- 配信日:2024.12.12
- 更新日:2024.12.12
オープンイノベーション Open with Linkers
日東電工のイノベーションプロセス、三新活動の事例
日東電工の全社技術部門
全社技術部門としての組織体制について説明します。全社技術部門には4つの戦略本部があります。私(佐竹氏)が担当している研究開発本部、新事業本部、核酸医薬開発本部、そして技術知財戦略本部。
それぞれの本部の役割は、核酸医薬開発本部はその名前の通り核酸医薬に関する R&D を進めています。研究開発本部は後ほど説明する弊社の基幹技術をベースにシーズ起点で新しいテーマを探して作りだし、ニーズ増加させてテーマ化・製品化に結びつけます。一方、新規事業本部は反対に、ニーズからテーマを創出して、弊社の強みである技術と合致させながら新しい事業を作っています。またもう1つの特徴として全社技術部門の中にマーケティング部門があることが挙げられます。この部署では研究のテーマに関してマーケティングを行います。
弊社は事業部制を敷いており、それぞれの事業部には開発部門がありますし、営業・マーケティング機能も持っています。それとは別にコーポレートの R&D に対してのマーケティングをするという部署を設けて、弊社が生み出す新しいテーマをいかに事業に結びつけるかを一緒になって考えて進めております。
あわせて知財部門もあるので、技術・マーケティング・知財、この3つが一体となって R&D 活動を推進していくというのが弊社の全社技術部門の特徴です。
日東電工の全社技術部門の役割
全社技術部門の役割についてお伝えします。一般的に、財務・非財務と表現されることが多いと思いますが、弊社では未財務、つまり「フューチャーファイナンシャル」という表現をしています。現時点では財務ではないのですが、将来的には財務に転換したいという思いを込めた表現です。
弊社の R&D における最重要事項は、まずこの未財務として投資した中身をしっかり蓄えていく、技術をしっかり作っていく、そして様々な貢献をしていくことにあります。あわせて、この未財務で蓄えた技術・テーマを将来的にしっかり財務に転換していくことも重要な役割と認識しています。
この投資活動を支える競争力の源泉となる技術が最も大事だということも認識していまして、昨年、基幹技術の再定義を行いました。弊社では過去約 30 年間、基幹技術として4つの技術(粘着、塗工、高分子機能制御、高分子分析・評価)を使っておりました。これらは現時点でも弊社の重要な技術であることは間違いありません。しかしステークホルダーをはじめ社外の方々からすると、協業や連携をしていこうというイメージがしにくいというお声をいただいたり、投資家の方々から現状の日東電工のビジネスを表しているかどうかがわかりにくいというお声をいただいたりしたこともあります。これでは良くないということで研究メンバーや事業部の開発メンバーも合わせて約1年かけて見直しを行い、今の日東電工にふさわしい基幹技術を再定義しました。
新しい基幹技術は、粘接着、光学設計、回路形成、薄膜形成、多孔、分離、核酸合成、 DDS (ドラッグデリバリーシステム)の 8 つです。基幹技術の再設定を進めるにあたって、現在の日東電工を体現しつつ、弊社が協業したいと思うお客様に対して強みが明確に伝わるという姿を描くことをベースとしました。
もう1つ、競争力の中に「顧客関係資産」があるという考え方を持っています。元々弊社は電気絶縁材料から事業を始め、90 年代に事業部制を敷きました。その事業編成の中では様々な業界のお客様と信頼関係を築いてきています。お客様から「 Nitto に話をすれば必ず解決策をくれる」「想像を超える提案をしてもらえる」「高品質の製品を提供してもらえる」「スピーディーに対応してくれる」などの声をいただける、この信頼関係も未財務の価値であり、競争力の1つだと考えています。
顧客関係資産を使って研究段階からもマーケティングをしっかりやっていこうということで、 R&D+M という取り組みを実践しています。特に研究開発本部において基幹技術をいかにしっかり構築していくかが大事なのですが、その過程においてはしっかり出口を捉えないと現実的な技術にならない傾向が強いです。つまり常にアウトプットを意識して研究を進めます。
その研究段階にマーケティング部隊が参画することでお客様の意見を取り入れながら効果的に新しい事業を創出していけるでしょう。このために必要なのが顧客関係資産です。顧客関係資産を活用するためにマーケティング部隊を全社技術部門の中にも置いています。
あわせてアウトプットの多様化も進めています。研究開発本部が出したテーマを自分たちだけで事業化するのは難しいため、基本的には事業部門にテーマを移管することで事業化・製品化を目指します。弊社では多くの場合、テーマとともに人が動いて、人とともに事業部の中で事業化を目指すというのがベストなパターンです。もちろん研究テーマの中には既存の事業部ではなかなか製品化・事業化しにくいものもあります。特に今後目指していく環境関連のテーマは既存事業部ではケイパビリティもないというケースがあります。そのようなテーマは新規事業本部に移し、そこでマーケティングと事業のインキュベーション、あるいは事業推進をしていきます。
