• 配信日:2021.01.19
  • 更新日:2024.05.16

オープンイノベーション Open with Linkers

STYLUS×Linkers共催「2021年業界別未来予測」 ~Webセミナーレポート~

技術マッチングを広く支援するリンカーズは、グローバルのイノベーション動向を日々追跡しています。

2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、新たな生活様式が誕生し、消費者動向が劇的に変化しました。それに対応すべく、各企業は様々な対策を実施し、企業としての在り方を再定義してきたように思います。

そこでリンカーズは、多種多様な業界トレンドや消費者動向を調査しているスタイラス・ジャパン株式会社の秋元氏をお招きし、新型コロナウイルスが与えた消費者動向の変化と2021年の未来予測をテーマにWebセミナーを実施致しました。

新規ビジネスを検討されている方々、研究開発などに携わる方々、またそれ以外の方々とっても、非常に興味深い内容をご紹介頂きましたので、ぜひご覧ください。



1.データから見た2021年のグローバル市場動向予想

<リンカーズ・國井>
リンカーズのオープンイノベーション研究所では、様々な業界のエキスパートの皆様とタッグを組み、グローバルのイノベーションの動向について調査研究しております。


リンカーズ 國井

本日はスタイラス ジャパン株式会社の秋元様をお招きしてお話を伺います。


スタイラスは、イギリスに本拠地を置き、イノベーション領域で豊富な情報網と専門性の高いリサーチャーを抱えている、グローバル・リサーチファームです。

スタイラスの強みのひとつは、グローバルの「消費者動向の情報」と、そこから導かれる「マーケットの変化の情報」をいち早く整理し、インサイト(なぜ?そのようなニーズが生じているのか?)として抽出できることと認識しております。

この市場に対するインサイトとリンカーズの強みである「技術のニーズやシーズについてのネットワーク情報」を掛け合わせて、全体を見ることによって、本日のテーマである「未来予測」の精度を上げることができると考え、グローバル・リサーチで連携させていただいております。

2021年の未来予測の導入としてマッキンゼー・アンド・カンパニーが公表しているグローバル市場動向に関する大規模な定期アンケート調査についてご紹介します。

毎月アップデートされているこのアンケート調査は、2020年3月から世界のエグゼクティブ2000人以上に対して、今後の市場情勢をポジティブもしくはネガティブに考えているかをヒアリングしています。(本セミナーでは2020年10月のデータを参考にしました)

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調査結果によると、2020年3月の時点では、次の半年に対する世界経済情勢について、ネガティブに考えているエグゼクティブが58%と多数派を占めていますが、公衆衛生やワクチンの開発状況などが明らかになるにつれて、徐々に改善してきています。

9月には57%がポジティブと回答するに至り、10月はやや後退したものの51%のエグゼクティブはグローバル市場についてポジティブな予想をしているという状況がわかります。

さらに詳細に、ワクチンを含む公衆衛生施策と政府の経済政策によるGDPへの影響の大きさをそれぞれ3段階に分け、新型コロナが今後GDPにどのように影響をおよぼしていくか、9つのシナリオから選択するアンケート調査結果も公表されています。

この結果をみると、両方の施策が共にある程度プラスの影響を与え、中長期的かつ段階的ではあるもののGDPは回復に向かうという予想がエグゼクティブの主流であることが見受けられます。

以上から、当初の想定されていたより、新型コロナの経済に対する影響は限定的と捉えられており、今後の経済回復を見越してグローバル企業は積極的にイノベーションに取り組んでいくマインドになっていることが伺えます。

今後、ワクチンの開発成果も出てくるなど、2020年11月以降はどうなっていくのか、どのような新しい事実が出たらグローバル企業のマインドが変わっていくのかなど、このデータを追跡していくことで新型コロナが未来予測に影響を与える要因を分析することができると、リンカーズのオープンイノベーション研究所は考えています。

現状では、マクロな経済環境は回復傾向になりそうだということが分かりました。では、個別の消費者は、どのような「共通のニーズ」にもとづき、どのようなモノやサービスを求めるようになっていくのでしょうか?

