• 配信日:2025.10.14
  • 更新日:2025.10.14

オープンイノベーション Open with Linkers

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

この記事は、リンカーズ株式会社が主催したWebセミナー『技術をビジネスに変えるソフトバンクが実践するオープンイノベーションと共創のリアル』のお話を編集したものです。

前半では、ソフトバンク株式会社田上 学 (たのうえ まなぶ)様より、同社の新規事業戦略について解説。2017年から始まった DX 事業の組織化から、ヘルスケア、データ活用などの具体的事業事例まで、技術を収益性のあるビジネスに変えるアプローチを実体験を交えてご紹介いただきました。

後半では、株式会社スペックホルダー代表取締役社長の大野 泰敬 (おおの やすのり)様を交えたディスカッションを展開。 100 億円規模の事業創出に共通する4つの成功要素を分析し、ソフトバンクの競争優位性や AI 技術への取り組み、技術のビジネス化における重要なポイントについて深く掘り下げました。

記事の最後では、セミナーで使用した講演資料を無料でダウンロードいただけますので、あわせてご覧ください。

ソフトバンクの事業構造と成長戦略


まずは私、田上より、ソフトバンクの新規事業創出や他社との共創に関してお話しさせていただきます。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

ソフトバンクの現在の取り組みは、大きく「コンシューマービジネス」と「法人ビジネス」に分かれています。その中で、これまで M&A や買収を繰り返しながら、様々な企業をグループ傘下に置いてきました。元々の根幹である通信事業、流通 / 出版といった基盤事業の上に、新たなテクノロジーの進化と市場ニーズにマッチした企業が入ってきています。このようなグループ企業とともに、日本の社会課題解決を目指したり、新しいビジネスの柱を作ったりしている状況です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)本部の設立


続いて、ソフトバンクが新規事業や、新しいビジネスの柱となる事業を作ってきたか、お伝えします。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

2017 年頃、ソフトバンクは DX 本部を作りました。国内でもかなり早い時期での DX 化への取り組みだったと思います。 DX 本部をスタート時点で約 120 名が在籍しており、他社と比較して大規模な組織でした。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

お客様のニーズや、各業界の課題を把握するためには、ニーズ・課題に関する情報を獲得してくる営業やエンジニアが必要です。そのための人材を、副社長の直下で選抜しました。経営層の理解を得られないまま新規事業や新体制の構築を進めても、ボトムアップでやっていくのは難しいでしょう。トップを巻き込みながら新体制を構築し、社内の協力を得たことが DX 本部を設立できた要因だったと認識しています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜
ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

しかし、 DX 本部を設立した当初、「なぜソフトバンクがこんな新規事業を考えているのか」と思われてしまうようなアイデアばかり生み出していました。どの企業でも同じことが言えると思いますが、様々な問題があり、手探りの状態だったのです。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

そこから1年ほどかけて、ソフトバンクとして何をやっていくのか、何をやるべきなのかを再検討しました。結果、「グローバルの視点で、日本の社会課題解決や、日本をどう強くしていくかに目を向けるべきだろう」ということになりました。全社一丸となって DX 事業を進めるべく、日本の社会課題を解決し、様々な業界・企業を支援することを目標にしたのです。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

現在の日本では労働人口の減少が進んでおり、多くの産業で人手不足が発生しています。こうした課題の解決にはテクノロジーを活用していくことが必要であり、そこをソフトバンクが牽引していきたいと考えています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

現在、 DX 本部は事業開発本部という名前に変わっています。事業開発本部のミッションとして、日本の社会課題に対峙すること、そしてソフトバンクの次なる柱になる事業を創出することの2つを掲げています。

ソフトバンクにおける新規事業の作り方


ソフトバンクがどのように新規事業を作っているかをお話しします。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

まず、ソフトバンクは IT を使ってお客様を支援していますが、そのために重要なのが蓄積されたデータと、それを活用するための AI です。そこに様々な企業との共創を組み合わせることで、社会課題を解決するような新規事業を創出する。このような方針で進めています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

ソフトバンクが他社と共創するうえで役立っているのが、例えば強力な法人顧客基盤です。約 40 万社との取引実績があります。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

また、創業者である孫正義が行っている様々な投資。この投資を通じて世界のテクノロジーを日本でローカライズし、それをまたグローバルに展開するという循環を作っています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

さらに、多数の基地局やソフトバンクショップ、約 300 社以上のグループ企業といったアセット。これらを連携しながら競争優位性を構築して他社との共創を行っています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

新規事業を作っていくのは非常に困難でしたが、 2017 年から現在までに収益を上げられる事業が増え、新たな柱となるような事業の創出にも近づいていると感じています。そう実感できる理由として、 DX グランプリ 2025 で、佐川急便グループとソフトバンクの2社がグランプリとして選出されたことが挙げられます。

