• 配信日:2026.01.14
  • 更新日:2026.01.14

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【2026年最新】最先端技術の一覧とトレンド予測|論文・特許データが示す次世代の潮流

変化の激しい現代において、日本の製造業に従事する技術者が競争優位性を維持し、新たな事業機会を創出するためには、未来の技術トレンドを迅速に捉えることが重要となります。

本記事では、リンカーズが独自に分析した論文・特許の客観的データに基づいた最新の技術トレンドをご紹介します。

目次
● 2026 年に注目すべき「最先端技術」の全体像と分析手法
●【最新技術 一覧】101 の先端技術分野・特許伸び率ランキング
●【 2026 年予測】特に注目すべき最新技術4選
  1. 生成AI 搭載デバイス技術
  2. デジタルツイン技術
  3. プラスチックのケミカルリサイクル技術
  4. 全固体電池技術
●生成AI 搭載デバイス技術の最新動向:クラウドからエッジデバイスへ
  ○ AI 活用の主戦場、クラウドからデバイスへ
  ○オンデバイス AI を支える技術的基盤
  ○製造業における応用とイノベーションの拡大
●デジタルツイン技術:現実を凌駕する仮想世界の力
  ○製造業における設計・生産プロセスの革新
  ○産業の垣根を越えるデジタルツインの応用分野
●プラスチックのケミカルリサイクル技術:サーキュラーエコノミー実現の切り札
  ○なぜ今、ケミカルリサイクルなのか? – 従来技術の限界と社会的要請
  ○多様化する技術アプローチ:課題解決に向けたイノベーションの最前線
●全固体電池技術の動向と展望
  ○概要:次世代エネルギー貯蔵の切り札
  ○技術革新の最前線:3つのキードライバー
  ○材料開発の深化:性能の核を握るブレークスルー
  ○製造技術の確立:量産化への道を切り拓く
  ○社会実装の加速:実用化事例に見る可能性
●まとめ
●リンカーズでは、次世代技術の調査から実装まで幅広くご支援します
●執筆者紹介

2026年に注目すべき「最先端技術」の全体像と分析手法


本分析では、リンカーズが選定した101の先端技術分野を対象に、直近10年間(2015年〜2025年)の論文発表数と特許出願件数、および直近5年間(2020年〜2024年)の論文発表数/特許出願件数の伸び率を分析しました(注:本稿執筆時点で2025年の論文/特許が出揃っていないため、2024年までのデータで伸び率を分析しています)。

ここでは、論文数を「学術的研究の活発さ」を示す指標、特許数を「産業界における実用化・事業化への期待」を示す指標と位置づけています。この二つの指標を通じて技術の成熟度と将来性を評価することで、単なる流行ではない、真に注目すべき技術動向を明らかにします。

