- 配信日:2020.08.19
- 更新日:2023.09.01
オープンイノベーション Open with Linkers
アジャイル開発 ~ 巨大企業パナソニック内でのイノベーションへの挑戦2
※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。
前回に引き続き、パナソニック株式会社 アプライアンス社 事業開発センター Game Changer Catapult 事業開発総括の真鍋 馨様と、本件を受注した企業、株式会社アトムシステム ビジネス企画部 部長 近藤 敦仁様、ソリューション部 シニアソリューションマネージャー 西 正和様、3名様の座談会の模様をお届けします。
リンカーズの運営するビジネスマッチング「IoT機器およびサーバ側ソフトウェアのプロトタイプ開発・試作パートナー探索」にて「Bento @ your office」の開発パートナーとなった両社にて、この案件で出会った時のそれぞれの感触やアジャイル開発を実践した様子を語り合っていただきました。
開発に関わる方には特に興味深い内容かと思いますので、オープンイノベーションのリアルな現場の空気感を感じていただければと思います。
前回の「ゲームチェンジャーカタパルト ~ 巨大企業パナソニック内でのイノベーションへの挑戦1」もぜひ併せてご覧ください。
オープンイノベーションでのアジャイル開発パートナー探しの、情報開示のコツ
リンカーズ 長友
前回のインタビューでは、オープンンイノベーションを実践する際の情報開示の考え方について伺いました。
リンカーズを使ってオープンイノベーションを開始する際、最初にパートナー候補に開示する情報は「このような技術を求めています」という内容を記載する「案件シート」になりますが、シートを書く際に気を付けたことはありますか?
パナソニック 真鍋様
そうですね、内容を全部細かく書きすぎてしまうと、いわゆるスクリーニングができません。
また、とにかくスピードが大事なので、早く応募してくれる会社であることも条件としてありました。レスポンスが早くないとついてこれないだろうと思っていましたが、今回パートナーに選ばせていただいたアトムシステムさんは早かったんですよ。何社か面談した中で「一番合いそう」だったので、アトムシステムさんに委託しようと決めました。
アトムシステム 近藤様
1回2回会っただけで組もうと言ってもらえるのは「リスクを取ってでもスピードを優先されるんだ」とすごくびっくりしましたね。
始まるまで本当に数週間で。2週間くらいだったかな?
リンカーズ 長友:アトムシステム様は「Bento @ your office」のどの部分を担当されたのでしょうか?
アトムシステム 西様
QRコードをかざしてドアを開けて「誰が何を買った」とか、様々な情報をクラウド管理するのですが、その辺りの仕組みを作りました。
弊社は組み込みからIoTまで全て対応しますが、去年くらいからIoTに注力していこうというタイミングでのIoTデバイス案件だったので、パートナー候補としてエントリーしました。
世の中「IoT」が新しいキーワードとしてさんざん言われていますが、実は昔から「組込みシステム」として存在していた技術なのです。
それが現在「IoT」と名前を変えて再注目されているので、せっかく持ってる技術を活かすチャンスだと思っています。
あとは「IoT」がクラウドという、今までなかった概念と結びつけられる傾向があり、我々は両方できるので、これもチャンスだと思っています。
今回案件シートにコンセプトなどは書かれていなかったので、”クラウドをベースにしたシステム開発”というところしか分かりませんでしたが、そこから推測してこれならやれるかもという認識でした。
パナソニック 真鍋様
実は最初に全部を公開しなかったのは、当然あの内容を見て分かる会社でなければご一緒するのは難しいだろうと思い、そこも狙っていました。
同じ内容を見ても全然違う提案をする企業もあって、それは多分キーワードを繋いで見えてくる想像力の部分だと思うんです。
今回の案件シートは弊社の技術者が質問事項にキーワードを入れ込んでくれたのですが、「この感覚をこの表現ではこういうこと」とちゃんと理解した回答だったので、会いに行こうと思いました。
パートナーとしてオープンイノベーションで大事なポイントはいくつかありますが、私たちはスピードは大きな要点の1つと思っています。特に今回のようなアジャイル開発ですと、スピード感がないとまず成り立たない。
アトムシステム 近藤様
なるほどねー!! 弊社もこれくらいのシステムになれば100枚くらいの説明書を出してくださいというやり方だったのですが、パナソニックさんから出てきたのは5枚くらいでした。
「普通なら無理です」という話なんですが、シートから滲んでいた「一緒に並走してくれ」というニュアンス込みで引き受けようと思ったので、物も決まっていないところから一緒に始めました。細かい仕様は決まっていなかったですが、コンセプトはありましたよね。
パナソニック 真鍋様
コンセプトはありました。要件は決まっていたので、「一番早くありもので回せるのは何だろう!?」など一緒に検討しながらでしたね
共同でアジャイル開発を行うパートナーに最も必要なものは信頼
リンカーズ 長友:仕様書が5枚だけというのは過去にあったのですか!?
