- 配信日:2024.10.24
- 更新日:2024.11.11
オープンイノベーション Open with Linkers
スマート農業の注目技術~スマート農業技術活用促進法で見直したい「農業×AI/IoT」~
スマート農業とは
スマート農業とは、ICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボット技術などの先進的なテクノロジーを活用して、農業の効率化や生産性の向上を図る新しい農業の形態です。具体的には、センサーを用いて土壌の状態や気象データをリアルタイムで収集し、その情報をもとに最適な栽培環境を自動的に調整する、ドローンを使って農薬や肥料を効率的に散布する、ロボットを用いて収穫や選別を自動化するなどのことが含まれます。
スマート農業の導入により、
- ・生産性の向上:最適な栽培条件を維持することで、収量や品質を高める。
- ・労働力の節約:自動化技術により、人手不足や高齢化に対応。
- ・コスト削減:資源の無駄を減らし、効率的な経営が可能。
- ・環境負荷の低減:必要最小限の資材で栽培することで、環境への影響を軽減。
これらのメリットが期待でき、農業分野における持続可能な発展につながる生産性が見込まれます。そして、2024 年には農業者の減少等の農業を取り巻く環境の変化に対応して、農業の生産性の向上を図るために「スマート農業技術活用促進法」が成立し、6月21日に公布され、10月1日に施行されました。
以下の記事は、「スマート農業技術活用促進法」の成立に伴い、私どもリンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『スマート農業/畜産の成功事例~食料供給困難事態対策法、基本法の改正から見直して考える』での話を編集した独自記事となります。
リンカーズで技術調査をおこなっている浅野 佑策(あさの ゆうさく)より、直近 10 年間の農業 × AI や、農業 × IoT などに関連する論文を網羅的に分析し、注目度が高まっているスマート農業に関係する技術カテゴリーやトレンドを解説しました。また企業で行っている取り組み、スマート農業関連の技術事例についても紹介しました。
セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけます。資料もあわせてぜひご覧ください。
◆目次
●スマート農業とは
●スマート農業「AI / IoT 関連」の直近 10 年の論文数の推移
●スマート農業「 AI / IoT 関連」の直近 10 年の論文のテーマ分類
●スマート農業「 AI / IoT 」の注目技術カテゴリーごとの分析
●スマート農業の注目技術/事例:作物選定と灌漑管理のための AI 技術
・AI と IoT による作物選定と灌漑管理の最適化
・ドローンや UAV による精密農業の進化
・機械学習とリモートセンシングによる土壌水分予測
・AI による作物の早期識別と収量予測の進展
●スマート農業の注目技術/事例:AI と機械学習による農業病害検出技術
・AI と機械学習による農業病害検出技術の進化
・IoT と AI によるスマート農業病害管理
●スマート農業の注目技術/事例:IoTおよび AI を活用した農業向けのスマート灌漑およびリアルタイム土壌監視技術
・IoT と AI によるスマート灌漑システムの最適化
・IoT センサーによるリアルタイム土壌監視技術の進化
・スマート農業におけるセンサー技術の進化
●スマート農業の注目技術/事例:データ分析による農業意思決定支援技術
・気候変動対応の作物収量予測技術
・機械学習による作物推奨システムの進化
●スマート農業の注目技術/事例:IoT 技術を用いた農業および畜産向けの環境監視と制御システム
・IoT 技術による畜産業と健康管理
・IoT による畜産業の制御
スマート農業「AI/IoT関連」の直近10年の論文数の推移
画像は直近 10 年間のアグリテック × AI やアグリテック × IoT など、スマート農業に関連する論文数の推移を表したグラフです。指数関数的に増えていまして、世界的に見てアグリテックは研究レベルでも注目が高まっている分野であることが分かります。
実際に分析してみてとても驚いたのが、インドが論文数を増やしていることです。右側のグラフの赤色の部分がインドの論文数を表しています。緑色が中国で、どの分野を見ても中国の論文数は大きく増えていますが、アグリテック関連の分野に絞って見るとインドの方が中国よりもはるかに論文数が多いことが分かります。論文の数でいえばインドはアグリテック大国と言っても良いくらい影響力があるでしょう。
具体的にインドからどのような論文が発表されているかというと、インドは IT が強い国であるため、例えば AI を使って植物の状態を判断したり、農作物の収穫量を推定したり、農地にどの農作物が適しているか分析したりなど。AI を農業に絡めたスマート農業に関係する研究の論文が多く発表されています。
ちなみに日本の論文の数は他国と比較して少なく、世界で見ると存在感を出せていない状況です。
スマート農業「AI/IoT関連」の直近10年の論文のテーマ分類
直近 10 年で発表された約 19,000 件の論文のうち、どのような研究内容が含まれているか分類しました。大きく4つのグループに分けられます。
