• 配信日:2024.12.20
  • 更新日:2024.12.20

オープンイノベーション Open with Linkers

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

カーボンニュートラル/サステナビリティを見据えた肥料・飼料製造の最新技術20選


ここからはリンカーズ株式会社の浅野より、カーボンニュートラル / サステナビリティを見据えた肥料・飼料製造の最新技術というテーマでお話ししていきます。

まず、飼料を中心に何かしらのビジネスに取り組もうと思ったときにどういうことができるか、そのための情報収集には以下の3つの方法があると考えています。

  • ・マーケット情報収集
  • ・事例調査
  • ・技術調査

今回は事例調査・技術調査の参考になるデータとして論文や特許レベルの技術事例を調査した結果を紹介していきます。

昨今、カーボンニュートラル / サステナビリティを見据えた肥料・飼料製造の技術革新が進んでいる状況です。肥料・飼料製造に関する先進的な開発事例を 20 件ピックアップしました。

アンモニアの製造技術事例

アンモニアの用途の1つとして肥料があります。アンモニアの有名な製造方法にハーバーボッシュ法という、空気中の窒素を触媒として使ってアンモニアに変えるものが数十年前から使われています。しかしハーバーボッシュ法は非常に高い圧力と高い熱を使って空気中の窒素をアンモニアに変えるため、大量のエネルギーが必要です。そこでエネルギーを使わずにクリーンなアンモニアを作る技術の開発が進められています。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

まずはマサチューセッツ工科大学( MIT )の事例です。コンパクトにシステム構築できるアンモニア合成技術を開発して、それをサハラ砂漠以南のアフリカなどに設置し、肥料を生産できるようにする取り組みを行っていると発表されました。

技術的には電極構造が特徴的であり、メッシュ構造を使うことで効率よく空気中の窒素ガスからアンモニアを生成します。

スタンフォード大学の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

スタンフォード大学では、水と窒素からアンモニアを生成する環境配慮型の技術を開発しています。先の事例と同じようにこちらもメッシュ状の電極を使い、水や窒素を霧吹きのような形で微小液滴にしてから反応させることで効率良くアンモニアを生成します。

マサチューセッツ工科大学とスタンフォード大学は、なるべく小規模で環境負荷の低いアンモニア生成技術を開発しているという点で共通しています。

京都大学、理化学研究所、 Symbiobe株式会社の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは日本の事例で、電気を使うのではなく菌を使って窒素を土の中に固定化するという研究です。紅色光合成細菌という菌が大気中の二酸化炭素と窒素を土の中に成分として固定化させる能力が高いということで注目されています。

九州大学、welzoの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

他にもさまざまなアプローチがあり、例えばプラズマを空気中に発生させることで大気中の窒素分子を分解して、アンモニアなどを効率的に作るような技術も開発されています。

UNSWニューサウスウェールズ大学の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

UNSWニューサウスウェールズ大学では、工業排水や生活排水など硝酸塩を含む排水からアンモニウムイオンを生成する技術を開発しています。空気中からだけでなく排水からもアンモニアを取り出すことができるようになってきました。

リンの製造技術事例

肥料を作るのに必要とされている3要素が「窒素」「リン」「カリウム」です。窒素はここまでに上げてきたアンモニアが関連する要素。ここからは2つ目のリンを製造する技術事例を紹介していきます。

特に日本は国内でリンを作ることができず、ほとんどを海外からの輸入に依存している状態です。そのためリンをどう確保するかが課題となっています。その対策として廃棄物からリンを取り出してリサイクルする取り組みが活発化しています。

クボタの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらはクボタの事例で、下水汚泥からリンを再利用する技術を開発しています。従来、下水汚泥には重金属などが混ざってしまい、それらを取り除くのが難しくリンの回収方法としては課題があったのですが、重金属を効率良く取り除く技術を開発し、リンを再利用できるような枠組みを作っています。

横浜市、 JFEエンジニアリング株式会社、 JA横浜の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらも下水汚泥からリンを回収して採用する事例で、横浜市、 JFEエンジニアリング、 JA横浜が取り組んでいます。

国際農林水産業研究センターの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは農林水産業研究センターの事例です。西アフリカのブルキナファソという地域に、リンの鉱石が大量に眠っているのですが、この地域のリンの鉱石は品質があまり良くないため今まで肥料用には活用できませんでした。このような低品質なリン鉱石を高品質なリンの肥料に適用できるようにする研究開発を進めています。

シドニー工科大学の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらはシドニー工科大学の事例です。尿の中からリンを回収して、それを肥料として活用していこうという研究です。

