• 配信日:2025.01.01
  • 更新日:2024.12.18

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【2025年】年初インタビュー「製造業を取り巻く変化について」|リンカーズオープンイノベーション・エバンジェリスト松本毅氏

2024 年も世界の情勢不安、物価高、賃金上昇の動き、日銀のマイナス金利政策解除など、外的環境の変化が著しい 1 年でした。同年、リンカーズのセミナーにご登壇いただいたイノベーション推進者、経営者、実務家の皆さまが、この変化をどのように捉えているのか。イノベーション活動に変化をもたらしたもの(こと)、注目技術、そして 2025 年の企業の役割・課題などについて、今年も 2025 年の年始インタビューとしてお話を伺いました。

本記事では、一般社団法人 Japan Innovation Network 常務理事であり、リンカーズ オープンイノベーション・エバンジェリストの、松本 毅 氏にお話を伺いました。
※所属企業・肩書は 2024 年 12 月 20 日時点のものです。

2025年、製造業が果たしてゆくべき役割や課題


ーー今、製造業が果たしてゆくべき役割、その役割を果たすにあたっての課題について、どのように考えていますか。

松本氏:
「世界競争力ランキング(世界競争年鑑)」という各国の競争力についてスイスのビジネススクールの国際経営開発研究所( IMD )がまとめたものによると、2024 年の日本の国際競争力順位は 38 位と、2023 年より3つ下げて過去最低となった。ただ、ケミカル分野である素材・材料・デバイスにおいては、世界トップシェアを持つ製品が 300 以上あり、世界一である。この強みを未来に向けて維持・加速する為には、「 × デジタル競争(データサイエンス、デジタル化)」しか未来はないと言われている。しかしながら、日本のデジタル競争力は低下しており、2023 年の 28 位から、この1年で 39 位に低下( 63ヶ国中)。さらにデジタル競争力のなかで、イノベーション・マネジメントに関わる「機会と脅威に即応できる組織体制」「俊敏な意思決定・実行」が 63ヶ国中 63 位と最下位である。製造業全般に、イノベーション・マネジメントの強化が必要である。
日本の製造業は技術力はあると言われています。では何故イノベーションが興らないのか。
「技術が優れているのに受け容れられないのは、市場がわかっていないから」
「研究された技術自体に価値があるとの勘違い」
などがある。
研究成果である技術をビジネスの用途に適用する場合に重要なことは、如何にして「市場に理解される」製品やサービスとして提案できるかによる(この過程に Valley of Death が存在)、常に R&B、D&B の意識改革が必要である。

ーー上記の役割や課題について、重要性や緊急性などは変化しているでしょうか。

松本氏:
日本の製造業は、技術革新の発明( Invention )が強いと言われている。
しかしながら、いくら強い技術や数多くの発明( Invention )を生み出しても、イノベーションは興らない。
技術調査や特許調査をもっと深化、精鋭化して、それぞれの分野で急速に起こっているトレンドの変化・シフトを読むだけでなく、トレンドが自社に与える影響を読んで迅速に対応出来る組織能力を高める必要に迫られている。

<「オープン・イノベーション」時代の到来>
これまでの企業は、クローズ・イノベーション(自前主義・内製化)を基本にしてきた。製品開発、仕入・製造から販売まで一連のイノベーション・プロセスを、自社に都合の良い仕組みに作り上げてコントロールしてきた。つまり垂直統合型のクローズ・イノベーションモデル構築を目指してきたといえる。しかしながら、IT 革命は、経営等の分野だけでなく、サイエンス、テクノロジーの分野にも多大な影響を与え、その結果、プロダクトライフサイクルが短命化してきた。IT の発展は、企業に自前主義の限界を突きつけた。製品ライフサイクルが短縮・短命化するなかで、企業は、コアの経営資源を「選択と集中」する必要性に迫られた結果として、新たなイノベーションが必要とされる現在において、必要な資源が内部に備わっていない。内部にないその他の資源については、どれだけ外部資源を上手く活用出来るかが問われるようになってきている。「オープン・イノベーション」の台頭である。
しかしながら、現在、「オープン・イノベーション」がうまく出来ている企業は極めて少ない状況だ。

1対 N(プラットホーム型)オープン・イノベーションを実現することが肝要であると考える。
最近のオープン・イノベーションは、1対1(クロスライセンシング型)ではないものが多い。日本で流行っている N 対 N(コンソーシアム型)では何も興らないどころか、より遅くなり、スピード競争に対応できない。日本企業こそ、1対 N(プラットホーム型)を実践すべきであると考える。
求められるのは、あらゆるプレーヤーが拠って立つプラットホームの形成であり、すなわちここに言う、プラットホームとは、下位システムが相互にイノベーションを創発しあう進化するシステムのことである。
具体的には、規格、製品アーキテクチャ、サービスシステム、プロジェクトコンソーシアム等々、インフラ的なものから協働枠組の制度的なものまでが含まれる。

