- 配信日:2022.02.08
- 更新日:2024.08.07
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーションが生まれる組織~価値を創造する「変革のリーダーシップ」~
イノベーションを創造するマネジメント
最後に、マネジメントについてお話します。
マネジメントをする立場の人にとって、もっとも重要な仕事は「中期計画」の策定です。
一般的に、中期計画を5年後の売上利益目標、と定義をする経営者もいるようですが、全く異なります。
中期計画は、企業経営の方針として最も活用されている経営計画であり、いわば戦略策定プロセスです。
最も重要なのに、実際は忘れられていることが多いプロセス、とも言えるでしょう。
経営学者のピーター・ドラッガーは、著書『マネジメント』の中で「マネジメントの6要素」を定義しています。
ドラッカーは、企業の戦略目的を「顧客の創造」、マネジメントの役割を「組織に成果をあげさせるためのもの」と定義しています。
では、企業の戦略目的「顧客の創造」のために行う2つの行動とは何でしょうか。
それは、マーケティングとイノベーションです。
マーケティングに優れている会社の代表として「 Samsung(サムスン)」、イノベーションに優れている会社の代表として「Apple(アップル)」が挙げられるでしょう。実際、私がソニーの競争相手を定義する時に、この2社を挙げていました。
「いつまでに」「なにを」「どうやって」
マネジメントの役割はマネジメント・システムを確実に実行し、組織に成果をあげさせることです。
マネジメント・システムでは、まず「 Why (なぜやるのか)」【ビジョンの策定】を策定し、その後「 What (なにをやるのか)【中期計画】を立てます。
繰り返しになりますが、ここで大切なのは事業戦略と技術戦略の策定です。
これを策定したら、具体的にマネジメント・システムを実行する「 How (どうやってやるのか)」の部分に落とし込み、1年間の事業計画をたてて、業務サイクルを回します。
事業計画の策定で最も大切な作業は、アクション・プランへの落とし込みになります。アクション・プランでは、「何月何日までに何をする」というアウトプットの内容と期日を明確にすることが肝要です。アクションプランさえきちんと描けていれば、あとは年間の PDCA を回し、フィードバックをかければよいでしょう。
中期計画、事業計画策定に用いてほしいフレームワークは、バランススコアカードの4つの視点になります。そのうち、特に大事なのは、企業間競争の源泉となる下位の2つの視点「業務プロセスの視点」と「学習と成長の視点」です。
中期計画や事業計画には、業務プロセス改革と人材育成の項目を必ず盛り込み、確実に実行しなくてはなりません。
さて、実際に事業計画を立てるうえで考えてほしいのが、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)という本で紹介されている「重要」と「緊急」の軸です。
下の図では、人々の業務を「緊急軸」と「重要軸」に分け、それを4つの領域で示しています。
右上から時計回りに
- 「重要かつ緊急(第一象限)」
- 「重要ではないが緊急)(第三象限)」
- 「重要でもなく緊急でもない(第四象限)」
- 「重要だが緊急ではない(第二象限)」
の活動が当てはまります。
では、過去1週間の自分の業務をこのマトリクス上に展開してみてください。「第二象限(赤色部分)」の「重要だが緊急ではない」に、どんな業務がプロットされているでしょうか。
多くの人は「第一象限(重要かつ緊急)」の業務に最もたくさんの時間を割いていると思います。しかし、将来にとって価値になる業務は「第二象限」に記載されています。
みなさんは、この「第二象限」にプロットされるような「人材育成」「業務改革」「組織改革」に時間を使うことができているでしょうか。この部分に時間を割かない限り、個人の成長はありません。また、この部分に時間を割くことで、結果的に「第一象限」の事象も削減することができます。
「設計図」の活用で明確になる企業の未来
最後に紹介したいのが、中期計画の策定に先立って描いていただきたい「未来戦略設計図」です。未来戦略設計図フォーマットは下のスライドになります。
未来戦略設計図は、
- 「ミッション・ビジョン・バリュー」、
