【2026年】年初インタビュー「製造業を取り巻く変化について」｜株式会社リコー

2025 年も世界の情勢不安、物価高、賃金上昇の動きなど、外的環境の変化が著しい 1 年でした。同年、リンカーズのセミナーにご登壇いただいたイノベーション推進者、経営者、実務家、アカデミアの皆さまが、この変化をどのように捉えているのか。イノベーション活動に変化をもたらしたもの（こと）、注目技術、そして 2026 年の企業の役割・課題などについて、今年も 2026 年の年始インタビューとしてお話を伺いました。

本記事では、株式会社リコー 未来デザインセンターTRIBUS推進室 TRIBUSスタジオ館長 事業創造プロデューサーの森久 泰二郎 氏にお話を伺いました。

ーー今、日本の製造業が果たしてゆくべき役割、その役割を果たすにあたっての課題について、どのように考えていますか。

森久氏：製造業の役割は、従来の「モノの生産」から、「社会課題の解決」や「サービス・体験の価値再定義」へと大きくシフトしています。その変化の中で、求められるのはビジネスモデルのイノベーションです。単なる製品提供にとどまらず、顧客に何を提供するのかという「価値提案」、誰に提供するのかという「顧客」、そしてどのように提供するのかという「仕組み」――これらの構成要素を革新的に見直すことが不可欠になっています。
特に、製造業がサービス化や体験価値の創出に踏み出すためには、既存の枠組みにとらわれない発想が求められます。製品中心のモデルから、顧客の課題解決や持続可能性を重視したモデルへの転換は、企業の競争力を左右する重要なポイントです。こうした変革を実現するためには、技術だけでなく、顧客理解やデータ活用を含めた総合的なアプローチが必要であり、これこそが今後の製造業における成長の鍵になると考えています。

ーー上記の役割や課題について、重要性や緊急性などは変化してきているでしょうか。

森久氏：現在の事業環境は、技術の進化と市場の要求がかつてないスピードで変化しており、既存事業の延長線上では対応できない「非連続な成長」が求められています。そのような状況で、この成長を実現するためには、自社が持つリソースや知見、アイデアを結集し、新たな価値を生み出す「自己変革能力」、すなわち「イノベーション創出能力」が不可欠です。
単なる改善や効率化ではなく、事業の枠組みそのものを変革し、未来に向けた新しい価値を創造する力こそが、企業の競争力を左右します。こうした能力を高めることが、急速に変化する市場で生き残り、成長を続けるための鍵になると考えています。

ーー今後、製造業を取り巻く環境の変化に対して、もっとも危機感を持っていることを教えてください。

森久氏：「産業構造の大幅な変化」と「本業の衰退、消失」です。技術の進化だけでなく、ライフスタイルやワークスタイルといった従来のコアビジネスを取り巻く環境は激しく変化しており、私たちは新たな業態への変革や挑戦を迫られています。
これまでのエッジデバイスを軸にしたビジネスから、デジタルサービスビジネスへの変革を成功させるためには、2つの重要なポイントがあると考えています。
1つ目は「何を変えるべきか」「何を変えてはいけないか」を見極めることです。
2つ目は、自社だけで取り組まないという点です。
これまでの事業の積み重ねの中で、他社とは異なる強みや個性が築かれてきました。その中で、新たなビジネスで活かせるものと、変えていかなくてはならないものをいかに見極めるか。そして、自社だけでは足りない部分を外部とのコラボレーションで補い、さらに掛け算によって新たな価値につなげられるかが、今まさに問われています。

ーー 2025 年、貴社のイノベーション活動に変化をもたらすと考えられる外的環境変化や、技術革新はありましたか。また、外的環境変化に伴い、内的環境変化は起こりましたか。

