
- 配信日:2025.06.23
- 更新日:2025.06.23
オープンイノベーション Open with Linkers
機能性素材の最前線:4万件論文分析で見えた8つの技術トレンド
この記事は、リンカーズ株式会社が主催したWebセミナー『機能性素材研究の最前線 〜熱電変換、圧電、機能性高分子など、4 万件の論文を徹底分析!~』のお話を編集したものです。
リンカーズ株式会社で 200 件以上の技術調査をおこなってきた浅野より、『 Linkers Trend Map 』を活用して調査した、機能性素材に関する最新動向を詳細に解説。直近5年間に発表された約4万件の論文を8グループに分類し、熱電変換材料、圧電材料、光学材料、自己修復材料など主要分野における技術トレンドを包括的に分析しました。
目次
● Linkers Trend Map による機能性素材の論文・特許分析
●機能性材料・素材の調査対象と分析:熱電変換材料、圧電材料、機能性高分子など
・熱電変換材料の技術動向と研究トレンド
・圧電材料/誘電材料の開発動向と応用事例
・光学材料の研究動向と最新技術
・自己修復材料の応用と実用化研究
・超伝導材料の基礎研究と産業応用
・電磁シールド材料の最新動向と応用技術
・エネルギー蓄積/変換材料の研究開発と応用
・機能性高分子の応用事例と環境配慮型開発
Linkers Trend Mapによる機能性素材の論文・特許分析
今回のセミナーでは、直近5年間( 2020 年から 2024 年末まで)に発表された機能性素材に関する論文約4万件について、どういった素材の分類があり、どういった目的で使われているのか、開発されているのかなどを弊社独自の分析技術を使って網羅的に分析した結果をお話しします。

まずは、論文や特許をどのように分析したのか、その方法を簡単に説明させてください。分析には『 Linkers Trend Map 』を使用しました。論文や特許など数万件のデータを分析して、どういった技術トレンドがあるかを可視化するサービスです。数万件のデータを自然言語処理 AI を使って大規模に分析し、その結果を技術に知見のある人間が見て調整・修正を加えながらレポートにまとめます。これにより、論文数や研究動向、主要な研究機関などをグラフで可視化でき、また、詳細な技術トピックと論文例を合わせて示すことで、具体的な研究内容やトレンドを把握できるようになっています。

『 Linkers Trend Map 』は、基本的にお客様から個別に調査のご相談をいただき、そのテーマに合わせたレポートを作成するというサービスです。また、多くのお客様に興味を持っていただけそうな分野のレポートを弊社側であらかじめ作成し、即納販売する『 Linkers Trend Map – 技術総覧 – 』という形でもサービスを提供しています。

今回は『 Linkers Trend Map – 技術総覧 – 』の1つ、機能性素材に関するレポートの一部をご紹介します。
機能性材料・素材の調査対象と分析:熱電変換材料、圧電材料、機能性高分子など
では機能性材料・素材について分析した結果を解説していきます。まずは調査対象と分析の観点についてです。

画像左側のグラフは、論文の第一著者の所属組織を国別に分け、その数を示したものです。中央は論文のアブストラクトから推測した研究段階(応用研究か基礎研究か実用化研究か)を示しています。直近5年間を見ると、右肩上がりで研究が伸びていることがわかります。
国別では中国が最も多く約3割を占めていますが、他の分野と比較すると中国の割合は比較的少ない方です。近年は特に AI 分野などでは世界の6〜7割を中国が占めるようなケースもある中、機能性材料・素材の分野では中国の割合がやや少ない傾向が見られます。
2番目に多いのがアメリカ、その後にインド、ドイツあたりが続き、日本は6番目となっており、論文数としては少なめです。

約4万件の論文をさらに分類するため、大分類として8つのグループを設定しました。各論文はこれらの分類に振り分けられており、1つの論文が複数のグループに関連する場合は重複してカウントしています。

画像は各グループごとの論文数の変化をバブルの大きさで示したものです。フォトニクス系と機能性高分子が比較的大きな割合を占めていることがわかります。この5年で特定の分野が急激に伸びたというよりは、全体的に少しずつ伸びている印象です。
それでは、8つのグループについて、それぞれどのような研究がなされているかを個別に見ていきます。
(注意)『 Linkers Trend Map 』は基本的に論文や特許分析を行うサービスですが、今回のセミナーでは補足として Web 調査、つまり Web ベースでわかる企業の取り組みや製品発表なども併せて紹介しています。なお、右上に「このページはレポートには含まれません」と記載されている画像は、販売している『 Linkers Trend Map – 技術総覧 – 』のレポートには含まれていない情報です。
熱電変換材料の技術動向と研究トレンド
まず熱電変換材料の分析結果について、どのようなトレンドがあるか見ていきます。

熱電デバイスを作る際に、従来よりも複雑な材料系や構造・形状を工夫する研究がアカデミアで進められています。

例えば、画像左の東京都立大学では、 NaCl 型結晶構造のサイトに6種類以上の元素を組み込んだ「ハイエントロピー材料」を使って熱電性能を向上させる研究が行われています。
真ん中の東京大学では、シリコンを基礎材料として特殊なエッチング技術で多孔質化し、特殊な形状にすることで特性を向上させる研究が進められています。
さらに右側の東北大学では、結晶の中の欠陥をうまく取り入れて制御することで性能を向上させる研究が行われています。
単純に熱電材料の結晶で作るだけでなく、形状や欠陥、多数の元素を組み込むなど、複雑な処理で性能を向上させる研究が大学で進められています。