新規事業の立ち上げ事例:ヘルスケアプラットフォーム『 HELPO 』

ソフトバンクが手がけた新規事業の事例として、私も関わったヘルスケア・医療分野での取り組みについてお話しさせてください。日本が抱えている膨大な医療費、社会保障の課題をクリアしたいという思いで、事業の立ち上げから会社設立まで行いました。

日本の医療業界が抱える課題は大きく、このままでは大量の税金が使われることになるでしょう。すると、日本として本来お金を使っていかなければならない分野へのカバーが手薄になり、さらなる問題を生んでしまいます。そのため、ソフトバンクとして医療業界の課題解決に寄与できないかと考えました。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜
ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

そこで開発したのが『 HELPO 』というオンライン診療サービスです。 24 時間 365 日、健康相談ができるプラットフォームとして運営しています。ヘルスケアは非常に幅広い分野であるため、ソフトバンクだけですべてを対応するのは困難でした。そのため、様々な企業とタイアップしています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

ヘルスケアプラットフォームの構築までの道のりは決して順調ではなく、大きく3つの壁に直面しました。

1つ目は経営層の理解を得られないこと。当時の副社長と一緒に事業化を進めていましたが、「通信業者であるソフトバンクが医療のど真ん中に入っていくべきなのか?」かという疑問の声が他の役員から上がり、「この事業はやめろ」という話も何度も出てきました。

2つ目は社会課題への理解が乏しいこと。医療・ヘルスケア業界へ参入するにしても、通信・ IT 企業であるソフトバンクが医療の課題解決のためにできることはあるのか。このような疑念が社内で生まれたことも壁として立ちはだかりました。

3つ目は既存部門の協力を得られないこと。医療・ヘルスケア分野に関する知識や、活用できるスキルを持った人材が社内にいないため、積極的に協力してくれる既存部門がいないことも壁になりました。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

これらの3つの壁をクリアするためにしたことは、まず役員全員を納得させるための、グローバルの市場を含めた将来予測です。当時はコロナ禍だったということもあり、市場環境の変化への対応がより重要になっていました。特に「病院に行きたくても行けない」「病院まで遠くて時間がかかる」といった顧客の声が多数上がっており、このような状況を解消する事業が必要だと、社内でアピールをしたのです。

市場で求められているサービスは、使ってみて「良い」と感じてもらえれば、どんどんシェアが広がっていきます。そうした予測を事業計画に練り込んで、スモールスタートで始めました。このとき、『ヘルスケアテクノロジーズ』という社名で、ソフトバンクの冠を使わずに開始したのです。これには、万が一事業が失敗したとしても、ソフトバンクのブランドが傷つかないようにすることで社内の納得を得るという狙いがありました。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

『 HELPO 』をリリースした 2019 年から約5年が経ちましたが、アプリケーションのダウンロード数や月間アクティブユーザー数は増加し続けています。

新規事業の立ち上げ事例:スズケンとの取り組み

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

次に、東海圏の薬卸事業を行っているスズケンとの取り組みも紹介します。単に医療・ヘルスケアで新規事業を立ち上げたというだけでなく、「データ活用」の話も含みます。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

スズケンが行っている事業には、様々な課題がありました。例えば、国からの薬を配送する際に薬が現在どこにあるのか、在庫が十分に揃っているのかなどが正確に把握できないこと。このような状況でデータで可視化をしたいというニーズがあったのです。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

そこで、サプライチェーン全体で薬に関するデータを可視化するため、ソフトバンクとスズケンでデータを連携させながら、 アプリケーションを作成。これにより配送の効率化や、薬の配送や在庫に関する問い合わせを約6割削減することなどができました。

また、このようなアプリのニーズや薬卸における課題を国に示すことで、薬に関する様々な規制緩和を進めることにも寄与しました。

新規事業の立ち上げ事例:バローとの取り組み

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜
ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

もう1つ、スーパーマーケットのバローとの取り組みでは、『サキミル』というサービスを開発しました。これは日本気象協会とソフトバンクの基地局のデータを使い、フードチェーンのサプライチェーンの最適化や生産性向上を図るというものです。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

気象協会のデータ(天気や温度管理など)とソフトバンクの人流データを掛け合わせながら、例えば賞味期限が短い商品を対象に発注の推奨値を算出。バローの 100 % 子会社であるチューブフーズの生産計画と、実際に販売するバローの顧客数実績や販売実績をデータとして組み合わせることで、日々予測を行いながら廃棄ロスの削減や売上の向上を実現しています。

ソフトバンクの新規事業事例〜データ×AI×共創で社会課題の解決を目指す〜

このようにソフトバンクは現在、自社のアセットを使いつつ様々な企業とタイアップしながら社会課題に対峙し、お客様の課題を解決していくということをやっています。

私からの発表は以上とさせていただきます。

次のページ:ソフトバンクの新規事業成功の鍵と、リンカーズとの協業による支援、そして日本経済のビジネスチャンスに迫ります。