- 配信日:2023.12.12
- 更新日:2024.06.17
オープンイノベーション Open with Linkers
オープンイノベーション事例~日立建機の取り組みを徹底解説~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『日立建機から学ぶ~オープンイノベーション徹底解剖~』のお話を編集したものです。
日立建機株式会社 研究・開発本部 技監(兼)オープンイノベーション推進室長の枝村 学(えだむら まなぶ)様に、日立建機が抱えてきた課題と、それを解決するためのオープンイノベーション施策についてお話しいただきました。
オープンイノベーションに興味がある方は、ぜひお読みください。
◆目次
・日立建機の概要
・日立建機が置かれている状況
・新たな価値創造スキームの構築
・日立建機における新たな価値創造スキーム( IMS )の必要性
・イノベーションに向けて日立建機がやってきた取り組みの事例
・日立建機のオープンイノベーション推進室の活動事例
日立建機の概要
日立建機は 1970 年に創立された、建設機械・運搬機械などの製造・販売・レンタル・アフターサービスを行っている会社です。
建設機械は、古代から続く土木工事の重労働から人々を解放したものであり、馬を使ったり、蒸気を使ったりして動かすものもありました。
1965 年、日立建機の前身である日立製作所の建設機械部門が、純国産技術による油圧ショベルを開発しました。この機械は、旋回とブーム * 上げの複合操作が可能で、今の油圧ショベルの原型と言えるものです。
*ブーム=フロント作業機の根元の部品
日立建機の企業ビジョンは「豊かな大地、豊かな街を未来へ」です。私たちは、人々の豊かな暮らしを支えているという自負を持って事業に取り組んでいます。
日立建機が置かれている状況
現在、日立建機が直面している3つの課題をお伝えします。
1つ目の課題は「第2の創業」です。日立建機にとって、日立製作所から独立した 1970 年が第1の創業ですが、最近、2つの大きな変化がありました。
まず、日立グループからの独立。 2022 年8月までは日立建機の株式の過半数を日立製作所が所有していましたが、現在は HCJI ホールディングス(日本産業パートナーズと伊藤忠商事が折半出資)が筆頭株主となり、日立グループの会社ではなくなっています。
次に、アメリカのジョン・ディア社との合弁事業の解消です。これにより、日立建機は、米州市場で単独での事業展開を開始しました。
この2つの大変化に対する我々の決意として、現在の自社のチャレンジを「第2の創業」と呼んでいます。
2つ目の課題は、各国トップ企業とのし烈な競争です。世界各国に、日立建機より大きな競合企業があります。
建設機械業界の最大手は アメリカの Caterpillar で、長年トップを走っています。2位が日本の小松製作所で、こちらも順位を維持しています。
それ以下の企業の売上を見ると、以前から混戦状態ではあったのですが、順位はずいぶん入れ替わっています。日立建機は 2014 年ごろまでは3〜4位だったのですが、 2023 年には8位に下がっています。
3つ目の課題は SDGs などの社会課題への挑戦です。日立建機の製品の多くはディーゼルエンジンを積んでいるため、最も大きな課題は「気候変動抑制・カーボンニュートラル」で、 CO2 削減または排出ゼロへ向けたチャレンジが求められています。
また、カーボンニュートラルだけでなく、サーキュラーエコノミー、戦争や大規模自然災害後の復興、労働力や社会システムの急変化といった社会課題にもチャレンジしていかなければなりません。
このような課題に対してどのような解決策があるかというと、糸口の一つとしてはデジタル・ AI などをプロダクト、サービスに取り込んでいくことが挙げられるでしょう。そうはいっても、建設機械とデジタルサービスは簡単に連携できるわけでもありません。
また、ビジネスのスタンスとして「単にモノを作って売る」ではなく、「コトを売る」、すなわち、よりソリューション志向なビジネスへシフトさせていくことが必要だと思っています。
新たな価値創造スキームの構築
これをモデル化すると、上の図のようになります。左から右へ進むのがモノからコトへ変わっていくソリューションの軸、下から上へ進むのが主に技術による付加価値の軸です。その組み合わせで、ビジネスを進化させていくことを示しています。
このモデルは、多くの製造業に共通していると思います。付加価値はデジタル技術などを取り入れることで創出し、「コトを売ること」へ思考を切り替え、単なる「モノ売り」ではなく、付加価値の高いモノを軸にしながらも、顧客接点、顧客課題を起点としたソリューションビジネスに変えていくということです。
日立建機のビジネスやプロダクトがこのモデルに対してどのように当てはまるかというと、縦軸の「付加価値のレベル」は「機械の機能の高度化」と見て良いでしょう。具体例を挙げるなら、掘削(くっさく)をする油圧ショベルに高性能位置決め機能や半自動掘削機能を付けて、 ICT 油圧ショベルというものを作りました。さらに、より高度な自動化に向けて「 ZCORE 」というデジタル化・自動化に適したプラットフォームを適用した建設機械を開発しています。
ソリューション型ビジネスの例としては、建設機械のレンタル事業は、一種のソリューションといえるでしょう。保証付き中古車・再生部品販売などもそれにあたるかもしれません。
このモデルの右上でいうと、最も典型的なビジネスが、弊社のトラック自動運行システムだと思います。トラックの自動運行を高度な技術によって実現し、単なるトラック販売ではなく、鉱石運搬というソリューション事業を行っているからです。
このように、このモデルに沿ったビジネスを展開してきたのですが、課題もあります。