- 配信日:2023.10.20
- 更新日:2024.09.24
オープンイノベーション Open with Linkers
グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『次世代グリーンエネルギー製造を支える素材技術「水素・アンモニア・太陽光」~カーボンニュートラル~』のお話を書き起こしたものです。
弊社では、次世代グリーンエネルギー製造の最先端に触れ、それを支える素材技術の重要性と可能性について理解を深めることができる「次世代グリーンエネルギー製造を支える素材技術マルチクライアント調査レポート」を作成しています。
このレポートの中から、水素・アンモニア製造の課題を解決する世界の素材技術の事例、そして急ピッチで開発が進むペロブスカイト型太陽電池と、エネルギーマネジメントの観点から注目されている光熱ハイブリッドシステムの事例を紹介します。
セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけます。
企業・研究機関・大学などの取り組みや、今後のグリーンエネルギー製造の発展について知りたい方は、ぜひ本文とあわせてご覧ください。
◆目次
・注目されるグリーンエネルギー
・課題となる水素/アンモニアの製造コスト
・グリーン水素製造のカギを握る水電解システム
・導入拡大/コスト低減フェーズにあるアンモニア製造技術
・安価で大量の再生可能エネルギーを実現させるには
・水素生成技術の事例
・アンモニア合成技術の事例
・次世代太陽電池/光熱ハイブリッドシステムの事例
・「次世代グリーンエネルギー製造を支える素材技術マルチクライアント調査レポート」のご案内*より詳しく知りたい方にオススメ
注目されるグリーンエネルギー
まず、今どれくらい「水素」「アンモニア」「次世代太陽電池」などのグリーンエネルギー(化石燃料を使わず再生可能エネルギーだけで生成されるエネルギー)が注目されているのかお伝えします。
現在、日本政府は「 2050 年カーボンニュートラル」目標達成のため、さまざまな政策を実行しています。その政策の中に「水素」「アンモニア」「次世代太陽電池」なども含まれています。
それに関連し、技術開発のために NEDO に2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を造成。2兆円と言うのは NEDO の中でも大規模な予算であり、かなり注力している分野であることが分かります。
さらに 2023 年6月には、6年ぶりに「水素基本戦略」を改定。「水素基本戦略」は 世界市場を視野に入れ、水素の導入量を年間 1,200 万トンにまで拡大するという目標を新たに設定しました。
これらにあわせて、水素の保安戦略や、産業ごとの投資というのも総合して、今後 15 年間で 15 兆円の投資を行うことも決定されました。
水素産業戦略
水素産業戦略は、大きく分けて「生産」「輸送」「利用」というサプライチェーンで構成されています。今回紹介するのは、上流に当たる「生産」の部分です。主に水電解装置の生産設備増強、水電解膜などのコア技術の開発支援として政府が産業戦略としてまとめている部分に当たります。
水素・アンモニアサプライチェーンの上流部分には、再エネ(再生可能エネルギー)を使った水電解による水素製造と、アンモニア生成をするという、グリーン水素・アンモニアというプロセスがあります。
例えば、天然ガスから生成される水素やアンモニアはグレー水素、グレーアンモニアなどと呼ばれます。天然ガスなどの化石燃料から生成するものの、そこで出た CO2 を再利用して生成するのがブルー水素、ブルーアンモニアなどと呼ばれるもので、今回のレポートが主な対象とするのは 100 % 再エネで生成されるグリーン水素・アンモニアです。
課題となる水素/アンモニアの製造コスト
水素・アンモニア製造の課題は、製造にかかるコストです。画像の左側にあるグラフは、 2022 年のグレー水素・グレーアンモニアの販売価格を比較したデータで、グレー水素は他の化石燃料より目に見えて費用が高いことがわかります。グレーアンモニアに関してはそこまで差はないものの、他の燃料と比較すると高いという傾向が見て取れます。
さらに、水素の種類を分類したのが右のグラフです。キロ当たりの製造コストを比較すると、化石燃料由来のグレー水素・ブルー水素は比較的安く製造できますが、グリーン水素の場合はキロ当たり3〜8ドルかかると試算されています。そのため、水素だけでも元々のコストはかなり高いのに、グリーン水素を製造するとなるとさらにコストが高くなってしまうということが分かります。
高コストな製造と、低効率性がグリーン水素・アンモニア製造の課題であり、これを解決するキーポイントとされているのが素材技術です。
グリーン水素製造のカギを握る水電解システム
グリーン水素を製造する水電解システムには、さまざまな種類があります。例えば、すでに販売・実用化済みのシステムとして代表的なのはアルカリ水電解で、大がかりな装置を使って水電解を行います。