アトムシステム 近藤様
ありません。初めてのパターンです。
オープンイノベーションという用語はありましたが、「ゲームチェンジャーカタパルト」という組織自体を存じ上げなかったので、最初にパナソニックと伺った時は「本当なの!?」と。
ロゴも一切入っていなかったですし(笑)
大手企業さんだと社内ベンチャーを0ベースで立ち上げていくような感じでしょうし、しかも社内リソースをほぼ使わずに外部リソースで協力会社を募るならば、本当にベンチャーの立ち上げに近いと思うので、2回目の打ち合わせで、「本当にやれるんだ」という部分で共感しました。
世界では既にリーンスタートアップ、アジャイル開発が標準的なやり方なんだろうと思いつつも日本のシステム開発はまだまだ設計書をやり取りしながらですし、通常は我々開発側がお客様側に伺って、仕様を聞いて、設計書を起こしてレビューするというやり方です。
ですがパナソニックさんの場合は「そんなん来てもらうの時間がもったいない!スピードが命だから」とよく弊社にいらっしゃり、開発者の横に座って開発画面を見ながら直接作業をしていました(笑)
リンカーズ 長友
既存のウォーターフォール型開発と、今回のアジャイル型開発の違いはどんなところですか。
アトムシステム 西様
開発側としてウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いとしては、アジャイルだと早く使った人の声が聞け、そこに対して、じゃあ何をしようかと早く手が打てる。
先程真鍋さんがおっしゃったように、50%、70%でどんどん出して、実際使っていただいた声をうかがってバージョンアップさせていけますが、ウォーターフォール型だと設計した後にお客さまに使っていただかないと感想が聞こえてこないです。
パナソニック 真鍋様
仕様を決めるのはお客様・世の中、という感覚です。開発途中でも、一旦世の中に出してみて正しいフィードバックをもらう。
それを素早く繰り返しながら仕上げていく。どこまでやるかはビジネスとしての見極めですね。
アトムシステム 近藤様
最初に仕様を決めず開発しながら進めるため、費用面も異なりますよね。
本当は最初に予算を決めないとどこまでできるかも決められないはずなんですが、そこを取り払わないとアジャイル開発は進められません。取り払うために必要なものは、多分真鍋さんがおっしゃられた、共感とか信頼だと思うんです。
一年ほど経てばいずれ信頼関係はできてくると思うんですが、今回は初期からその関係をうまく築きあげられたという事がうまくいった要因かと思います。
ゲームチェンジャーカタパルトの事業方向やコンセプトと、あとはパーソナリティの部分ですね。「こうやりたい」という推進のパワーと、企業体の中でこういう新しいことをやるということへの共感と称賛です。
ドイツの「CeBIT」というIoTの大きな展示会に、2017年もアトムシステムとして出展したのですが、「Bento @ your office」を展示してもいいかうかがったところ、パナソニックさんは許諾すればいいだけとはいえ、本来ならダメだと思うのですが、快諾いただいた上に、真鍋さんもわざわざドイツまで来てくださって…。
パナソニック 真鍋様
そう、説明員として(笑)。「SXSW」の翌週だったのでアメリカからそのまま。身体しんどかったです(笑)。
アトムシステム 近藤様
世界中からのお客様に説明をしました。
そういうところもお互いに対価があるわけでもなくて、双方が自社の費用でやっているのですが、やっぱりこの事業を事業化させるんだという思いが一致していないと、やはりなかなか形にはなりにくいんじゃないかなと思うんですね。
”お金をもらって、ありがとう、じゃあいいや”で終わってしまうようでは、なかなかオープンイノベーションというところまでは進まないのかなと思いますね。
パナソニック 真鍋様
ここもやっぱり共感ベースで、最初から馬が合ったというのが一番大きいです。会社の枠を超えてみんなチームというか、そんなノリなんですよ。
リーンスタート・アジャイル開発で、世の中の変化を捉える
リンカーズ 長友:アトムシステム様は今回を経てなにか変化はありましたか?
