• 配信日:2024.09.12
  • 更新日:2024.09.12

オープンイノベーション Open with Linkers

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『スタートアップ成功事例に見るイノベーションで成果を上げる最新手法~イノベーション・マネジメント システム最前線~』のお話を編集したものです。

リンカーズ株式会社 オープンイノベーション・エバンジェリスト(一般社団法人 Japan Innovation Network 常務理事)の松本 毅 氏より、イノベーション・マネジメントシステム( IMS ) の構築方法や、イノベーションを興すポイントについて解説しました。

イノベーションとイノベーション・マネジメントシステム(IMS)について


イノベーションを興せない、新たな価値を実現できないと悩む企業の理由の一つは、イノベーション・マネジメントシステムの欠如です。日本だけでなく世界の企業の多くが同じような原因で悩んでいます。その解決には継続的イノベーションを生み出す環境をどう作るかが非常に重要です。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

日本では Japan Innovation Network( JIN )が国の強い要望で IMS の正確な理解と幅広い普及活動を行っています。私(松本氏)は IMS エバンジェリストとして強力に推進しています。JIN は経産省の委員会が発端で 2013 年に設立され、企業などのイノベーションの加速支援を行なっています。私は経済産業省の委員であり JIN の発足メンバーです。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

私たち JIN は、かねてよりイノベーションを画像のように定義していました。現在お客様に価値を届けている「 A 」という状態から、創りたい未来「 B 」へ意図的な変化(シフト)を起こすことがイノベーションであり、大事なのは顧客の新たな経験価値を生み出し、顧客の行動変容を起こすことであると主張してきました。

「 A 」から「 B 」への変化を起こすためにはその間にイノベーションプロセスが必要です。そのイノベーションプロセスは前半と後半に分かれます。前半は課題発見から始めて事業を創造する力が、後半はいかに効率的に実行するのかが求められます。そして全てのイノベーションプロセスは「試行錯誤するものである」というのが JINの主張であり、それが全面的に ISO の委員会に取り上げられ、 2019 年に産業史上初めて ISO 56000 にガイダンスが発行されました。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

中心の図が ISO 56000 です。JINの主張がほぼそのまま取り上げられています。そしてイノベーションプロセスを駆動するにはリーダーシップ、加えて企業の支援体制が必ず必要です。これら全て揃えることで価値を生み出すことができます。

両利き経営について


イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

昨今両利きの経営(2階建経営)が注目されています。理由は本業でも新規事業でもイノベーションを興し続けることが企業の持続的成長に必要不可欠という考え方があるからです。既存事業の変革および新規事業の創造、この2つが必要であるという考え方を JINも主張してきました。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

1階のイノベーションプロセスと2階のイノベーションプロセスは異なります。1階の既存事業の中に新規事業の部署を置いて、1階のイノベーションプロセスを行なうと失敗に突き進んでしまうでしょう。新規事業の部署は2階に上げて、社長直轄にしてイノベーションプロセスの前半のやり方をしっかり進めながら後半に引き継ぐことが成功の秘訣です。

世界の動向とイノベーション・マネジメントシステム(IMS)の定義


イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

世界的なイノベーションの動向について。 ISO 56002 をベースにしたイノベーション経営を推進している企業が、ヨーロッパだけで 300 社を超えているといわれています。アメリカも進んでいますし、中国は全事業者に ISO 56002 を導入させると3年前の国際会議で言い切っています。そういったイノベーション経営を進めている企業と既存事業を守ることで精一杯な企業との時価総額の差はどんどん拡大しているというデータも出ています。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

日本は特許の数が非常に多いにも関わらず、世界的に見てイノベーションの順位は低い状態です。なぜかというと、いかに技術があっても需要開発・顧客創造につながらなければイノベーションは実現できないからです。この考え方が ISO 56002 のベースとして根付いています。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

