- 配信日:2022.12.13
- 更新日:2024.07.29
オープンイノベーション Open with Linkers
知財戦略のメリット、大手企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける留意点
大手企業とスタートアップとのオープンイノベーションで問題が生じる背景
大手企業とスタートアップとのオープンイノベーションで発生する問題について、公正取引委員会がまとめています。
例えば、
- ・NDA (秘密保持規約)なしに開示請求をされる
- ・どちらか一方の NDA の締結期間が短い
- ・NDA に違反した営業秘密の目的外使用
- ・PoC (技術検証)契約の段階では無償作業を強いられた
- ・共同開発研究において大手企業に知財を全て取られてしまった
- ・作業はスタートアップ側で行ったにも関わらず成果のほとんどを大手企業に取られてしまった
- ・成果物の利用制限を課せられた
- ・ライセンスの無償提供を強いられた
- ・特許出願を制限された
- ・販売先を制限された
などが挙げられています。
このような問題が生じる理由の1つに、大手企業側でスタートアップとのオープンイノベーションに則した契約書のひな形を持っていないケースがあることが挙げられます。
例えば、大手企業側で下請け企業と契約する際の書類のひな形があるとします。このひな形をスタートアップとのオープンイノベーションに使ってしまうと、下請け企業と協業するスタートアップは立場が異なるため、契約内容がフィットするとは限りません。
契約種別の問題事例と解決の方向性
モデル契約と事業連携指針では「スタートアップと連携事業者(大手企業)のいずれかが儲かれば良いのではなく、両者から生まれる事業価値の総和を最大化するという観点から合理性があるといえるか」を基本的な趣旨としています。
すなわち、契約条項を検討するだけでなく、相手方のビジネスモデルやオープンイノベーションの目的といったことを、ヒアリングなどを通じて理解し、どういう契約条件だと相手側にとって致命傷となるのか、またどういう契約条件ならば相手方のメリットとなるのかを見極めることが重要ということです。
また、事業連携指針は独占禁止法のガイドラインとして公表されており、独占禁止法上問題となる行為に優越的地位の濫用というものがあります。優越的地位の濫用とは、スタートアップの地位が取引相手より優越していて、公正な競争を阻害する恐れが生じることです。
ただし、事業連携指針に書かれている注意事項に該当すると即座に優越的地位の濫用に当たるわけではなく、事実関係に照らし合わせて条件に該当しない限りは独占禁止法上問題にはなりません。
秘密保持契約( NDA )における問題事例と解決の方向性
NDA に関する問題事例として、 NDA を締結しないまま営業秘密の無償開示などを要請することが挙げられます。このケースにおいて大手企業の立場からすると、スタートアップ側が積極的に情報開示してくることも考えられるでしょう。この際、秘密保持契約を締結せずに取引を進め、喧嘩別れのような形で取引が終了してしまうと、スタートアップ側から文句を言われてしまう可能性があります。
上記のようなケースに陥らないために大手企業は、 NDA の締結前に営業秘密を開示しないようスタートアップに声かけすることが大切です。
さらに大前提として、それぞれの営業秘密の保有者が大手企業側なのかスタートアップ側なのかを明確にしておく必要もあります。このような状態を防ぐために、秘密保持契約を締結する前に双方が所有していた情報を特定できる状態にし、特に重要な情報については契約書と別紙で特定することも必要になるでしょう。
PoC (技術検証:Proof of Concept )における問題事例と解決の方向性
前提として、PoC の作業を行うスタートアップに対しては委託料を支払うのが基本です。しかし、スタートアップ側が PoC から共同開発の段階へスピーディに進めるために委託料を低額にして契約することを大手企業に提案するケースも考えられます。結果、 PoC が上手くいかず「低い委託料で作業を強いられた」とスタートアップ側が問題にする可能性もゼロではありません。
このような状態を避けるために、特に委託料を無償、あるいは安くする場合は契約書になぜ無償・安価で委託するのか理由を明記することが、大手企業側に求められるでしょう。その際に併せて、契約書には品質保証に関する条項を記載することも大切です。
共同研究開発契約における問題事例と解決の方向性
研究開発の大部分をスタートアップが担当したにも関わらず、取引企業との共同研究開発として扱われてしまった、といった問題事例があります。そもそも、双方がどのような作業を担当するのかを明確にしておかないと、このような問題が発生しがちです。
しかし、契約を締結する段階は研究開発の最序盤に当たり、実際に研究開発を進めなければ分からない部分も多いと思われます。そこで、契約締結の時点で定められる大枠の役割分担だけでも決めておき、作業が具体化するにつれて役割も具体化していくことを契約上明らかにしていくことが求められます。
また最も頻繁(ひんぱん)に議論される問題として「成果物に関する知的財産権の帰属」があります。例えば、正当な理由がないのにスタートアップの成果物が大手企業に帰属することになっていた、などのケースです。
この問題を解決するには、
- 1. スタートアップに単独帰属させて大手企業側がリターンを受け取る方法
- 2. スタートアップから大手企業側に適切なライセンスを定め、権利はスタートアップに帰属させて大手企業側で知財を使うことを認める方法
- 3. スタートアップが倒産した場合などに大手企業側に権利が移譲するルールを用意する方法
