
- 配信日:2025.04.16
- 更新日:2025.04.16
オープンイノベーション Open with Linkers
エージェンティックAIとは?Deep Research機能と各社比較
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『実践・エージェンティックAI で実現する次世代リサーチ手法』のお話を編集したものです。
最新のAI技術「エージェンティックAI」の定義から実例、各社の Deep Research機能の徹底比較まで解説。単なる生成AI を超えた、複数のタスクを効率的に実行するエージェンティックAI の可能性と課題について、200 件以上の技術調査経験をもとに具体的に紹介しています。
記事の最後の方では、セミナーで使用した講演資料を無料にてダウンロードいただけますので、あわせてご覧ください。
目次
●強力なリサーチツールとなった生成AI
●エージェンティックAIとは?定義と進化
・AI技術の進化と特徴:ディープラーニングからエージェンティックAIへ
●エージェンティックAI の詳細な特徴と基本的な仕組み
●エージェンティックAI の事例:調査・研究の現場で活躍する AI
・スタンフォード大学の『 STORM 』:Wikipedia 風文章を自動生成
・ Google の『 AI co-scientist 』:研究者をサポートする AI パートナー
・トヨタ自動車の『 O-Beya 』:専門知識を持つ AI が設計を支援
●エージェンティックAIと Deep Research の関係性
●各社の Deep Research機能の比較:OpenAI、Google、GenSpark、Perplexity
・ OpenAI の Deep Research:詳細な調査と透明性の高いプロセス
・ Google の Deep Research:広範な情報収集と集約
・ GenSpark の Deep Research:プロンプト外の要素が影響する課題
・ Perplexity の Deep Research:簡素な説明と課題
● Deep Research 比較結果と考察
●エージェンティックAI の課題と今後の展望
●リンカーズのサービス紹介とまとめ:AI を活用した次世代リサーチを支援
強力なリサーチツールとなった生成AI

リンカーズ株式会社の浅野(あさの)と申します。私はリンカーズで5年ほど技術調査を専門としており、これまで 200 件以上の様々なテーマで技術調査を行ってきました。元々は人間の手で技術調査をするところからスタートしましたが、 2022 年から 2023 年にかけて、GPT-3.5 や GPT-4 などの生成AI が登場し始めてからは、これらが十分リサーチに活用できる精度を持っていると認識し、生成AI の活用方法について社内で研究開発を進めてきました。
リンカーズでの取り組みとして、 2024 年秋頃に AI を大規模に活用して論文・特許を分析し、技術トレンドを抽出する新しいサービス「 Linkers Trend Map 」を開発し、その責任者を務めています。
現在、AI を活用した技術調査サービスを提供する一方で、世の中でも次々と Deep Research機能が導入されています。 OpenAI 、 Google 、 GenSpark 、 Perplexity など様々な企業が Deep Research機能を導入しており、これらはリサーチにおいて非常に強力なツールとなっています。こうしたツールの可能性と限界について、私自身の仕事にも関わることであるため調査・検証してきました。
今回のセミナーでは、以下の4つの内容についてお話します。
- 1. エージェンティックAIとは何か – 定義について
- 2. エージェンティックAI の事例
- 3. Deep Research機能の比較分析
- 4. エージェンティックAI の課題と今後の展望
エージェンティックAI はまだ新しい技術であり、オーソライズされた定義はありません。各社で定義が異なる部分があると思いますが、私の定義をもとに話を進めていきます。
エージェンティックAIとは?定義と進化
AI の進化は加速し続けており、毎週のように新しい生成AI モデルやツールが発表される勢いです。特に ChatGPT 、 Claude 、 Gemini などの生成AI 技術の進化が続いています。性能面では、すでに人間が違いを見分けるのが難しいレベルに達し、コモディティ化に近づいているように感じます。
一方で、生成AI 単体の性能向上とは異なる方向性で機能を拡張しているのがエージェンティックAI です。これが次のイノベーションとして投資家の関心を集めつつあります。
エージェンティックAIとは何か、ディープラーニングや生成AI との違いについて、私は以下のように解釈しています。
AI技術の進化と特徴:ディープラーニングからエージェンティックAIへ

