- 配信日:2022.02.08
- 更新日:2024.08.07
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーションが生まれる組織~価値を創造する「変革のリーダーシップ」~
イノベーションが生まれる組織に必要な3つの要素
続いて、組織論についてお話します。
最強の組織は、以下の構成要素によって成立すると言われています。
- 1. 組織に称賛されるリーダーがいる。
- 2. 組織自身が「学習する組織」である。
- 3. 組織員が内発的に動機付けされている。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「称賛されるリーダー」
まず、構成要素の1つ目「称賛されるリーダー」について取り上げましょう。
人から称賛されるリーダーには、4つの特質があります。
どの特質をとっても、天賦の才能ではなく、学習・訓練の結果として身につくものです。
特に、先見の明があるリーダーには、めったにお目にかかることはありません。
また、これも当然ですが、嘘をついたり、間違えたりしたときに、素直に謝罪ができないリーダーと行動を共にする組織員はいません。
「学習する組織」
最強組織の必要条件の2つ目、「学習する組織」についてです。ピーター・センゲは、著書『最強組織の法則』の中で「学習する組織」の5つのディシプリン(躾、規律)を述べています。
組織そのものが「学習する組織」になっていて、組織の学習や訓練によって、これらのディシプリンを進化させることが最強組織への道程だと説いています。
- ・自己マスタリーを追求している。
- ・共有ビジョンを持っている。
- ・メンタル/モデルを払拭している。
- ・チーム学習を実践している。
- ・システム思考
このうちのチーム学習ですが、これは最強組織となるためには学習する組織でなくてはならないということ、なかでも気づいて学ぶ力があることが特に重要です。
この気づきは、組織にとって重要であるのはもちろんのこと、個人にとっても継続した学習姿勢を取れるかどうかに関わる大切なポイントです。
なぜ気づく力が重要なのでしょうか。
人はだれしも、最初は「無意識・無能」の状態です。
今日、私の話を聞いて、自分にはできていないと気づくことによって「意識・無能」になり、学ぶことで「意識・有能」に変わり、できるようになるからです。
さらにそれを意識して繰り返すことで、最後には「無意識・有能」、つまり習慣になります。
ここに至るには、努力や訓練が必要ですが、習慣になるまでやりきるのが非常に大事です。
私の経験上、優れたリーダーはポジションや年齢と関係なく、学習を止めません。日々学習、日々成長を繰り返しています。
余談になりますが、ソニーの故・大賀 典雄 会長は文系出身(東京藝術大学音楽学部声楽科卒業)なので、
毎朝3時に起きて、技術の勉強をしてから出社する、というのを習慣にしていたそうです。そのおかげで技術出身のエンジニアとも対等に話ができ、製品に対しても技術的な見地から意見を述べることができた、と聞いています。
また、5つのディシプリンの中で、最近特に着目されているのは「システム思考」です。
エレクトロニクスのプロダクツやサービスの開発では、昨今、どの企業も生産している製品やサービスがとても複雑です。そのプロセスの中で、モノづくり、コトづくりをしているので、システム思考は組織の根幹になくてはならない、とても大事な考え方です。
システム思考の大きな要素は2つあります。
1つ目は、「全体最適」。
1つの現象を点として捉えるのではなく、全体における構成要素として捉え、全体最適を捉えるというのがシステム思考の根幹です。
2つ目は、「氷山モデル」。
見えていない変化のレバレッジを理解するために、氷山モデルを活用します。認識しておかなければならないのは、目に見えない深層のレイヤーに真の原因が存在するということと、目に見えている事柄は、氷山の一角でしかないということです。
「内発的動機付け」
最強組織の構成要素3つ目は、組織員が「内発的に動機付けられている」ということです。
内発的に動機付けられるための要件は以下です。
- ・自律性:自分が自分自身の行為の源泉でありたいという欲求
- ・有能感:人は自分を取り巻く環境に対して効果的にかかわり、それに対して有能でありたいという欲求
- ・関係性:他者と繋がっていたいという欲求
- ・達成感:充実感や満足感に繋がる
この4つがあると、人は動機づけられると言われています。
わかりやすくやる気が上がる給料アップや昇進というモチベーションもありますが、これは外発的動機づけです。
この外発的動機付けよりも内発的動機付けのほうが、大きく動機づけられます。
イノベーションが生まれる組織を実現した事例
さて、私がソニーにいるとき、最強組織を創り上げるために心がけたのは、縦割りの組織に横串を刺す、という活動です。組織と組織の間にコミュニケーションや協力体制がなく、「サイロが立っている(タコツボ化している)」とまで言われていたソニーの組織運営に、横串のバーチャル組織を実現した例をお話します。
私はソニーで、事業カテゴリーを超えた組織間連携の仕組みを3つ作りました。
「技術戦略コミッティ」の設立
8つの技術カテゴリ【メカ、光学、ソフトウェア、LSI(半導体)、信号/情報処理システム、デバイス・材料、電気、生産技術】において、事業本部・グループ会社の枠を超えて技術者(メカニカルエンジニア)を集め、技術戦略コミッティを作りました。そこで組織を超えた共通の取り組むべき技術課題を抽出し、問題を明確にし、各コミッティでそれを解決していきました。面白いことに、技術者同士では普段関わっている仕事が異なっていても話は進みます。この取り組みでソニー全社として強みになる技術開発ができました。
「設計責任者連絡会」の設立
企業の競争力は、「(優秀な)人」と、その人が「どんな環境(ツール)」のもとで仕事をするか、という「人と環境」の2点で決まります。そこで、技術者の設計環境(ツール)を常に最新の状態にアップデートするという、DX 推進のための委員会を作りました。後のコロナ禍であっても、設計環境が常に最新にアップデートされていたおかげで、テレワークにもスムーズに移行することができました。
「優れたエンジニアを認める制度」の見直し
ソニーには「 Distinguished Engineer( DE )」と呼ばれるエンジニアがいます。DE とは、「ソニーの技術の顔」として課題解決や技術戦略をリードする役割を持った、優れたエンジニアを指します。当時、この DE 制度は形骸化しており、ソニー全社で 400 名ほど存在していました。これを 40 名程度に厳選し、名誉と報酬の付与を行うことで、DE 活動自体を活性化させました。
「情報の共有化」
また、この「横串活動」を行う中で大事にしていたことが「技術の共有化」です。
ソニーの持つ技術は、エンジニアが技術レポートとしてしたためており、そのレポートを一括管理する文書管理システム「 LIBROS-ER (リブロス)」を作りました。このシステムに全社の技術レポート( ER / Engineering Report )が登録され、全社員は組織の別なく、誰でも閲覧することができます。