スタイラス秋元さんのプレゼンテーションから、私も考察のヒントを得たいと思います。

2.「業界に共通するニーズ」から見た市場予測

<スタイラス ジャパン株式会社 秋元様 >
スタイラス ジャパン株式会社の秋元と申します。本日はこのような貴重な場を提供していただきありがとうございます。


Stylus 秋元様

簡単に自己紹介をさせていただきます。

「スタイラス(STYLUS)」はイギリスの調査会社です。
毎年11月になると、次年度予測や、主要な潮流などを取りまとめ、クライアントに提供しています。

パネル調査を行うようなリサーチ会社とは異なり、消費者ニーズを捉えて事業に落とし込む支援を行っているのがスタイラスの特徴です。

我々がクライアントと仕事をするときに、応えなくてはいけないと考えていることは

消費者の潜在・顕在ニーズはどこにあるのか?
そのニーズをどのようにプロダクトやサービスに反映すべきか?

という2点です。

そのうえで、この情報をクライアントに見せるときには「世代」・「国」・「文化」など様々な業界を網羅した分析結果を提示しています。

本日は「業界別未来予測」というテーマなので、みなさんの中には「2021年の自動車業界はどうなるのだろう」「2021年の飲食業界は?」など、業界ごとの予測をイメージされた方も多いと思うのですが、今回はそういった複数の業界を複数地域の視点で考えたときに、共通する部分や、そこから見える消費者心理など、他領域にまたがって調査をおこなった結果「共通項として見えてくるもの」を重点的に紹介します。

少し前置きが長くなりましたが、30ヶ国以上、50の業界を見てきた中で「共通して見えてくるもの」をお伝えしたいと思います。

なお、今回のWebセミナーでお伝えする内容はスタイラスが「Look Ahead」にて有償で販売している調査報告を含んでいる関係上、本記事では一般公開できる範囲でのご紹介となることをあらかじめご理解いただけますと幸いです。


危機は人々の創造性を刺激する

「Vitra」という北欧の家具メーカーのCEOが「危機は人々の創造性を刺激する」という発言をしています。

2020年新型コロナの影響によって失業率が上がり、給与もカットされ、BLMによって治安が悪化するなど経済的にも社会的にも非常にシビアな1年だったかと思うのですが、そういうときこそ、人々は工夫を凝らして、楽しみを見出しています。

我々が多くの事例やインタビューを通じて消費者のトレンドを取りまとめた結果、2021年に主要になりそうな潮流は以下の8つではないかとスタイラスは予測しています。


stylusの2021年予想

1.公共性というブランド価値
2.リジェネレーション
3.消費行動における意識変化
4.DIYの拡大
5.バーチャルライフスタイル
6.性産業の変化
7.センサリング技術の実用化
8.Diversityにおける意識変化


※本記事は上記コンセプトのうちプレゼンで取り扱われた6つ中心に再編集・要約しご紹介しています。

リンカーズへの講演依頼をお考えの皆さま

皆さまのご要望に応じて、リンカーズが「オープンイノベーション」や「先端技術動向」に関する講演を開催いたします。
ご興味のある方は こちら からお問い合わせください。
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2.2021年のテーマ別市場予測


■公共性というブランド価値

ここで言う「公共性」というのは、「パブリックサービス」というよりも「幅広い人達にサービスを提供できるような仕掛けや仕組み」を指します。

この兆候をあらわすものとして『パラサイト』という2019年に公開された韓国の映画があります。


公共性というブランド価値

これまでは、映画でスポットライトが当たるのは「華やかなセレブの日常」もしくは「スターダムにのし上がっていく人々の物語」といったサクセスストーリーがもてはやされていたと思いますが、今の人々の関心は、その真逆にいる「これまで虐げられてきた人達」、「隠れたマジョリティである人達」を取り上げた物語に向いています。

今回のコロナ禍において、経済的なインパクトを受けている人は世界中に存在し、その人の精神は蝕まれています。

そのような「明日の食事を心配しなくてはならない人達」こそ、セラピーやカウンセリングが必要なのではないかと考えられて立ち上げられたサービスが「Ayana」です。


Ayana

「Ayana」は、カウンセリングやセラピーが必要にもかかわらず、それらが行き届いていない、もしくはそれらの提供にハードルがある人々にサービスを提供する事に焦点を当てています。



