- 配信日:2023.02.24
- 更新日:2024.07.22
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーション&マーケティングによる新規事業創出〜旭化成の事例〜
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー「旭化成の新規事業創出活動とは~オープンイノベーション徹底解剖」のお話を編集したものです。
旭化成株式会社 顧問の田村 敏(たむら さとる)さまに、『マーケティング & イノベーションによる新規事業創出活動』というテーマでお話しいただきました。
新規事業の創出に興味のある方・携わっている方は、ぜひご覧ください。
◆目次
・旭化成グループの概要
・イノベーション&マーケティングによる新規事業創出活動
・新規事業の事例1:青果輸送・保管システム『Fresh Logi』
・新規事業の事例2:偽造防止デジタルプラットフォーム『Akliteria』
・他社と協業して技術を社会価値に変える柔軟な発想も重要
旭化成グループの概要
旭化成株式会社は、 2022 年に創業から 100 年を迎えました。事業領域は「マテリアル領域」「住宅領域」そして「ヘルスケア領域」の3つです。
弊社は発祥の地である現在の宮崎県延岡市で、会社として水力発電所を作りつつ、そこでアンモニアの化学合成を開始しました。そこから、総合化学メーカーとして「サランラップ」やヘーベルハウスの壁に使われている軽量気泡コンクリート「ヘーベル」などを製造・販売し、その後の多角化・グローバル化を推進し、新たな挑戦を通じて成長し続けています。
今回紹介するのは、 2019 〜 2021 年の中期経営計画「Cs+ for tomorrow 2021」で行ってきた取り組みです。
旭化成の価値提供アプローチ
現在の旭化成としての価値提供アプローチは、グループミッション(注:前中計資料ではグループ理念と表記)である「世界の人々の “ いのち ” と “ くらし ” に貢献すること」を実現するために、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値の向上」という2つのサステナビリティを循環させることが考え方のベースになっています。
価値提供の注力分野として、マテリアル領域に3つ、住宅領域に1つ、ヘルスケア領域に1つの合計5つを定めています。これらを実行するにあたっての指針として、 2022 年の中期経営計画から次の成長事業として、新たに 「10 の Growth Gears 」 というものを設定し、更なる成長を促しています。
この部分で必要な基盤強化が、事業ポートフォリオの進化と新事業創出です。弊社はモノづくりの企業ではありますが、無形資産を意識した活動をすることで G (グリーン)・ D (デジタル)・ P (人財)のトランスフォーメーションを総合的に推進しています。
既存事業を強化してキャッシュを創出し、そのキャッシュを次の成長のための挑戦的な投資としてつなげ、成長基盤を実際に活用しながら顧客に価値提供をしていくことが弊社の目指す姿です。
マーケティング&イノベーションによる新規事業創出活動
今回は、2019年からの中期経営計画「Cs+ for Tomorrow 2021」での3年間で行った、マーケティングとイノベーションを起点とした新規事業創出の取り組みと事例を紹介します。
新規事業創出活動に取り組もうと考えた原点は、ピーター・ドラッカーの著書『マネジメント』に記されている「マーケティングとイノベーション」という言葉です。
『マネジメント』には「顧客の創造」という言葉も記載されていて、捉え方の1つを定義しています。
弊社は基本的にモノづくりの企業であり、 B to B が主体です。弊社の製品や素材を使っていただけるお客様がいて、そのお客様から世の中のエンドユーザーに価値が提供されるという流れになっています。
しかしこの流れだと、弊社はエンドユーザーではなくお客様の目線で止まってしまいます。そうではなく、エンドユーザーが対価を払いたくなるようなベネフィットを弊社自身が見出すことが重要だと考えました。この取り組みこそが「顧客の創造」だと認識しています。
そこで、改めて新規事業創出活動におけるミッション・ビジョン・バリューを定義しました。目指すべき目標は「市場創造型ビジネス創出による新たな社会価値の提供」です。
その中でも、最も重要なのは「新たな社会価値の提供」であり、それを実現できる市場創造型ビジネスの創出にはマーケティングとイノベーションの観点が不可欠だと考えています。
既存事業の枠組みに捉われず、一方ではグループのミッションにきちんと繋がる事業を作り上げることができるかが大きな指標となります。
新規事業創出活動の仕組み・機能
社内で新規事業創出活動を行うことを目標に、上記画像のような仕組みを考案しました。
中心になっているのは「 M & I アクセラレーション・システム( MAS )」で、シリコンバレーなどで行われているような新規事業を創るエコシステムの考え方を社内で実現するという仕組みです。ベンチャーキャピタルやアクセラレーターが新しい事業、あるいはスタートアップ企業を育て上げるための機能としてオープンに存在しているものを、会社内部の機能として実現することを目指して「 M & I アクセラレーション・システム」を創りました。
この仕組みを活用し3年間で6つのプロジェクトを走らせつつ、イノベーションやマーケティングを支援するプラットフォームの構築も進め、MAS内で実証した上で弊社全体への横展開も目指しました。
アクセラレーション・システムの運用概念は、オープンイノベーションによるスタートアップのエコシステムに使われている考え方を改めて整理したものです。アクセラレーション・システムの運用については、プロジェクトをシステムに入れるエントリーから EXIT までを、原則として3年間の期限を設けて推進してきました。
アクセラレーション機能、いわゆる経営資源(ヒト・モノ・カネ)、社内外のネットワーク、弊社の中にあるさまざまなスタッフ機能、イノベーションを実践できる人財育成、これらを機能としてサポートしながら、 MAS の中に入ったプロジェクトの事業化のスピードと価値の向上をどうやって加速化させていくかを、モニタリングの仕組みを作りながらやってきました。
プロジェクト自体を支援するための枠組みとして、マーケティングプラットフォームとイノベーションプラットフォームの構築も、新事業の創出活動の一環として順次推進してきました。このプラットフォームの基盤として IMS (イノベーションマネジメントシステム)の考え方を取り入れながら仕組み・人財育成・DX展開を進め、MAS内のプロジェクトで運用しながらフィードバックを得て支援の整備を行ってきました。