A : 作物管理と生育支援技術
一般的にスマート農業という言葉からイメージされるような、農地にセンサーを取り付けて環境を把握したり、植物や家畜の育成状況を把握して適切な条件を導き出したりなどの技術です。数としてはこのグループが最も多いことが分かりました。
B : データ分析と意思決定支援技術
どの植物をこの土地に植えるべきか、どの場所に畑を作るべきかなどの判断を AI を使って支援する技術の論文も多く見られました。
C : 自動化とロボティクス技術
ロボットなどを使って作業を自動化していく技術の論文も多くありました。
Z : その他
それぞれのグループが具体的にどのような技術カテゴリーに分けられるのかを表したのが次の画像です。
上の画像は、各グループをさらに細かく分類し、技術カテゴリーごとの研究数と国別の割合を表したグラフです。先ほどインドが強いとお伝えしました。グラフの赤色がインドの論文数で、例えば「 A04 : AI と機械学習による農業病害検出技術」や「 A07 : IoTによる病害虫監視と環境管理技術」などはインドの論文数の割合が多いカテゴリーです。やはり AI 技術を絡めて農業に貢献するスマート農業技術の研究が活発な印象を受けました。
それぞれのスマート農業技術カテゴリーでどれくらいの勢いがあるかを見ていきます。画像のグラフは横軸に直近5年間( 2019 〜 2023 年)でどれくらい論文数が増加したかという伸び率をプロットし、縦軸にそれぞれのカテゴリーの研究数をプロットしたものです。グラフの右側に行くほど最近急激に注目度が高まっていて、上に行くほど研究数が多くて、研究が成熟している分野ということになります。今回は赤丸で囲った5つの技術カテゴリーについて詳しく見ていきます。
<5つの技術カテゴリー>
A01:作物選定と灌漑管理のための AI 技術
A04:AI と機械学習による農業病害検出技術
A05:IoT および AI を活用した農業向けのスマート灌漑およびリアルタイム土壌監視技術
B01:データ分析による農業意思決定支援技術
A10:IoT 技術を用いた農業および畜産向けの環境監視と制御システム
最近の傾向として AI を活用した作物の育成状況の分析や収穫量の予測などの研究が伸びていると言えます。
スマート農業「AI/IoT」の注目技術カテゴリーごとの分析
まずは「 A01:作物選定と灌漑管理のための AI 技術」から見ていきます。
スマート農業の注目技術/事例:作物選定と灌漑管理のためのAI技術
こちらは農業において作物の選定や灌漑管理、肥料の最適化を行う研究です。センサーを使って灌漑管理をしたり、 AI を使って作物の生育予測をしたり、温度や蒸発散率の解析をしたりして農業全体を効率化することを目指しています。
この分野においてもインドがここ2〜3年で急激に研究数を伸ばしています。
より具体的にどのような取り組みを行っているのか、どのような開発がトレンドになっているか見ていきましょう。
AIとIoTによる作物選定と灌漑管理の最適化
画像の右側に代表的な論文とあわせてどういったトピックがあるのかまとめています。例えば、センサーで土壌の水分など貴重なデータを機械学習モデルで分析して、灌漑スケジュールを最適化することで作物の水やりの効率化を図る研究がされています。
また日本は水が豊富な国ですが、海外では水資源が限られている国も多くあります。そういった国や地域でなるべく水を無駄遣いせず効率的に作物を育てる方法を IoT や AI を絡めて適正化していくというような研究も取り組まれています。
ドローンやUAVによる精密農業の進化
作物選定や灌漑管理のためにドローン、 UAV(無人航空機)を使っていくという研究もあります。
航空機を使ってマルチスペクトルカメラや赤外線データを使って植物の健康状態を測り、その植物に適した灌漑管理をしたり、環境管理をしたりすることを目的に進められています。
特にマルチスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラと呼ばれるような、周波数を切り替えながらたくさんの波長を使って植物の状態を管理していくというような方法で精密に判断することも、最近の研究トレンドとして多く見られます。
機械学習とリモートセンシングによる土壌水分予測
こちらは土の水分を予測する研究です。衛星データと地上のセンサーを組み合わせて土壌の水分を大規模かつ高精度で予測する技術の開発が進められています。
AIによる作物の早期識別と収量予測の進展
こちらはデータと AI を活用して作物がどのように成長しているかモニタリングし、収穫できる量や時期を予測・適正化する研究です。
AI や IoT を活用した作物選定や灌漑管理は実際に企業でも行われています。
Happy Quality 社の事例では、トマトの栽培に関して AI を使ってトマトの水ストレスを観察し、水やりのタイミングや方法を最適化する技術開発に取り組んでいます。
Google の事例では、衛星画像を使って農業管理をしていくというプロジェクトをインドで進めています。
Source.ag 社の事例では、ハウス農業の中で AI や IoT を使いデータドリブンで作物の生育環境を適正化する取り組みを行っています。