• 配信日:2025.06.17
  • 更新日:2025.06.17

オープンイノベーション Open with Linkers

中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『【最新技術紹介】中国テクノロジーの最新トレンド:BATH+α がリードするイノベーション』のお話を編集したものです。

リンカーズの笠原(かさはら)[講演時の肩書]と、上海を拠点に日中の共創を推進する「匠新(ジャンシン)」の久保 (くぼ)様が、中国のビッグテック企業「 BATH 」と新興企業の最新ソリューションや注目技術を紹介します。

また WeChat を中心としたスーパーアプリの実態、医療・交通分野でのAI活用、ロボティクス技術の進化など、中国社会に実装されている先進技術の現状を、現地視点を交えて解説します。

記事の最後では、セミナーで使用した講演資料を無料でダウンロードいただけますので、あわせてご覧ください。

BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)+αから見る中国の最新技術動向


笠原:ものづくり企業向けにイノベーションを支援しているリンカーズの笠原と申します。今回は「中国テクノロジーの最新トレンド: BATH+α がリードするイノベーション」というテーマでお話しします。

中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

今回のセミナーでは、アメリカのテクノロジープラットフォーマー「 GAFA 」と度々比較される中国のビッグテック企業「 BATH 」、すなわちバイドゥ( Baidu )、アリババ( Alibaba )、テンセント( Tencent )、ファーウェイ( Huawei )の4社と、さらに TikTok を運営するバイトダンス( ByteDance )をはじめとする中国のユニコーン企業 * を加えた「 BATH+α 」のソリューションや注目技術を紹介します。

データやAIを一層活用していく今後の日本や他国でのビジネス展開を検討するにあたり、中国の成功事例は大いに参考になる反面、正確な情報へのアクセスと把握が困難なケースがあります。そこでリンカーズでは、上海を拠点に日中の共創を推進する「匠新(ジャンシン)」の協力のもと、実社会における提供価値を起点に中国の技術情報を調査・整理したレポートを作りました。

また本日ゲストとして匠新の久保様をお招きし、現地の情報を踏まえて解説いただきたいと考えています。

*ユニコーン企業とは、設立から 10 年以内に評価額が 10 億ドル以上に達した非上場のスタートアップ企業のこと。

なぜ中国の先進技術に注目すべきか


笠原: 中国の先進技術に注目する背景についていくつか紹介したいと思います。

中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

まず1つ目が、中国経済と科学技術の発展の推移です。画像の左側に名目 GDP の推移を米国、中国、日本、ドイツの順に掲載しており、右側には国際特許出願数の推移を同様に米中日独の順で掲載しています。

GDP の推移に関しては、直近2年ほどは中国がやや停滞している傾向があるものの、 2021 年までは米国を上回るペースで成長しています。また日本とドイツの順位が 2023 年に逆転したという事象はありますが、この2国と比較しても中国は4倍近い名目 GDP を有しており、かなりの経済大国と言っても過言ではないことがデータからも見て取れます。

国際特許の出願数に関しても、元々はかなり少なくドイツに近い数だったものが、日本や米国を抜き、ここ4〜5年にわたり世界のトップを維持しています。現在 GDP はやや停滞しているものの、科学技術の開発には注力していることが特許出願数からも垣間見えます。その結果、出願した特許技術が花開く頃には GDP も再び上昇することも考えられるのではないかと思っています。

中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

そしてもう1点、中国科学技術発展の背景として、ツールの利用者が多いという点があります。画像左のグラフには、メッセージングアプリのグローバルでの月間アクティブユーザー数を示しています。 WhatsApp の利用者数が世界的に多いことは知られていますが、次いで多いのが WeChat 、そして中国発のアプリでは QQ もかなり上位にランクインしています。この WeChat 、 QQ はともに中国のテンセント( Tencent )が提供しているサービスで、この2つを合わせると約 19 億人強が利用していることになります。日本で利用者の多い LINE は約 1.8 億人であり、 10 倍以上の利用者が存在する状況です。

