• 配信日:2022.04.28
  • 更新日:2024.08.07

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー「〜 京セラから学ぶ〜 オープンイノベーション徹底解剖」を書き起こしたものです。
京セラ株式会社 研究開発本部 オープンイノベーション推進部の大崎 哲広 氏(以下、大崎氏)に「京セラのオープンイノベーション事例」をお話しいただきました。

創業当初からイノベーションを続ける京セラ


京セラ株式会社は、1959 年創業のベンチャー企業です。今は従業員が 8 万人弱、2021 年 3 月期で 1 兆 5000 億円を売り上げる会社になりました。
祖業はセラミックの構造部品の製造です。この技術を圧電や電子部品に応用して機器を製造し、その機器を使用したシステムやソリューションへと事業を広げています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

現在の京セラの主な事業領域は、産業・自動車用部品です。
セラミックがメインの構造材・半導体関連部品、半導体のパッケージなどの部品を作っています。
そのほかコンデンサやフィルタなどの受動電子デバイス、携帯電話などのコミュニケーション機器を製造。
旧三田工業株式会社を M&A して、ドキュメントソリューションも行っています。
生活・環境事業領域では、ソーラー、太陽光エネルギー、ホテル事業があります。
変わったところでは電動工具、包丁、タンブラーなど日常生活でよく使われるものも製造しています。
燃料電池のセル事業など非常に幅広く展開しています。
京セラというと、創業者の稲盛が作った京セラフィロソフィとアメーバ経営を思い浮かべる方も多いと思います。
前者は、「きれいな心で願望を描く」「素直な心を持つ」など、仕事の判断を含めて人生を大きく左右するような、人間的にプリミティブなことを重視しています。わたしたちはこのフィロソフィが書かれた手帳を何度も読んでいます。
後者は、小グループ単位での採算を意識しています。値決めは経営、健全資産の原則、ガラス張りで経営するといった基本を叩き込まれます。
京セラではこの2つを一生懸命教えられます。

オープンイノベーションの2つの拠点


京セラは研究開発の中でまずオープンイノベーションをしています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

研究拠点は主に 2 つあります。「けいはんなリサーチセンター」と「みなとみらいリサーチセンター」です。
「けいはんなリサーチセンター」は、京セラの生業である、セラミックの部品や材料系の研究拠点です。
京セラの高周波フィルタ、薄膜電子部品、パワーデバイス、エネルギーデバイス、パネル、SOFC のセルなどの研究開発をしています。
「みなとみらいリサーチセンター」は、関東に点在していた機器・システム系の研究拠点を1箇所に集約したものです。
主に、 AI 、ソフトウェアによる画像処理、通信機器のノウハウを使った IoT・5G の通信システム、エネルギーマネジメントシステムや ADAS 車載システムなどの研究開発をしています。

オープンイノベーション促進に向けた「みなとみらいリサーチセンター」の取り組み


オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

「みなとみらいリサーチセンター」は、2019 年に開所しました。
2019 年に開所する前に、オープンイノベーションによる、新たな価値創出で、みなとみらい 21 地区に新研究所を設立。
社長の宣言で「オープンイノベーション促進をはかるために、共創スペースを設置し、社内外の人が多く出会い、活発に交流、協力しあいながら、新たな価値を生み出す」という取り組みが始まりました。
こういった場を設けるのは京セラでは初めてです。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

オープンイノベーション拠点を社内外の交流の場にする


社内外の架け橋をつくる

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

最初は交流の場として、社内外の人たちをひとつの場に集めて、ワイワイガヤガヤやる機会を作りました。
2019 年のオープニングイベントとして、異種格闘技戦をやりました。一般の方にも公募を行い、観覧していただきました。イベント後には宴会を行い、参加者同士の交流を図りました。
もう少し専門的な交流の場としては「メタマテリアルとアンテナ」があります。
この分野で研究開発をしている関係者を集めて、シンポジウムを開催しました。他にも、様々な AI サロンや、AI の研究者を集めて、AI について議論するイベントなど、社外の人たちを招いて社内外の方同士が交流できるようなイベントを企画・開催してきました。
異種格闘技は好評だったので毎年恒例となっています。

社内の交流を増やす

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社外と交流しようにも、社内の交流ができておらず、お互いが何をしているかわからないのが問題でした。
社内もわたしたちが引っかき回すぞ、ということで、企業別交流会で企業と企業の一般公募者を集めて、お互いの技術交流をしました。
単に技術交流をするだけだと何も生まれないので、何回か技術交流を続けたあとは、SDGs をまず課題としてどう捉えて、それについて解決策を 2 社で考えようといったワークショップに発展するような交流会をやりました。
また、京セラの社員に他のベンチャーがどういうソリューションを持っているか、ベンチャーデイをやりました。研究開発の内容を各事業部に紹介するようなバーチャルオープンラボデイといった社内イベントもここから発信しています。

社外のアクセラレーションプログラムに参加し「どうやって人が集まるか」を習得する

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

社外のビジネスアクセラレーションプログラムも重要です。京セラも実力がつけば、単体でこういったことをやりたいと思っています。今は、まだいろんなところに参加させていただいています。
羽田の天空橋に一昨年に新しくできた街をイノベーティブにするために、

  • ・新しいアイディアを実装するためのビジネスコンテスト
  • ・みなとみらいを使った実証実験の募集
  • ・ソニーとやっている大手企業コラボスタートアップベンチャーのコンテスト

これらで、「どうやって人が集まるか」を勉強、習得しています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

また、近隣企業、周辺企業とともに新たな機会を創出していくプログラムをいくつかやっています。
ポイントは社内の連携をすること。連携が取れた社内の人たちを今度は外に引っ張り出します。
社外では、ベンチャー、自治体、大学、他の大企業、リビングラボの人たちとの連携を目指します。
そのようにして、目立つ、つながる、挑戦するという言葉を合言葉に機会創出をはじめています。

オウンドメディア「オープンイノベーションアリーナ」


オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

京セラには「オープンイノベーションアリーナ」というオープンイノベーション専用ページがあります。
ここで情報発信をすると、様々な方から問い合わせや反応が返ってきます。ファン作りです。
「オープンイノベーションアリーナ」ではモノを売りませんが、ファンの方々とより深く交流するためにマーケティングオートメーションを活用しています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

オウンドメディアによる情報発信でさまざまなことがわかりました。
ニュース、ジャーナル、拠点の紹介、カタログといったカテゴリーがあります。
一番多いのは、研究開発の技術カタログを見にこられる方で全体の 40 %を占めます。
リンカーズが運営している「TechMesse」(現在サービス提供終了)も似ていると思いますが、京セラの技術に興味を持ってページを見ていただく方が非常に多いです。
その次が、インタビュー記事、オープンイノベーション文脈の読み物で、20% くらいです。
多くの人が京セラに対して抱く興味は「技術」にあると痛感しました。
今後は技術記事をどんどん増やしていこうと考えています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

訪問者はやはり大企業が多いです。
その点、まだベンチャーへの取り組みが十分にできていないと思います。大学関係者もそんなに多くありません。
これからは、中小、ベンチャーとも交流を持てるようにしたいと思います。