【最新技術 一覧】101の先端技術分野・特許伸び率ランキング


以下に、分析対象とした101分野を「関連特許数の伸び率(産業界の期待成長率)」順に一覧で掲載します。

先端技術分野 関連論文数
(2015年以降)
関連特許数
(2015年以降)
関連論文数の
伸び率[%]
2020-2024年、1年あたり平均
関連特許数の
伸び率[%]
2020-2024年、1年あたり平均
生成AI搭載デバイス技術2227940377.56161.86
デジタルツイン技術203521412040.4885.19
AIによる素材探索技術14121126434.1453.79
AIによる創薬支援1269161430.6745.85
行動経済学(ナッジ理論)による意思決定91591379.944.98
AI x BIM(Building Information Modeling)技術1700118338.9841.22
プラスチックのケミカルリサイクル技術5872300936.5938.37
固体吸収剤によるCO2捕集5601330215.9836.59
PFASの対策3950123831.4235.73
合成生物学の活用1855934996.1834.78
ペロブスカイト太陽電池2679287669.5331.53
量子コンピューター594222018310.2430.89
ナレッジグラフの利活用282533368418.6429.89
バーチャルヒューマン336101278819.3229.22
水素貯蔵技術135521785426.3528.42
全固体電池204472055820.6427.16
メタマテリアル・メタサーフェス技術45721109084.9926.7
iPS細胞2268140141.5324.79
CO2由来の化学品合成技術39568209919.7124.71
水素製造技術463064452119.5924.34
地球観測衛星3522777387.9124.03
バイオプラスチック技術24710599010.2223.19
MOF(Metal Organic Frameworks)技術462211757911.3122.93
量子暗号通信16312813512.4821.8
農業ロボット31861967326.1721.33
フッ素系樹脂のリサイクル技術1282347420.518.86
協働ロボット21255630411.5218.63
AIを活用したヘルスケア59408376741.7117.86
バイオマーカーセンシング技術858641495810.5417.12
アンモニア製造技術7258997022.9116.56
ダイヤモンド半導体技術136420955.816.3
LiDARセンサー35121443337.7515.9
脳波の利活用41359142774.6515.82
自己修復材料12085447515.2315.43
アバターロボット21135476.3715.07
直接空気回収(DAC)6278785523.5714.65
ニューロモルフィックコンピューティング840996818.4214.08
EV向け冷却技術27871238723.4713.63
体内のドラッグデリバリー技術117300261347.6913.25
GaN(窒化ガリウム)技術28133172780.113.15
生体埋め込み型センサー1069085722.911.66
生分解性プラスチック227471423712.0811.47
SiC(Silicon Carbide)技術27906403710.0711.34
エアロゲル88501869110.6710.52
燃料電池43862578985.819.99
チップレット113481383212.819.71
微細藻類の活用1281951052.219.32
エネルギーハーベスティング技術4662664382.19.02
ナノエマルジョン技術620311089.238.79
感情センサー技術369402146012.748.65
カーボンナノチューブ5938532205-1.558.13
生物模倣技術36501272510.627.8
プロバイオティクス技術48490201659.947.28
超伝導技術38628152671.976.74
呼気診断技術1294643752.226.45
テラヘルツ波の利活用技術3816511074-2.366.03
亜臨界水の利活用11651023-0.345.65
非侵襲血糖値センシング技術282313057.575.59
ハプティクス(触感再現)技術21538158495.495.36
マイクロ風力発電技術8143104570.535.28
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術2532621888-4.494.76
熱を蓄える材料技術207374354511.524.7
半導体レーザー1667822485-1.694.46
導電性高分子21510272027.184.18
廃電子機器リサイクル4256369517.83.83
味覚センシング技術264114955.533.83
セルロースナノファイバー819138251.433.68
酸化防止・風味保持フィルム技術4063642116.643.31
陸上養殖技術3484226911.193.16
量子ドット材料38309221381.772.07
マイクロ流体デバイス47511313162.652.06
熱中症対策技術2437102911.311.82
超臨界CO2技術565083753.181.79
EV向けモーター関連技術9894448367.741.24
熱電変換材料22349192185.891.12
マイクロバブル技術788796693.10.49
3Dプリンタ技術9264210579412.520.03
繊維補強コンクリート技術13122601610.910.03
ウェアラブルデバイスを用いたヘルスケア27757967116.53-0.05
睡眠管理・改善技術384452496113.73-0.55
光コンピューティング173903560410.38-0.63
地震対策技術220781209413.06-2.57
嗅覚の再現技術565772302.01-2.84
食品冷凍技術2312148075.19-3.16
大気環境センサー54139495493.77-3.19
調理ロボット939430617.73-3.93
透明導電膜845319556-3.3-4.56
撥水性処理289501055406.96-4.82
耐熱・断熱コーティング47095790910.51-4.84
ロボティクスを活用したヘルスケア11402227517.4-5.08
海水淡水化10881112173.27-5.25
無線電力伝送2085068581-1.5-5.54
光触媒材料79624463919.34-5.66
グラフェン1161261036801.79-6.59
スマートテキスタイル技術12872277278.92-6.72
指輪、腕輪、腕時計型ウェアラブルデバイス29591314313.03-7.06
機能性飲料23687284735.87-9.5
抗菌/減菌/殺菌表面451211293267.69-11.03
電子機器やデータセンターの放熱・冷却3659553256.2-11.42
ブロックチェーンの活用616864018516.21-15.57
飲食による高血圧抑制438826889.58-16.42