また右のグラフには先月話題になった DeepSeek のベンチマークテスト結果を示しています。性能的には OpenAI の GPT-o1 と同等でありながら、コストが大幅に抑えられています。具体的には、 DeepSeek V3 は GPT-4 の学習コストの約6 % 程度となっています。当然ながら、学習コストが安く済むために利用料も格安になっており、安価なものがより容易に使える環境が整っています。その結果、多くの方々が頻繁に使うようになり、それによって性能も各段に向上するという好循環が生まれる環境にあることが考えられます。

このように新しい技術が開発され、それが広く使われ、経済が発展していくという中国の様子を参考にすべきと考え、今回の調査企画に至りました。

ここで久保様に伺いたいのですが、最近の中国で特に技術的な話題として気になっているものがあればご紹介いただけますか?

久保様: はい。この画像で取り上げている DeepSeek は、中国でも非常に盛り上がりを見せています。本日ご紹介する中国の BATH をはじめ、様々な中国企業が DeepSeek を何とか取り入れられないかと即座に対応し、自社サービスへの組み込みを始めているような状況です。

特に今回テンセント( Tencent )について紹介してまいりますが、ビッグテック企業の中でもテンセント( Tencent )が先陣を切って自社サービス全体にディープシークを適用していこうという、かなり大きな動きを見せています。

笠原: ありがとうございます。続けて、さらに詳しく触れていければと思います。

調査のスコープと手法:BATH+αの150の技術選出


中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

笠原:次に、調査スコープとその手法について紹介します。今回は、2022年以降の動向を中心に、BATH+αの企業が関わる技術を150件選定しました。中でも、近年特に目覚ましい成果を挙げている宇宙関連技術や量子コンピューティング技術なども取り上げています。

対象としたデータについては、各企業の公式ホームページや Web メディアなどから情報を収集しました。加えて、日本からはアクセスできないような情報については、匠新様にご協力いただきました。調査手法の項目にも記載の通り、収集したデータの中から、特に実社会で価値を提供していると判断される技術を選定し、150 件に絞り込んでいます。

絞り込んだ技術・ソリューション・サービスを基に、各社の中核となる技術や今後のイノベーションの方向性について分析・整理を行いました。ここでは、その一部をご紹介します。

中国社会の実態:生活サービスのデジタル化


中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

笠原:続いて中国社会の実態について話を進めていきます。

画像左上の写真は地下鉄に乗る際の改札を通る様子で、日本と同様にスマートフォンで乗車することができるようになっています。ただ、乗車ができるというだけではなく、運賃の電子領収書の発行も併せてできるようになってきており、これは日本で言うところの年末調整や確定申告の際にも非常に便利に進められる仕組みとして中国では運用されているとのことです。

さらに運賃だけではなく、法人業務における支払いやその領収書発行、また領収書だけではなく契約書の締結もアプリで可能となってきています。それに加え、日常の買い物もアプリで可能となっています。さらにデリバリーを依頼した際に、そのデリバリーをロボットが行うといったことが数年前から実施されており、日常に溶け込んでいるとのことです。日本ではまだ Uber Eats など人力で配送が主流ですが、中国の都市部ではすでにロボットがデリバリーをしています。

買い物だけではなく納税もアプリで可能となっており、支払いをする際に必ず本人認証が必要となりますが、その認証に関しても毎回スマートフォンをかざす必要は無くなりつつあり、例えば手のひら認証や静脈認証、顔認証などの導入が進んでいるとのことです。

ここまで日常の生活サービスに関する技術について紹介してきましたが、久保様ご自身が日常的に利用しているサービスで何かあれば、簡単にご紹介いただけますか?

久保様: はい。電車の利用についてはかなり前から当たり前になっており、最近日本でも電子 PASMO などが発展してきていますが、中国では相当前から実装されていて、 QR コードで乗るパターンもあればスマホをかざして乗るパターンもあります。

また先ほどご紹介いただいた領収書について。現在私は中国の法人に勤務しているため、月次で経費精算を行います。その際に必要な領収書を集める作業が、全て電子決済をしていると電子上で発行されるため非常に便利だと感じています。これについて中国の社会的背景も簡単に共有しますと、日本では消費税という形で決済時に税金がかかりますが、中国も似たような税金の仕組みがあります。中国の場合、消費税もありますが、どちらかというと付加価値税という理解をした方が適切でしょう。