アトムシステム 近藤様
システム開発会社として、技術や品質に重きを置いた考え方をしてきましたが、今回パナソニックさんと仕事をさせていただいて、今後のソフトウェア開発の時代においてスピードがすごく重要視されるという認識を実感しました。
プロジェクト進行を実際目の当たりにしていた社内のエンジニアの開発マインド変化が一番大きいと思います。マインドチェンジのきっかけはこのプロジェクトが与えてくれたので、すごく感謝しています。
スピード重視となるとある程度品質を後回しにしてでも提案をしないとならず、既存の手法で急ぐだけでは疲弊するだけで、それに応じたメソッドの整理化など、いろいろスタイルはあると思うのですが、そういうご提案手法の整備中です。
弊社は開発企業で営業部隊をほぼ持っておらず、オープンイノベーションという機会がなかなかない中でお互いのニーズをマッチングして出会いをいただいたことに感謝しています。なければ絶対出会っていないので。
また、単純なプロジェクトとしてだけでなく、弊社にスピードという観点を与えてくれたきっかけをいただいたという点でも感謝しています。
リンカーズ 長友:パナソニック様はいかがでしょうか?
パナソニック 真鍋様
まずはゲームチェンジャーカタパルトから、新しい価値や社会課題解決に貢献するビジネスの実例を1つでも2つでもリーンスタートさせることが重要で、今回のご縁も色々な試行錯誤をスピーディーに行えていて、組織能力が向上している実感はあります。
大企業の中の出島部隊として、世の中の変化の芽や新たな事業機会を捉え、会社としての方向性の目利きができたら、そこに向かうパワーは本来的には強いと思います。だから、外部との共創やアライアンスを含め、その領域まで持ち込めたら勝ち筋も見えてくると思っています。
今は個々が小規模な新規ビジネスの種ですが、世に出せば、反響やフィードバックとなって大きな組織にも変化が現れます。アンテナも立ちだして、その兆しは感じますね。同時多発的に色々なトライが始まっています。
あとがき
大企業であるパナソニック内で10年後を見据えて変わらなければと立ち上げられたゲームチェンジャーカタパルト様と、不確実性が高い中でもマッチングに同意したアトムシステム様。
両社の出会いで生まれた信頼を元にしたパートナーシップに、このような出会いのお手伝いが出来たことへの喜びを深く感じさせていただきました。
今回対談中に「共感」という言葉が何度も2社から出てきており、共感や信頼は、アジャイル開発という手法を複数社で実践する際の必要条件であると感じました。
記事内にあったように、信頼は時間をかけると醸成されるものですが、オープンイノベーションでの出会いでは信頼関係が初期に成り立つ事がスピードに繋がります。
今回対談いただいた2社様の開発された「Bento @ your office」につきましては、座談会1でご説明しております。是非合わせてご覧下さい。
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