- 配信日:2025.12.25
- 更新日:2025.12.25
オープンイノベーション Open with Linkers
AI新規事業の社会実装プロセス~医療AIで医療ミス撲滅へ~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催したWebセミナー『新規事業と最新技術の社会実装の進め方』のお話を編集したものです。
株式会社AIメディカルサービス 代表取締役 多田 智裕(ただ ともひろ)様が、医療 AI の社会実装における現状と課題を詳細に解説。
早期胃がん検出支援AIの開発から実用化までの道のり、医療ミス撲滅という AI の本質的価値、そして社会実装の最大の壁への対応まで、 2017 年の起業から現在に至る実体験に基づいた知見を紹介しています。
目次
●医療 AI スタートアップ:株式会社AIメディカルサービスの事業紹介
● AI を使った新規事業の重要性
●スタートアップ環境と医療 AI 市場の成長
●日本が抱える内視鏡検査に関する社会課題
● AI 医療機器の社会実装に向けて
・ AI 医療機器と専門家の相互作用
・世界の状況と医療 AI の費用対効果
・医療機関のメリット
● AI の社会実装を「反対」する意見への対応
● AI との「競争」ではなく、 AI と未来を「協創」する
医療 AIスタートアップ:株式会社AIメディカルサービスの事業紹介
まずは株式会社AIメディカルサービスについて簡単に紹介します。医療機器を販売している会社です。またソフトウェアの販売も行っており、現在は早期胃がんの検出支援をする AI ソフトウェアを取り扱っています。内視鏡検査は医師一人で見ているのが実情です。そこで AI が一緒に早期胃がんの可能性がある病変の検出支援をしてくれるソフトウェアを、開発・販売することにしました。
早期胃がんは非常に見つけにくく、見逃しを減らすため、 AI によるダブルチェックを行うソフトウェアを開発しました。
AIを使った新規事業の重要性
マーク・アンドリーセンは2023 年に、「AI Will Save The World 」というコラムを発表しています。その内容を要約すると、過去 4000 年において人類は知能を使って生活水準を1万倍以上に高めており、遥か昔と比べても良い暮らしができるようになっている。そして AI は人間の知能を根源的に拡張させてくれるため、あらゆる分野で生活水準を向上させるというものです。
要するに、新規事業をやるのであれば AI を使うべきであるということです。
AI は人間の知能を拡張してくれます。肉体労働は既に機械がかなり代替してくれるようになりました。頭脳労働も AI が代替してくれるようになるでしょう。そうすると、感情労働こそ人間が果たす重要な役割になっていきます。感情を演出したり、モチベーション管理をしたりすることは、 AI ができない領域であり、その領域が人間の仕事の大部分を占めていくのです。
このようにテクノロジーが発展すると、感情労働が重要化されていきます。
私が専門としている医療分野、特に外科の分野においては AI が専門技量をある程度補うことができるため、治療の腕よりも医者としての人間性が重視されるようになってくるでしょう。
スタートアップ環境と医療 AI市場の成長
ここで、弊社のようなスタートアップが置かれている環境についても触れておきます。
スタートアップ育成5か年計画が 2023 年から進められていて、スタートアップを始めるならこれ以上ない環境といえるでしょう。 スタートアップへの 10 兆円の投資、スタートアップ 10 万社、ユニコーン 100 社という目標が掲げられており、国がスタートアップや新規事業を積極的にサポートしていこうとしている状況なのです。
このような環境と AI は非常に相性が良いと考えています。 AI ほど、今後市場が伸びると期待されている分野はありません。
医療 AI においても、 2030 年にはグローバルで 25 兆円規模の市場になるという、とんでもない勢いで成長することが予想されています。あと5年もすれば、世界全体で「 AI を使わないで医療をやっているのは考えられない」という状況になるのではないでしょうか。
日本が抱える内視鏡検査に関する社会課題
先ほど触れた、私の専門分野である内視鏡について。社会課題と照らし合わせながら解説していきます。
日本は先進国の中で、胃がんで亡くなる人の数が人口当たり最も多い国です。同じく大腸がんで亡くなる人の人口当たりの数も、先進国の中で最も多い国という状況が続いています。日本が抱える社会課題の1つです。
また、日本のみならず消化管のがん(胃がん、食道がん、大腸がん)は、全世界でのがん死亡の約3分の1を占めています。世界的に見ても消化管のがんは解決すべき社会問題といえるでしょう。
消化管のがんは、内視鏡検査で早期発見し治療すれば、完治させることができます。内視鏡検査は現状、消化管のがんを唯一「確定診断」できる検査です。ただし、検査は人間の目で行っているため、どうしても見逃しが起きてしまいます。さらに内視鏡医の質・量ともに不足しているため、年間数百万人の命が世界で失われてしまっているのが実情です。
そこで 人間と AI が一緒に検査することができれば見逃しが減ると期待して、弊社はソリューションを提供しているのです。
胃がんはステージ1の早期がんの段階で見つかれば、 97 % 近くが完治します。つまり、胃がんを早期発見することは患者さんの命を救うことに直結するのです。一方、ステージ3まで進行してしまうと、5年後の患者の生存率は 50 % を切ります。発見が遅れると、高額な医療費をかけても患者の半分しか救えないのです。
がんの早期発見がいかに重要で、これをクリアすることが世界的な社会課題の解決になることが、お分かりいただけるかと思います。