さらにイノベーションのプロセスも必要です。洞察がなければイノベーションは興らないということを、パルミサーノレポートが 2004 年に発表しています。さらに、画像ではパスツールのイノベーション・プロセスを紹介しており、彼はワクチンの知といわれています。実はパスツールより前にワクチンを世界で初めて世の中に出した天才的な研究者がいました。しかしこの研究者はイノベーション・プロセスを作らなかったため、一発屋で終わってしまったのです。パスツールは fact を集め、fact に対して洞察し、仮説検証を繰り返しながら課題を見つけ、ソリューションも発見することで新しいワクチンのコンセプトの創造に成功。次から次へとワクチンを世の中に出しました。つまり、自社独自のイノベーション・プロセスを作ることが大切だということです。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

これらを踏まえて ISO 56002 は、属人的な活動ではなくて組織的・体系的な活動。労働集約型ではなくて知識集約型の IMS が必要不可欠であるということを謳(うた)っています。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

イノベーションの成功確率を高めるためにはイノベーションをマネジメントすることが必要です。ではイノベーションはマネジメント出来るのか。パスツールのようにイノベーションをプロセス化できればマネジメントできるようになります。もっと言うと、そのプロセスを体系化してシステム化することができればしっかりマネジメントできるようになり、成功確率も高められます。この考え方に基づいて ISO 56002 は イノベーション・マネジメントシステム( IMS )として国際規格化されました。

マッキンゼーが世界の経営者にアンケートを行った結果、「現在のビジネスモデルが破壊されるリスクがある」 「未来の成功はイノベーションにあると思う」という回答が多数を占める一方、イノベーションを戦略的な優先順位に位置付けていない企業が非常に多く、ギャップがありました。このギャップを解決することが IMS の大きな意義です。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

体系的なイノベーションの欠如は企業の持続可能性を危うくします。また、イノベーションが確立されたプロセスや企業文化に統合されていない限り、持続的なイノベーションを興す組織的な活動にはなりません。その対策として企業変革が必要ですが、変革に反対する階層は必ずいます。それを打破するためにも上層部の支持を得たトップがコミットメントすることが重要です。

ISO56000シリーズについて


イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

すでに世界 59 ヶ国が ISO 56000 シリーズにコミットしています。 ISO 56000 シリーズが共通のものさし、共通の言語になっているのです。やはりどこの国もどこの企業もイノベーションの成功率が高まらないことが共通の課題でした。ようやく各国から持ち寄られた経験値(ベストプラクティス)が蓄積され、 2013 年から議論が始まり、 2019 年にはガイダンスが発行され、今は認証規格の議論も始まっています。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

画像は ISO 56000 シリーズの全体像です。最も大切なのは 56002 というガイダンス。このガイダンスを徹底的に学び尽くし、ガイダンスに則して IMS を作り上げることを ISO は求めています。日本では経済産業省が JIS 化も図っていますし、 56003 から 56010 まで枝葉の規格も発行されています。ところが認証に関しては「社会やお客様が求める時代が来たら取りたい」と考えている企業が多いです。そのため ISO 56002 に則して成功確率が最も高いと世界が合意したガイダンスに則した自社独自の仕組みを作ることが各企業にとって重要な課題となっています。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

画像は IMS の全体像です。真ん中の赤枠の活動だけに飛び付くのではなく、現状の「 A 」から創りたい未来「 B 」への変化を起こすために赤枠をしっかり駆動させるためには、組織の状況、リーダーシップ、支援体制、全てが絶対に必要です。

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を解説~ISO56002/56000シリーズ~

画像は赤枠の中を抜き出したものです。前半が「知の探索」、後半が「知の深化」となっています。 ISO 56002 では、前半で「機会の特定、「コンセプトの創造」、「コンセプトの検証」をしっかり行い、繰り返しながら後半の「ソリューションの開発」、「ソリューションの導入」へ移るということを示しています。

前半を予測不可能な未来への戦略(エフェクチュエーション)、後半は予測可能な未来への戦略(コーゼーション)を定義し、前半と後半でプロセスが明確に違い、上手く使い分けることが必要だということを ISO 56002 で表しています。つまり前半「エフェクチエーション」と後半「コ―ジェーション」を状況の変化に基づいて常にピボット(方向転換)を起こし切り替えていくことが肝要です。

次のページ:イノベーションを興すための8つの原理/原則、ISO56002 の各章を紹介します。