【表1:101の先端技術分野(関連特許数の伸び率の降順で配置)】

データ全体を俯瞰すると、多くの技術分野で研究開発が加速していることがわかります。特に、AI(人工知能)関連技術は、デバイス、素材探索、ヘルスケアなど多岐にわたる分野で応用が進み、既存の産業構造を根底から変えるポテンシャルを秘めています。同時に、ケミカルリサイクルや次世代電池に代表されるサステナビリティ関連技術も、社会的な要請を背景に力強い成長を見せており、環境課題の解決と経済成長を両立させる鍵として期待されています。

これらのマクロな傾向を踏まえ、次の章では特に注目すべき急成長技術を個別に掘り下げ、その具体的な動向を考察していきます。

【2026年予測】特に注目すべき最新技術4選


本章では、数ある技術分野の中から、特に注目すべき4つの技術を厳選して解説します。選定基準は、「2020年から2024年にかけての特許出願件数の年間平均成長率が特に高く、学術研究段階から産業実装段階への移行が急速に進んでいると考えられる技術分野」です。特許出願の急増は、その技術が具体的な製品やサービスとして市場に登場する日も近いことを示唆しており、製造業の現場にとって極めて重要なシグナルと言えます。

生成AI搭載デバイス技術

クラウド上の大規模な生成AIモデルを、スマートフォン、PC、自動車、スマート家電といったエッジデバイス上で効率的に動作させるための技術です。

【図1:生成AI搭載デバイス技術概観(図はNano Banana Proにて生成)】
【図1:生成AI搭載デバイス技術概観(図はNano Banana Proにて生成)】

注目データ (2020-2024年平均):

  • ・特許成長率: 161.9%
  • ・論文成長率: 77.6%

分析と考察: 特許成長率161.9%という驚異的な数値は、AI活用の主戦場がクラウドからデバイスそのもの(エッジ)へと急速にシフトしていることを示唆しています。これまで大規模な計算処理を必要とした生成AIがインターネット接続なしで手元の機器で利用可能になるインパクトは計り知れません。例えば、製造業では工場の生産ラインに設置されたカメラがリアルタイムで異常を検知・予測したり、製品自体がユーザーの利用状況を学習して最適な動作を自律的に行うなど、スマートファクトリーの高度化や製品の付加価値向上に直結します。また、予知保全においても、デバイス上でデータを処理することで、より迅速かつ精度の高い判断が可能になります。

デジタルツイン技術

現実世界の物理的なオブジェクトやシステムを、リアルタイムで同期するデジタルの「双子」として仮想空間上に再現する技術です。

【図2:デジタルツイン技術概観 (図はNano Banana Proにて生成)】
【図2:デジタルツイン技術概観 (図はNano Banana Proにて生成)】

注目データ (2020-2024年平均):

  • ・特許成長率: 85.2%
  • ・論文成長率: 40.5%

分析と考察: 85.2%という高い特許成長率は、デジタルツインが概念実証の段階を終え、具体的な産業応用へと本格的に移行していることを物語っています。例えば工場の生産ライン全体をデジタルツイン化し、稼働前にシミュレーションを行うことで最適なレイアウトや人員配置を導き出したり、稼働中の設備のデータをリアルタイムで収集・分析して故障時期を正確に予測することが可能になります。これにより、開発期間の大幅な短縮、試作品コストの削減、そして製品ライフサイクル全体の品質向上に直接的に貢献するため、多くの企業が実用化に向けた投資を加速させています。

プラスチックのケミカルリサイクル技術

廃プラスチックを化学的に分解し、原料となるモノマーや基礎化学品に戻してから再利用する技術です。

【図3:プラスチックのケミカルリサイクル技術概観 (図はNano Banana Proにて生成)】
【図3:プラスチックのケミカルリサイクル技術概観 (図はNano Banana Proにて生成)】

注目データ (2020-2024年平均):

