
- 配信日:2025.06.17
- 更新日:2025.06.17
オープンイノベーション Open with Linkers
中国技術の最前線!BATH+α が切り拓くイノベーションの現在地
テンセントWeChat:中国社会を支えるスーパーアプリ

笠原:個々のサービスを高度化していくことで、より満足度の高いサービスとして仕上げていくことはもちろん重要ですが、それだけではなく効率的に各サービスを提供する仕組みも構築することも大切です。その一例を紹介します。
画像はテンセント( Tencent )が提供する WeChat です。元々は LINE のようなメッセージングアプリでしたが、 WeChat Pay といった支払い機能との連携など、コミュニケーションツール以外の機能も有しています。
このアプリでは、先ほど紹介した地下鉄の運賃支払いはもちろんのこと、例えば自分自身が売る側として商店を立ち上げて商売をするための支援機能も備えています。さらに、先ほど触れた領収書や契約書の電子サイン機能、個人のアカウントと紐づく形で活用できる企業向けのサービスプラットフォーム、政府向けのサービスプラットフォームも負担なく利用可能です。
加えて、アプリで ID を提示することで医療サービスを受けられるようになっており、地図連携など他のサービスとも連携していく広がりを持たせられるアプリとなっています。利用者が好んで使える仕組みが構築され、単一の目的だけではなく、複数の用途で多くの方に役立つものが提供できる仕組みが出来上がっていると言えます。
久保様も日常的に WeChat を使われていると思いますが、新しい機能やミニプログラムができた際は気軽に使ってみようと思われるものでしょうか?
久保様:そうですね。ミニプログラムについて、皆様にとってあまり馴染みがないかもしれません。少し補足しますと、皆様のスマートフォンには様々なアプリがインストールされていると思います。例えば Google や LinkedIn など。ミニプログラムとは、 WeChat の中からあらゆるアプリにアクセスできる仕組みです。 WeChat を通じて、例えば飲食店での決済などを個別のアプリをインストールすることなく、 WeChat さえあればできるようになります。これがミニプログラムです。
WeChat があれば画像にあるようなあらゆるサービスが個別のアプリをインストールせずに利用可能で、商店を開いたり、電子領収書を使ったり、就職活動をしたりといったことが全てできるようになっています。少し極端な表現をすれば、中国では WeChat さえあれば、他のアプリをほとんど使わずに生活できるような環境が整っています。
ご質問いただいた新しいミニプログラムが出てきた際に使いたくなるかという点ですが、非常に魅力的で、すぐに使いたくなります。個別のアプリに対する魅力ももちろんありますが、ミニプログラムならではの利便性と簡単に使い始められる特性があります。
どういうことかというと、通常新しいアプリを初めて使う際にはアカウント名やメールアドレス、電話番号など様々な情報入力が求められます。しかし WeChat と連携すれば、すでに WeChat のアカウントを持っているため、そのアカウント情報を使うことで新しいアプリケーションのユーザー認証がワンクリックで完了します。初めてアプリを利用する際の様々な情報入力が簡略化されているので、新しいユーザー体験をしたいと思ったときに、1〜2分あればすぐに始められるという点で非常に便利です。
笠原:ありがとうございます。利用にあたってのハードルが低いことも、より広く使われる要因になっているのだと理解しました。
テンセントの企業概要