例えば、原材料を製造する企業が 100 円で商品を販売した際、仮に税率が 10 % だとすると付加価値税は 10 円になります。その原材料を仕入れて 200 円の商品として販売すると、同じく 10 %で 20 円の税金がかかります。しかし付加価値税の場合、既に仕入れ先が 10 円分の付加価値税を支払っているので、 20 円のうち 10 円分は他の業者が支払っていることになります。すると購買が発生するたびに付加価値税が重複して支払われることになるため、既に他の業者が支払った分については税務局に申告することで、その部分の控除を受けられるという仕組みがあります。

そのため電子領収書が発展することで申告作業も非常に容易になり、税務局としても全ての購買活動をトレースすることができるというメリットがあるため、そうしたプラットフォームが発展しているという状況です。

また領収書を発行する際には会社の法人番号のようなものを入力する必要がありますが、一度入力しておくと WeChat のプラットフォーム上で毎回非常に簡単に、ワンクリックほどで様々な領収書を発行でき、経費精算も全て一括で処理できるため、非常に便利なサービスだと感じています。

中国社会の実態:医療・ヘルスケア分野におけるAI活用


中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地

笠原:続きまして、医療・ヘルスケア領域の実態について紹介します。

まず中国ではスマートフォンのアプリで病院の診察を受けられる状況になっています。日本でも 2024 年にマイナンバーカードで保険証代わりに診察を受けられるように切り替わりましたが、中国ではすでに ID カードを超えて、スマホのアプリで受診ができる環境が整っています。

さらに医療の中身についてもかなり進展しています。画像真ん中にある通り、症例の多い病気を中心にAIによる高精度な診断技術が活用されています。また画像右側、患者と医師とのマッチングをAIが行ったり、左下に示されている血液分析に関してもAIを活用して効率的に進めたりしています。このように、AIを活用している実態が見えてきています。

またAIだけではなく、 BCI( Brain-computer Interface )を利用したリハビリは比較的世界的にも実施されていると思いますが、さらにセルフケア用のデバイスもすでに普及が進んでいる状況です。

日本同様、中国もかなり高齢化が進んでいる背景から、補聴器など高齢者の機能補助をするデバイスも普及し始めています。他にも聴力低下に対応するデバイスだけでなく、ソリューションとしても展開されており、AIテクノロジーを活用した医療ヘルスケアがかなり進んでいる印象です。

ここで久保様に伺いたいのですが、医療ヘルスケア分野で注目すべき実態について補足いただくことは可能でしょうか?

久保様:近年は特にテンセント( Tencent )を中心に、医療分野でもかなり大々的にAIを活用する取り組みが進んでいます。従来は小型のハードウェアとソフトウェアをマッチングする方法で進めていましたが、近年特に LLM ベース、いわゆる大規模AIモデルを活用して医療現場に実装していく動きが促進されています。

テンセント( Tencent )のみならず、バイドゥ( Baidu )やファーウェイ(HUAWEI )といった様々な企業がそれぞれ大きなAIモデルを開発していますが、特にテンセントは医療分野にかなり力を入れています。

中国では医療機関が各地に存在しますが、都市部と地方では医療リソースの質に格差があります。患者の立場からすると、重大な病気になった際に近くの医療機関で適切な医療を受けられるかは非常に重要なことです。テンセント( Tencent )が特に注力しているのはこの点で、医療データを集約してデータベースを構築し、都市部のベストプラクティスをAIに学習させています。そして LLM ベースで医師に対して、患者の状況に応じた適切な治療方法や手術の方針を提案しています。場合によっては緊急医療のような緊迫した状況においても適切な対応を示すことも可能です。

こうした医療リソースを地方の医療機関にも共有していくという使われ方もされており、医療リソースに乏しい地方であってもAIが提案するナレッジを通じて、都市部レベルの先進的な医療知識を提供していくという取り組みが進んでいます。

笠原:ありがとうございます。地方の医療状況が改善されていることや患者満足度の向上が確認できると、さらに良いのではないかと思いました。

次のページ:中国社会を支えるスーパーアプリ、テンセントWeChatなどを紹介いたします