• 配信日:2020.07.31
  • 更新日:2023.09.01

オープンイノベーション Open with Linkers

ゴムの独自技術を自動車の照明、医療領域に展開-株式会社朝日ラバー

※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。

ゴムとLED。異素材である、この2素材の関連性に戸惑うのではないでしょうか。工業用ゴム製品の製造・販売メーカーである株式会社朝日ラバー様では、プロダクトデザイナーの要求に合わせて数万もの色彩をLEDで再現する技術により、自動車の照明分野の受注が好調です。医療ライフサイエンス分野でも、さまざまなゴムの活用性を追求する、ゴムのプロフェッショナル企業です。取締役営業本部長の滝田充様にお話を伺いました。

自動車の照明、医療ライフサイエンス分野に強み


株式会社朝日ラバー 取締役営業本部長 滝田 充 様

プロダクトデザイナーが求める繊細なLEDの色を再現

リンカーズ 長友

ゴムとLEDの組み合わせは、商品として想像がつかないのですが。

朝日ラバー 滝田様

自動車の内装照明に使われる「ASA COLOR(アサカラー) LED」がオリジナルの主力商品です。通常のLEDでは発色が難しい色彩のチューニングをシリコーンゴムに混ぜる顔料や蛍光体で行い、プロダクトデザイナーの求めている色彩を再現します。

自動車の内装に使われていた小形の白熱灯用のゴム製カラーキャップ「アサ・カラー」は、高温で発光する白熱灯に直接かぶせるため、熱に対する耐性が求められる中で自在に発色をコントロールできることから重用いただきました。ところが現在、家庭でも照明は白熱電球からLEDに変わりつつあります。自動車業界にもLED化の波が押し寄せました。白熱灯の需要は下降するばかりで、売上も減少していきました。そこで白熱灯との組み合わせで培った色と光のコントロール技術をLEDにも活かせないか、と考えて開発したのが「ASA COLOR LED」。基盤となる技術は40年ほど前から提供していましたが、白熱電球からLEDという時代の変化に対応したところ、受注は好調に転じました。 LED自体も白や赤や青で発光しますが、実際には青や白であっても、プロダクトデザイナーは繊細な色彩を要求されるので、色彩をチューニングすることが必要になります。LEDだけで点灯した場合、プロダクトデザイナーには満足できない場合があるので、デザイナーの感性に合わせた色彩にするために調整する必要が出てきます。 白熱灯用の「アサ・カラー」は、言わばカラーフィルターで、シリコーンゴムと顔料の組み合わせによって、求める色彩だけをフィルタリングします。「ASA COLOR LED」は、青色LEDの光を励起(外部からエネルギーを加えて状態を移行させること)させる蛍光体をシリコーンゴムに混ぜて、多様な色の光に変えます。


「ASA COLOR LED」で光や色調をコントロールした例

コア技術は、色と光のコントロール技術

リンカーズ 長友

ゴムでLEDの光をコントロールできるのですね!驚きました。
どれぐらいの色が再現できるのですか?

朝日ラバー 滝田様

通常LEDメーカーさんは大量にLEDを生産するので、細やかな色彩の対応までは非効率なのでやりません。細かな色と光をコントロールできることが朝日ラバーの技術の特長で、オーダーにしたがってカスタマイズしているので可能な限りの色彩を再現することができます

カタログ上は1万色と書いていますが、お客様ごとに求める色が違います。色彩の微妙な違いが製品の差別化にもなります。繊細な色彩のため当然バラつきも生まれますが、お客様が「この範囲で」と指定いただいた範囲におさめられることこそが技術的優位性であり、とても満足いただいている点です。 LEDメーカーは半導体技術を用いて大量生産を行いますが、品質のバラつきも大きくなります。しかし、LEDを利用する製造業側としては「望んだ色に合わせたい」「バラつきをなくしてほしい」というニーズがあります。その要求に対応できるように製品を進化させました。「LEDメーカーの隙間を埋めて、お客様に喜んでいただけること」が朝日ラバーの存在意義です 顔料と蛍光体という細かい粉を使いますが、一定量をシリコーンゴムに均一に分散させ、色を管理する技術は白熱灯の時代から培ったノウハウであり、他社には真似のできない技術的な強み。「色と光のコントロール技術」をコア技術として重視しています。

左:「ASA COLOR LAMPCAP」 右:「ASA COLOR LED」のカラーバリエーションは10,000色以上

表面改質と素材加工技術、組成変性でゴムをカスタマイズ

リンカーズ 長友

コア技術には3つありますよね。色と光のコントロール技術のほか、表面改質とマイクロ加工技術素材変性です。このうち、表面改質と素材加工技術とは、どのような技術でしょう?

