- 配信日:2020.09.11
- 更新日:2023.09.01
オープンイノベーション Open with Linkers
「経営理念の重要性」 シンクタンク・ソフィアバンク代表 藤沢久美氏に聞く1
※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。
様々な分野のプロフェッショナルが集い、21世紀の新たな社会システムの創出を目指す「シンクタンク・ソフィアバンク」の代表を務め、リンカーズ株式会社のアドバイザーの一人でもあるイノベーションプレイヤー藤沢久美様に今回はご登場いただきます。「経営理念の重要性」について、藤沢様と弊社代表の前田へのインタビューをお伝えしていきます。
企業における経営理念の位置づけとは
現場で情報を取捨選択する際の判断基準
Q:藤沢様は各種メディアで多くの企業経営者の方々と対談されていますが、その中で企業の経営理念の位置づけについてどのように感じていますか?
ソフィアバンク 藤沢久美様
経営理念はスピード経営を実現する上で一つのポイントになると思います。
藤沢様:経営理念と似たような言葉がいろいろあります、例えば、「経営哲学」や「経営ビジョン」です。 これらの言葉は、その解釈が企業や経営者によってさまざまなこともあり、混同してしまいがちですが、それぞれ異なるものとして位置づけられると思います。
経営哲学は経営に対する根本的な考え方であり、その考え方を仕事で実践するための心構えや行動様式が経営理念になるのではないでしょうか。 また、経営ビジョンは、期限付きで具体的にイメージできる企業の将来像と捉えられます。 経営理念がなぜスピード経営を実現するポイントになるのかというと、世の中の変化が日々激しくなりつつあるからです。
スピード経営を実現するポイント
藤沢様:企業はその世の中の激しい変化にすばやく対応することが求められています。 例えば、ソフトウェア開発の手法は、あらかじめ決められた設計や工程通りにトップダウンで開発を進めるウォーターフォール型が主流でしたが、近年は、開発途中でもソフトウェアの仕様変更の必要があれば、それを素早く反映させながら開発を進めるアジャイル型が増えつつあり、それは技術革新や市場環境の変化に対応しやすい開発手法だからです。
同様に、企業の経営のあり方も、これからはウォーターフォール型からアジャイル型へシフトさせる必要があると思います。 例えば、3ヵ年の中期経営計画を定め、それに従いトップダウンで事業を展開しても、その期間中に世の中が変わればうまくいかなくなります。そうならないようにするためには、世の中の変化に応じてすばやく計画を変更したり、事業を見直さなければなりません。
そのようなスピード経営を行うには、現場から計画の変更や事業の見直しに必要な情報が上がってきたり、その情報をもとにした戦略が提案されてくるような体制を整えなくてはなりません。 この時、経営理念が現場で情報を取捨選択する際の判断基準になるのではないでしょうか。
価値観をつくれば、社員たちが自ら考えて行動する
Q:前田さんはリンカーズの創業社長として経営理念を実際に考える際に、何か意識されたことはありますか?
前田:分かりやすいものにしようと意識しました。経営理念は社内全体にしっかり定着させるべきものだと考えたからです。
私は、経営理念を「ビジョン」、「ミッション」、「バリュー」の3つすべてを含めたものだと捉えています。
ビジョンは事業を通して成すべきことであり、その企業が存在し続ける限り変わらない普遍的なものだと考えています。
ミッションはビジョンを実現するための行動様式だと考えています。
バリューは日本語で言えば「価値観」であり、これは藤沢さんのお話にあった経営哲学とも言えるものだと思います。
「バリュー」を伝え続けることが大切
前田:この3つの中で私が最も重視しているのは「バリュー」です。 私が考える「バリュー」とは、「整理整頓を心がける」とか、「人としてお互い尊重しあう」など、とてもシンプルなものです。 また、そのような「バリュー」を含めた経営理念を社内全体にしっかり定着させるには、言葉として分かりやすく表現することも大切ですが、それ以上に私のような企業のリーダーが社員たちに対して「バリュー」を伝え続けることが大切だと思います。
例えば、社長が「整理整頓を心がけよう」と社員たちに一回だけ言っても、日頃から整理整頓する習慣が身についていない社員はできないと思いますので、できるようになるまで何回でも言い続ける必要があると思います。
実は一年ぐらい前から社員たちに「電気をこまめに消しましょう」と言い続けています。 電気をこまめに消せば電気代の節約になりますが、その金額は本当に微々たるものでしょう。
