
- 配信日:2025.07.03
- 更新日:2025.07.03
オープンイノベーション Open with Linkers
リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣
リコー社内へのTRIBUSの浸透・根付かせ方
ここまでに紹介した取り組みを社内に根付かせていくことも重要です。しかし、 TRIBUS 発足当初リコーには「自社でやることに意義はあるのか?」「一部の人たちのお祭りになってしまうのではないか?」という懸念がありました。それをどのように解消していったのか紹介します。

TRIBUS では創業者の精神に立ち返るという姿勢をとっています。リコーの創業者・市村 清(いちむら きよし)はアイデアマンで、様々な事業を興しました。彼の言葉に「儲けるより儲かる」というものがあります。これは「目先の儲けではなく、世の中のためになること、社会課題に真摯に向き合うことによって儲けにつながる」という意味です。このような考え方を社員に広く伝えることによって、「これまで主力としていた事務機器以外にも新しい事業を自分たちの手で作り出すことができるんだ」という意識を喚起しています。

それから、既存のプロセスに縛られないという点も大切です。新しいことをやろうとすると、どうしても既存のプロセスが頭にちらつき邪魔をします。 TRIBUS は 2019 年の発足当時、社内向けには「リコーファミリーグループチャレンジ」、社外のスタートアップ向けには「リコーアクセラレーター」という名前でした。しかし、自社のプロセスに縛られないという意味と、統合型プログラムの意味を強くするために、 TRIBUS という名前に変更し、新しいブランドとして立ち上げたのです。 TRIBUS という名前にはリコー社内の起業家やスタートアップ、社員みんなで新しい事業を生み出していくことや、1人のアイデアをきっかけにチームができ、事業を社会実装していくという意味を込めています。
TRIBUSの様々な参加形態

TRIBUS を一部の人たちのものにしないために、様々な参加形態を用意しています。参加する方々の主軸は、社内から事業を提案するリーダーやメンバー、スタートアップとの共創プログラムの窓口となる部門の方、スタートアップに伴走する社員などです。
しかし、ここで挙げた全員が TRIBUS に応募できるわけではなく、プライベートや業務状況によっては参加したくても見送るという方もいます。そういった方たちにも、少しでも TRIBUS に参加できるよう、挑戦する人たちを得意分野でサポートする「サポーター」の役割や、イベント参加や実証検証に協力する「 TRIBUS コミュニティ」という形での参加も可能にしています。
「 TRIBUS コミュニティ」は「興味から始まる新たな出会い」というテーマで、何となく興味があるけれど、具体的なアイデアがない方でも参加可能としています。ただ、コミュニティが閉じたものになるのは良くないので、 TRIBUS で生まれた事業のヒアリングや PoC の協力だけでなく、既存事業部の新規事業企画のヒアリングやトライアルなどの協力支援もできるようにし、会社全体で新規事業を起こすためのハブとしても機能させています。
「サポーター」は社員の本業でのスキル以外にも、学生時代やプライベートを含めた様々なスキル・経験・コネクションを発揮してもらうための役割です。
それから、スタートアップに伴走する社員について。 TRIBUS に参加するスタートアップには「リコーのアセットを使い倒してください」と伝えています。ですが、リコーは部署の数が多く、スタートアップからすると、どこにどんなアセットがあるかわからないという問題があります。そこで、スタートアップに寄り添う形の伴走社員「カタリスト」を用意しているのです。
TRIBUSを運営する仕組み

TRIBUS の運営体制について紹介します。 TRIBUS を運営して新しい取り組み・プロセスを実施するには、私が所属するコア事務局だけでなく、コーポレート部門(スタッフ系部門)の影響力やコミットも大事です。各部門には「 TRIBUS 専門事務局」として1人ずつ担当の方をアサインしてもらい、各事業チームと一緒に既存のプロセスとは別の形で、例えば「この事業を大きくするには知財戦略や契約をどうしたら良いか」などを考えてもらっています。
また、 TRIBUS のような取り組みに挑戦するには、マネジメント層の理解も必要です。そのための施策を2つ紹介します。
1つは、挑戦する社員の直属の上司を表彰する『チェンジドライバー賞』という制度です。物事の変化に挑戦する人だけでなく、挑戦者を応援する役割の人たちを変革の推進者として表彰するべく、このような制度を作りました。会社として、挑戦する部下を後押しする上司の存在も非常に重要だという認識を広く伝えることが目的です。
もう1つは、 TRIBUS で何が起きているか、何をしているのかを伝えるために、『 TRIBUS レポート』というメルマガを挑戦者の上司や経営トップ層に送っています。目的は TRIBUS の活動や価値を会社のトップからボトムまで広く伝えることです。
TRIBUSが統合型プログラムであることの意義

TRIBUS は「統合型」が特徴で、社内の新規事業プログラムとスタートアップ向けのアクセラレータープログラムを組み合わせた仕組みです。このような仕組みを運営するには大きな工数がかかります。それでもリコーが TRIBUS を続けているのはなぜか、説明します。
例えば、スタートアップとのアクセラレータープログラムだけを行うと、窓口となる部署はスタートアップとの接点を持てますが、多くの社員にとってスタートアップは遠い存在のままです。一方、社内の新規事業プログラムだけを行うと、多くの社員がプログラムの中に閉じこもり、社内の文化や発想の中だけで物事を考えがちです。
TRIBUS は両方を行うことで、スタートアップとの協業に社内の多くの人が関わるチャンスができ、社内チームもスタートアップから刺激を受け、新しいヒントを得る機会になります。
オープンイノベーションと社内新規事業を実現させるためには、2つのプログラムを別々に行うのではなく、リンクさせる形で行うことが重要です。
TRIBUSに対するリコー社内の反応
TRIBUS に対する RICOH 社員の評価を聞いたところ、最も多かった回答は「RICOH グループ社員みんなが参加できる点が良い」というものでした。実際に過去の応募者を見ると、入社したばかりの新入社員からシニア社員まで幅広く応募してもらっています。また、応募者の所属部署を見ると、事業企画系だけでなく技術者や営業など様々な部門から応募があることもわかりました。まさに「リコーの社員みんなが参加できる制度」になっていると言えます。
次に「外部有識者判断」、つまり社外のベンチャーキャピタリストによる審査があることが高く評価されています。そして「トップのコミット」もポジティブに評価されており、ボトムだけの活動にならないということは TRIBUS がずっと重視してきた点です。
講演者紹介

森久 泰二郎 氏
株式会社リコー 未来デザインセンターTRIBUS推進室 TRIBUSスタジオ館長 事業創造プロデューサー
【略歴】
宇宙科学研究所にてX線人工衛星「すざく」の開発の後、株式会社リコー入社。複写機制御システム開発、民生用デジタルカメラ開発を経て、産業機器に関する新規事業にプロジェクト・プロダクトマネージャーとして従事。
現在は社内外統合型アクセラレータープログラムTRIBUSの運営及び海老名にあるTRIBUSスタジオの運営を行う。
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