活用が進む「Fin-techアプリ」

コロナ禍で露呈した社会課題として、中間層以下の人、あるいは若者のファイナンスリテラシーの低さが挙げられます。

なぜかというと、コロナ禍で給与が減ってしまい、貯金もなく、今回の経済危機を乗り越えられる自信がない人達がたくさんいるからです。

アメリカでは過去12ヶ月に、若者の10人中8人が「親の援助を頼っている」もしくは「援助を依頼したことがある」という結果が出ています。

そこで、今FinTechのようなサービス、AIを駆使した金融サービスが無料で展開されており、利用率も上がっています。

例えば、「Cred ai」というFin-techアプリがあります。これは財務管理アプリの側面が近いのですが、このようなアプリを利用して、月々の支払いやクレジットカード支払いを「効率化」することで遅延損害金などの排除できる支出を抑えることができると期待されています。



再認識される「食」と「健康」の重要性

ダイバーシティなども少し関係してくるのですが、「食」という領域でも公共性が表れています。

「電子レンジで温められれば、食べられるものや、調理済みで且つ安く買えるような食べ物の売り上げが非常に上がってきており、食品メーカーも、こういった安くて量を食べられ、お腹を膨らますことができるような食材やレトルト商品の売上が集中しているという傾向もあります。

また少し角度を変えて「ウェルネス」の話をします。「ウェルネス」は、ここでは「心と体の健康」という文脈になります。これまで「ウェルネス」というと、「白人、裕福、女性」といったイメージが強かったと言われています。

例えば、「自然豊かな、非日常的な場所でリラックスをして、仕事や日常のことから距離を置いてエステなどでリフレッシュする」といったような「ちょっと優雅な旅」といったものが挙げられます。

しかし、これからの「ウェルネス」は男性や子供、白人以外、低所得者層など、様々な人達に拡がっていくと言われています。

なぜかというと、コロナ禍を経て、日常のストレスや外圧など、いろいろな要素が重なって心の健康を害している人たちが増えてきていることが予想されるからです。


「食」と「健康」

例えば、「Yalingbila Tours」というオーストラリアの先住民族アボリジニの人たちがガイドするホエールウォッチングツアーがあり、このように「サービスを受ける側だけでなく、提供者や対象が広がる」ということが「公共性」というキーワードにも当てはまります。

■リジェネレーション

次が「リジェネレーション」というキーワードです。

これは「サステナビリティ」という文脈の話になりますが、「エコ」や「リサイクル」というキーワードに続くものです。

2019年から2020年にかけて「サステナビリティ」や「エコ」が叫ばれており、すでに多くの企業が環境への配慮や技術革新、SDGsに関する取り組みを始めているため、これらのキーワードは「当たり前」の項目になっています。

そのため現在では「環境負荷を低減する」取り組みから「環境改善に貢献する」取り組みへの移行が様々な業界で起こり始めています。素材開発や製造工程においても、今後必ず抑えておくべき項目になるでしょう。


リジェネレーション

■DIYの拡大 -Personalizeの新しいあり方-

「DIY」という単語を聞くと、多くのみなさんは「日曜大工」をイメージするのでは思うのですが、今回お話する「DIY」は、「ホームメイド」や「何かを自分の手で生みだす」という意味で使っています。

コロナ禍によって家で過ごす時間が増え、自由な時間を有効に使うことができるモノづくりが流行し、いろいろなものを自作してみようという動きが出てきています。

現在「DIY」は美容や家電の領域にまで広がってきており、デバイスを購入する人が増えています。こうした動きは特に欧州やアメリカ東海岸から活発になっています。


DIYの拡大

また美術館の中には、コロナ禍で閉館している時間を絵の修繕にあてているところが多いのですが、その修繕の様子をライブストリーミング配信する美術館もあります。

よく「モノ消費からコト消費」という使い古されたような言葉を耳にしますが、この潮流は全く異なります。提供方法や消費者からの見え方、価値の作り方において全く異なる考え方であるということを強調させて頂きます。

また、日本人の我々からするとさほど新しく聞こえないかもしれませんが、「金継ぎ」や「刺し子」も「DIY」のトレンドの中に含まれるようになっており、どちらも海外の企業が商品として売り出しています。

例えば、「Humade」という企業は「金継ぎキット」を売り出し、イギリスのアパレルブランド「Toast」は服の補修をするのに、刺繍や裁縫の延長として「こういうアレンジ方法がある」と「刺し子」の実践方法をWeb上で紹介しています。

