- 配信日:2024.08.30
- 更新日:2024.11.22
オープンイノベーション Open with Linkers
サントリーのオープンイノベーション事例~課題と活動変革~
課題解決のための活動変革
2017 年に上司と私の二人三脚で、「オープンイノベーションをなんとかしなければならない」と、活動の変革プランを作ることを始めました。
そのプロセスとして、まず過去の活動内容の振り返りと課題抽出をし、研究者たちに自分たちの活動の悪かった点をヒアリングして回りました。他に、外部のオープンイノベーション業者がさまざまなサービスをおこし始めていたので、そういったサービスの情報を集めました。同時に国内外でオープンイノベーションの先進的な取り組みをしている企業にヒアリングし、成功事例をまとめ、変革プランとしてまとめあげました。
変革前の課題は「ニーズの抽出が不十分」「担当者判断による先端技術探索」「円滑でない情報の受け渡し」の3つです。このため、変革の方向性を「ニーズを明確に抽出すること」「ニーズに基づいた探索をすること」「丁寧な受け渡しをすること」と明確にしました。
画像の右側が変更後のフローです。これまでは外部の技術情報を研究者に紹介する流れでしたので、活動が全て外部機関起点になっていました。これを社内の研究者のニーズ起点にするよう流れを大きく変えました。ここが最大の変更点で、重要な点です。
変革プラン実行の具体的なステップについて説明していきます。
まず、「ニーズを明確に抽出すること」について説明します。「必要は発明の母」という言葉もあるように、ニーズをしっかり把握することが極めて大切です。ニーズ把握の際、疎か(おろそか)になりがちなのが、ニーズは聞き込んでいるが、文書化し相互確認するという点です。人の記憶はいい加減なもので、ニーズを持つ者も技術を探す者も時間が経てば、当初に合意した探すべき先端技術を自分の都合の良いように解釈を変えてゆき、結果として両者の認識が乖離してしまいます。これを防ぐためにも、ニーズを文書化し、双方で合意をすることが有効です。
次に「ニーズに基づいた探索をするということ」を説明します。この際、オープンイノベーション担当者が自分勝手に技術を探すのではなく、先端技術を紹介して下さる社外の機関に、ニーズを誤解無きよう正確に文書で伝え、そのニーズに基づき技術を紹介していただくことを徹底しました。このとき、社外の機関に、弊社のニーズをまとめて持っていくことが良かったと思います。沢山のニーズを相談されれば、社外の機関もモチベーションが上がりますし、Win-Winの構造になったのではないかと思います。また、過去の反省を踏まえ、見つけてきた技術を研究者に紹介し、その後のマッチング活動を丸投げするのではなく、お節介と思われるくらいに粘り強く、お互いの研究者を結び合わせる努力もしました。
最後に、「丁寧な受け渡しをすること」を説明します。かつては探してきた技術を研究者に丸投げしていたに等しい状態でしたから、自分たちなりに技術の可能性を目利きしたうえで、研究者に伝えることを徹底しました。良い技術と判断した理由、不採用にした理由、全てを研究者にフィードバックしたうえで、研究者と Face to Face で「本当に組むべき相手は誰だろう」と議論しました。以上の変革を通じて、研究者との信頼関係構築が進んできたのだと思っています。
また、別の工夫として、活動進捗を見える化することも行いました。技術を集めた数、紹介した数、関心を持ってもらった数、採用してもらった数を示すことで、活動全体が前に進んでいるぞと、見える化するようにしたのです。
このような変革を1年、2年と続けていくうちに、画像のステップ4にあたる採用された数が徐々に増えていき、研究者からの感謝の声も集まるようになってきました。
スタートアップとのオープンイノベーションを開始
2021 年以降は、スタートアップと連携することにもチャレンジしています。
スタートアップの、大学やアカデミアと違うところは、スタートアップはいかに優れた技術を持てども、人員・資金が限られていることも多い点です。このため、私たちがやりたいことのビジョンをしっかり理解していただくことは大前提として、私たちからスタートアップに何が提供できるのかを徹底的に考えることが大切です。私たちと組むことでスタートアップ自身も、自社の技術が発展する等、実利を示すことが必要です。
スタートアップと組むことの良い点は、スピーディにモノづくりやデータ取りに発展しやすいことなので、私たちとスタートアップとで簡単な PoC( Proof of Concept:概念実証) をやってみて、データを取ったり試作品を作ったりして、そこから研究部門や事業部門に提案するという流れを作っていくことを意識しました。
サントリーのオープンイノベーション事例
スタートアップと取り組んだ活動の一例を紹介します。画像は、ビールの泡にイラストや文字を再現する技術です。 Ripples という海外スタートアップが日本に持ち込んだ技術なのですが、元々はラテアートの事業を展開していました。
そこで、私たちから「ビールの泡の上にもイラストや文字が書けるのではないか」と提案したところ実現でき、私たちの具体的な、新たなサービスが産まれました。一方、Ripples としても技術の可能性が広がった訳で、Win-Winだったと思います。典型的なスタートアップと取り組む、オープンイノベーションの好例だと思います。
スタートアップとの共創を通じて新たに得られた気付きをまとめます。基礎研究から開発が本格化に至るまでは魔の川を越えなければいけません。その川の先を知ることができました。
それからスタートアップの巻き込み方も理解できたと感じています。スタートアップを巻き込むには自社から提供できるアセットを用意することも大切ですし、夢や大きなビジョンの提示も必要です。
一方で課題もあり、開発した技術が市場に届くために死の谷を渡る必要があり、その谷の先に何があるか、さらにダーウィンの海を渡った先に何があるのか、そのための仲間の探し方や巻き込み方を探す能力を身に着けることが私たちの課題だと感じています。
オープンイノベーションは、企業にとって単発の活動ではなく、サステナブルな活動にしなければならないと思います。キーマンが異動で部署を離れてしまったら、跡形もなくオープンイノベーション活動が消失してしまったということにならないように、しっかりとした仕組みや文化を築き上げ、オープンイノベーションの “ 型 ” として残し、後輩たちもオープンイノベーションを使いこなせるようにしてゆきたいと思います。
講演者紹介
前川 知浩 氏
サントリーホールディングス株式会社 研究企画部 課長 博士(技術経営)弁理士
【略歴】
大阪府出身。弁理士。技術経営博士。1998年光洋精工株式会社(現:株式会社ジェイテクト)入社。電動パワーステアリングの開発・設計を担当した後、ステアリングシステムの知財戦略を担当。2003年サントリー株式会社入社。知的財産部にて、生産設備/ペットボトル等の容器/ビールの知財戦略を担当。2015年4月より基盤研究のオープンイノベーションを担当。2024年1月より現職。全社に向けたオープンイノベーション活動を推進。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
◆技術パートナーの探索には「 Linkers Sourcing(リンカーズソーシング)」
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆技術の販路開拓/ユーザー開拓には「 Linkers Marketing(リンカーズマーケティング)」
Linkers Marketing は、貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供するサービスです。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントが可視化されることにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げていただけます。
◆技術情報の収集には「 Linkers Research(リンカーズリサーチ)」
Linkers Research は、貴社の業務目的に合わせたグローバル先端技術調査サービスです。各分野の専門家、構築したリサーチャネットワーク、独自技術データベースを活用することで先端技術を「広く」かつ「深く」調査することが可能です。研究・技術パートナー探し、新規事業検討や R&D のテーマ検討のための技術ベンチマーク調査、出資先や提携先検討のための有力企業発掘など様々な目的でご利用いただけます。
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