- 配信日:2023.12.13
- 更新日:2024.09.18
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カーボンニュートラルの注目技術20選~発電・蓄電・エネルギーマネジメント編~
この記事は、リンカーズ株式会社(以下、弊社)が主催した Web セミナー『 CO2 排出削減・カーボンニュートラル 2023 年注目技術 20 選~第2弾(全4回)~』のお話を書き起こしたものです。
弊社では、カーボンニュートラルの先端技術とトレンドを調査し、その結果をまとめた「カーボンニュートラル最新技術動向マルチクライアント調査レポート」を作成しています。この調査結果をもとに CO2 排出削減・カーボンニュートラルに取り組む企業の技術事例を一部抜粋して紹介します。今回は、発電・蓄電・エネルギーマネジメントについてまとめました。
セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけます。
CO2 削減・カーボンニュートラルの最新事例を知りたい方は、ぜひあわせてご覧ください。
◆目次
・カーボンニュートラルとは何か
・再生可能エネルギー分野の注目事例
・エネルギー貯蔵/ 分散電源の事例
・電動化/ 水素化技術の事例
・水素の貯蔵/ 運搬、 利用技術
・廃熱の利用技術
・エネルギーマネジメントの事例
・カーボンニュートラル最新技術動向マルチクライアント調査レポートのご案内*より詳しく知りたい方にオススメ
カーボンニュートラルとは何か
カーボンニュートラルについて、環境省では以下のように定義しています。
「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」
今回は温室効果ガスの排出量を減らすという部分にフォーカスした内容について紹介します。
カーボンニュートラルには幅広い産業領域・技術領域が含まれていますが、弊社は製造業やインフラ関係の業界の方に必要となるであろう技術情報をまとめています。
再生可能エネルギー分野の注目事例
まずは再生可能エネルギーの分野で注目している事例を紹介します。
EDP の事例
ポルトガルの EDP という企業が実証している、水力発電の貯水地に太陽光発電パネルを浮かべたハイブリッドシステムの事例です。
太陽光発電パネルを斜面や平野に並べる技術は成熟してきていますが、最近は太陽光発電と他の発電方法を組み合わせたハイブリッド型の発電に取り組む企業が増えてきている印象を受けます。
EDP は、水力発電システムであるダムの水の上を利用し、太陽光発電パネルを水面に浮かべることで発電するという発想から実験をスタートしました。
これにより、太陽光発電による電力を上乗せできることに加え、太陽光発電で出力が小さい季節や時間帯を水力発電で補うことも可能になると考えられます。
他にも太陽光発電と他の発電方法のハイブリッドとして、例えばイギリスの Naked Energy Ltd では、太陽光発電とソーラーヒーターにより、太陽光発電で発生した熱を使った発電方法を開発しています。またオーストラリアの RayGen という企業は、太陽光から電気と熱を生成するようなハイブリッドシステムを構築しています。
ハイブリッドな発電システムは今後注目の発電方法といえるでしょう。
住友電気工業株式会社の事例
住友電気工業株式会社も、太陽光発電に関する取り組みを進めています。レンズを使って太陽光を1カ所に集めて、効率的に発電する技術です。条件によっては、従来のように太陽光発電パネルを並べるよりも、レンズを使って光を収束させた方が高効率であると言われています。
海外の企業でも同様のシステムを構築して発電を進めています。また、発電だけでなく、太陽熱の利用は化学反応の実験などにも活用されています。
Aeromine Technologies, Inc.の事例
Aeromine Technologies, Inc.というアメリカの企業では、従来の大型風車による風力発電ではなく、住宅や商業施設の屋根に設置できるような、コンパクトな風力発電システムを開発しています。市街地に設置するため、鳥がぶつかったり、騒音が大きかったりなどの問題があると実現できないため、回転するローターやブレードが機体の外に露出しないような作りになっています。
Aeromine Technologies, Inc. 以外にも、オランダの Airturb という企業や、スペインの VORTEX BLADELESS SL なども、それぞれ違った構造や設計ではあるものの、同じようなコンセプトの風力発電システムを開発しています。このようなベンチャー企業が世界で増加中です。
Massachusetts Institute of Technology の事例
Massachusetts Institute of Technology と NASA が共同で風力発電に関する興味深い取り組みをしているので、紹介します。タービンのブレードの骨格を作る際に「デジタル素材」という小さな構造部品をレゴブロックのように組み合わせて構築するというコンセプトを研究しています。ブレードの構造を自由に設計できたり、壊れた部分だけを交換できることでメンテナンスコストが安かったりといったメリットがあります。
また、ねじれるような柔らかいブレードで、風の動きに合わせて発電の効率を上げることもできます。
空気の流れを制御したり、ブレードの形を変えたりすることは、鳥や虫の羽を模倣した技術といえます。このような生物模倣を風力発電に適用しようという研究がトレンドになっている印象です。
【関連記事】
「 SDGs 」「モノづくり」という2つの分野を軸に、弊社注目の生物模倣技術をセミナーで紹介し、その内容をレポート記事にいたしました。記事内では、セミナーで使用した講演資料を無料ダウンロードいただけます。こちらの記事もぜひご覧ください。
Geppert Hydropower の事例
Geppert Hydropower というオーストリア企業では、水力発電に関する取り組みをしています。水力発電にはダムを用いる大規模なものもあるのですが、近年注目されているのは小さいスケールのものです。街中の川で発電できるような、小水力といわれる発電が注目されてきています。
これまで、川に水力発電設備を設置しようとすると、川の幅を測量して、幅に合わせた発電機のブレードを設計して、付近に電力をマネジメントする施設を建ててと、時間とコストがかかっていました。しかし最近はモジュール化が進み、水力発電に必要な要素が全て格納されたコンテナを作製してしまい、コンテナ自体を川の中に設置してしまえば発電ができるというシステムが増えてきています。
SOAR Hydropower の事例
SOAR Hydropower というアメリカの企業では、水道管の中に発電機を入れて水力発電を行うという取り組みをしています。浄水場から水道管を通して送られてくる水は圧力が強いため、所々(ところどころ)で減圧器を通して圧力を少しずつ下げながら家庭に届けています。しかし、圧力を下げる部分で、水圧が生むエネルギーを無駄にしていると考えることもできます。そこで、減圧器の部分に発電システムを設置することで、無駄にしていたエネルギーを電気に変えることができるのではと考えたことが、この取り組みのきっかけです。
膨大な電力を生み出せるシステムではないと思いますが、発電機の近くで IoT 製品を、無電源で使うなどの取り組みと組み合わせることで、非常に有用な技術になるのではないかと期待しています。
他にも、産業用の配管を使って水力発電を行う設備を開発している企業もあります。
エネルギー貯蔵/分散電源の事例
続いては、エネルギー貯蔵 / 分散電源の事例を紹介します。主に再生可能エネルギーや、太陽光発電・風力発電などにより発生したエネルギーを、どう貯蔵して、使用していくかに関する技術です。
Polar Night Energy の事例
Polar Night Energy というフィンランドの企業では、砂を使って熱エネルギーを保存する設備を作りました。この設備の中に、電気を熱に変える電気ヒーターが搭載されており、設備内部の砂が 500 度前後まで温められます。砂に蓄積されたエネルギーは数カ月間貯蔵し続けることが可能と言われています。まだ実用化はされていませんが、大規模なエネルギーを低コストで貯蔵できる仕組みとして注目されています。
他にもエネルギーを熱エネルギーとして貯蔵する技術を研究している企業があり、電池とは異なるエネルギー貯蔵の技術として今後も発展していくことでしょう。
次のページ:電動化 / 水素化技術の事例などを紹介します。