- 配信日:2023.07.31
- 更新日:2024.07.01
オープンイノベーション Open with Linkers
アグリテックの事例~世界が直面する「食」の課題~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『アグリテックの最前線:未来の農業技術と成長企業』のお話を編集したものです。
株式会社スペックホルダー代表取締役社長、農林水産省 農林水産研究所 客員研究員の大野 泰敬(おおの・やすのり)様に、世界・日本が直面する「食」の課題と、世界のアグリテック・フードテックの事例についてお話しいただきました。
将来的な「食」の課題と、最新のアグリテック・フードテックについて知りたい方は、ぜひお読みください。
世界が直面している「食」の課題
現在、地球で暮らす人々の数が増加し、食品に関する危機に直面しています。国連の予想によると 2050 年までに世界の人口は 97 億人に達し、この人口増加に対応するには現在の食糧生産量を 70 % 以上増加させる必要があるとされています。
さらに地球温暖化などによる気候変動が農業生産に大きな影響を及ぼし、収穫の予測を難しくしたり、現在育てている農作物が将来的に育てられなくなったりといったことが食糧供給の安定性にマイナスの影響を与えているのです。
そして持続可能性の問題。適切な農業環境を維持するためには、やはり土の健康、生物の多様性の維持などが必要です。環境に配慮した持続可能な農業が求められています。
また農業は労働集約的な産業であるため、高齢化や若者の農業離れなどによる労働力の確保も大きな問題になってきています。労働力不足を解消するためには、生産性の向上も必要です。
日本が抱える問題
日本も多くの課題を抱えています。例えば、高齢化。 2023 年6月の日本の平均年齢は 66.4 歳で、農業の後継者問題が深刻化してきています。
そして小規模経営の多さ。日本の農業は小規模経営のケースが多く、生産性の低下や効率性の欠如を引き起こし、競争性を損なう可能性があります。
地域の過疎化も問題です。若者が都市部に流出することで、地方の農業の維持・発展を困難にしているという現状があります。
さらに気候の変動による影響や技術導入の遅れなども課題です。世界では食糧問題を解決するために、多額の投資をして最新技術の開発を行っていますが、日本ではこのような技術への初期投資額の少なさから、導入が遅れている状況です。
日本と海外の比較
海外(アメリカ、ブラジル、オーストラリア)と比較しても、日本は小規模経営であり、農耕面積も小さいという部分が目立ちます。
労働力に関しても、海外は大規模な農場そして機械化が進んでいるので、生産性が非常に高いです。しかし、日本は人が作業しているアナログ的な部分が多く、生産性が低い状態が続いています。
さらに持続可能性や政策の部分。日本も取り組みをしていないわけではありません。しかし海外と比べると、例えば EU などは国々が連合を組んで非常に手厚い制度を設けており、日本は遅れをとっている状態にあります。
よく「日本の食品技術力はすごい」という言葉を耳にします。確かに、個人的にもすごいとは思うのですが、どんなに技術として優れていても、ビジネスにならなければ意味がなく、頓挫(とんざ)してしまうでしょう。高い技術力をビジネスにつなげていくべきです。
そのためには、日本はもっと世界へ進出するべきですし、世界と戦いながら新しいビジネス展開をしていくことで、さらに進歩する可能性があるのではないかと考えています。
食の生産者を黒字化させるためにやるべきこと
最近、ウクライナの影響や円高・円安の影響を受けて、原材料費が高騰し、日本からの輸出が一時停止する事態が起きました。
また、世界第2位の小麦生産国であったインドが小麦の出荷を停止するといった異常事態が起きています。
さらに、飼料・魚粉などのコストがこれまでの2〜3倍ほどにまで高騰し、利益を出せない生産者が増加中です。このような状態は生産者の倒産リスクを高め、数年後には食を作る人がいなくなるかもしれません。
そのため生産者を黒字化させることが急務であり、やるべきこととして、次の2つがあります。
- ・生産性の向上
- ・中長期的な施策(省人化/効率化/材料の代替化など)
海外のアグリテックの事例紹介
海外は食品の領域において技術が非常に進歩しています。アグリテックに取り組む企業は世界に数多くあるので、ここではその一部を紹介します。
アグリテック事例1:Indigo Agriculture
Indigo Agriculture という企業では、マイクロバイオーム科学を活用して植物の健康と生産性を向上させていく取り組みを行っています。土壌の微生物をうまく活用して植物の育成をサポートし、特定の微生物の組み合わせに合わせて肥料や農薬を開発し、植物の収穫量や耐久性の向上を目指しています。
そして、 Indigo Agriculture では微生物の力を使って新しい肥料や農薬の開発を行っています。従来の化学的な肥料や農薬に比べても環境に優しく、収穫量・耐久性を向上させる効果があります。
さらに持続可能な農業への貢献ということで、環境への影響を最小限にしながら農家の生産性向上に取り組む活動も行っています。
彼らはオンラインプラットフォームも持っているため、農家はそのプラットフォームで自分たちが作ったものを直接販売したり、農業用の資材を調達したりすることが可能です。
アグリテック事例2:Farmers Business Network
Farmers Business Network という企業は、農業データを活用してプラットフォーマーとしての活動を行っています。農業データは非常に重要で、データを使うことで農業の効率化、生産性の向上に寄与するものです。
彼らのプラットフォームの目的は、生産者が自身の育てた農作物のデータと経営のデータをプラットフォーム上で共有し、他の農家と比較してどのような状況なのか、その上でどのような取り組みをするべきなのかという意思決定をサポートすること。このプラットフォームにより農業プロセスの改善や、コスト削減のサポートを可能にしています。
アグリテック事例3:Granular
Granular という企業は、農業経営ソフトウェアと分析ツールを提供しています。農家が作物の生産性と収益性を最大化するために必要な情報を提供し、効率的な経営をサポートすることを目的とした、農業データを一元管理することが可能なサービスです。
リアルタイムのデータも収集しており、農作物の成長スピードや収穫時期の予測などを見ながら、農業経営者はスケジュールやリソースの効率化などを研究することができます。
生産管理の部分を見ると、肥料の使用量や病菌の状態などの入力・追跡も可能です。
アグリテック事例4:Blue River Technology
Blue River Technology という企業では、 AI を活用した農業機械の開発を行っています。画像にあるのは、雑草にのみピンポイントで除草剤を噴射して、農家のコストを削減する機械です。 AI のアルゴリズムなどを使用しつつ、現在農作物がどれくらい成長しているのかをリアルタイムでモニタリングし、農作物に合わせたケアを展開しています。
また、農家がデータから肥料や水の使用量を最適化し、効率的な農業管理を実現することも目指しています。
アグリテック事例5:Plenty
Plenty という企業は、ソフトバンクが出資している企業です。垂直農業 *と AI を組み合わせた効率的な農業の実現を目指し、技術開発を行っています。垂直農法で農作物を育成しているので、水や肥料の節約を実現できています。
今後、都市農業がさらに普及していくでしょう。 Plenty はこの都市農業の推進を行っており、長い輸送距離や食品のロスを減らして持続可能な食品供給を目指しているのです。
Plenty の技術で 400 種類くらいの農作物が育成可能になってきています。
*垂直農業=高い建築物の階層や、傾斜面をつかって農業をすること。