• 配信日:2025.01.01
  • 更新日:2024.12.18

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【2025年】年初インタビュー「製造業を取り巻く変化について」|カシオ計算機株式会社

2024 年も世界の情勢不安、物価高、賃金上昇の動き、日銀のマイナス金利政策解除など、外的環境の変化が著しい 1 年でした。同年、リンカーズのセミナーにご登壇いただいたイノベーション推進者、経営者、実務家の皆さまが、この変化をどのように捉えているのか。イノベーション活動に変化をもたらしたもの(こと)、注目技術、そして 2025 年の企業の役割・課題などについて、今年も 2025 年の年始インタビューとしてお話を伺いました。

本記事では、カシオ計算機株式会社 開発本部 事業イノベーションセンター フェローの水品 隆広 氏にお話を伺いました。
※所属企業・肩書は 2024 年 12 月 20 日時点のものです。

2025年、製造業が果たしてゆくべき役割や課題


ーー今、製造業が果たしてゆくべき役割、その役割を果たすにあたっての課題について、どのように考えていますか。

水品氏:
世の中は想定外のことが起こり対応に奔走する姿が報道されています。未来予測なども悲惨な未来を語るものが多いと感じます。地球温暖化も、良かれと思ってやってきた各産業の CO2 排出が原因となっていますが、想定外でした。製造業は人々の暮らしを支えるモノ・コトを生む役割がありますが、同時に持続できる社会を構築していく責任があります。顕在化している社会課題の解決は当然として、さらに先の未来を構想してそこへ向かうための課題を捉えた施策をすべきです。そのためにはビジネスの力が必要で、それを持続可能な状態で進めるためには信頼される存在でなければならず、誠実な取り組みであることが肝要です。

ーー上記の役割や課題について、重要性や緊急性などは変化しているでしょうか。

水品氏:
先の回答でも触れましたが、世の中は複雑で、想定外のことが起こります。その度に、持てる知恵を総動員して対応することになります。暮らしを守るために緊急かつ重要な行動です。ただし、そのような状態でもいくつもの選択肢があり、ある決断をしなければなりません。どのような決断を下すのかは、さらに先の未来への志に左右されます。志無くして今の行動もないのだと思います。

今、危機感を持っていることについて


ーー今後、製造業を取り巻く環境の変化に対して、もっとも危機感を持っていることを教えてください。

水品氏:
「本業の衰退、消失」です。コアビジネスの取り巻く環境の変化に気がついているが、どのように変わっていけば良いか、わからない状態だと感じます。効率よく確実にビジネスを進めたいがゆえ、確実に成功する計画を求め、経験に基づく積み上げの Forecast による極めて短期的なマネジメントをしてしまう。起こった不都合な事実に対してはできる限り無視し好転を願うが、やがて対応せざるを得なくなり付け焼き刃な対応となり、徐々に萎んでしまいます。ありたい未来の志を持たず、当期の利益のみを重視するために、将来への投資を怠りチャンスの芽を摘み続けてしまいます。

自社のイノベーション活動に変化をもたらすもの(こと)


ーー 2024 年、貴社のイノベーション活動に変化をもたらすと考えられる外的環境変化や、技術革新はありましたか。また、外的環境変化に伴い、内的環境変化は起こりましたか。

水品氏:
外的環境変化はありました。内的環境変化も起こっています。イノベーション手法に関しての取り組みが多々あります。

ーー 2025 年以降、どのようなことがイノベーション活動の大きな変化につながると注視していますか。また、イノベーションをどのように捉えて、どのような変化を起こそうとしていますか。

水品氏:
イノベーションマネジメントシステムの理解が、大きな変化をもたらすと思います。特に、トップマネジメントの役割が重要です。現在は QMS のマネジメントと同じ手法でイノベーションを興そうとして、組織の力が発揮できない状態だと考えられます。イノベーションとは、未来を構想し、新たな価値を生み出すことですから、自社の存在意義そのものですし、持続可能な組織であるために不可欠な活動です。

注目している技術


ーー注目している技術、技術カテゴリについて教えてください。

水品氏:
AI に関しては継続して注目しています。また、低消費電力化が期待できるスピントロニクス、生物の仕組みを応用したコンピュータも注目です。エネルギー関連では、ペロブスカイト太陽電池や全固体電池をはじめとした電池技術は変化がありそうです。省エネとか大気汚染防止と関係する分野で、磁気冷凍技術は実用化されると大きな変化になると期待しています。IoTはまだまだ拡大を続けるので、エナジーハーベスティングの技術にも注目していきたいです。

2025 年、オープンイノベーションに関して


ーーリンカーズのようなオープンイノベーション支援のビジネスマッチング仲介会社に期待する役割などに変化はありますか。

水品氏:
現状のサービスには満足しています。技術導入のきっかけになると思います。実際にオープンイノベーションが機能するかどうかは、各々の企業の理念、開発プロセス、組織構成などに左右されると考えています。開発中の案件では、仕様もコストも生産数量も立ち上げ時期もほとんどが決まっており、課題があっても解決の見込みがある状態です。新たな技術を検討し、導入する意思がほぼありません。開発前の企画案件は、企画者が社内外の技術の利用を模索しますが、立ち上げ時期どころか、本当に開発するかどうかも決まっていません。仮の目標に対する技術評価をしようとしても、買う意志を明確に示さない相手に真剣に付き合ってくれる企業は少ないです。しかも、意思決定する人と技術評価をする人が別の人である大企業の場合は、ある程度進んだ段階で企画案が採用されなく、案件そのものが無くなることも多いのではないでしょうか?このような状況に対しては、先に信頼関係を構築できる手段があれば良いのかもしれません。
ある目的のために、複数の企業やアカデミアによる取り組みができると各組織の知恵を結集した開発をすることになり、オープンイノベーションが加速するのではないかと思います。この場合も、参加組織のメリット、リスクが明確でなければ始まらないし、課題設定をする人の力量、参加組織の自発的な行動が成功の鍵でしょう。

回答者

【2025年】年初インタビュー「製造業を取り巻く変化について」|カシオ計算機株式会社

水品 隆広 氏
カシオ計算機株式会社 開発本部 事業イノベーションセンター フェロー

【略歴】
1988 年 カシオ計算機株式会社に入社
電子文具の研究開発に従事
ラベルプリンタ、フォトプリンタを開発
デジタルプリントサービス事業創出
2004 年 メカトロニクスの研究開発室 室⻑
電磁モーター、超音波モーターの研究開発、デジタルカメラの手ブレ補 正機構などの研究開発
2009 年 研究開発センター事業開発部 部⻑
世界初のモーションセンサと GPS によるハイブリッド位置測位機能搭載デジタルカメラの開発
モーションセンサによるスポーツ動作解析の研究開発、応用商品の開発 ロボットの動作による感情表現の研究開発
その他、光学応用技術、音響技術、メカトロニクス、各種生体センサ関 連、医療関係の新規事業創出のための開発テーマを推進
2022 年 新技術統轄部 統轄部⻑

現在は、開発本部 事業イノベーションセンター 新技術研究開発担当フェローとして業務を推進

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