笠原:ここからは WeChat を運用しているテンセント( Tencent )について簡単に紹介します。
画像に記載の通り、 1998 年に深圳に本社を構える形で設立されました。主な事業としては、ゲーム事業、また先ほどから話題に上がっている WeChat 、 QQ といったコミュニケーションアプリも展開しています。加えて支払い機能の WeChat Pay も主だった事業です。
また「サスティナブル・ソーシャル・バリュー・オーガニゼーション」という形で、自社技術とプラットフォームを社会に還元する動きも取られており、単に利益を上げるだけではなく、社会貢献にも力を入れている企業となっています。
さらにコミュニケーションと医療ヘルスケア領域にかなり注力していると感じています。
久保様からもお話があったように DeepSeek を各社が取り入れようとしている動きもあるかと思いますが、このあたりをもう少し久保さんから補足していただくことは可能でしょうか?
久保様:はい。 DeepSeek については毎日アップデートが激しい状況ですが、特にビッグテック企業が DeepSeek を取り入れていくモチベーションとして、1つには DeepSeek が一般的に公開されているアプリケーションをそのまま使うと、 DeepSeek のバックグラウンドにあるサーバーなどを使うことになり、現在そこにかなりアクセスが集中しています。 DeepSeek はオープンソースで提供されているため、ビッグテック企業が DeepSeek を導入することで、クラウド運営のノウハウを活かして DeepSeek を動かし、単体では追いついていないユーザー体験をカバーしようとしているという点が挙げられます。 DeepSeek のブランド価値と自社のクラウド運営ノウハウを掛け合わせて、ユーザー体験を一新していくという取り組みです。特にテンセント( Tencent )がそういったビジネスを開始しています。
テンセント( Tencent )自体も元々 LLM ベースの大規模AIモデルを提供してきてはいますが、最近までアプリ市場ではやや順位が落ちていました。そこで DeepSeek を取り入れて選択肢として使えるようにしたところ、アプリの人気度やインストール数、利用率が急上昇したという効果も出ています。
笠原:ありがとうございます。
テンセントの注目技術

笠原:テンセント( Tencent )の注目技術についてご紹介していきます。
画像の一番左側は、契約書や領収書を電子で発行・管理することができるサービスで、個人ユーザーにも対応しているものとなっています。
真ん中は緊急地震速報サービスです。日本のスマートフォンでも災害時に通知が来ることはご存知だと思いますが、 WeChat 上では通知が来るだけでなく、そのミニプログラムツールで救助を求めることも可能となっています。日常的に使用しているアプリで救助を求められるというメリットがあります。
右側は手のひら認証に関する技術です。手のひら認証だけでなくヘルスケアにも注力している背景から、日常で使えるものとヘルスケア・医療ヘルスケア領域での技術開発をセットで進めているのではないかと考えられます。
中国社会の実態:交通分野における自動運転タクシーとスマート交通システム

笠原:続きまして、中国社会の交通面での実態について紹介します。
画像にある車はロボタクシー、つまり自動運転タクシーで、北京や上海などの主要都市の一部エリアで実際に利用可能となっています。また 2025 年4月からは北京でレベル3以上の自動運転についての条例が施行されるとのことで、自動運転については非常に前のめりで進めている状況です。
自動運転だけではなく、右上の写真にある EV についても普及が進んでおり、充電ネットワークもかなり整備されてきています。
個人の交通だけでなく公共交通に関しても進展しており、ミニプログラムでバスのルートをオーダーすることが可能です。利用者それぞれが行きたい場所や乗りたい場所をアプリで設定することで、それに応じたルートが提案されます。必ずしも各個人にとって最適なルートになるとは限りませんが、可能な範囲で要望が反映される仕組みが構築されているのです。