  • ・特許成長率: 38.4%
  • ・論文成長率: 36.6%

分析と考察: 38.4%という高い特許成長率の背景には、世界的な環境規制の強化と、循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行という強力な社会的要請があります。物理的なリサイクルでは対応が難しかった複合素材や汚れたプラスチックも、ケミカルリサイクルならば新品同様のバージン材として再生できる可能性があります。これにより、品質が劣化する「ダウンサイクル」に陥りがちだった従来のマテリアルリサイクルの限界を突破し、真のサーキュラーエコノミーを実現する道筋が見えてきます。これは、企業にとって単なる廃棄物処理コストの削減に留まらず、廃棄物を価値ある資源に変えることでサステナビリティ目標を達成し、同時に新たな事業機会を創出する攻めの戦略となり得ます。

全固体電池技術

電解質に可燃性の液体ではなく、不燃性の固体材料を用いた次世代の二次電池技術です。

【図4:全固体電池技術概観 (図はNano Banana Proにて生成)】
【図4:全固体電池技術概観 (図はNano Banana Proにて生成)】

注目データ (2020-2024年平均):

  • ・特許成長率: 27.2%
  • ・論文成長率: 20.6%

分析と考察: 全固体電池は、現在のリチウムイオン電池が抱える課題(発火リスク、エネルギー密度、充電時間)を解決するゲームチェンジャーとして、特にEV(電気自動車)業界から絶大な期待を集めています。27.2%という堅調な特許成長率は、実用化に向けた材料選定や製造プロセスに関する開発競争が、世界中の企業で激化していることを示しています。これは単なる部品の改良ではなく、EVの性能と安全性の根幹を定義する技術です。したがって、この分野での知的財産と製造技術の確保は、自動車産業のバリューチェーンにおける主導権を握るために重要です。

以降の章では、これら技術についてより深掘りしていきます。

生成AI搭載デバイス技術の最新動向:クラウドからエッジデバイスへ


AI活用の主戦場、クラウドからデバイスへ

生成AI搭載デバイス技術は、今、最も注目すべき技術トレンドの一つです。これまでAI活用は膨大な計算能力を持つクラウドコンピューティングを用いる方式が中心でした。しかし近年はスマートフォンやPC、さらには工場の産業機械といった「エッジデバイス」でのAI活用へと急速に移行しつつあります。コンシューマデバイスでのエッジAI活用が取り上げられることが多いですが、この技術はむしろ製造現場の設備やデバイスと相性が良く、今後の製造のあり方が根本的に変わる可能性もあります。

この技術トレンドが従来のAI活用と一線を画すのは、リアルタイム性、セキュリティ、そしてコスト効率の観点にあります。デバイス上でAIが直接動作する「オンデバイスAI」は、クラウドとの通信遅延を解消し、即時性が求められる現場での判断を可能にします。また、機密性の高いデータをデバイス内で完結して処理できるため、データセキュリティとプライバシー保護を飛躍的に向上させます。さらに、クラウドへのデータ転送や利用料を抑制することで、AI運用のコスト効率も改善します。

以下では、この技術革新を支える二つの重要な柱、すなわちAI処理を高速化・省電力化するハードウェアの進化と、限られたリソースで高性能を発揮させるAIモデルの軽量化について掘り下げます。そして、これらの技術が融合することで、製造現場でどのような応用が生まれ、イノベーションが加速しているのかを具体的な事例とともに解説していきます。

オンデバイスAIを支える技術的基盤

スマートフォンや産業用端末といったデバイス上で高度なAIを快適に動作させるためには、専用ハードウェアの進化とAIモデル自体の軽量化が重要です。これにより高性能サーバーでしか実現できなかったAI処理が身近なデバイスで可能になります。

● ハードウェアの進化

オンデバイスAIの性能を向上させるには、AI処理に特化した専用ハードウェア、すなわち「AIアクセラレータ」が必須となります。CPUやGPUに加えて、AI推論処理を専門に担うNPU(Neural Processing Unit)などを搭載することで高い処理性能と省電力性を両立できるようになります。