<新たな戦略『オープン・イノベーション型プラットホーム・リーダーシップ」>
「オープン・イノベーション」型モデルでは、企業は垂直型モデルで行ってきたようなコントロールが出来ないため、様々なリスクにさらされる危険性も増すが、逆に、先行すれば、イノベーションのチャンスが増大する。
デジタル化を進展させフル活用して、これまでのような自前主義で作り上げてきたモデル・仕組みに固執せずに、自ら「オープン・イノベーション」の共通のプラットホームそのものを作り上げ、そのなかでイニシアチィブをとり業界のリーダー的地位を獲得する戦略「オープン・イノベーション型プラットホーム・リーダーシップ」が重要になる。
初代大阪ガス・オープンイノベーション室長として「プラットホーム型オープン・イノベーション」の仕組み構築を目指し完成させた。だからこそ大阪ガスのオープン・イノベーションは成果を出し続けている。

今、危機感を持っていることについて


ーー今後、製造業を取り巻く環境の変化に対して、もっとも危機感を持っていることを教えてください。

松本氏:
「新規の競争者の出現」。以前に Japan Innovation Network が日経ビジネスと提携したイノベーション 1000 人調査では、「イノベーションに手応えがある組」と「イノベーションに手応えがない組」の共通の危機感1位は「産業構造の大幅な変化」であった。しかしながら「イノベーションに手応えがない組」の2位は「自社でイノベーションを起こせないこと」、「イノベーションに手応えがある組」の2位は「新規の競争者の出現」であった。つまりは、まずイノベーション・マネジメントを強化してイノベーション経営の仕組みを構築することが重要であるが、実践する際には競争戦略、自社固有のユニークな競争優位を見出しうる本当に重要な課題を抽出する。真似されない技術・ビジネスモデルを創り模倣の困難性を創り、維持することで参入障壁を構築しないと世界に勝てない。
つまりイノベーションという言葉が大流行りのなかで、今の日本企業に大きく欠けているのが、新規の競争者の出現に迅速かつ戦略的に対応できる競争戦略の強化であると考える。

自社のイノベーション活動に変化をもたらすもの(こと)


ーー 2024 年、貴社のイノベーション活動に変化をもたらすと考えられる外的環境変化や、技術革新はありましたか。また、外的環境変化に伴い、内的環境変化は起こりましたか。

松本氏:
急速に進展を遂げているデジタル化、特に AI の進化に対して、「生成 AI 活用にネガティブな日本」。なぜ日本は AI にネガティブなのか。といった現状を検証しないと、世界に遅れつづける。BGC の経営の論点 2025 にあるように、「生成AIを武器にする-事業を変革する”大玉案件”が、成功の鍵」。
外部環境の変化に対応していくことで組織能力が醸成されていき、それが内部環境の変化に繋がっていく。

ーー 2025 年以降、どのようなことがイノベーション活動の大きな変化につながると注視していますか。また、イノベーションをどのように捉えて、どのような変化を起こそうとしていますか。

松本氏:
イノベーションを理解することが肝要です。Japan Innovation Network ではイノベーションを次のように定義してきた。

イノベーションとは、現状( A )から創りたい未来( B )への意図的な変化=シフトを指します。
この変化=シフトによって、顧客に新たな体験価値を興し、顧客が新たな行動変革を興すことが重要です。つまり「顧客体験」の「意図的(劇的)なシフト」を興すことが肝要。
イノベーションを興す為には、その為には徹底的に「 Fact(事実)」を集め(調査・分析能力を飛躍的に高める)、Fact に対して「洞察」する。

この「洞察」に関して『 Harvard Business Review 2024 年 6 月号PwC米国プリンシパル: Paul Blasé (企業はどうすれば成長を続けられるか)【持続的成長を遂げる企業には優れた「仕組み」がある】』においても洞察の重要性を次のように記載されています。

洞察をたえず更新する:トレンドがどう影響するかを予測。顧客との直接交流。次世代の洞察力、機会をとらえ、顧客に働きかける機会を秘めた「空白」の発見、機能の改善、サービスモデルの微調整、マインドシェアやウオレットシェアの獲得をめぐる競合の動向の把握に、洞察を活かす。

ISO56002 をベースにした私のイノベーションプロセスの考え方を整理すると「Fact」「洞察」から「仮設」を創り「検証」する。仮設・検証を繰り返しながら「課題」を明確にしていく、「課題」が明確になればオープンイノベーションを駆使して「ソリューション」を見つけることが可能となり、そこから「新たなコンセプト:ビジネスモデル」を生み出すことが可能となる。このようなイノベーションのプロセスを自社独自に創り上げることをしない限り、イノベーションは興らない。

