- 配信日:2020.09.11
- 更新日:2023.09.01
オープンイノベーション Open with Linkers
「これからのリーダーシップ」ーコミュニケーションと長期視点の重要性 藤沢久美氏に聞く (後半)
※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。
「シンクタンク・ソフィアバンク」の代表を務め、リンカーズ株式会社のアドバイザーの一人でもある藤沢久美様に今回もご登場いただき、藤沢様と弊社代表の前田へのインタビューをお伝えしていきます。
今回は、これからのリーダーシップについて伺いました。若い世代のビジネスパーソンにも、経営者にも、是非読んでいただきたい内容となります。
前回の記事:シンクタンク・ソフィアバンク代表 藤沢久美氏に聞く1「経営理念の重要性」
これからの時代に求められるリーダー像
「サーバント・リーダーシップ」が重要視されるようになった
Q:藤沢様は、理想とされる企業のリーダー像は、どのように変わってきたとお考えですか?
ソフィアバンク 藤沢久美様
企業のリーダーは、「俺について来い」という感じで自ら先頭に立って社員や部下を引っ張って行くというタイプの人ではなくなってきています。
藤沢様:今まで10年以上にわたりさまざまな経営者の方々を取材させていただいた中で、理想とされる企業のリーダー像が変わってきていると感じ、それがきっかけで『最高のリーダーは何もしない』という書籍を執筆し、2016年2月に出版しました。
これからのリーダー像がどう変わってきているかというと、社員や部下の一人ひとりがその能力を最大限発揮できる環境づくりに務めるリーダーが理想とされるようになってきました。
つまり、いわゆる「サーバント・リーダーシップ」が重要視されるようになったと言えます。
※サーバント・リーダーシップとは
アメリカのロバート・グリーンリーフ(1904~1990)が1970年に提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後、相手を導くものである」というリーダーシップ哲学。
さらに、これからの時代の企業の組織としてのあり方を考えると、ますます「サーバント・リーダーシップ」が重要視されるようになると思います。
企業は常に固定されたメンバーで仕事をするのではなく、必要に応じてさまざまなところから人材を集め、その都度チームづくりをするスタイルにシフトしていくのではないでしょうか。
大切なのは、強みになる部分を磨き続けること
Q:これからの時代を担う今の若い世代は、ビジネスパーソンとしてどのようなことを身につけるべきだとお考えですか?
ソフィアバンク 藤沢久美様
大切なのは強みになる部分を磨き続けること。裏を返せば、弱い部分をしっかり認識することでもあります。
藤沢様:将来成長したいと思っていらっしゃる若い人たちは、さまざまなタイプの人たちと一緒にプロジェクトを進めるコミュニケーション能力やコラボレーション能力を磨くとよいとおもいます。
具体的には困ったことがあれば周囲に相談して一人で抱え込まないとか、他のメンバーと情報をシェアしてフォローしあうなど、そういうことを心がけていただければと思います。ビネスパーソンとして基本的なことですが、人としての魅力を磨くことにつながると思います。
新卒採用の社員が増えると、中途採用の社員が去っていく
前田 佳宏
人事評価の数値評価と定性評価(コンピテンシー)において、コンピテンシーをより重要だと思っていますが評価するのが難しい。上手くいっている会社はどのようにしているのでしょう?
ソフィアバンク 藤沢久美様
評価される本人と評価する上司がしっかり時間をかけてコミュニケーションを取る必要があります。
藤沢様:仮に、まだ仕事の能力が低い新卒採用者の人材評価の80%はコンピテンシーなどの定性評価で、残りの20%は仕事の成果でそれぞれ行われ、さらに、コンピテンシーがしっかり身についたと評価された人だけが管理職に選ばれるという人事制度があったとします。
この場合、少なくとも管理職の人たちに関しては仕事の成果のみ評価すればよいことになり、実際にそうすれば評価基準は明確です。
しかし、入社までの経緯や環境が一人ひとり異なる中途採用者が多いベンチャー企業などで定性評価を導入するのは難しいです。
もし導入するのであれば、中途採用者が上司や社長と合宿をしたり、丸一日かけて面談する機会を週一回ぐらいのペースで設けるべきだと思います。
変わらない人は自らその会社を卒業していく
藤沢様:なお、ベンチャー企業は創業間もない成長期の段階から安定期に入り始めると、新卒採用中心にシフトしていきます。
そうすると、当然、新卒採用の社員が増えていくわけですが、その一方で、まだ成長期の段階のときに入社した中途採用の社員たちが次々と会社を去り、ほとんどいなくなるということも珍しくありません。
それは仕方がないと思います。
物凄い勢いで成長する新卒採用者が増えると、成長できない中途採用者を下から押し上げることになります。
それが刺激になり成長する中途採用者もいますが、それでも変わらない人は自らその会社を卒業していきます。
そういう人はそのレベルの人材を必要としている企業を渡り歩いて行けばよいのではないでしょうか。
実際、今は転職を繰り返せる時代ですので、そこは割り切って考えてよいと思います。
仕事の負担や難しさに一喜一憂するべきではない
世界的なポンプメーカーの人事制度改革
前田 佳宏
配属先の環境によって仕事の負担や難しさには差がでるのですが、それを乗り越えて貰いたいと思っています。
ソフィアバンク 藤沢久美様