朝日ラバー 滝田様

接着する技術です。といっても接着剤を使わずに、分子と分子を共有結合して接着します。
ゴムの表面を改質させることによって分子同士を結合させる技術が、マイクロ加工表面改質技術です。ゴムとゴムはもちろん、ゴムと金属、ゴムとプラスチックなど、ほとんどの材質で接着できます。最近では、RFID(Radio Frequency Identifier:電波により非接触で情報をやり取りする技術)タグ用ゴム製品の接着などに使われています。RFIDを上下からゴムでサンドイッチ状態にして接着します。求められる場面では、通常の接着では湿度や水に弱く、剥離してしまう可能性が高くなります。しかし、分子同士の結合であれば、環境や状態にかかわらず強固に接着できます。また経時的な劣化もありません。


ー素材変性の技術はどのようなものでしょう。

Oリング(密封するときの円形の部品)でも油に強い製品や、特定の環境下に強いゴムなど、お客様のニーズに合わせて社内で製造します。さまざまなゴムメーカーがありますが、材料から調達してオーダーメイドのゴムを製造することがポイントです。調達した原材料のゴムを配合し、お客様のご要望通りの製品を開発することが素材変性の技術です。 過去にゴムが使われ始めた時代には、天然のゴムの木から流れた樹液でゴムを作っていました。原液の弾力性を強くするために、熱や圧力をかけるとさまざまに変性します。さらに硫黄を加えると伸び縮みするなど、いろいろな加工が可能になります。これを「加硫(かりゅう)」といいますが、その後、硫黄を加えるだけでなく、ゴムを加工することを総称して「加硫工程」と呼んでいます。 ゴムメーカーは大きく2つに分かれます。 ひとつはゴム材料メーカーで、たとえば信越化学工業株式会社様、JSR株式会社様、東レ株式会社様などの大企業があります。天然ゴムや合成ゴムなど材料を作っています。 もうひとつがゴム加工メーカーです。株式会社ブリヂストン様、横浜ゴム株式会社様などがあり、ゴム材料メーカーから入手した材料に、さまざまなものを加えていきます。加えるものや手法には各社独自のノウハウがあり、タイヤを作るのであればカーボンを混ぜるなど、素材や混合率のレシピは企業秘密ともいえます。 ゴム加工メーカーとして朝日ラバーの強みは、色と光の分野で顔料や蛍光体の混合における独自の技術、表面改質という加工ノウハウ、素材変性としてゴムそのものを変える事業を材料メーカーと協業して行っていることです。「弾力性はこの程度が必要だ」「品質のバラつきはこの範囲におさめたい」というお客様の要求に答えらていくことがゴムメーカーで、しかも中小企業の私たちの存在意義です。

朝日ラバー 滝田様

LEDで光を変換する技術は他社にもありますが、ゴムに蛍光体と顔料を混ぜてLEDの色彩をコントロールできる技術を保有しているのは、世界においても朝日ラバーだけであると自信を持って言えます。

産学連携によるウェアラブルシステムの開発

リンカーズ 長友

ウェアラブルシステムを埼玉大学と共同開発されていますよね?

朝日ラバー 滝田様

埼玉大学様とミツフジ株式会社様という繊維メーカーと共同で開発しています。SAS(睡眠時無呼吸症候群)の予防と対策を目的とした製品の研究開発です。

ミツフジ株式会社様は導電繊維という電気を流す繊維を開発されているメーカー様です。服を着たままで、脈拍や心電図のためのデータを簡単に収集できるシステムを開発する中で、睡眠時にはうまくデータが収取できない課題がありました。そこで、朝日ラバーのゴムと導電繊維と組み合わせて身体のデータを収集し、SAS対策となる医療機器を共同開発しています。 朝日ラバーでは「電気を流せるゴム」も作ることができます。通常、ゴム長靴は電気を通しません。しかし、さまざまな材料を混合すれば電気を流すゴムを作ることが可能です。さらに、ゴムに流す電気の抵抗を調整することもできます。産学協同のプロジェクトでは、このような技術を提供しています。 このプロジェクトは、ミツフジ株式会社様のトップレベルで新規事業のアイディアを検討していたときに生まれました。埼玉大学様とは別にさまざまな共同研究に取り組んでいて、このウェアラブルシステムは共同研究のひとつです。 2017年からスタートし、3年間の共同開発を計画しています。医療機器として使う場合には、緻密なバックデータを収集する必要がありますが、そこまで高い測定の精度を求めるかどうか、市場で通用するかなどを含めて現状では未知数です。

注射器や点滴など医療ライフサイエンス分野のゴムにも

リンカーズ 長友

医療ライフサイエンス分野では、どのような製品があるのでしょうか?