新規事業がある程度形になり、既存の事業と親和性が高い場合は事業を移管します。親和性が低い場合は新しい事業執行体を作って、そこで事業化することもあります。また、自社で事業化するよりも、社外で事業化する方が価値が高まるという場合は、社外にカーブアウトするという選択肢も考えます。このように多様なアウトプットの経路を想定することで事業化の角度と規模感を拡大するということを進めています。
それからもう1つ、競争力に含まれる「知財」について。獲得した知財はインタンジブルアセット(無形資産)として活用していこうと考えています。昨今、プロジェクトのライフサイクルが短くなっておりますが、弊社では知財を活用して、その事業の価値を長く、あるいは収益を底上げしようとしているのです。
日東電工のイノベーションプロセス(新規事業創出のための仕組み)
新しい事業創出しようとアイデア・テーマ化・製品化・事業化と事業展開していく中で、研究から開発していくハードルとして魔の川、開発から製品化していくハードルとして死の谷があり、収益を上げるためにはダーウィンの海を超えなければなりません。そのため様々な社内の仕組みを導入しております。
財務と人材支援という面で2つの仕組みを紹介します。1つは財務支援として「技術ファンド」、もう1つは人材支援として「全社技術重要課題推進プロジェクト」です。基本的に事業は予算化された中から、例えばオープンイノベーションや産学連携で進めていくことが一般的でしょう。しかし技術ファンドは、突発的にやっていきたい、あるいは予算は取っていないけれどやりたいアイデア出てきたときに、お金がなくて進められないと時期を逃してしまう可能性があるので、「チャレンジマインドの醸成」と「新事業創出の加速」ということで、このファンドの中であれば CTO 決裁で自由にお金を動かせるという仕組みになっています。
それから人材支援として、年に1件ないしは2件ぐらいではありますが、全社で技術重要課題推進プロジェクトを認定した場合は、お金だけではなくて人をフレキシブルに動かしアサインできるという仕組みがあります。
このようなオープンイノベーションを含めた共創活動の実践の場として 2016 年3月に大阪の茨木市に inovas を建てました。ここに多くのお客様に来ていただくことになります。お客様の約半数は共創案件で来ていただくことが多いです。年間およそ 70 〜 80 件のテーマがやって来ます。また KPI として、リピート率を大切にしています。オープンイノベーションを進めていく場合、1度だけ訪問あるいは電話だけでは話は済みません。2度3度来ていただき良い関係性を作ることが必要になります。そのためにリピート率を KPI に設定しています。
講演者紹介
佐竹 正之 氏
日東電工株式会社 フェロー 副CTO 全社技術部門研究開発本部長
【略歴】
1991年、大阪市立大学工学部応用化学科修士課程を修了後、日東電工株式会社に入社。茨木事業所粘着剤研究所に配属され、以来30年間粘着剤開発に従事。1996年、稼働したばかりの光学フィルム専用工場である尾道事業所へ異動。情報機能材料事業部門で偏光フィルム用粘着剤の開発に取り組む。液晶市場が大きく成長して行く中で、日韓台の主要なお客様向けに多数の製品立ち上げを経験。2008年「LCD光学フィルム用粘着剤の開発」で日本接着学会技術賞受賞。
2013年茨木事業所に戻る。全社技術研究部門へ異動となり基幹技術研究センター長、2018年研究開発本部長、2021年副CTO、2023年よりフェロー。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
◆技術パートナーの探索には「 Linkers Sourcing(リンカーズソーシング)」
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆技術の販路開拓/ユーザー開拓には「 Linkers Marketing(リンカーズマーケティング)」
Linkers Marketing は、貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供するサービスです。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントが可視化されることにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げていただけます。
◆技術情報の収集には「 Linkers Research(リンカーズリサーチ)」
Linkers Research は、貴社の業務目的に合わせたグローバル先端技術調査サービスです。各分野の専門家、構築したリサーチャネットワーク、独自技術データベースを活用することで先端技術を「広く」かつ「深く」調査することが可能です。研究・技術パートナー探し、新規事業検討や R&D のテーマ検討のための技術ベンチマーク調査、出資先や提携先検討のための有力企業発掘など様々な目的でご利用いただけます。
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