Arm Lumex CSSプラットフォーム: AI性能を最大で5倍向上させる新しいCPUを搭載。音声翻訳やパーソナライズといったAIタスクを、スマートフォンなどの端末単体で高速に処理することを可能にします。

Intel Core Ultra/NPU: CPU負荷を90%以上削減する効果は単なる省電力化に留まりません。これによりメインCPUが複雑な制御ロジックに専念できるため、一台のエッジデバイスがリアルタイムの品質管理AIと自身の稼働管理を同時に実行可能となり、ハードウェア構成の簡素化とシステム全体のコスト削減に直結します。

CMOS/スピントロニクス融合チップ: 従来の50倍を超える革新的なエネルギー効率は、これまで電力供給の制約でAI搭載が非現実的だった領域への扉を開きます。例えば、頻繁な充電が不可能な自律搬送ロボット(AMR)や遠隔地のセンサーなど、バッテリー駆動が前提のデバイスへのAI実装を可能にし、こうしたプロジェクトの投資対効果(ROI)分析を根本から変えるインパクトを持ちます。

これらのハードウェアの進化により、これまで高性能サーバーやクラウドを使わなければ実行できなかった高度なAI処理が手元にあるデバイスや工場の端末でリアルタイムに実現可能になると期待されます。

● AIモデルの軽量化:高精度と低コストの両立

強力なハードウェアが登場する一方で、ソフトウェア側でも革新が進んでいます。大規模なAIモデルを、メモリや計算能力が限られたエッジデバイスで効率的に動作させるための「軽量化技術」が、AIの実用化を大きく後押ししています。

富士通「Takane」の1ビット量子化技術: 富士通の「Takane」は、これまで高性能AIの独壇場であったハイエンド市場の壁を打ち破る技術です。AIモデルのパラメータを1ビットまで極限に圧縮し、メモリ消費量を最大94%削減しながら精度維持率89%を達成。これにより、使い捨てセンサーや利益率の低い製品といった、従来はコスト的に不可能だった領域へのAI実装が現実のものとなり、IoTプロジェクトの費用対効果分析を根本から変える可能性があります。

Antmicroの「AutoML for Embedded」: AIの専門知識を持たない開発者でも、最適なAIモデル(TinyML)を自動で生成できるツールです。モデルの圧縮や量子化を自動で行うことで、AI導入の技術的な障壁を引き下げ、リソースが極めて厳しいIoT機器や低消費電力デバイスでも高性能なAI動作が可能となります。

これらの軽量化技術により、AIの適用範囲をハイエンド製品だけでなく、よりコストに厳しいIoTセンサーや組み込みシステムへと広げることができます。ハードウェアの進化とソフトウェアの軽量化という両面での技術革新が、スマートファクトリーをはじめとする製造現場での具体的なAI応用を、現実的なものにしているのです。

製造業における応用とイノベーションの拡大

オンデバイスAI技術はコンシューマー向け技術に留まりません。むしろ、人手不足や品質管理の高度化といった日本の製造業の課題を解決し国際競争力を高めるツールとなりつつあります。スマートファクトリーのさらなる高度化から製品自体の付加価値向上まで、その応用範囲は急速に拡大しています。

● スマートファクトリーの進化と「フィジカルAI」の台頭

製造現場におけるオンデバイスAIの役割は、受動的な監視から能動的な介入へと進化しています。

受動的な監視から能動的な予防へ: 初期段階のAIは、製造ライン上の製品異常をリアルタイムに検出する「目」として機能します。例えばAIカメラとAIアクセラレータ(Hailo8等)を組み合わせれば、オフライン環境でも高精度な品質管理が可能です。
さらに進化すると、AIは単なる検知に留まらず、例えば5G/プライベート5Gと連携した「MEC+AI」により、作業員の危険行動や重機の接近を即座に予知し、事故を未然に防ぐ「守護者」の役割を担うようになります。

局所最適化からシステム全体の知能化へ: 次の段階では、AIは個別のタスク監視から、製造プロセス全体の最適化へとその視野を広げます。現実の工場を仮想空間に再現するデジタルツインとAIを組み合わせることで、生産フロー全体をシミュレーションし、生産効率やエネルギー消費をシステムレベルで最適化する「頭脳」となります。