また、鉄道に関してもAIによる故障検知、 5G の活用、統合監視システムで安全性を確保した運行などを実施しているとのことで、個人交通、公共交通ともに進展している実態があります。この背景には個々の技術やサービスが高度化していることはもちろん、バイドゥ(Baidu)マップが大きく影響していると考えられます。バイドゥ(Baidu)マップは Google マップのようなものですが、以前から地図やナビの機能が充実しており、初心者ドライバー向けのナビであったり、観光スポット情報が充実していたりします。さらに AR チームなども加わり、デジタルツインのようなものも形成されています。
このように自動運転に必要なリアルとデジタルの両面を充実させていき、結果的には自動運転の高度化につなげているという分析ができると考えています。
久保様のほうで交通、特に自動運転において技術的に高いレベルだと感じる点があれば、ご紹介いただけますか?
久保様:そうですね、やはり自動運転については非常に進展しています。自動運転というとアメリカのテスラをイメージされる方が多いのではないかと思います。テスラの特徴的なところとして、自動運転の安全管理において視覚認識、つまり画像をAIで認識したり、あるいは LiDAR (ライダー)などのセンサーを使って周囲を認知したりする取り組みがあります。テスラの場合は LiDAR などのセンサーをあまり使わずに人間と同じような物の見方、すなわち画像ベース・視覚ベースでの認識を行っているという特徴があります。
また、センサー情報の統合は精度が高い一方で、計算コストやシステムの複雑化という課題もあるのではないかという議論もあります。
中国においては両方のアプローチが研究されています。センサーと画像認識を統合したやり方と、テスラと同様に視覚だけで認識するやり方の両方を進めており、中国の EV 各社がそれぞれ自動運転の技術開発に取り組む中で、様々な技術ナレッジが蓄積されてきています。
また画像にある自動運転タクシーについて、例えばバイドゥ( Baidu )は北京に専用の自動運転実証実験場を持っています。最近ではトヨタがアーバンシティで地下に大きな実験施設を作っていますが、バイドゥ( Baidu )はかなり前から北京でそうした実験場を持っており、実際にソフトウェアを実装した技術が実際の環境でどれだけ実運用に耐えられるかを検証してきました。
このようにソフトウェア技術の更新とハードウェアへの搭載、そして実運用に耐えうるかの実証実験まで進めているのが中国の大きな特徴だと認識しています。
笠原:ありがとうございます。
中国の注目技術(一部紹介):ロボティクス、宇宙産業
笠原:ここからは技術リストについて一部紹介します。
中国のロボティクス技術:UBTECH、テンセント、SenseTimeの事例

まず、ロボティクス技術の進化として、左から UBTECH、テンセント( Tencent )、 SenseTime の事例を挙げています。
一番左の UBTECH はロボットの開発や販売を行う企業ですが、特にプラットフォームの展開に注力しています。従来、物流用ロボットであれば物流用の OS 、商業向けであれば別のプラットフォームというように用途別の開発が一般的でした。しかし UBTECH では、すべてを統合的に同一プラットフォーム上で異なる機能を持つロボットを開発・展開している点が特徴です。実務をこなすロボットだけでなく、教育用途も同様のプラットフォームで提供している点も注目すべき点といえるでしょう。
真ん中のテンセント( Tencent )が開発した4足歩行ロボット『 Max 』は、ボストンダイナミクスの『 Spot 』とほぼ同等の機能を持ちながらも、コストを大幅に抑えた形で開発を進めています。
右側は SenseTime の展示会の様子です。同社は自動車のスマート化、特に自動運転向けのプラットフォーム開発に注力しており、 30 社以上の自動車メーカーに 3,600 万台以上を搭載する形で展開しています。ロボットのハードウェアとソフトウェアの連携を実現するプラットフォーム開発に各社が注力している印象を受けます。
中国の宇宙ビジネス:通信衛星、ロケット開発、宇宙旅行

もう1点、商業宇宙産業の成長と新たなビジネス機会の創出について簡単に紹介します。
画像左側は Yuanxin Satellite 社の通信衛星で、既に打ち上げて実際に運用している状況です。中国版スターリンク、いわゆる中国発の衛星通信ネットワークの利用が今後進んでいくと見込まれます。
加えて、Deep Blue Aerospace 社による再利用可能な液体燃料ロケットや、Galactic Energy 社による小型の固体燃料ロケットの研究開発も進んでいます。小型ロケットに関しては既に実用化されています。ロケットの打ち上げから衛星の運用まで、宇宙全般に関して中国は国も民間企業も力を入れていることが今回の調査でも明らかになりました。
画像に記載の通り、宇宙旅行や地球外ビジネスについても今後進展する可能性が高いと考えられます。中国での宇宙旅行の販売などの取り組みは実際にあったのでしょうか?久保様の調査結果を伺えればと思います。
久保様:実は現時点では EC サイトで宇宙旅行を購入することはできないのですが、過去にそうした販売活動が行われていました。6人乗りの小型ロケットで、1人あたりのチケット金額は約 3,000 万円程度の価格設定でした。ライブ配信では、1人あたり約 2,000 万円の価格設定で販売したところ、わずか 30 分程度で完売したという実績が出ています。ただし、実際の宇宙旅行は 2027 年に開始する予定となっています。
笠原: ありがとうございます。
「中国の経済発展を支えるテクノロジープラットフォームと先進技術」レポートの紹介

