- 配信日:2025.12.25
- 更新日:2025.12.25
オープンイノベーション Open with Linkers
AI新規事業の社会実装プロセス~医療AIで医療ミス撲滅へ~
AI 医療機器の社会実装に向けて
成果をサービス化して社会実装するためには、懸念点をクリアにし、エビデンスを出して多くの方に「良いものだ」と理解してもらう必要があります。 AI 医療機器において懸念点になるのは、 AI と人間との相互作用です。
また社会実装には費用対効果が十分であることも証明しないといけませんし、より具体的なメリットを提示することも求められます。
では、 AI 医療機器を社会実装するうえでクリアすべき懸念点について見ていきましょう。
AI 医療機器と専門家の相互作用
AI 医療機器は基本的に医師が使うものであり、医師は専門知識を持っています。そのため、例えば 弊社のサービスを使って AI によるダブルチェックをして、 AI が間違ったことを言ったとしても、医師は「それは違う」と却下できるはずです。また、 AI が正しく診断した場合は、その結果を取り入れることができます。そのため、専門知識を持った人が AI を使うという前提であれば、 AI は間違いなくプラスに働く。そういう論文も出されています。
世界の状況と医療 AIの費用対効果
世界の状況として、 ESGE (欧州消化器内視鏡学会)は、「 AI を使うときには専門医レベルの AI を使ってください」と言っています。これは当たり前のことかもしれません。
医療費削減効果について論文を見ると、早期胃がんの検出支援をしてくれる AI は費用対効果が高いことが分かります。早期に発見できれば、内視鏡治療で入院費を含めても医療費は 100 万円を切るくらいの金額で完治させられます。費用対効果を計算すると1回の検査に 80 ドル、つまり AI を使うのに1回1万円程度かけてもコストパフォーマンスが良いという報告が出ています。
医療機関のメリット
AI 医療機器を社会実装するためには、使用する医療機関のメリットも説明しなければなりません。具体的なメリットとして、例えば実際の医療現場でポリープの発見率が向上すると、当然ポリープを切除する手術が増え、医業収入が上がることがあります。また AI 医療機器の導入は、医師の採用や教育の面でもプラスに働くでしょう。さらに AI 加算により医業収入の向上も見込めます。
このようなことを医療機関に丁寧に説明していかないと、 AI 医療機器を使っていただけません。
弊社では、実際にサービスを使っていただいているクリニックの患者さんにアンケートを取っており、患者さんの中でAIが導入されているかを考慮している方も増えてくるでしょう。
AI 医療機器を使う人たちだけでなく、受診者側のメリットも調べ、医療機関に説明することも重要でしょう。
AI の社会実装を「反対」する意見への対応
最後のお話として、 AI を社会実装する難しさについて説明させていただきます。
人間には「センメルヴェイス反射」という機能が備わっています。正しいと信じていたことと全く異なることを言われると、「そんなわけがない」と否定してしまう傾向がある。この傾向が「センメルヴェイス反射」です。
現代では、医師が手術などの前に手洗いをするのは当たり前になっています。これはセンメルヴェイスという医師が、出産した母親が感染症で亡くなってしまうことに対し、「医師の手を消毒すればよいのではないか」と発見したからこそです。しかし、発見当初は「医師の手から感染症が広まるわけがない」と見なされ、センメルヴェイスはバッシングされた結果、命を落とすことになりました。
このケースから学べることは、何であれ新しいことをやると、ものすごく拒絶されるということです。私も、「 AI で医療のクオリティを上げる」と言い始めた 2017 年頃は、医師の職場で白い目で見られることが頻繁にありました。
そのような経験を私自身がしたことで、「正しい理解と知識を反対する人たちにことあるごとにお話しして、お互いの主義主張を分かり合うような努力をすることが重要だ」と考えるようになりました。
AI のような新しいテクノロジーを社会実装することは、革命を起こすことに等しいです。昨今 AI を使う医療機関が増えていますが、「 AI は使わない」と言っている機関もまだまだあります。
新規産業を興すには、企業起点ではなく社会起点・生活者起点で実現すべき未来を定義し、「個社」ではなく目的志向で集う「多様なステークホルダー」との共創が不可欠だと考えています。
多様なステークホルダーとは、世論と官僚と政治家です。こういう方々と共創することが、新しい産業を作るうえで非常に大切なことになります。
世の中には「新しい産業ができると困る産業」というものがあるのです。既存業界をいかに守るかという問題を解消すること。それから日本は特に安全水準がものすごく高いので、安全・安心のロジックの伝え方が重要になります。
弊社がやったこととして、令和元年に AI 医療機器協議会を立ち上げました。当初から AI 医療機器を開発するほぼ全てのスタートアップが参加してくださり、業界団体として AI 医療機器の理解と正しい知識を広める活動をしてきました。
例えば、 AI 医療機器が巨大産業になることや医療の安全性向上につながること、医療の均てん化(どこでも質の高い医療が受けられるようにすること)が図れること、医療費を削減できることなどをまとめたホワイトペーパーの作成。それから制度や規制の勉強会の開催などを行っています。
AI との「競争」ではなく、 AI と未来を「協創」する
AI を使った製品・サービスを社会実装しようとしたときに「私たちが開発したものには、こういう価値がある」と提案しても思ったような結果は得られません。実際に使っていただく方の態度変容、行動変容を興す必要があります。
特に AIについては、多くの人が競争しようとしてしまいがちです。「 AI が間違える。信用できない。やはり人間の力でやらなければ」と考えられてしまいます。そうならないためには、「 AIとともに未来を作っていく」というコンセプトを提案していくことが非常に重要です。
多くのステークホルダーとしっかり対話をして、その内容を次の未来にどうつなげていくのか。それを実現するための活動が欠かせないと考えています。
講演者紹介
多田 智裕 氏
医師 医学博士 FJGES
株式会社AIメディカルサービス 代表取締役
医療法人 JSC ジェイズ胃腸内視鏡・肛門クリニック 名誉理事長
1996年東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院外科研修医として勤務。2005年に東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。2006年よりただともひろ胃腸科肛門科を開業。2012年より東京大学医学部腫瘍外科学講座客員講師。2017年株式会社AIメディカルサービスを設立、代表取締役に就任し、現在に至る。
『行列のできる 患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』など著書複数。
また世界初の胃がん検出AI論文など多数の内視鏡AI研究開発論文を出版している。
オープンイノベーション推進を支援するリンカーズの各種サービス
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