注目している技術


ーー注目している技術、技術カテゴリについて教えてください。

松本氏:
個別の技術、技術カテゴリーというよりも、技術をビジネスに活かす、真の「エコシステム」創りが重要だと考える。
例えばユニリーバが成功させた巧妙な「エコシステム」創りはベンチマークに値する。パーム油の 9 割以上の認証サプライヤーを牛耳ったのがユニリーバの「エコシステム」
①最初に新しい業界の秩序を作る、
➁エコシステムを作る
  =参入障壁を作り差別化を作る
➂自ら主導してやる、
④ディファクトスタンダードを作る
「エコシステム」構築においても、参入障壁を作り差別化を作ることが鍵となる。つまりはバリューチェーン分析と競争戦略である。
個人的に注目しているのは「BCGが読む経営の論点2025」に記載されている 10 のカテゴリーである。
1 生成AIを武器にする――事業を変革する“大玉案件”が成功の鍵
2 自動車の未来――EVだけではない、100年に一度の大変化
3 半導体の再興――世界で戦うために国内基盤の再構築を
4 次世代エネルギーの推進――脱炭素と競争力強化の二兎を追う
5 生物多様性に向き合う――豊かな自然資本を日本企業の強みにする
6 物流を変革する――テクノロジーで危機を乗り越える
7 プライシングを進化させる――世界基準の値付け力の獲得に向けて
8 R&D(研究開発)能力の向上――グローバル競争力再生への10の要諦
9 スタートアップとの協働――企業のイノベーションの起爆剤に
10 アクティビストを超えて――より高次の企業価値創造を目指す

2025 年、オープンイノベーションに関して


ーーリンカーズのようなオープンイノベーション支援のビジネスマッチング仲介会社に期待する役割などに変化はありますか。

松本氏:
早稲田大学の清水先生はイノベーションについて次のように言っておられる。

イノベーションとは、
「経済的な価値を生み出す新しいモノゴト」
「経済的な価値に転換する為の戦略₋イノベーション戦略₋」さらにオープンイノベーションについては、
オープンイノベーションはそれをオープンにやる事
日本でオープンイノベーションが進まないのは、イノベーションを理解していないから。

さて私は日本のオープンイノベーションを推進することはリンカーズの使命であると考えている。
4段階の Value をつなぐイノベーション・エージェント機能としてのリンカーズの必要性は益々高まるだろう。これからの日本企業に必要なのは Value Creation 、Value Up、 Value Delivery 、Value Capture の4段階の Value を繋いで新たな価値を創造するアプローチだと考えている。

(1) Value Creation
自前主義を脱却して外部の大学・ベンチャー等で起こっている価値創造(革新的技術・シーズ)を発見して In-Sourcing することでスピーディに補完技術を獲得し新たな価値を創造する。

(2) Value Up 
外部シーズと内部の強みを融合することで更なる Value Up で技術・製品価値を高める。

(3)Value Delivery
Value Delivery(日本のものづくり力)をより強くして製品競争力を高める。

(4) Value Capture 
日本の産業は内需に留まっているためにグローバルな競争戦略に勝てないケースが多い。競争力ある技術・製品をグローバル市場に展開することで、新たな用途仮説や新市場の発見につながる。飛躍的な高収益モデルの達成により価値を掴み取る。

各組織のオープン・イノベーション推進リーダーが未来に向けた方向性・軸を定めて、その実現に向けた戦略をどこよりもスピーディに実現出来る仕組みを創り、イノベーターを発掘し加速支援して、4段階の Value をつなぐことで新たな価値を創造していくことが、日本企業が激化するグルーバル競争に勝つためのカギであると思う。
そのためには、4段階の Value を加速支援し、それらをつなぐ役割としてのイノベーション・エージェント機能ですべての組織のイノベーションを加速支援する事は、リンカーズの使命であると考える。

回答者

【2025年】年初インタビュー「製造業を取り巻く変化について」|リンカーズオープンイノベーション・エバンジェリスト松本毅氏

松本 毅 氏
リンカーズ株式会社 Open Innovation Evangelist
(一般社団法人 Japan Innovation Network 常務理事・IMSエバンジェリスト)

【略歴】
1981 年に大阪ガス株式会社入社後、数々の新規事業創出に成功(冷熱利用技術開発、凍結粉砕機開発、受託粉砕ビジネス立ち上げ、薄膜型ガスセンサーの研究開発・事業化)、また技術開発国家プロジェクトの立ち上げにも従事(燃料電池プロジェクト、水素エネルギー製造・貯蔵プロジェクト、 GTL・DME プロジェクトなどの立ち上げ等)その後、技術企画室にて全社技術戦略の企画立案。海外との技術アライアンス戦略などを推進。2002年に人事部に異動後、日本発のMOT(技術経営)スクールを設立し、グループ会社にて教育事業を推進。2008 年 9 月、技術戦略部 オープン・イノベーション担当部長、 2009 年 4 月、初代オープン・イノベーション室長。
2016年4月以降、ナインシグマ・ジャパン ヴァイスプレジデント、ナインシグマ・アジアパシフィック顧問。2019 年 3 月より一般社団法人Japan Innovation Network 常務理事に就任しIMSエバンジェリストとして活動。大阪大学大学院工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻 客員教授を兼任。
2020 年 11 月よりリンカーズ株式会社 オープンイノベーション・エバンジェリスト就任。

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