
- 配信日:2025.03.12
- 更新日:2025.03.12
オープンイノベーション Open with Linkers
GAFAMの技術動向を論文・特許から徹底分析!
GAFAM 各社の技術事例(一部紹介)
最後に GAFAM 各社の個別事例を一部紹介していきます。
Microsoftの技術事例:ヘッドマウントディスプレイで実現するアバター制御技術『 HMD-NeMo 』

Microsoft Mixed Reality & AI Labの研究チームは、ヘッドマウントディスプレイ( HMD )のセンサーから得られる頭部と手の限定的な位置・姿勢情報のみを用いて、人間の全身の動作をリアルタイムで生成する神経網モデル『 HMD-NeMo 』を開発しました。
同技術は、 HMD から得られる頭部6自由度と両手の6自由度の位置・姿勢・情報を入力として、時空間エンコーダー( STAE )により動作の時系列変化と身体部位間の相関を学習します。また独自の適応的マスクトークン(TAMT)機構により、手が視界から外れた場合でも自然な動作を予測可能です。
生成された特徴量は2つの自己回帰デコーダーによって姿勢と軌道に変換されます。
同技術は既存手法と比較して、関節位置の平均誤差( MPJPE )が 1.90 cm 、関節速度の平均誤差が 24.99 cm/s と、最高精度を達成しています。手のモーションコントローラーを使用しない場合でも、 MPJPE が 2.48 cm 、 MPJVE が 31.30 cm/s と高い精度を維持できます。また1フレームあたりの処理時間は 4.4 ms と、実用的な処理速度を実現しています。
同技術は、VR / AR における没入型体験のためのアバター制御に活用可能です。特にモーションコントローラーを必要としないため、より自然なハンドジェスチャーによるインタラクションが可能となります。
Microsoftの技術事例:ヘアピン構造DNAを活用したDNA合成技術

Microsoft Technology Licensing LLCは、従来の化学合成法に依存しない新しい DNA 合成技術を開発し、環境負荷の低い DNA データストレージの実現を目指しています。
同技術は、基板に固定された単鎖 DNA アンカー鎖に対して、情報をエンコードしたヘアピン構造 DNA を順次ハイプリダイズさせます。ヘアピン DNA は、ステム領域、ループ領域、オーバーハング領域から構成され、ループ部分に任意の情報(例:バイナリデータ)をエンコードし、リガーゼ酵素によってアンカー鎖とヘアピン DNA を連結した後、インベーディング鎖を用いてヘアピン構造を開環し、次のヘアピン DNA の結合サイトを露出させます。
同技術では、マイクロ電極アレイを用いることで、単一基板上で数万から数十万の異なる配列を持つ DNA を並列合成可能です。電極に正電荷をかけることで、特定の位置に負荷を持つ DNA を静電的に誘導し、位置選択的な合成を実現します。
また、ヘアピン DNA とインベーディング鎖を事前に大腸菌で大量生産することで、スケーラブルな合成システムを構築できます。
同技術は、 DNA データストレージセンターにおける大規模なデータ書さ込みシステムとしての応用が期待されており、従来のホスホロアミダイト法で問題となっていた有機溶媒発棄物を大幅に削減できるという点で、環境調和型のDNAデータストレージインフラの実現に貢献するでしょう。
Microsoftの技術事例:深層学習モデルによるプログラムコード自動補完システム

