• 配信日:2020.12.01
  • 更新日:2021.09.28

オープンイノベーション Open with Linkers

心理・生体データビジネス応用の最前線 ~Webセミナーレポート~

技術マッチングを広く支援するリンカーズは、グローバルのイノベーション動向を日々追跡しています。
なかでも、「生体センシング」領域は、継続して業界横断で注目度が高まっている領域です。
従来、「生体センシング」は、健康の維持や治療のために活用されるテクノロジーでしたが、最近では、ユーザーが製品をどのように「感じるか」を定量化するテクノロジーとしても活用が進んできています。

「ユーザーが製品をどのように評価するのか?」を市場に投入する前に知りたいというニーズは、商品企画をする上で誰しもが持っているニーズなのではないでしょうか。
今回の記事では、心理データや生体データをどのように計測すればリアルな状態が把握できるのか、どのように活用していけば実際のビジネスをドライブできるのか、既に成果として報告されている内容だけではなく、いくつかの研究開発やサービス開発の現場での試行錯誤から見えてきた最新の知見や今後の可能性をご紹介します。

●登壇者
リンカーズ株式会社 オープンイノベーション研究所 所長 國井 宇雄
日本IBMのコンサルティング・サービス部門にて、製造業向けのITコンサルティング・プロジェクトを複数経験後、デロイト・トーマツ・コンサルティングの製造業セクターにて、技術を起点にした事業開発戦略策定、M&A、業務改革など一貫して製造業のイノベーション創出支援に関わる。また、素材企業向けに「オープン・イノベーション・プラットフォーム戦略」「マテリアルズ・インフォマティックスを活用したR&D」といったオープンイノベーションに関連する啓蒙活動を実施。2017年よりリンカーズへ参画し、日本におけるオープンイノベーションについての実践的研究活動を継続しながら、日本のものづくりを強化すべく普及啓蒙活動を行う。 組織学会所属。博士(工学)。技術経営学修士。

株式会社NTTデータ経営研究所 ニューロイノベーションユニット シニアコンサルタント 磯村 昇太 様
東京大学大学院で認知行動科学を修了後、日本IBMにて製造業、サービス業などにおけるIT戦略策定プロジェクトやITガバナンス構築プロジェクトに数多く従事。その後、NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニットにて、脳科学とAIを融合した新たな研究開発テーマの創出プロジェクトやストレス・感情・表情関連の事業応用プロジェクト、実環境下での心理指標・生理指標・行動指標の同時計測/評価研究など、脳科学・心理学・認知科学の知見をビジネスに応用するプロジェクトを業界横断的に手掛ける。

1. 生体センシングの中で脳科学になぜ注目すべきなのか


■新しい価値を提供するサービスのベースになる「生体センシング」

<リンカーズ 國井>
まずは、なぜ今回「脳科学」に関するテーマを選んだかについてお話しいたします。
グローバルの先端技術動向調査サービスを提供しているリンカーズ・オープンイノベーション研究所では、「生体センシング」というテーマに注目し、3年前から毎年調査を企画、レポートを執筆しています。
「Linkers Research Market Place」#生体センシング

有難いことに、多くの業界の皆様にレポートを読んでいただいており、今では、Google で「生体センシング」と検索すると、検索結果の1ページ目の上位に出てくるほどになりました。 このように、「多くの業界で注目度が高くレポートしがいがある」という理由がひとつなのですが、他にも、「生体センシング」に注目している理由があります。
それは、「オープンイノベーションの実践場」であるからです。生体センシングがユーザーに価値を生むためには、医療、材料、センシングデバイス、アルゴリズム、通信など複数の技術や科学的知識が組み合わさる必要があります。

そのため、生体センシング技術の動向を追跡することは、技術や知識が業界が技術領域を超えて連携する様子を観察ことにつながります。リンカーズ・オープンイノベーション研究所としては、どのようにして、「オープンイノベーションの実践場」から大学と企業の連携や異業種の連携が生まれるかを考察したいという思いがあります。

では、生体センシングのなかでも「脳」をとりあげたのはなぜか?理由は3つあります。



1:アジャイル開発の一般化(脳科学に注目する3つの理由)

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1つ目は、「アジャイル開発の一般化」です。

「モノをつくる」にあたって、まずは要件定義をし、要件に応じた設計をして、設計図に沿って開発を行い、その後開発した機能をテストして市場にリリースし、その評価を得る、というのが、あらゆる製品開発の基本的な流れといえます。「アジャイル開発」というのは、この一連のサイクルを短縮化し、細かいリリースを繰り返すことで、不確かな要件や移り変わる要件に素早く対応できる開発手法のことです。元々システムやソフトウェアの領域で発展してきた手法ですが、製品ライフサイクルの短縮化やソフトウエアとハードウエアの融合が進むなかで、他の製品分野にも一般化してくると私は予想します。