しかし、社長の私が言い続けることによって、社員たちは自分の会社がいかに経費削減を重要視しているのか気づくはずだと思います。 すると、電気以外のさまざまな経費についても節約を心がけるようになり、実際に経費削減につながるのではないでしょうか。 このように「バリュー」、つまり価値観をつくれば、社員たちが自ら考えて行動するようになると思います。
新卒採用者は自社のカラーにすんなり染まってくれる
前田 佳宏
価値観を社内全体にしっかり定着させるよい方法はありますか?まずは管理職に定着させようとしているのですが、うまくいかないこともあります。
ソフィアバンク 藤沢久美様
理想は新卒採用を行うことではないでしょうか。価値観を最も定着させやすいのは新卒採用者だと思います。
藤沢様:前田さんの「バリュー」、つまり価値観が重要だというお考えは、まさにその通りだと思います。
私が「良い会社だなあ」と思う企業の共通点の一つは、社長も社員も口癖にしている言葉があることです。
そういう口癖には価値観が反映されていると感じます。
また、価値観が反映された言葉が社内共通の口癖になれば、社員が自ら行動するようになると思いますし、そのレベルまで価値観を社内に定着させたければ、まず新卒採用社員から定着させるとうまくいくのではないでしょうか。
新卒採用者は価値観を最も定着させやすい
藤沢様:中途採用者は、入社時点で既にスキルを持っていますが、同時にそれまで働いていた企業のカラーに染まっています。
つまり、新たに自社のカラーに染め直さなければならないわけですが、それは大変です。
一方、新卒採用者はまだ何色にも染まっていない真っ白な状態のため、自社のカラーにすんなり染まってくれます。だから、新卒採用者は価値観を最も定着させやすいわけです。
ある企業では既存の社員と同じくらいの人数の新卒者を採用することで、社内全体での価値観の定着が一気に加速しました。
その新卒採用者たちは入社後すぐに行われる二週間の研修の中で、その企業の価値観をしっかり身につけます。
そうすれば、新卒採用者たちが身につけた価値観を基準として配属先の上司や先輩など、既存の社員たちに質問をすることになるため、既存の社員にも価値観が定着していくというわけです。
経営理念の定着のために合宿を行うことも
藤沢様:とはいえ、ベンチャー企業など、まだ創業間もない企業の多くは新卒採用をする余裕がなく、中途採用がメインだと思います。
そのような場合は、合宿を行うとよいと思います。
例えば、毎月1回など、定期的に社長と中途採用で入社した管理職の人たちが一緒に過ごす泊りがけの合宿を行い、その中で経営理念の定着を図ります。
実際、同じような合宿をされている企業は多く、とても効果があったというお話をよく聞きます。
また、ある企業は、採用面接で自社の経営哲学や経営理念についてだけ話をし、それに共感してもらえた人だけ採用されています。
ビジョンやミッションを含めた理念という旗が見えないとバラバラになってしまう
藤沢様:私の友人に「マネジメント」という言葉が将来消えると言っている人がいます。
「マネジメント」の語源には「塀の中で羊を管理する」という意味があるそうですが、これからの時代の企業はあちこちに散らばっている人材を集めてチームをつくったり、あるいはチームを解散させたりということを繰り返すようになるため、マネジメントではなく、リーダーシップが必要になるわけです。
また、マネジメントをする必要性が薄れていくと、企業やチームのリーダーには「サーバント・リーダーシップ」がますます求められるようになると思います。
常にバラバラな人が集まってくるから、ビジョンやミッションを含めた理念という旗が見えないと、バラバラになってしまうと思います。
新規事業は社員から生み出されるので、企業理念や価値観の共有が重要となる
前田 佳宏
ベンチャー企業は成長の過程で、結成期、混乱期、安定期とありますが、安定期になって初めて、理念の共有などに意識が向かうように思います。
ソフィアバンク 藤沢久美様
仰る通りですが、どこに向かっているかの方向は初期から意識しなければ出遅れます。
藤沢様:また、ベンチャー企業で成長が鈍った時に新規事業を生み出すのは、創業者のみならず社内の人材になってくるのですが、その新規事業の内容には当然理念や価値観が反映されることになります。
創業者が2つ目の新規事業を考え付く確率は5割もないと思っています。なので価値観の共有は非常に重要だと思います。
シンクタンク・ソフィアバンク 藤沢久美様からの学び
・企業の経営のあり方は、世の中の激しい変化にすばやく対応できるアジャイル型へシフトさせる必要があります。
・アジャイル型経営を実現するための判断基準として、経営理念が重要となります。
・バラバラな人が集まってプロジェクトチームを組む時、社員が新規事業を提案する時、経営理念は企業運営のあらゆる場面で判断基準となります。
藤沢様対談の後半「これからのリーダーシップ」 も、是非ご覧ください。