もう1つ、大きな流れとして「ウェアラブルや IoT 向けの小型・フレキシブル熱電発電の開発」があります。
画像左の東京都立大学では、カーボンナノチューブを編み込むことでフレキシブルな熱電材料を作る研究が行われています。
真ん中の東京工業大学では、非常に小型の熱電素子の開発が進められています。
画像の株式会社 KELK では、 IoT 向けの小型熱電発電デバイスを開発しています。
身近なところにこれらの技術が応用されることが期待されています。

また、自動車や宇宙分野への応用も進んでいます。自動車の排熱を熱電発電ユニットにつないで電力に変換する研究や、 宇宙での長期使用可能な電源としてプルトニウムの崩壊熱を熱電素子で電力に変換する研究などが進められています。

論文分析の結果として、まず画像右側に、熱電変換に関する研究を5つのカテゴリーに分類しました。特に注目されているのは「第一原理計算と DFT 解析で紐解く先端・新奇熱電材料設計の最前線」で、研究数が急増しています。

こちらの画像は、5つのカテゴリーの研究数の伸び率をまとめたものです。直近5年間でどれくらい研究数が増えたのかを示しています。例えば「多彩な第一原理手法で熱電・二次電池材料を高性能化する総合解析」が一番右上にあり、近年急激に研究数が伸びているカテゴリーだということがわかります。

「多彩な第一原理手法で熱電・二次電池材料を高性能化する総合解析」について詳しく見ていくと、研究数が右肩上がりで増加しています。



このカテゴリーの中には「2次元・ヤヌス・低次元材料による熱電特性革新(2次元やナノ低次元材料による熱電特性の革新)」「フォノン工学・欠陥・ナノ構造化による熱伝導率制御(結晶の欠陥や格子構造の最適化による熱伝導率と発電性能の制御)」「鉛フリー・多元・混合系による環境調和型材料設計(鉛フリー化による環境負荷低減、多元混合系による特性改善)」などのトピックが含まれています。
圧電材料/誘電材料の開発動向と応用事例
次に圧電材料・誘電材料に関する分析です。

Web 上での開発動向としては、鉛などの有害元素を使わない高性能圧電素子の開発がメーカーを中心に進められています。

特に興味深い例として、画像中央の株式会社ピエクレックスが繊維の中に圧電材料を組み込むことで抗菌効果(菌の増殖を抑える)を持たせるという形での応用技術を開発しています。

また、薄型化・柔軟性の向上も注目されています。画像左の株式会社村田製作所では、スマートフォンのタッチセンサーとして圧電センサーを応用する技術を開発しています。
真ん中の住友理工株式会では、体に巻くベルト状のデバイスに圧電素子を組み込み、身体の動きをセンシングする技術を開発しています。
右側の関西大学では組紐の中に圧電素子を入れ、服やスポーツ用品へ応用しています。このように様々な形で身近なところに圧電デバイスを組み込める技術が開発されています。

こちらは工業的な話になりますが、シリコンウェハーに圧電素子を組み込む・貼り付ける技術も活発に開発が進められています。

論文分析では、全部で 13 のカテゴリーが抽出されました。

特に研究数が伸びているカテゴリーとしては「 MXene やハイドロゲルを活用するフレキシブルセンサーと AI 解析統合」だということがわかります。今回は、「グラフェン系フレキシブルセンサーでウェアラブル応用を拡張」のカテゴリーについて詳しく見ていきます。



「グラフェン系フレキシブルセンサーでウェアラブル応用を拡張」に含まれる研究としては、グラフェンや MXene などの2次元材料やカーボンナノチューブを繊維やポリマーと複合化することでフレキシブルなセンサーを開発する研究や、 3D / 4D プリンティングを活用したフレキシブルセンサーデバイスの開発などがあります。
光学材料の研究動向と最新技術
続いては光学材料の分析結果について。

光学材料は、高速通信やデータセンター向けの技術として注目されています。

Web 調査では、シリコンフォトニクスが活発に研究されていることがわかりました。データセンターなどでの高速データ処理や通信に電気ではなく光を使うために、チップや回路基板に組み込むためのプラットフォームが活発に開発されています。

また、レーザー加工機などに使用する高出力・短パルスのレーザーの研究も活発に行われています。

さらに Co-Packaged Optics ( CPO )と呼ばれるフォトニクス原理を使ったチップや、パッケージを組み合わせたパッケージング技術にも関心が高まっており、インテルや NVIDIA などの大手企業が積極的に研究を進めている状況です。

他にも、通信用のレーザーなどの要素部品の開発も活発に行われています。


論文分析では、「最先端計算科学と量子化学が導く光材料電子構造設計」というカテゴリーが特に伸びていることがわかりました。



第一原理計算を用いて、バンドギャップ、光吸収率、電気伝導率、安定性など様々な物性を同時に予測する高度な計算手法の研究や、材料に圧力やひずみを加えたり欠陥を導入したりすることで物性を最適化・制御するシミュレーション研究が増えています。