- 配信日:2023.11.06
- 更新日:2024.09.24
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カーボンニュートラルに不可欠なCCUSの注目技術事例20選
この記事は、リンカーズ株式会社(以下、弊社)が主催した Web セミナー『カーボンニュートラル 2023 年注目技術 20 選~ CCUS 編~』のお話を書き起こしたものです。
弊社では、カーボンニュートラルの先端技術とトレンドを調査し、その結果をまとめた「カーボンニュートラル最新技術動向マルチクライアント調査レポート」を作成しています。
この調査結果をもとにカーボンニュートラルの概要や、 CO2 を回収・貯留・再利用する技術( CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage )について注目すべき事例を 20 個、抜粋してまとめました。
セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけます。
カーボンニュートラル、特に CCUS について興味のある方は、ぜひ本文と合わせてご覧ください。
◆目次
・カーボンニュートラルとは何か
・CCUS の全体像
・CO2 を回収する技術
・液体吸収材を用いた CO2 回収プロセス
・低エネルギーで CO2 を回収する技術の事例
・固体吸着材を用いた CO2 回収技術の事例
・膜分離を用いた CO2 回収技術の事例
・回収した CO2 を固定化する技術の事例
・CO2 の直接利用および有用物質へ変換する技術の事例
・触媒プロセスによる CO2 の再利用技術の事例
・光還元/人工光合成による CO2 再利用技術の事例
・カーボンニュートラル最新技術動向マルチクライアント調査レポートのご案内*より詳しく知りたい方にオススメ
カーボンニュートラルとは何か
カーボンニュートラルは、環境省の『脱炭素ポータル』にて、以下のように定義されています。
「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」
ポイントは「温室効果ガス」ということで、二酸化炭素( CO2 )に限らずメタンなど他のガスにも対応する必要があることを言及している点です。また「排出量と吸収量を均衡させる」とあるため、必ずしも温室効果ガスを出さないだけでなく、排出してしまった温室効果ガスを何らかの形で吸収して排出量と相殺できるのであれば、それもカーボンニュートラルであると考えられます。
今回のテーマである CCUS には、 CO2 を回収する技術も含まれます。
実際にカーボンニュートラルを実現するためには、複数の領域のさまざまな技術が関連します。エネルギー関連から輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業まで世の中にある技術は、ほぼ全て何らかの形でカーボンニュートラルに関わっているといっても過言ではないでしょう。
今回は特にモノづくりに関わるメーカーや、インフラを提供する企業で働く方々が知るべきカーボンニュートラルの技術の中から、CO2の回収や貯蔵、利用に関係する技術に絞って紹介します。
CCUSの全体像
CCUS の全体像は上の画像のとおりです。工業排気や大気などから CO2 を回収し、回収した CO2 を何かしらの有用な形に変換して、最終的に利活用します。
それぞれのフェーズごとの技術を解説します。
CO2を回収する技術
CO2 を回収する技術には、主に以下の3つがあります。
液体吸収システム
液体に CO2 を吸収させるシステムです。使用される液体吸収材は大きく「アミン系」と「非アミン系」に分類できます。
固体吸着システム
固体に CO2 を吸着させるシステムです。使用される固体吸着材は「ポリマー系」「無機系」「有機 / 無機ハイブリッド系」に分類できます。
膜分離システム
膜を使って CO2 を分離するシステムです。
現在主流となっていて、実用化が進んでいる回収方法は、液体吸収システムのうちアミン系の吸収材を使ったものです。ただし課題もあり、一度 CO2 を溶液に回収した後、改めて CO2 として取り出すときに、溶液を 120 度程度に温めなければならず多くのエネルギーが必要になります。
その解決のために、固体吸着システムや膜分離システムなどの開発が進み、より低エネルギーで CO2 を回収できるのではないかと期待されています。
液体吸収材を用いたCO2回収プロセス
液体吸収材を用いた CO2 回収プロセスは、まず CO2 を液体に吸収させ、 CO2 を取り込んだ液体を、 CO2 を排出しないように取り出すための棟(とう)に移します。その棟で液体を加熱して CO2 を取り出します。工場排気が高温の場合は、液体に吸収させる前に冷却システムで冷やすこともあります。
「冷却システム」「吸収システム」「再生システム」の3つが必要になり、かなり大掛かりなシステムになります。
低エネルギーでCO2を回収する技術の事例
低エネルギーで CO2 を回収するために、実際にどのような技術・システムが開発されているのかを紹介します。
事例1:三菱重工エンジニアリング株式会社
三菱重工エンジニアリング株式会社は、小型 CO2 回収装置の実証試験を開始したことを発表しました。今まで大型のプラントに併設するような形で大規模な回収設備が実用化されてきたのですが、最近はコンテナレベルの小型設備で CO2 を回収する開発が進んでいます。
将来的には、小さな工場やショッピング施設でも CO2 を回収できるような、システムの小型化がトレンドになるでしょう。
事例2:Poros Liquid Technologies
Poros Liquid Technologies という企業では、多孔性液体と呼ばれる多数の隙間が含まれる液体の隙間に CO2 を吸収する材料を開発しています。有機溶媒に多孔性ゼオライトの粒を混濁させた液体が多孔性液体のようです。ゼオライトに隙間があり、その隙間に CO2 が入るよう制御することで、液体吸収材として活用が可能という仕組みです。
固体吸着材を用いたCO2回収技術の事例
固体吸着材を用いた CO2 回収プロセスは、多孔性の吸着剤の表面に CO2 を吸着させ、その後に加熱することで CO2 を回収するというものになっています。
固体吸着材の特徴は、比較的少ないエネルギーで CO2 の回収が可能な点です。それから、一つのモジュールで CO2 の吸収と放出を切り替えることができるため、コンパクトな装置で実現できる点もメリットといえます。
課題としては、連続処理や設備の大型化が難しいということがいわれています。しかし、最近はコンテナ型・モジュラー型の設計で、複数のセルを連結させて大規模な CO2 回収設備にしていくような開発も進んでいます。
固定吸着材による CO2 回収の課題を解決するために必要なのは、なるべく安価で、大量の CO2 を回収できる材料の開発だといわれています。一般的にはゼオライトなどセラミック系を使うシステムが実用化されているのですが、よりコストを安くするための研究がいくつか進んでいます。その事例を紹介します。
事例3:TDA Research, Inc.