実際にパセリの栽培試験で人間の尿から採集したリンで作った肥料を使い、効果が出ています。

微生物や虫の力を利用した飼料の製造技術事例

次は微生物や虫を使って飼料・肥料を作っていく技術の事例を紹介します。

株式会社ユーグレナの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは日本の企業である株式会社ユーグレナの事例です。

これまで、ユーグレナを栽培してバイオ燃料を取り出した後、その残渣が廃棄物として出てしまうという課題がありました。その残渣が肥料に使えるのではないかということで、株式会社ユーグレナと明治大学、戸田建設とが共同で研究を進めています。実際にユーグレナの残渣をイチゴの栽培で肥料として使ったら効果が出たとのことで、今後さらに注目されていく技術になるのではないかと考えています。

国立研究開発法人産業技術総合研究所の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは国立研究開発法人産業技術総合研究所が中心になって進めている研究です。食品加工の排水から水耕栽培用の有機液肥を作ろうと取り組んでいます。近年発見された Comammox 菌を使うことで廃棄物を肥料に変えられるのではないかと期待されています。

この研究のポイントは液肥です。液体の肥料を有機材料で作るのは難しいとされてきましたが、この細菌を使うことで有機肥料の液体を作れるようになったことが、革新的な結果だと言われています。

株式会社ムスカの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは株式会社ムスカの事例です。有機廃棄物を食べて、肥料や飼料に使えるように分解するプロセスを高品質かつ高速で行うイエバエの品種改良に成功しました。このイエバエの幼虫が畜産糞尿や食品加工残渣などの有機廃棄物を大量に摂取・分解し、わずか1週間で高品質な有機肥料とタンパク質豊富な飼料に変換するとのことです。他の微生物を使った堆肥化と比べても処理時間が非常に短く、トータルでかかるエネルギー効率が低いと言われております。

Deep Branch Biotechnologyの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは海外の Deep Branch Biotechnology という企業の事例です。二酸化炭素と水素、水、微生物を使い、独自のガス発酵プロセスによって高タンパク質の飼料を製造するという技術を研究しています。

二酸化炭素から高タンパク飼料を作る技術で、カーボンニュートラルと肥料の問題を両方とも解決できるとして非常に注目されています。

株式会社スーパーワームの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは株式会社スーパーワームが宮崎大学と共同で行っている事例です。スーパーワームを機能性飼料として使う技術を開発しています。廃棄物を餌としてスーパーワームを養殖し、そのスーパーワーム自体の粉末を飼料として使っていくというものです。

nextProteinの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは海外の nextProtein という企業の事例です。昆虫の幼虫を飼育して、それをタンパク質の粉末や脂質の製品として活用する技術を開発しています。このように虫を飼料として、牛や豚、魚の餌に使う技術が今後増えていくと思われます。

廃棄物から飼料・肥料を製造する技術事例

続いては廃棄物を使って飼料・肥料を作る事例を紹介します。ここまでにも食品廃棄物や排水を使って飼料・肥料を作る技術をいくつかピックアップしてきましたが、それ以外にも利用できるものがあり、昨今新しい技術として研究開発が進められています。

WEF技術開発株式会社の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは WEF技術開発株式会社の事例です。琵琶湖で大量に発生する水草を、これまでは多くのエネルギーを使って回収・処理していたのですが、この水草を肥料や土壌改良剤などに利用しようという技術を開発しています。結果、短期間で水草を堆肥化できるようになりました。生成された堆肥は、センチュウ忌避効果やバイオスティミュラント効果による増産効果、ミネラル(特にマグネシウム)が豊富などの特長を持っています。

ニッコー株式会社の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらはニッコー株式会社の事例です。食器などの陶器・磁器を肥料に再利用する技術を開発しています。

ボーンチャイナと呼ばれる磁器の中には、牛の骨を使ったリン酸三カルシウムという成分がたくさん含まれており、それを使って肥料を作る取り組みが進められています。

千葉大学大学院工学研究院の事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは千葉大学大学院工学研究院の事例です。廃プラスチックを肥料にするという技術の開発が進められています。

CRESAVAの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは CRESAVA という企業の事例です。廃棄衣類を分別せずに細かく分解して肥料に変換する技術を開発しています。

AGCディスプレイグラス米沢、ユーグレナの事例

飼料・魚粉・肥料はビジネスチャンスか?フードテック動向と最新技術事例

こちらは AGCディスプレイグラス米沢とユーグレナの共同研究事例です。車載ディスプレイ用のカバーガラスを作る工程で発生する廃棄塩を肥料の原料としてリサイクルするという技術を開発しています。

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