アジャイル開発においては、製品の評価スピードが肝です。実際にモノを作り、その設計が市場に受け入れられるかの評価を「売上」のような遅行性のある指標で行うのではなく、「脳データ」を取ることで「実際にユーザーがどう感じたか」などを評価することができれば、製品の機能が狙いどおりの効果をユーザーに与えられているのかをすぐに検証し、設計変更につなげられます。このように、一般化しつつあるアジャイル開発の生産性を上げる上で、ひとつの鍵になるのが「脳センシング」であるというのが注目する理由です。



2:仮想化市場の勃興(脳科学に注目する3つの理由)

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2つ目は「仮想化市場の勃興」です。

Playstation VRやOculus、HoloLensなどに代表されるVR(Vartual Reality:仮想現実)のヘッドセットも、価格が下がってきており、エンタメ市場だけでなく、製造現場など市場が拡大しつつあります。象徴的な製品でひとつご紹介したいのが家庭向け歩行型VRデバイス 「Omni One」です。

2018年にスティーヴン・スピルバーグが監督した『レディ・プレイヤー1』という映画が公開されました(多くの人類が、現実世界がつらいのでVRデバイスを日常的に装着し、仮想現実に逃避しているという世界の話。ガンダムやメカゴジラが登場するということで、日本でも話題になりました)が、このSF映画のように、「仮想化された世界で人間が生きる」ということが徐々に近づいてきているのではないかと思います。実際この「Omni One」は、2021年に販売予定で、20万円の初期費用と、サブスクリプションで月間5000円ぐらいの利用料で、約30本ぐらいのVRゲームが楽しめるようです。

これまでは、VRを利用するにも価格の面でも高かったり、キラーコンテンツがなく、市場が拡大しないと言われていたのですが、利用価格のハードルが下がり、多くの人が実際に使うようになってくるとそういったコンテンツの課題もいずれ解決されていくでしょう。加えて、普及後の世界では、脳科学でハードルになりがちな「ヘッドセットをつける」ことへの心理的抵抗もなくなり、「脳科学」の有用性が一気に増すのではないかと私は考えています。「脳科学」の利用が期待できる仮想化市場の拡大が見えてきた、これが理由のふたつ目です。



3:プロセスギャップの解消期待(脳科学に注目する3つの理由)

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最後の理由は、「プロセスギャップの解消期待」です。

脳科学を積極的に活用する際には、脳に対してデバイスやセンサーを埋め込むことが必要になるケースが多くなると予想されます。脳に何かを埋め込む手術のプロセスには大きな危険がともなうため、心理的ハードルが高く、利用によって十分な恩恵を得られることが分かっていたとしても、一般社会に広がらない状況―いわゆる「プロセスギャップ」が生じていると予想されます。

「プロセスギャップ」という概念は、ピーター・ドラッカーが著書「イノベーションと起業家精神」のなかで、イノベーション創出の機会のひとつとして、提示したものです。ピーター・ドラッカーは、「人体に害があるため散布が難しい除草剤の普及に散布機が貢献した例」や「リスクが高い白内障の手術の普及に手術を楽にする酵素が貢献した例」を紹介し、「プロセスギャップ」の解消が、イノベーションの創出機会になることを説明しています。

翻って、今脳科学の世界でも、「プロセスギャップ」の解消が期待できる技術が発明されています。イーロン・マスクが立ち上げた企業「ニューラリンク」は、脳に電極やデバイスを埋め込み、脳と情報の入出力を行えるようにするための外科手術用ロボットを発明し、2020年8月に大々的に発表しました。

まだまだ、開発段階の技術ではあるものの、このようなロボットが今後普及し、簡単かつ安全に脳にデバイスが埋め込むことができるようになれば、「プロセスギャップ」が解消され、イノベーションの創出機会が生まれるかもしれません。その後は、近視治療のレーシックのように社会に普及していく可能性もあるのではないかと考えています。
「プロセスギャップ」が解消される期待がでてきた、これが理由の3つ目です。

以上、リンカーズが脳科学に注目する3つの理由をご説明しました。これらの理由から「脳科学」に対する注目度がどんどん上がってくるのではないか、とリンカーズは考えています。注目度が上がっていくにつれ、ニューラリンクの例のように、さまざまなニュースが出てきますが、実際どこまで脳科学は産業に利用できるのでしょうか。私も気になるところです。

そこで、本日は、実際に「心理・生体データのビジネス応用」の最前線で活動されている磯村さんにその内実をお話しいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。(次ページに続く)

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