森久氏：生成AIが一般に広まり始めてから数年が経ちました。この技術の登場は、社会に大きなインパクトを与えただけでなく、今ではすっかり身近な存在として活用されるようになっています。弊社では約10年前から深層学習AIの研究を本格化し、大規模言語モデル（LLM）にも早期から着目して独自のLLMを開発してきました。そして、さまざまなAI関連サービスをお客様に提供しています。また、日々の業務においても、AIの活用は当たり前になっています。
弊社は「“はたらく”に歓びを」というメッセージを掲げ、人にしかできない創造力の発揮をデジタルの力でいかに実現するかに取り組み続けています。しかし、生成AIの普及により、これまで以上に「人は何をすべきか」「何ができるのか」が問われる時代になっています。

ーー 2026年以降、どのようなことがイノベーション活動への大きな変化につながると注視していますか。また、イノベーションをどのように捉えて、どのような変化を起こそうとしていますか。

森久氏：イノベーション活動において、生成AIの活用により、これまで多くの時間を費やしていたリサーチやビジネス検討を高速で進められるようになりました。一方で、AIの利用によって同質的で予測可能なアイデアが生まれやすいという側面も見えてきています。新規事業で他社との差別化を図り、市場で優位性を確立するためには、AIの強みを最大限に活かしつつ、人間ならではの発想や独自のリソースを組み合わせることが重要です。
つまり、効率化だけでなく、創造性を高めるための「人とAIの掛け算」が鍵となります。この視点を持つことで、単なるアイデアの量産ではなく、質の高い価値創造へとつなげることができます。

ーー注目している技術、技術カテゴリについて教えてください。

森久氏：企業としては、フィジカルAIに注目しています。リコーでは、以前からロボティクスに取り組んできましたが、今後はAIを搭載したロボットがオフィスや工場など、さまざまな“はたらく”現場に導入され、プロンプトやキーボードを必要としない対話による、真のAI活用の形への進化が加速していくと予想されます。
個人としては、宇宙領域技術の航空防衛以外での活用の加速に注目しています。例えば、人工衛星から得られる宇宙ビッグデータは、すでにさまざまな領域で活用されていますが、今後その流れはさらに加速すると考えています。また、民間のスタートアップによるロケット打ち上げが盛んになり、打ち上げコストの低減や衛星の小型化が進むことで、宇宙ビジネスの可能性はさらに広がっていくでしょう。スマートフォンというインフラの普及によって、さまざまなSaaSビジネスが一気に花開いたように、宇宙技術のインフラが整えば、新たなビジネスが一気に生まれるのではないかと期待しています。

ーーリンカーズのようなオープンイノベーション支援のビジネスマッチング仲介会社に期待する役割などに変化はありますか。

森久氏：不確実性が高く、変化のスピードが速い現代において、新規事業の立ち上げには従来以上の迅速な対応が求められています。さらに、自社のアセットだけでは完結できない事業が増えており、外部との連携が不可欠な状況になっています。こうした背景から、イノベーションはもはや自社単独で進めるものではなく、さまざまな企業との協業やコラボレーションによって生み出される時代になっています。
単に不足するピースを埋める相手を探すだけであれば、自社で検索して見つけることも可能でしょう。しかし、協業によって「足し算」ではなく「掛け算」の価値を創出するためには、各社が未来に向けて抱く真の狙いや思いを深く理解することが不可欠です。その理解を基盤に、創造的なマッチングを実現することこそが、ビジネスマッチング仲介会社に期待される役割だと考えます。単なる取引先紹介ではなく、共に新しい価値を生み出すパートナーを見つけるための橋渡しが、今後ますます重要になるでしょう。

リンカーズの実施する Web セミナーにご登壇いただいた皆さまに年始の特集インタビューとしてお話を頂戴しております。他の皆さまへのインタビューはぜひこちらをご覧ください。

リンカーズでは 200 回以上のセミナーを実施しており、これまで開催してきた Web セミナーでは社外の各分野の有識者の方々にご登壇いただいております。
また弊社内のさまざまな専門分野のプロフェッショナルが登壇し、皆さまに専門的な情報をお届けし続けております。