このように、日本の文化ではあるものの、海外の人たちがそのまま自分たちのプロダクトやサービスとして提供し、且つお家時間を豊かに過ごしてもらうという付加価値の提供に繋がっています。



■バーチャルライフスタイル

「バーチャルライフスタイル」は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれる、「デジタル技術による業務やビジネスの変革」のトレンドの話が中心です。

今後2、3年のうちに、「DX」 という単語が指し示す定義の中において、この「バーチャルライフスタイル」が中心になってくると我々は予測しています。


バーチャルライフスタイル

詳細はプレゼンテーションでのみの紹介になりますが、以下に挙げられる問いに対する答えとなりそうなサービスやプロダクトが人々の生活を豊かにしています。

・リモート環境において、クリエイティブな議論をするにはどうすればよいか
・オフラインイベントが叶わない今、人を集めて作るムーブメントはどう生み出せるか
・XRの活用によってこれからどんなビジネス機会が生まれるのか
・都心で生じている空きスペースをどう埋めていくのか

■センサリング技術の実用化

今後、IoTやセンサリングを活用したサービスも「これからのDX定義」に含まれる考え方だと言えるでしょう 。

また、DXは5Gの登場によって本格的に加速していくと考えられます。我々は、5Gについて、技術そのものの話よりも5Gの技術がどのように利用されているかという点を重要視しています。

消費者にとって5Gのメリットというのは「映画のダウンロードが5秒でできる」といったことだけではなく、「マルチデバイスへの接続」という点だと弊社では考えています。


マルチデバイスへの接続

これにより、センサリング×車という領域において、これまではデータ取得がメインだった時代からドライバーへの出力も可能になります。

例えば、JAGUARは運転中にドライバーの太ももに刺激を与えることで、歩いているような錯覚を与え長時間同じ体勢でいる疲れを軽減することを実現しようとしています。

■ダイバーシティにおける意識変化

Black Lives MatterやWellnessによって、人々が自分のルーツや自分自身を誇れるようにする動きやブランドの支援が新たなコミュニケーション戦略になりつつあります。

アフリカ系民族の文化やデザインを取り入れた映像作品やSustainabilityと掛け合わせた取り組みなど、ブランド戦略としての重要性を増してきています。

日本のブランドにとっては、社会保障精度や自社の福利厚生などの文脈が主になりますが、日本でも性別・所得・学歴など格差と呼ばれるものをどのように捉えるのかが今後のブランドとしての立ち位置として非常に重要になるため、是非抑えておいて頂きたいテーマです。


ダイバーシティにおける意識変化

4.2021年の市場予測から見えた戦略策定のポイント

最後に、これまでの話をまとめて、2021年に向けてみなさんが戦略策定や計画を練る上で、3つの大きな問いをご紹介させて頂きます。

1. ローカリズム:内向きになる消費の捉え方
2. サスティナビリティ:コロナ禍により変化した環境意識の見極め
3. コンシューマークリエイティビティ:売買以外の接点をどのように構築するか


本記事では、上記の背景やスタイラスなりの答えを公開することはできませんが、急激な社会的変化に晒されている消費者の変化を捉える為に、これらの問いにどのような答えを出すのかを是非思いを巡らせて頂ける機会になれば幸いです。

登壇者


リンカーズ株式会社 オープンイノベーション研究所 所長 國井 宇雄
日本IBMのコンサルティング・サービス部門にて、製造業向けのITコンサルティング・プロジェクトを複数経験後、デロイト・トーマツ・コンサルティングの製造業セクターにて、技術を起点にした事業開発戦略策定、M&A、業務改革など一貫して製造業のイノベーション創出支援に関わる。また、素材企業向けに「オープン・イノベーション・プラットフォーム戦略」「マテリアルズ・インフォマティックスを活用したR&D」といったオープンイノベーションに関連する啓蒙活動を実施。2017年よりリンカーズへ参画し、日本におけるオープンイノベーションについての実践的研究活動を継続しながら、日本のものづくりを強化すべく普及啓蒙活動を行う。 組織学会所属。博士(工学)。技術経営学修士。

スタイラス ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 秋元 陸様
BMやGiXoでのコンサルタント経験を経て、イスラエル系スタートアップのOutbrain Japanの立ち上げに参画し、2019年9月より現職。海外発のテクノロジーやビジネスコンセプトのローカライズが専門。

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