最終フロンティア|物理世界へ介入する「フィジカルAI」: この進化の最終形が、現実世界へ直接介入する「フィジカルAI」と言えます。AIを搭載したエッジデバイスやロボットが、単にデータを分析・助言するだけでなく、自律搬送ロボット(AGV)や産業用ロボットアームを直接制御し、物理的な作業を実行する「実行者」となるのです。これは、自律的でレジリエントな次世代工場の実現を支える中核技術と言えます。

● 開発の民主化:AI導入のハードル低下

オンデバイスAIの普及を後押ししているもう一つの重要なトレンドが、「開発の民主化」です。専門的なAIエンジニアでなくとも、現場の担当者が自らAIアプリケーションを開発・活用できるツールやプラットフォームが登場し、AI導入のハードルを大きく引き下げています。

例えば、NPUを搭載したCopilot+ PCとWindows AI Foundryの連携は、企業が高速かつ高セキュリティなローカルAIアプリを容易に開発・導入できる環境を提供します。これにより、大企業ではオフライン環境で動作するAIアプリやPoC(概念実証)の構築が推進されています。また、伊藤忠テクノソリューションズが提供する『CUVIC GPU Zero』のように、プログラミング知識が不要なノーコード開発プラットフォーム『Dify』を実装したサービスも登場しており、現場主導でのAIエージェント開発を加速させています。

こうした「開発の民主化」は、専門人材が限られる中小企業にとっても、AI導入の大きな追い風となるでしょう。技術の進化だけでなく、それを誰もが使いこなすための環境が整いつつあります。

デジタルツイン技術:現実を凌駕する仮想世界の力


製造業における設計・生産プロセスの革新

第2章でも触れたように、デジタルツイン技術は、現実世界の物理的なオブジェクトやシステムを、センサーデータなどを通じてリアルタイムに仮想空間へ再現する「デジタルの双子」を構築する概念です。この技術が大きな成長期を迎えており、2020年から2024年にかけてデジタルツイン関連の特許出願件数は年平均85.2%という驚異的なペースで増加しています。この数値は、デジタルツインがもはや概念実証(PoC)の段階を終え、製造業をはじめとするあらゆる産業で本格的な実装フェーズへと移行していることを示唆します。
デジタルツインは単なる生産効率化ツールに留まらず、製品の企画・設計から製造、保守に至るまでの全ライフサイクルを統括する技術となります。これまで開発を制約してきた物理的な試作品や実機テストの限界から解放され、サイバー空間での高速なシミュレーションと最適化が可能になることは、開発スピード、コスト競争力、そして製品品質そのものを抜本的に変革するポテンシャルがあります。

● 設計・開発プロセスの高度化

デジタルツインは、製品開発の初期段階において最も大きな価値を発揮します。仮想空間上で製品の性能や挙動を精密にシミュレーションすることで、物理的な試作品の製作回数を劇的に削減できるためです。

UEL株式会社が提供する3次元CAD/CAM/CAEシステム「CADmeister 2025」は、金型の設計から解析、評価までを一気通貫でデジタル化し、トライ回数の削減と開発リードタイムの短縮を実現しています】。

JFEスチールは、デジタルツイン技術を活用して「ラジアントチューブバーナー」を開発。炉内での挙動を精密に予測することで、チューブの変形速度を従来の6分の1に抑制し、NOx排出量を30%削減、省エネ効率を3%向上させ、さらに従来比で約6倍の長寿命化を達成するという目覚ましい成果を短期間の開発で実現しました。

● 生産ラインの最適化と自律化

スマートファクトリーの実現において、デジタルツインは不可欠な頭脳として機能します。工場全体、あるいはグローバルに点在する複数の工場を仮想空間に再現し、生産プロセス全体の最適化を図ることが可能になります。

ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングなどが参画する「メタファクトリー」プロジェクトでは、CMOSイメージセンサーの製造における30もの工程を一括で最適化。これにより、製品のノイズ特性を約70%も低減させるという画期的な成果を上げています。