その点について、荏原製作所さんが興味深い人事制度改革を実施されていました。
藤沢様:荏原製作所さんは、創業100年を超える世界的なポンプメーカーで、ポンプの他にも半導体製造装置や発電設備なども扱っています。
その人事制度改革は2017年4月に実施されました。
改革以前の会社では、老舗であるポンプ部門が主力事業部門として存在感がありました。
一方、今後の経営を担う役員は半導体装置部門で切磋琢磨して成長してきた人員が選ばれる、という現象が起きていました。
そこで人事制度を大きく改革し、人材の評価や教育のやり方を全て、それまで半導体装置部門が実施していたやり方を参考に変更したのです。
その他にも、既存の管理職のポジションを減らして職場の組織体制を「管理職とその部下として仕事をする一般社員だけ」というシンプルなものに変更し、マネージャーとプレイヤーの区別を明確にしました。
それにより、管理職はマネージャーとしての業務に専念できるようになったわけです。
長期視点で物事を考えること
藤沢様:また、この事例を通して考えていただきたいのは、配属された部署の仕事の負担や難しさに一喜一憂するべきではないということです。
例えば、新規に立ち上げたばかりのとても忙しい事業部に配属されると、他事業部の社員よりも負担が大きいと思われるかもしれませんが、将来その事業部が大きく成長して業績を伸ばすことがあれば、それを反映して給与やボーナスも増えるかもしれません。
あるいはその逆で、市場のシェアを独占しているような事業部に配属されれば、大して仕事をしなくても受注が取れて楽かもしれませんが、自身の成長の機会を得ることができず、将来、役員や社長に就ける可能性は低くなるかもしれません。
つまり、長期的な視点でも物事を考えないと何が正しいのかは判断できません。
それは経営者も同じで、長期的な視点でも物事を考えられなければ、企業にとって最適な決断はできません。
そういう意味では、人材の評価や教育についてこれからの将来を見据えた改革を行った荏原製作所さんは、最適な決断をされたと思います。
世界のスピードに対応できない日本の経営
スピードと、大きな潮流の変化を見ること
ソフィアバンク 藤沢久美様
経営者を年齢で区切る事は良いと思いませんが、どれ程未来を見ているかは非常に大事だと思います。
藤沢様:ダボス会議に参加して、世界のリーダーは長さ・深さ・広さの面で視野が広いと感じました。 過去は宇宙が生まれた頃、未来は1000年先まで想像し、人間の妬みや恨みなど黒い部分を認める懐の深さを持った上で、広くどのようにすれば皆が幸せになれるかを考えています。
前田 佳宏
それでいうと、今の日本の大きな問題の1つは、中堅企業も大企業も3年単位で経営者が交代することだと感じています。
前田:大きな企業の経営者が、3年間でいかに現状維持するかのマイクロマネジメントに陥ってしまうのです。オーナー経営に戻るか、少なくとも任期を10年程度に変えなければ、将来を見越した経営はできないと思っています。
世界の変化を感じる事ができなくなっている
藤沢様:今は物事が進むスピードも速いけれど、第4次産業革命の大きな潮流の変化が起こっている中でもあるので、ある程度大きな視野で物事を見ないと表面のさざ波に振り回されて判断を誤ってしまいます。
前田 佳宏
東芝やシャープには、大きな波を見る為の組織や体制が無かったのだと思います。
前田:スピードで言えば、海外へ行くと本当に物凄いスピードで変化が起こっていて、シンガポールが一人当たりGDPで日本を超えても尚、強い危機感を持っているのは、シンガポールが世界のハブになっている為、変化の最先端を肌で感じているからです。
今は日本を飛び越えて香港やシンガポールに情報が集まるので、日本人は世界の変化を感じる事ができなくなっているのです。
中小・中堅企業から世界の空気を感じてほしい
ソフィアバンク 藤沢久美様
リンカーズさんで、海外の企業から日本企業へ試作依頼が来るようにしていただくと、大企業は変われなくても、試作を作る中小・中堅企業が海外の空気を吸って危機感を感じる事ができるのではないでしょうか。
藤沢様:少しずつでもそのような空気感を作って貰えれば・・・日本の大企業が世界でそれなりのポジションを持っている、今のうちに是非。
前田 佳宏
中小・中堅企業自体にどれだけやる気があるかですね。
前田:海外企業に対応する時間は無いという企業のマインドセットから変える必要があると思っています。
日本だけで食べていけるから海外まで出なくても良いと思っている内に取り残されていっている現状を、本当に怖いと感じています。
今、日本の中小企業では技能実習生をほぼ必ず雇っていると思います。
また、今日本では100万人もの外国人が単純労働者として働いているので、その人達に活躍して貰うのは有効策だと思います。5年10年働いて貰い、海外でビジネス展開して貰えば良いと思います。
丁度良いタイミングなので紹介しますが、来日中の外国人が就職先を探すアプリというのを友人が作ったので、中小・中堅企業の方に是非活用して貰えればと思います。
シンクタンク・ソフィアバンク 藤沢久美様からの学び
・チームメンバー、一人ひとりがその能力を最大限発揮できる環境づくりやコミュニケーションに務めるリーダーが理想とされるようになってきました。
・ビジネスパーソンにとってどのような配属先がプラスになるかは、長期的な視点で捉える必要があります。
・企業にとって最適な決断を下すためにもまた、長期的な視点で物事を見る必要があります。
・日本は今、海外のスピードを感じる事もできなくなっているので、外の空気に触れる事に挑戦しましょう。