朝日ラバー 滝田様

主に注射器のガスケット(気密性を持たせるための器具)ですね。

かつては注射をするときに、薬剤の入ったビンから薬剤を注射器に吸い上げていました。しかし現在では、医療事故を防止するために注射器の中に薬液が入っているタイプが広がっています。薬液が漏れないことはもちろん、看護士が注射をするときに滑りがよくスムーズに注射できることが求められます。ゴムから有害な物質が薬液に混じることも避けなければならないので、条件を満たした特殊なゴムを開発しました。 また、点滴で複数の薬液を使うときに、コネクタで薬液を混ぜる回路製品という器具も作っています。当然、薬液が漏れないようにシール(封印)をする必要があります。注射器と点滴用の製品が医療分野の中核であり、今後も注力していきたい分野です。 お客様からご要望があれば、ゴムの分野であらゆることができます。といっても、医療と自動車、そして照明の分野にフォーカスして事業を展開していきたいと考えています。朝日ラバーの技術が最も効果的に使われている分野ですから。

医療用ゴム製品例

需要発見は「営業が足で訪問してヒアリング」、朝日FR研究所も設置

リンカーズ 長友

新たな需要の発見はどのようにされていますか?

朝日ラバー 滝田様

営業が足で企業を訪問してヒアリングして発見しています。国内には30人、海外では11名の営業がいます。

企業の困っていることをヒアリングして社内に持ち帰るのは、営業の役割です。それぞれの工場に技術者がいて、各社の課題を営業と技術者で相談しながら解決策を模索します。また、100%子会社の「朝日FR研究所」も設置しています。本社と「朝日FR研究所」とは、要素技術の深掘りと"スパンの長い研究テーマを委託する機関"という位置付けとしてすみ分けています。 研究所を設置した理由は、日常業務における目先の技術開発に注目しすぎると、将来に向けた要素技術の開発など、中長期のテーマの開発ができないと考えたからでした。したがって完全に独立させています。通常の技術開発に関しては、本社の技術開発者が行いますが、研究所と工場は密接に連携ならびに情報を共有しています。 福島県の福島工場と白河工場内に、「朝日FR研究所」の研究室があります。「朝日FR研究所」から大学に研究員を送り込み、通常の受託事業にはない研究を大学から発掘するように人材を配置しました。現在、岩手大学様と埼玉大学様の研究室で研究をしている社員がいます。大学と連携することにより、優秀な卒業生を獲得できる採用活動の目的もあります。化学の高分子を専門に研究している大学は少ないのですが、工場や研究所のある地元福島の求人も行っています。 目先の売上にとらわれると早く案件に結びつけたいために、現場に人材を多く採用しがちですが、そうすると長い目でみたときに、要素技術の研究継続が疎かになります。そのため、要素技術に対する予算や人材は通常の事業とは分けて確保しています。

イベント出展と海外展開、時代にフィットした事業戦略を

リンカーズ 長友

お客様の要望は、時代によって変化がありましたでしょうか?

朝日ラバー 滝田様

ありました。自動車関係のLED、医療のガスケットや回路製品は現行の事業で進めていくことができますが、マイクロ流体デバイスやライフサイエンス関連は、お客様も研究開発中で事業計画もこれからです。そうした先端技術への対応が求められつつあります。

事業領域を医療からライフサイエンスに広げることにより、可能性が大きく広がりました。このような場合、ニーズの収集はひとりの営業より、大手企業や大学、国の機関とのやりとり、もしくは関連の展示会に出展することによって新たな顧客を発見する必要があります。接着・接合するような技術の販売先を考えたとき、適切な展示会に出展してお客様をキャッチアップすることも重要です。昨年は「接着・接合EXPO」や、それに関連する展示会に出展しました。その中で実際に「接着や接合で困っている」「ゴムで困っている」という声を聞くことができ、お客様の獲得に活かしていきたいと考えています。 海外では日系のメーカーの現地調達などを支援していますが、今後はそれぞれローカルに合わせた事業展開をしなければならないでしょう。国内では医療の市場も成熟しているので、海外戦略は必須になります。また、以前にはいろいろな商品がありましたが、重点領域を絞り込んで事業展開する方針です。オリジナル商品も企画開発していきます。

あとがき

~ゴムが光を変えることの驚き、入り口の美しいイルミネーション~


ゴムが光や色彩を変える。このことにまず驚きました。受付にあるボードは、押すと美しい色で輝くイルミネーションになっています。これが「アサ・カラー」でした。

弾力性のあるゴムは、伸び縮みするだけに、さまざまな用途に柔軟に適応するようです。「専門的にゴムに関わっている自分たちにも気づかないような使い道があるはず。そんな新鮮な発想をいただけるパートナーに出会いたいですね」という言葉が胸に残りました。