Foxconnは、NVIDIAの「Omniverse」プラットフォームを活用して工場のデジタルツインを構築。これにより、グローバル規模での生産ライン展開を仮想空間で検証・最適化し、市場の変化に迅速に対応できる体制を整えています。

DMG森精機が実現した「完全自動・無人工具組立セル」は、デジタルツイン上で工具の組立からプリセットまでをシミュレーションし、生産性を約30%向上させました。このレベルの生産性向上は、短期的な投資回収を可能にするだけでなく、日本の製造業が直面する労働力不足を補い、国際競争力を維持・強化する上で重要な意味を持ちます。

● 品質管理と予知保全の進化

製品ライフサイクル全体を通じて品質を維持し、設備の安定稼働を実現する上でも、デジタルツインは重要な役割を果たします。

DIC株式会社日立製作所が共同開発した合成樹脂製造プラントの運転自動化システムは、その象徴です。これまで熟練者の経験と勘に依存していた複雑な運転制御を、AIを搭載したデジタルツインが代替。仮想空間で最適な運転条件を導き出し、それをリアルタイムで物理プラントに反映させることで、品質の安定化に大きく貢献しています。

○ このような仕組みは、製品の品質維持だけでなく、設備の故障を未然に防ぐ「予知保全」にも応用できます。センサーデータから設備の劣化状態をデジタルツイン上でシミュレーションし、最適なタイミングでのメンテナンスを計画することで、突発的なライン停止のリスクを最小限に抑えることが可能になります。

産業の垣根を越えるデジタルツインの応用分野

デジタルツイン技術の真のポテンシャルは、製造業で培われたノウハウが、社会インフラ、医療、さらには地球環境問題といった、より広範な領域の課題解決に応用され始めている点にあります。物理世界をデータに基づいて仮想空間に再現し、シミュレーションを通じて未来を予測・最適化するというコアコンセプトにより異業種間の連携が促進され、全く新しいビジネス機会が創出される可能性が生まれています。

○ 建設・インフラ :
人手不足が深刻な建設業界では、現場のDXが急務となっています。例えば、飛島建設の「サイバー建設現場」は、BIM/CIMモデルを基に現場全体を3Dモデル化し、遠隔地からの進捗管理や安全監視を可能にしました。
また、大林組はダムの再開発工事において3次元流体解析技術を導入し、施工計画の検討期間を1年程度から3ヶ月程度へと劇的に短縮しました。

○ 社会・都市システム:
より快適で安全なスマートシティの実現にもデジタルツインは貢献します。KDDIが高輪ゲートウェイシティで進める未来型街づくり実験では、都市のデジタルツイン上で人の流れをシミュレーションし、混雑緩和や最適なサービス提供を目指しています。また、富士通の「Digital Twin Analyzer」は、一般的な車載カメラの映像から交通事故の状況を高精度に3Dで再現し、原因分析や予防策の立案に活用されています。

○ 医療・ライフサイエンス:
医療分野では、個別化医療(パーソナライズド医療)を加速させる切り札として期待されています。韓国のYonsei University College of Medicineの研究では、患者一人ひとりの心臓のデジタルツインを作成し、心房細動の最適な治療箇所を特定。その結果、デジタルツイン誘導のアブレーション(焼灼術)と標準治療を併用したグループの18ヶ月後の無再発率は77.9%に達し、標準治療のみのグループの59.5%を大幅に上回りました。製薬大手のSanofi社も、創薬プロセスに仮想の患者群(デジタルツイン)を活用し、新薬開発の期間短縮と成功確率の向上を目指しています。

○ 地球環境:
デジタルツインは、地球規模の課題解決にもその力を発揮し始めています。欧州の「Destination Earth」プロジェクトは、地球全体の気候変動をシミュレーションする壮大な試みであり、政策決定の質を高めることを目的としています。また、フィリピンのパシッグ川では、デジタルツインを用いてプラスチックごみの流出経路を解析し、最も効果的な回収戦略を立案するなど、サステナビリティへの具体的な貢献事例も生まれています。

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