- (ミッション・ビジョン・バリュー達成のための)「戦略課題」、
- (その戦略課題達成のための)「成功要因」
で構成されています。各構成要素間の繋がりについては下のスライドの通りです。
ミッション・ビジョン・バリューを策定するうえでは、時期が明確であることや達成イメージが共有できることが重要であるとお伝えしましたが、なんといってもワクワクドキドキするビジョンでないと人の心に刺さらない、ということも覚えておいてほしい点です。
また、戦略策定には前述の 3C 分析が必要です。 3C 分析の中では、特に自社分析が難しいと言われていますので、 SWOT 分析を用いて、自社の状況を把握するのでも良いでしょう。
さらに、過去に成功している企業は、戦略が流れと動きを持ったストーリーとして組み立てられており、中期計画を策定する前に、この戦略ストーリーを描くことで、設計図の骨子が決まります。
スターバックスコーヒーの例を紹介します。
戦略ストーリーを描く上で大事なポイントは、クリティカル・コアとコンセプトです。ストーリー全体の一貫性を高めるうえで、車の両輪のような役割を果たしています。
マネジメントに必要な「ロジカルシンキング」
さて、少し話がそれましたが、マネジメントを行う上で大事なことは、ロジカルシンキングができることになります。そして、その基本手法は MECE(ミーシー)です。MECE とは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive (抜けなく、漏れなく、ダブリなく)の頭文字です。
ものづくりの工程、歩留まり発生の要因、品質に対する考え方も、すべて MECE に考えられるかどうかがロジカルシンキングの基本です。
ロジカルシンキングの基本手法2つ目は、 So What ? Why So ? です。
- ・So What ? = 各要素から、課題の結論を示すこと(帰納法)
- ・Why So ? = So What ?で導かれた結論の妥当性を証明すること(演繹法)
この MECE と So What ? / Why So ? の2つの手法を用いてロジカルシンキングができるかどうかで、人とのコミュニケーションに圧倒的な差が出ます。みなさんがコミュニケーション能力、説明能力を高めたければ、このロジカルシンキングを鍛えてみてください。
まとめ~未来は前途洋々か~
さて、これまで戦略策定について、いろいろお話してきましたが、大切なことは皆さんの未来が前途洋々か、ということです。ぜひ、前途洋々になるように未来戦略設計図を描いて欲しいと思います。
私はソニー時代に、事業部長としてイメージセンサーの未来戦略設計図を書きました。完成までに半年かかる大仕事でしたが、部下と共有できるまで書き下すにはそのくらいの時間がかかるものです。また、一度設計図を描いてしまえば、あとは楽です。
今日の話を踏まえて、一度しっかり、設計図作成に取り組んでみてください。
講演者紹介
鈴木 智行 氏
元・ソニー株式会社執行役副社長
現・株式会社アイデミー 社外取締役
【略歴】
1979年03月 静岡大学修士課程(電子工学研究所・応用物性)修了)
1979年04月 ソニー株式会社入社 CCDテストシステム構築
1982年04月 ソニー国分(株) CCD測定技術立上げ
1985年04月 CCDシステム部門 CCD設計課統括係長
1995年04月 ソニー国分(株) CCD開発センター副長
1996年12月 CCDシステム部門 組立技術課統括課長
1997年07月 CCDシステム部門 CCD商品部統括部長
2000年01月 CNC・SC・ ID部門 CCD事業部長
2001年12月 ソニーセミコンダクタ九州(株) 執行役員専務
2002年06月 SNC・ISC プレジデント
2004年06月 ソニー株式会社 業務執行役員
2011年07月 R&D PF CDD 本部長
2012年04月 ソニー株式会社 執行役 EVP
半導体事業本部長 本部長
2012年07月 DSBG 本部長
2013年07月 R&D PF 本部長(兼)
2014年01月 ソニーエナジーデバイス(株) 代表取締役社長(兼)
2015年04月 ソニー株式会社 執行役 副社長
2018年06月 ソニー株式会社 退社
現在、複数社の社外取締役、顧問を勤める。
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