいいでしょう。
昭和の時代まではリニアに変化していましたが、平成・令和になってからの変化は指数関数になっています。怖いのは理想とのかい離、すなわち失望のエリアです。このエリアでの変化は小さいので経営者は見逃しがち、あるいは軽んじがちです。ところがティッピングポイント(しきい値)を超えると一気に成長し、気がついた頃には追いつけないというリスクが考えられるのです。
今、経営者たちは小さな変化にも注意しなければならないということになります。
講演者紹介
阿部 剛士 氏
横河電機株式会社 常務執行役員 マーケティング本部 本部長 CMO 博士(技術経営)
【略歴】
1985年、現インテル株式会社に⼊社。インテル・アーキテクチャ技術本部本部⻑、マーケティング本部 本部⻑、技術開発・製造技術本部 本部⻑を歴任。
2009年以降、取締役、取締役 副社⻑、取締役 兼 副社⻑執行役員に就任。
2016年、横河電機株式会社に⼊社し、R&D、M&A、知財、新事業開拓、事業計画、標準化戦略、オープンイノベーション、工業デザインなどを傘下にマーケティング本部を統括。
常務執行役員 マーケティング本部 本部⻑ CMO として現在に至る。
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