• 配信日:2025.12.25
  • 更新日:2025.12.25

オープンイノベーション Open with Linkers

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

日本企業におけるイノベーションの壁


ここまでに挙げた4つの理論を実践していくことでイノベーション創出につながるとされていますが、現実はなかなか難しいもの。私自身、大企業で長年働いてきた経験から、特に日本企業には特有の「壁」が存在することを感じています。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

戦後から高度成長期には、どの企業も全員が一丸となってイノベーションに取り組み、成功体験を積み重ねていました。しかし、経済が安定してくると、決められたことをしっかりと実行する人材が重宝されるようになりました。

バブル期とその崩壊後、そうした人材がマネジメント層に上がると、「決められたことをやる」のは得意でも、新しいことへの挑戦に苦手意識を持つことに。一方、若い人たちは「このままではまずい」と考えますが、「よくわからないから駄目」といった定性的な理由で新しいことにチャレンジできない状況が生まれました。

2000 年代以降になると、企業には「新しいことをやらねばならない」という危機感はあるものの成功体験がないため、マネジメント層が「何をどう指導すればいいのか、どう判断すればいいのか」がわからなくなってしまったのです。

そして現在、「何とかしなければいけない」と考えるマネジメント層が存在することは間違いありません。しかし、人間は往々にして自分の経験に基づく判断が中心となるため、新規事業の困難さや必要なサポートを具体的に理解することが難しいという状況に陥ってしまいます。また若い世代も「言われたことをやる」という指示待ちの人が増え、二極化しているのです。

イノベーション(新規事業)創出が成功しやすい領域


イノベーション創出、新規事業創出は難しいものの、私がいくつかの企業で新規事業を手がけてきた経験から、うまくいきやすい領域があることがわかりました。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

画像のグラフは、横軸が市場、縦軸が技術を示しています。既存事業で最も収益を上げているのは左下の「既存の技術 × 既存の市場( Current Technology & Current Market )」の領域です。

緑の斜線部分は、事業部でよく理解しており、「これをやれば確実に拡大できる」と自信を持って取り組める領域。一方、赤い部分は「やった方がいいかもしれないが、事業部側からは手を出しにくい」領域です。しかし、赤の領域は事業部からの支援(資金、人材、顧客紹介など)を比較的受けやすく、社内リソースをある程度活用できるため、最も新規事業が成功しやすいのではないかと考えています。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

また、大企業には「昔はやっていたが、最近はあまりやっていない」失われつつある技術や、子会社化されて本体から切り離された技術などが存在します。こうした技術をスタートアップや大学の研究と組み合わせることで、新しい製品・サービスの企画を作ることもできるでしょう。このような方法でのイノベーションも成功しやすいと考えられます。

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イノベーション創出に必要な組織体制


イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

企業の中でイノベーションを興すためには、主に以下の3つの役割が重要です。

  • 1. 守り育てる人
  • 2. 創る人(社内起業家)
  • 3. 支援する人

しかし「創る人」を意図的に育成することが難しく、イノベーションを思うように進められない企業が多く見られます。

「創る人」以上に不足しているのが「支援する人」です。社内でイノベーションを興そうとする場合、スタートアップがアクセラレーションプログラムで受けるような支援が必要ですが、この機能を担う人材を十分に確保できていない企業が数多くあります。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

支援がない中でもイノベーションに取り組もうとする若い人材もいます。しかし、社内の理解を得られず孤立してしまい、自分ではどうにも対処できなくなり、「二度と新しいことにチャレンジしない」と考えてしまう。こういう結果になることは想像に難くありません。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

このような事態になってしまう理由として、イノベーションの共通言語が社内に存在しないことが挙げられるでしょう。イノベーションは既存事業の延長線上で興るとは限りません。そのため、社内の既存の評価基準では進捗状況を適切に測れず、イノベーションを担当する社員が正当な評価を得られない状況に陥ってしまいがちです。

この状態を回避するには、イノベーション創出にあたって何ができていて、何ができていないのかをしっかり話し合う取り組みが不可欠。そのときに役立つのがイノベーションマネジメントシステムのモデルだと、私は考えています。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

