- 配信日:2024.07.12
- 更新日:2024.07.22
シーズ技術の顧客開拓事例
製造業2社が語る「保有技術の戦略的活用事例」~株式会社栗本鐵工所編~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『製造業2社が語る「保有技術の戦略的活用事例」』のお話を編集したものです。
新規事業の創出などをミッションとして取り組まれている、株式会社栗本鐵工所 技術開発室 クリモト創造技術研究所の堺 貴洋(さかい たかひろ)氏より、技術の販路開拓(仮説検証)サービス「 Linkers Marketing(リンカーズマーケティング)」 の活用事例と、サービスを利用した感想をお話しいただきました。
◆目次
・株式会社栗本鐵工所の会社概要
・マグネシウム合金の事例( KEHMA-HR )
・マグネシウム合金の事例( KEHMA-SL )
・銅合金の事例( Brobea )
・Linkers Marketing を使っての感想
株式会社栗本鐵工所の会社概要
弊社(株式会社栗本鐵工所)の創立は 1909 年で、水道用の鋳鉄管の製造を祖業としています。従業員数はグループ連結で約 2,100 名、事業所は工場と物流拠点を含めて 13 か所、国内の営業拠点は全国8か所、海外にも拠点が2か所あります。
弊社グループは社会インフラ領域と産業設備領域の2つのドメインで事業を展開しています。社会インフラ領域では上下水道や道路などの製品提供、産業設備領域ではメーカーの生産活動に必要な製造設備を提供しています。
さらに社会インフラ領域と、産業設備領域の2つのドメインを「ライフライン」「機械システム」「産業建設資材」の3つのセグメントに分けて展開しています。これらの各セグメントに2つの事業部を所属させる組織形態として事業を運営しています。主な製品としては、水道用のダクタイル鉄管、水道用・産業用のバルブ、鍛造プレス、粉体処理機、プラントエンジニアリング、耐摩耗鋳物、破砕機、建築資材、 FRP(M) 製品などです。
私(堺氏)が所属しているのは技術開発室という部署で、弊社のコーポレート研究部門にあたります。この中のクリモト創造技術研究所では、先ほど紹介した既存事業への技術支援に加え、既存事業とは異なる領域での新規事業の創出をミッションとして活動しています。
新規事業開発の取り組みとして、例えば磁性流体を用いたハプティクスデバイス、鉛フリー銅合金、マグネシウム合金といったものがあり、これらの研究開発・事業化推進を行っています。
今回はマグネシウム合金と銅合金について、リンカーズのサービスを利用した事例を紹介します。
マグネシウム合金の事例(KEHMA-HR)
まずはマグネシウム合金の事例紹介からですが、簡単にマグネシウム合金とは何かを説明します。
マグネシウム合金は、実用合金としては最も軽い素材です。アルミの3分の2の比重であるため、輸送機器の軽量化が実現できる素材として期待されています。一方で難点としては、反応性が高く扱いにくいという点が挙げられます。具体的な現象として、発火や腐食などが発生するため、対策が必要です。もう一つの難点は 120 ℃ 以上になるとクリープ変形が顕著になるということです。クリープ変形とは、高温で一定の荷重を続けると時間とともに変形し続け破断することもある現象です。このような変形が起きると実用化が困難になるため、マグネシウム合金は使用可能な温度範囲が狭いということになります。
そこで弊社が開発したのが、 KEHMA (ケーマ)と呼んでいる難燃耐熱マグネシウム合金です。特長が3つあります。1つは温室効果ガス排出量の低減。マグネシウム合金は、鋳造の時に発火を防ぐため防燃ガスという特殊なガスを使用しますが、本開発品の場合は難燃性を増やしているためガスの使用量をおよそ 10 分の1にできます。2つ目が加工時の安全性向上。難燃性を付与しているため、切粉の着火性が大幅に低減されています。3つ目は使用温度範囲の広さ。一般的なマグネシウム合金では 120 ℃ 以上になるとクリープ変形が起きて実用困難になりますが、本開発品にはクリープ変形への耐性も付与しているため、 200 ℃ 程度まで実用的に使用できます。
このような特長があるため、これまでは自動車用途をターゲットとして展示会に出展してきましたが、他の用途展開も考えたいと思うようになりました。仮にその用途展開のターゲットを業界 A , B , C , D とすると、それぞれの業界に特化した展示会に出展するのはコストがかかるため、より手軽に用途仮説の可能性を検証したいと考えていました。
そこで Linkers Marketing を利用することに。結果6社と面談が成立し、そのうちの数社が案件化に至りました。また得られたこととして、新たな用途先や新たな課題というのはもちろん、意外だったのが、マグネシウム自体がまだまだ知られていないという気付きがあります。これは今までの展示会に出展するという方法では分からなかったことだと感じました。
【補足】Linkers Marketing は、リンカーズがビジネスマッチングで培った企業ネットワークに向けて貴社の技術/製品を提案し、見込み顧客との面談機会を創出するサービスです。キーマンに直接アプローチできるので部署を超えてニーズを持つ人とのマッチングも期待できます。
マグネシウム合金の事例(KEHMA-SL)