TDA Research, Inc. というアメリカの企業では、アルミナを吸着剤として使用し、 CO2 を回収する技術を研究しています。アルミナを使うことで、安い素材で CO2 を回収できるようにするのがこの研究の狙いです。
事例4:早稲田大学
こちらは早稲田大学が行なっている研究事例です。吸着材に電圧をかけ、電圧をマイナスにすると吸着材の表面から CO2 が離れ、ブラフにすると CO2 が表面にくっつくという特殊な材料を実現できそうだということが、理論計算から分かってきたとのことです。
この技術が量産できるようになれば、今までは CO2 を回収するために加熱せねばならず、そこに大量のエネルギーを使うことが課題でしたが、電圧をかけるだけであれば制御性が高く、使用するエネルギー量も削減することができます。
膜分離を用いたCO2回収技術の事例
膜分離を用いた CO2 回収プロセスは、 CO2 だけを通す特殊な膜を使うか、CO2 以外を通す膜を使って、CO2 とそれ以外の気体を分離するというプロセスです。
膜分離は気体をろ過するように通すだけで実現できるため、必要なエネルギーが格段に小さいというメリットがあります。ただし、気体が膜を通るために何かしらの方法で圧力差を構築する必要があり、その圧力をどのように与えるのか、また不純物が膜に詰まったときにどう対処するかが課題と言われています。
膜分離が CO2 を回収する目的で実用化されている事例はまだほとんどないのですが、今後、小規模なシステムを中心に実用化が進んでいくとみられます。さまざまなアプローチが試されており、その研究事例を紹介します。
事例5:Massachusetts Institute of Technology
Massachusetts Institute of Technology では、穴がたくさん空いた構造に対してメッキをすることで、上部を埋めたり開けたりが簡単にできるような膜を開発しました。これにより、 CO2 を回収・放出するというスイッチ機能が実現できると発表しています。
事例6:University of Illinois at Chicago
University of Illinois at Chicago でも膜分離に近い研究が行われています。 CO2 を一度溶液に溶かして、そこから生まれたイオンを、イオン交換膜を通して別のセルに移し、それを取り出すことで濃度の高い CO2 を取り出せるという技術です。
事例7:Partnering in Innovation, Inc.
Partnering in Innovation, Inc. という企業では、膜分離とはまた異なる他の方法で CO2 を回収する技術を研究しています。「高圧の水は吸収する CO2 の量が増える」という特徴を生かし、高圧の水に CO2 を吸収させ、圧力を減らすことで CO2 を回収するという技術です。
事例8:University of Cambridge
キャパシターへの充電中に電解質やイオンが化学反応を起こすことで充電ができますが、その際に空気中の CO2 を取り込むような特殊な材料が見つかっており、それを使って充電時に CO2 を取り込んで、放電時に CO2 を放出するということができる電池システムを実現できるという事例です。
事例9: 東京工業大学
東京工業大学では、 CO2 の電気分解により炭素として蓄電し、その炭素と空気中の O2 を用いて発電する「カーボン空気二次電池( Carbon/air secondary battery 、 CASB )システム」を提案し、その充放電の実証に成功しました。
同システムでは CO2 を液体状態で貯蔵しておき、充電時には気化させてシステムに送り込むことで時間の経過に伴い CO の分圧を増加させ、熱平衡反応を利用して炭素を析出させます。放電時には貯蔵した炭素と空気中の O2 を用いた反応により電力を得るとともに、反応で生じる CO2 を液体に戻して貯蔵するため、 CO2 が外部に放出されることはありません。