Microsoft はソースコードの編集中に既存コードの間に適切なコードを自動で挿入する深層
学習ベースの技術を開発しました。同技術は、非終端記号セレクタモデル( Non-terminal
Selector Model )と非終端記号展開モデル( Non-terminal Expansion Model )の2つの深層学習モデルを組み合わせて活用しています。
プログラミング言語の文法規則に基づいて、挿入ポイントの前後のコンテキスト( prefix 、 suffix )を考慮しながら文法的・意味的に正しいコードを生成し、非終端記号セレクタモデルは多層パーセプトロン( MLP )として実装され、非終端記号展開モデルは Attention メカニズムを備えた Neural Transformer として実装されています。両モデルは自己教師あり学習と強化学習を組み合わせて段階的に学習されます。
また同技術は、入力された文脈に対して、ビームサーチを用いて最適な候補を生成します。具体的には、非終端記号セレクタモデルが上位 M 個の非終端記号の展開位置を予測し、非終端記号展開モデルが各位置に対して上位 N 個の展開候補を生成。これら M ✕ N 個の組み合わせから、対数確率に基づいて最も適切な上位 k 個の候補が選択されます。
同技術の主な用途は統合開発環境( IDE )やコードエディタへの組み込みです。開発者の生産性向上やコードの品質維持に貢献し、特に大規模なコードベースや複雑なプログラミング言語での開発において効果を発揮する可能性が高いでしょう。また、プログラミング教育支援ツールとしての活用も期待できます。
Microsoftの技術事例:圧電素子によるマイクロ流体熱管理デバイス

Microsoftは、熱発生コンポーネントの局所的な温度上昇(ホットスポット)に応じて冷却流体の流量と流路を制御可能な新しい熱管理デバイスを開発しました。
同技術は、マイクロ流体体積、圧電ポンプ膜、圧電弁、温度センサー、制御システムを統合した能動的熱管理システムです。マイクロ流体体内には微細な熱伝達要素が配置され、圧電素子
駆動されるポンプ膜がマイクロ流体の体積を変化させることで冷却流体の流れを生成します。入口ポートと出口ポートには圧電弁が設けられ、これらの弁の開閉を制御することで、ホットスポットに応じた流体の流量と流路の最適化を実現しています。
特長は、熱発生コンポーネントの温度、消費電力、ワークロードなどの熱管理需要に基づいて、リアルタイムで冷却性能を調整できる点です。例えば、プロセッサの特定のコアに高負荷がかかった場合、そのエリアへの冷却流体の供給を増やすことができます。また、従来の放熱フィンやヒートスプレッダと比較して大幅な小型化が可能で、3次元積層プロセッサなど高密度実装デバイスへの適用も視野に入れているとのことです。
同技術の用途として、データセンターのサーバー、 AI アクセラレータ、高性能 GPU 、 5G 基地局などの発熱密度の高い機器が想定されています。
Metaの技術事例:『 SpaText 』

Meta AI とイスラエルの The Hebrew University of Jerusalem と Reichman University の研究チームが、大域的なテキスト指示と局所的な空間テキスト表現を組み合わせて画像生成を制御できる新しい AI 技術『SpaText 』を開発しました。
同技術は、従来の画像生成 AI が抱えていた細かな空間制御の課題を解決し、ユーザーの意図をより正確に反映できます。また画像全体を記述する大域的なテキストプロンプトと、画像内の特定の領域を自由形式のテキストで記述できる空間テキスト表現を組み合わせた2段階の入カシステムを採用。空間テキスト表現では、 CLIP モデルを活用して各領域のセマンティックな特徴を抽出し、事前学習済みの全景セグメンテーションモデルと組み合わせることで、ユーザーが指定した領域の形状や位置を維持しながら自然な画像生成を実現します。
同技術は、既存の最先端な画像生成モデルである Stable Diffusion や DALL・E2 に実装され、定量的・定性的な評価において従来手法を上回る性能を示しました。 FID スコアは 6.7721 を達成し、グローバルテキストとの一致度や局所テキストとの一致度においても、 No Token Left Behind やMake-A-Scene などの従来手法を上回る結果を示しています。また、人間による主観評価でも、視覚的品質、大域テキストとの一致度、局所テキストとの一致度のすべての項目で、既存手法に比べて高い評価を得ました。
キャラクターの配置や姿勢、背景との関係性など、従来のテキストプロンプトだけでは実現が難しかった細かな制御が可能となったことで、プロフェッショナルなアーティストから初心者まで、より直感的なコンテンツ制作を可能にすると期待されています。
Metaの技術事例:『 IMAGEBIND 』