販売・実用化済みのものから研究段階のものに向かうに従って水電解の高速化、エネルギー効率性、装置のコンパクト化などのメリットが増える一方、、それぞれのシステムに共通している課題が、劣化が早いということです。実用化のためには、この劣化の早さの解決が必要だと認識しています。
革新的水素製造技術
革新的な水素製造技術ということで、光触媒を使った技術についても研究開発・実証実験が行われています。
光触媒を使い「人工光合成」と呼ばれるような研究開発の事例を紹介します。こちらは人工光合成化学プロセス技術研究組合が 2021 年に行った、屋外の自然太陽下で光触媒パネルを使った実証実験です。水素と酸素の混合気体から、かなり純度の高い水素を分離・回収することに世界で初めて成功しました。
導入拡大/コスト低減フェーズにあるアンモニア製造技術
グレーアンモニアなど、化石燃料由来の製造法を使ったアンモニア製造の場合、コストは水素よりはやや安くなります。
一方で、供給拡大に向けての取り組みとなると、コスト低減が目下の課題になります。
アンモニアの製造サプライチェーンを構築するという目的で、 GI(グリーンイノベーション)基金で「燃料アンモニアサプライチェーン構築」プロジェクトを行っています。
このプロジェクトの全容は画像にあるとおりです。まず画像の左側はブルーアンモニアの合成コストを低減させる技術開発として、千代田化工や JERA 、東電、つばめ BHB などの会社が共同で開発し、主に低温・低圧で合成可能な技術を進めています。
対して右側はグリーンアンモニア合成で、出光、東大、東工大などが組んで進めている研究開発です。こちらも、グリーンアンモニアのコスト削減が目標で、水素を経由しない製造方法を開発している点がユニークなポイントといえます。この技術のキーとなるのが電極触媒の開発です。
安価で大量の再生可能エネルギーを実現させるには
環境 NGO の WWF (世界自然保護基金)が、 2050 年のカーボンニュートラル・エネルギー生成に向け、原子力や核融合エネルギーなどを除いた 100 % 自然エネルギーをもし日本が実現したらどのような構成になるのかを試算した結果が、画像にある円グラフです。
風力発電が 70 % 近くを占めているのですが、太陽光発電も同じく 70 % という構成になり、ほぼ太陽光発電と風力発電でエネルギーを生み出す試算となっています。
GI プロジェクトでは、次世代太陽光電池のプロジェクトを進めており、 2030 年に 14 円 / kWh という、かなりストレッチな目標を立てています。
次世代太陽光電池とは
太陽光電池には、さまざまな種類があります。主に GI 基金で研究されている部分は、画像のペロブスカイト発電で、世界的に見ても注目されています。今回は次世代太陽光発電という括り(くくり)でお伝えしていますが、主にペロブスカイトの話になります。
ペロブスカイト型/ペロブスカイトタンデム型太陽光電池
近年、ペロブスカイト型や、ペロブスカイトと他の太陽光電池を組み合わせたタンデム型というものの発電効率が上がってきています。そのデータが画像のグラフです。アメリカの NREL (国立再生可能エネルギー研究所)が出している発電効率のグラフで、 2017 〜 2018 年ごろからペロブスカイト型・ペロブスカイトタンデム型太陽光電池の発電効率が急激に上がっています。
画像は、ペロブスカイト型・ペロブスカイトタンデム型の主な構造です。ペロブスカイト型は基板があって透明電極があり、その下に電子輸送層があって、ペロブスカイト層、ホール輸送層、電極という基本構造になっています。
ペロブスカイトタンデム型は、「トップセル」と呼ばれる上部はペロブスカイト型と同じような構造をしていますが、下部にシリコンの層があり、ペロブスカイト層とシリコン層の間に中間層という層が存在します。太陽光の短波長をペロブスカイトで吸収して、漏れてしまう長波長の太陽光エネルギーを他の太陽光電池での発電に使用するというのが、タンデム型の特徴です。タンデム型はペロブスカイト型よりも高効率で発電ができるということで、昨今かなり注目を集めています。
太陽光からの熱を利用したハイブリッドパネル
最後に、太陽光からの熱を利用したハイブリッドパネルの話をします。ハイブリッドパネル上部の、熱回収をするパネルは現在市販されているものです。そのパネルの上にその太陽光電池があって、下にサーモセルがあります。その中に熱媒体が入っているパイプがあり、太陽光の放射熱を受けたパイプを熱として回収して、それをヒートポンプで利用するというハイブリッドなシステムがあります。
もう1つはまだ研究段階ですが、上部に太陽光電池があるのは同じで、下部のサーモセルに熱電素子が複数付いており、熱を使ってそのまま発電しようというシステムです。サーモセルによる冷却効果が注目を集めています。
このような動向を踏まえ、国内外のカーボンニュートラルの広がりを背景として、グリーンエネルギーの急速な需要が見込まれます。中でもエネルギー製造にフォーカスした場合、最も重要だと思われるのが「素材技術」です。