などがあります。
仮に成果物の特許権をスタートアップに単独で帰属させる場合、大手企業側に無償でライセンスを付与する契約が公平だと考えられます。しかしライセンスを大手企業が独占する形になってしまうと、様々なプレイヤーとの連携を通じて、自社だけでなく市場も育てていく必要があるスタートアップにとっては、他社と契約する可能性を潰すことになりかねません。
一方、先行投資した大手企業としては、スタートアップが自由に他社と契約することに違和感を覚えてしまうことも考えられるでしょう。
このような問題の解決策として「特定領域」または「一定期間」においては大手企業に特許を独占的に帰属させ、その領域・期間以外ではスタートアップは自由に権利を使えるようにするという落とし所が1つあります。注意すべき点は、例えば期間制限を設けない場合、制約が強過ぎてしまうのではないかという問題が発生する可能性があることです。
ライセンス契約における問題事例と解決の方向性
正当な理由なくスタートアップだけが商品・役務の損害賠償責任を背負うといった問題事例もあります。
事業連携指針には、スタートアップとのリスク配分において無制限にリスクを負わせることに対し疑問を呈すような趣旨の文言が記載されています。
実態として、スタートアップに特許保証をさせたとしても、きちんとクリアランスできるスタートアップはほとんどありません。大手企業からすると、特許保証させたとしても安心できる状態とはいえないので、形式上、特許保証をさせることにこだわることは、独占禁止法違反のリスクと照らし合わせても、得策ではないでしょう。
また正当な理由なく、スタートアップが知的財産権のライセンスを競合相手に無償で提供することを強いられたといったケースもあります。
大前提として必要なことは、ライセンスで許諾する対象の行為を明確化することです。そのうえで利害調整を行うべきだと考えられます。
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大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを上手く行うには
大手企業がスタートアップと協業してオープンイノベーションを行う場合、ここまでのお話の通り、さまざまな点に注意が必要です。
またスタートアップ側としても、問題が発生することなく大手企業と提携したいと考えると思われます。
その際に、企業同士をマッチングするプラットフォームサービスを利用するのも効果的な方法です。仲介するプラットフォーマーがいることで、契約における双方の落とし所を見つけやすくなるでしょう。
そのサービスの1つに『 Linkers Marketing 』があります。サービスの特徴や実例については以下の記事でまとめていますので、ぜひご覧ください。
講演者紹介
山本 飛翔 氏
中村合同特許法律事務所 弁護士・弁理士
【略歴】
2012年 早稲田大学法学部卒業
2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2014年 司法試験合格
2016年 中村合同特許法律事務所入所
2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)
2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)
2020年 特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞
2020年 経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー
2020年 スタートアップ支援協会顧問就任(現任)
2020年 愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師
2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)
2021年 『オープンイノベーションの知財・法務』出版(単著)
2021年 愛知県豊田市主催スタートアップとのオープンイノベーションに関するセミナー講師
2022年 株式会社オンリーストーリー社外監査役就任
2022年 株式会社AVILEN社外監査役就任
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
◆「 Linkers Marketing 」サービス紹介ページ
貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供します。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントを可視化することにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げます。
◆ 「Linkers Sourcing」サービス紹介ページ
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆「 Linkers Research 」サービス紹介ページ
リンカーズのグローバルな専門家ネットワークや独自のリサーチテクノロジーを駆使し、貴社の要望に合わせて、世界の技術動向を調査します。調査領域は素材、素子、製品、ITシステム、AIアルゴリズムまで幅広く、日本を代表する大手メーカーを中心に90社以上から年間130件以上の調査支援実績があります。
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