エージェンティックAIは、自律的な意思決定とタスク遂行能力を持つ次世代のAI技術です。ディープラーニングや生成AIとは異なる特徴を持ち、より複雑なタスクの実行に優れています。ディープラーニングが生成AIの基盤技術となり、さらにエージェンティックAIへと発展しました。
●ディープラーニング(2015年頃):
・主な機能:構造化データを使ったパターン認識、データ分類、画像認識など
・具体例:顔認証システム、医療画像の解析、自動運転技術の一部
・役割:大量のデータから特徴を学習し、特定のタスクを実行する
●生成AI(2022年頃):
・主な機能:過去の学習から得た知識を自然言語で、コミュニケーションしながら取り出す
・具体例:ChatGPTのようなチャットボット、文章作成ツール、画像生成AI
・役割:人間の指示に基づいて、テキストや画像などのコンテンツを生成する
●エージェンティックAI(2025年現在):
・主な機能:一連の作業プロセスや専門家の思考プロセス・ノウハウをシステムに組み込み、複数のタスクを効率的に実行する能力
・具体例:旅行計画の自動作成、複雑なデータ分析とレポート作成、研究論文の自動要約
・役割:複数のAIエージェントが連携し、自律的にタスクを遂行する
エージェンティックAIの詳細な特徴と基本的な仕組み

エージェンティックAI の特徴は、生成AI を問題解決につながる様々なツールやシステムとして利用できることです。Web ブラウジング、特殊な演算ツール、グラフ作成ツール、企業の基幹システムへの問い合わせなど多様な手段を持ち、個別のエージェント同士でやり取りしながら作業を進めることができます。中核にある「頭脳」は生成AI モデルですが、様々な手段をどのような順序で使用すれば目的を達成できるかまで考えて作業を実行します。
単発の知識だけでなく調査、演算など様々なタスクを積み重ねながら総合的なアウトプットを出すことができます。ただし、内部で動いている AI の頭脳自体は一般的に使われている GPT-4 や GPT-4.5 などの生成AI モデルと同じものであるという点は留意すべきです。
エージェンティックAIの事例:調査・研究の現場で活躍するAI
エージェンティックAI は数多く登場していますが、ここでは特に調査・研究に関わるものをいくつかご紹介します。
スタンフォード大学の『 STORM 』:Wikipedia風文章を自動生成

2024 年後半に発表され話題になった『 STORM (ストーム)』は、 Wikipedia のような引用情報を含む文章を自動で作成するシステムです。通常の生成AI では網羅的な情報ソースを参照することはなかなかできませんが、『 STORM 』の特徴は「エキスパートペルソナ」の活用にあります。
例えば「生成AI を使ったアプリについて調べてください」という指示に対して、エンジニア、デザイナー、市場調査の専門家など様々な仮想的エキスパートを内部で立ち上げ、それぞれのエキスパートとディスカッションしながら知見を深めていきます。各エキスパートが Web 調査を行いながら、各自の専門領域からの観点で回答し、全体で知識を深めていくプロセスを通じて、 Wikipedia のような文章を作成します。
『 STORM 』はスタンフォード大学が無料の Web アプリケーションとして公開しています。例えば英語で「生成AI の潜在的な用途」というトピックを入力すると、Wikipedia 風の文章が生成されます。最初に全体概要があり、その後クリエイティブ産業、ビジネス・マーケティング分野、ヘルスケアなど様々な分野での活用例が包括的にまとめられます。
また「ブレインストーミングのプロセスを見る」という機能があり、論理学者、芸術愛好家、ライター、データサイエンティストなどの仮想エキスパート間で交わされた議論の過程も確認できます。
Google の『 AI co-scientist 』:研究者をサポートするAIパートナー

2025年初頭に発表された Google の『 AI co-scientist 』は、大学教授など学術研究者向けのツールです。研究者が研究したいテーマを入力すると、様々な役割を持ったエージェントが議論しながら仮説やアドバイスを提示します。1人の研究者だけでは導き出せないような多角的で最適なアイデアを提案してくれるのが特徴です。
すでに生物学的・医学的な研究において、『 AI co-scientist 』が提案した仮説が実験で検証されたというケースも出ています。今後の研究開発は、研究者が自分だけで仮説を考えるのではなく、AI をパートナーとして一緒に進めることがスタンダードになっていくでしょう。
トヨタ自動車の『 O-Beya 』:専門知識を持つAIが設計を支援

トヨタ自動車が開発した『 O-Beya (オーベヤ) 』システムも、同様のコンセプトに基づいています。このシステム内には、車両法規に詳しい A I、エンジンの過去設計に関する知識を持つ AI など、様々な専門知識を埋め込んだ AI が用意されています。これらの AI が、あたかも1つの部屋で議論しているように、新しい設計のアイデアなどに対してアドバイスを提供します。
トヨタ自動車社内ではエンジニアがこのシステムをいつでも使える環境が整っているとのことです。
ここまでに紹介した事例に共通するのは、専門家の知識を埋め込み、特定のプロセスやノウハウを組み込んで目標を達成するという点です。今後はスマートフォンアプリのように多種多様なエージェンティックAI アプリケーションがたくさん誕生すると予想されます。