リンカーズが作成した「中国の経済発展を支えるテクノロジープラットフォームと先進技術」のレポートのご紹介です。
本レポートでは、技術リストとして「2022年以降を中心に社会実装が進んでいるBATH+αのソリューション・サービスについて」 150 件の注目技術を Excel ファイルにまとめています。また、ここまでお伝えした内容をより詳しくまとめたPDFファイルが含まれています。「日本や他国での技術展開のヒントや気づき」といった分析内容を盛り込んでいます。
具体的には、例えばどのような人材がいるから中国が発展したのか。仕組みとしてどのような構造があるからうまく機能しているのか。それが日本ではどのように工夫すべきかといった点を簡潔にまとめています。ご興味があれば以下からサンプル資料をお申し込みいただけますので、ぜひ活用をご検討ください。
セミナー講演資料のダウンロードについて
本記事に関するセミナー講演資料を、以下のボタン先の申込フォームからお申込みいただけます。申込フォームに情報を入力後、送信ボタンを押してください。その後、自動的にページが切り替わりますので、そちらから講演資料をダウンロードしてください。
講演者紹介

久保 洋量 氏
匠新(ジャンシン)創新加速事業部 マネージャー
【略歴】
大学卒業後、みずほ銀行で融資担当者として法人営業を経験。澪標アナリティクス、三井情報、PwCコンサルティングでは、データサイエンティスト/DXコンサルタントとして企業のデータ/AI活用支援を実施。ビッグデータ解析を通じたビジネス施策提言からAIの開発まで担当。その後、上海で1年の留学を経て、2024年に匠新に参画。現在は、中国の最新テクノロジー調査や日中企業間のマッチング、新規事業創出支援を担当。AIや金融領域の専門知見を活かし、最新テクノロジー起点で、中国企業と日本企業の連携を支援。

笠原 梓司
株式会社リンカーズOI研究所 ビジネス推進部 営業・マーケティングチームリーダー
(講演時の肩書)
【略歴】
大学院修了後、NEC中央研究所にて組込み機器のH/W、S/W両面の開発、NEC北米研究所と連携したデータ解析の研究及びビジネス化に従事。研究成果の防災事業への移管に伴い事業部門に異動し、同技術のビジネス化に従事。その後、PwCコンサルティングのテクノロジーコンサルティング部門にて、AI・データ分析、ロボティクス、XR、ドローン等の新興技術のビジネス化、利活用に関する構想策定、PoC、導入支援に従事。2024年8月より、リンカーズOI研究所で技術調査サービスの拡販・運用に関する戦略立案と実行を両面で推進。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
リンカーズ株式会社は、ものづくり企業向けにイノベーション・オープンイノベーションを支援している会社です。技術パートナー探索やユーザー開拓など、ものづくり企業の様々な課題に対してビジネスマッチングを軸にしたソリューションをご提供しています。またあらゆる技術テーマでのグローバル先端技術調査も承っております。
◆技術パートナーの探索には「 Linkers Sourcing(リンカーズソーシング)」
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆技術の販路開拓/ユーザー開拓には「 Linkers Marketing(リンカーズマーケティング)」
Linkers Marketing は、貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供するサービスです。面談に至らなかった企業についても、フィードバックコメントが可視化されることにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げていただけます。
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Linkers Research は、貴社の業務目的に合わせたグローバル先端技術調査サービスです。各分野の専門家、構築したリサーチャネットワーク、独自技術データベースを活用することで先端技術を「広く」かつ「深く」調査することが可能です。研究・技術パートナー探し、新規事業検討や R&D のテーマ検討のための技術ベンチマーク調査、出資先や提携先検討のための有力企業発掘など様々な目的でご利用いただけます。
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