画像右側のイラストにある、機会の特定やコンセプトの創造といったイノベーション創出にダイレクトに影響する取り組み。これを繰り返すだけでなく、周囲の環境も整えて正当に評価できる仕組みを作っていくこと。これが欠かせないと思うのです。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

イノベーションマネジメントシステムの認証が 2004 年の9月に発行されました。これにより今後どのような動きが出てくるかというと、「本当にイノベーション活動を適切に行えているのか」をどう測定しているのか( ISO 56008 )、この部分の重要性が高まっていくでしょう。

ダイキン工業の成功事例

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

イノベーションマネジメントを上手く実践している企業の具体例として、ダイキン工業を紹介します。

ダイキン工業は主にエアコン事業と化学品事業を展開していますが、テクノロジーイノベーションセンターを中核として、社内競争制度、社内公募制度、 CVC など様々な取り組みを組み合わせてイノベーションを進めています。

例えば、 2022 年度から始まった社内ビジネスコンテスト「 Daikin LaunchPad 」では、コンテストで出たビジネスを行う企業を 100 % 子会社として設立しています。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

また、新規事業を社内で可視化するために、個人・チームの写真付きで社内報に掲載しているのです。新規事業に取り組む人たちへの社内理解を深める機会を設けています。

さらに、「ダイキン情報技術大学」を設立して将来有望なイノベーション人材の表彰も行っています。 2024 年は、表彰案件 50 件のうち 13 件がダイキン情報技術大学の出身者でした。

このように積極的にロールモデルを作り、成果の横取りをせず、最初に取り組んだ人を評価する文化があると、「次は私がやってみよう」という社員の意識改革につながるのです。

イノベーションの定量的評価の重要性:イジングモデルを活用したプロジェクト進捗管理


ダイキン工業のようにイノベーションを評価する仕組みをあらゆる企業で導入できれば、より活発化するかもしれません。しかし、そう簡単にいかないのも事実。そこで私は、多くの企業で導入できるよう、イノベーションマネジメントシステムに則って、イノベーションを定量的に評価するための研究を進めてきました。その成果の1つとして出てきたのが、「イジングモデル」です。

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで
参考リンク)RISMによる研究開発プロジェクト評価
参考リンク)RISMによる研究開発プロジェクト評価

従来の定量的な要素に加え、定性的な要素を物理学の磁性モデルであるイジングモデルを応用することで、研究開発プロジェクト状態の定量的評価と可視化に成功しました。アンケート調査をベースに、顧客と技術の関係性を距離やベクトルとして表現し、四面体の図として可視化。失敗したプロジェクトは花開いた形になり、成功したプロジェクトは潰れた形になるという特徴があることがわかりました。

「イジングモデル」を使って定点観測を行えば、プロジェクトの進捗や課題を数値化し、マネジメント層、研究者、営業担当者がイノベーションの共通言語で議論できるようになります。

自分のアイデアを具現化し、仲間とともに社会を変える:イノベーション創出の醍醐味


自分・自社が持っている専門技術や知識、ネットワークを使ってアイデアを具現化する。そして共感してくれる仲間と一緒に自社のリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)を最大限活用して、社会に役立つ製品・サービスを世の中に提供することで、社会を変えることができる。これこそが企業人としてイノベーションを興す最大の醍醐味だと、私は考えています。

講演者紹介

イノベーションマネジメントの実践知:理論から成功事例まで

林田 英樹 氏
国立大学法人東京農工大学 大学院 工学府産業技術専攻 副専攻長 教授

大阪大学大学院にて博士(理学)、神戸大学大学院でMBAを修了。昭和電工(現レゾナック)では青色LED市場への材料開発とその事業化に成功。その後、DSMおよびBASFにてグローバルな研究開発および事業開発に従事し、欧州・アジア市場での新製品導入を推進。三井化学ではCVC通じた圧電材料の事業化を達成するなど、様々な分野・領域において複数の特許取得と製品化に貢献。30年以上にわたり化学業界での技術革新と事業戦略に携わる。現在は東京農工大学大学院教授として、戦略・イノベーションマネジメントを専門に研究・教育を行う、グローバルマネジメントとアカデミックの両面に精通した新事業開発のプロフェッショナル。産業界と学術界の橋渡し役として、新規事業創出と人材育成に尽力している。

オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
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