Meta AI の研究チームは、画像、テキスト、音声、深度、熱画像、 IMU (慣性計測装置)の6つのモダリティを1つの共通埋め込み空間に統合する新しい手法『 IMAGEBIND 』を開発しました。
同技術は、すべてのモダリティ間のペアデータを必要とせず、各モダリティと画像とのペアデータのみを使用して学習を行うことで、モダリティ間の自然な結合を実現します。また各モダリティのデータを対応する画像データとマッチングさせながら学習を行います。具体的には、画像とテキストのペアをウェブスケールで学習し、さらに画像/動画と音声、深度、熱画像、 IMU データなどの自然に発生するペアデータを組み合わせて学習を行うという形です。これにより、異なるモダリティ間の意味的な関係性を暗黙的に学習し、共通の理め込み空間を構築します。個々のモダリティのエンコーダーには、画家には ViT 、音声にはスペクトログラムベースの ViT 、 IMU には 1D 畳み込みと Transformer など、それぞれに適した構造を採用しています。
同技術の性能評価では、音声分類タスクにおいて ESC データセットで 66.9 %の精度を達成し、 AudioCLIP と同等の性能を示しました。また Clotho データセットでの音声・テキスト検索タスクでは、 R@10 で 28.4 % を達成し、教師ありの手法に迫る性能を示しています。特に注目すべき点は、これらの性能が音声とテキストの直接的なペアデータを使用せずに達成されていることです。画像エンコーダーのスケールアップにより、すべてのモダリティでの性能がさらに向上することも確認されています。
応用範囲は広く、クロスモーダル検索、モダリティ間の演算による新しい概念の生成、音声プロンプトによる物体検出、音声から画像生成など、多様なタスクに活用できるでしょう。
Metaの技術事例:『 Carbon Explorer 』

Meta とスタンフォード大学などの研究チームは、データセンターの 24/7 カーボンフリー運用を実現するための包括的な設計・最適化フレームワーク『 Carbon Explorer 』を開発しました。
このフレームワークは、再生可能エネルギー投資、蓄電池容量、サーバー容量の3つの要素を組み合わせて、運用時と製造時のカーボンフットプリントを総合的に最小化する手法を提案します。データセンターの電力需要データと地域別の再生可能エネルギー供給データを入力として、3つの主要な戦略を組み合わせて最適化を行うというものです。1つ目は風力・太陽光発電への投資、2つ目はリチウムイオン蓄電池の導入、3つ目は柔軟なワークロードを再生可能エネルギーが豊富な時間帯にシフトするカーボンアウェアスケジューリング。これらの戦略の組み合わせにより、 24/7 カーボンフリー運用の実現可能性と、そのために必要な追加投資量を評価します。
同フレームワークにより、 Meta が持つ 13 のデータセンターの立地について包括的な分析を実施。その結果、風力発電が主体のネブラスカ州や、風力と太陽光のハイブリッド型のテキサス州などで、最も効率的に 24/7 カーボンフリー運用が実現可能であることが判明しました。 95 % から 99.9 % のカバレッジを達成するには、0 % から 95 % に比べて5倍以上の再生可能エネルギー投資が必要となります。蓄電池とスケジューリングを組み合わせることで、 13 拠点中5拠点で 100 % カバレッジの達成が最適解となりました。今後のデータセンター立地選定や、再生可能エネルギー投資、蓄電設備の導入計画の最適化に活用できるでしょう。
一部事例の紹介ということで、ここで終了とさせていただきます。
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講演者紹介

黒田 昇平
株式会社リンカーズOI研究所 オープンイノベーション研究所 リサーチマネージャー
【略歴】
九州大学工学府物質プロセス工学専攻修士課程修了。
大手化粧品メーカー、大手電機メーカーなどで研究開発・事業開発に従事。
2022年より現職にて、主にメディカル・ヘルスケア、日用品・消費財系の技術動向調査を行う。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
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