続いて2つ目の事例を紹介します。分解性金属 KEHMA-SL というもので、先ほどと同じマグネシウムの金属素材ではあるのですが、特徴は全く異なります。その特徴は、塩水に浸漬すると金属自身で腐食反応を起こし、水素ガスを発生させながら粉状の腐食生成物に変化するというものです。このような特徴を持つ金属の用途開発をしたかったのですが、自社だけではアイデアを出し切れないという課題がありました。
そこで用途アイデア提供サービス「 Linkers Application Search(リンカーズアプリケーションサーチ)」を利用し、リンカーズの専門家の方々からアイデアを出していただきました。 31 件のアイデアのうち3分の2は社内で出たアイデアと重複していましたが、考え方を変えれば社内で出たアイデアの有用性が補強されたと捉えることができます。そして用途仮説を絞り込み、ターゲット業界を設定した後 Linkers Marketing を利用しました。結果、1社と面談が成立。数としては少なかったものの、得られたこととして、提案先企業からの面談不要の理由により用途仮説とのミスマッチの要因が明らかになったこと。そして今後の用途仮説を考えるヒントがあります。
【補足】Linkers Marketing をご活用いただくには「技術シーズの用途仮説」と「ターゲット業界」が必要です。これらの設定にお困りの方に、Linkers Application Search をご提案しております。
銅合金の事例(Brobea)
3つ目として銅合金の事例を紹介します。画像にあるのは、機械部品用鉛フリー銅合金『 brobea (ブロベア)』という素材です。ブロンズとベアリングをかけて商標としています。鉛を含まない摺動性に優れた銅合金で、特徴としては合金自体に固体潤滑成分が含まれているため、油切れにより焼付きリスクが低減できることや、鉛・レアメタルを含まないので環境にやさしい素材で RoHS 指令に対応していることが挙げられます。鋳造品だけでなく焼結品、ワイヤーなどさまざまな形状に対応可能です。
この brobea については、弊社の Web サイトで問い合わせを受け付けてそれに対応するという受け身の対応になっていました。この場合、鉛フリーに対して興味がある企業から Web サイトを通しての問い合わせはいただけるのですが、業界全体として鉛フリーをどう考えているのかが捉えづらいという課題がありました。そこでターゲット企業の鉛フリー化に対する興味や現在の対応状況などを調査して、興味のある企業があれば最初に確保したいというモチベーションで Linkers Marketing を利用しました。
結果として1社との面談が成立しましたが、案件化には至りませんでした。ただし将来的な鉛フリー化の際に再度コンタクトを取るという話をいただきました。また、提案先企業の面談不要の理由を情報として得ることができ、大手の軸受けメーカーなどは自社開発をしていることや、大多数の企業が RoHS 指令など鉛規制が進展するまで積極的に動く必要がないと考えていることが分かりました。案件化には至りませんでしたが、弊社の目的であった業界の鉛フリーに対する興味がどの程度かを知ることはできました。この結果を基に、現状は新規顧客の探索よりは既存顧客の採用獲得や拡大を優先することに活動方針を定めています。
また、鉛規制の動きがあれば大多数の企業が顧客候補に回ることが考えられるため、鉛フリーに対する定期的な顧客ニーズ探索を行い、その動きを逃さないことが重要だと分かりました。このように顧客獲得という成果が得られなくても研究開発における次のアクションへの情報やヒントを得ることができたと感じています。
Linkers Marketingを使っての感想
最後に Linkers Marketing を使っての弊社の感想をまとめます。
提案先企業の中には「興味あり・なし」の反応がゼロの企業もありますし、体感として最初の1ヶ月で反応がなければ望み薄ではないかと思います。
良かった点としては、リンカーズの担当者様とのヒアリングの段階で、自社が気付いていなかった製品の特長や用途仮説に気付かされることがある点があります。またサービスを利用するうえで必要となる技術紹介シートやパンフレットをリンカーズがヒアリング内容をもとにある程度案を作成してくれるので、自社の負担は比較的少ない点も良かった部分です。
そして普段出展するような展示会に来場しない企業・役職の方と接触できる可能性がある点や、展示会と同様に「単なる興味本位で」面談を希望される場合もありますが、その割合が展示会より少数な点、面談不要と回答されてもその理由まで知ることができるので次にアイデアを考えるヒントになる点などが挙げられます。
【登壇者】
堺 貴洋 氏
株式会社栗本鐵工所 技術開発室 クリモト創造技術研究所 Mg合金プロジェクト プロジェクトマネージャー
株式会社栗本鐵工所 技術開発室 クリモト創造技術研究所で何度もご利用いただいている
「 Linkers Marketing 」サービスについてはこちら。
本サービスの詳細説明のほか、どのような課題をどのように解決できるのか分からないといった場合も、リンカーズの豊富なイノベーション支援実績の知見から、最適な課題解決のご提案をさせていただきますので、ぜひ以下の「本サービスに関するお問合せはこちら」からご相談ください。