• 配信日:2025.04.16
  • 更新日:2025.04.16

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エージェンティックAIとは?Deep Research機能と各社比較

エージェンティックAIとDeep Researchの関係性


Deep Research とは、リサーチ分野で特に注目されている、エージェンティックAIを活用した高度なリサーチ機能の総称です。これは特定のサービス名というより、 OpenAI 、 Google 、 GenSpark 、 Perplexity などの各社が同じ名称で発表している機能です。

Deep Research の内部プロセスは公開されていませんが、スタンフォード大学の『 STORM 』のようなアプローチを採用していると推測されます。エージェンティックAI の特徴は、特定の目的に対して最適化された一定のプロセスフローを持っていることです。

例えば『 STORM 』では、Wikipedia 風の文章を書くために、まず全体のアウトラインを生成AI が作成し、並行して様々なエージェントとの議論を行います。その議論結果を踏まえてアウトラインを改良し、最終的に文章を作成するというプロセスを踏みます。

Deep Research も同様に、決まったプロセスの中で「ここは AI に自由に考えさせる」というポイントを設けつつ、全体として一貫したフローで動いていると考えられます。

各社のDeep Research機能の比較:OpenAI、Google、GenSpark、Perplexity


エージェンティックAIとは?Deep Research機能と各社比較

2024 年 12 月に Google が Deep Research を発表。数十の Web サイトを一括で調査して詳細なレポートを作成できる機能として話題になりました。それから数ヶ月の間に、各社から同名のサービスが続々と登場しています。 GenSpark は 2025 年1月に発表した機能を、わずか1ヶ月後にバージョン2へアップデートするなど、非常に短期間で開発が進んでいます。

各社の Deep Research は同じような機能に見えますが、実際はアウトプットもプロセスも大きく異なります。同じプロンプトで各社の Deep Research機能を試してみたところ、興味深い違いが見られました。

テストとして、「生成AIを活用したデバイスを 20 件リストアップして、いくつかのカテゴリーに分類した上で、それぞれの事例を情報ソースの URL と併せて日本語で 600 文字程度で説明してください。情報ソースは Web ニュースではなく、一次情報(企業の公式サイト、プレスリリース、インタビュー記事など)を使うようにしてください。また、 2024 年以降の事例としてください。」というプロンプトを使用しました。その結果をもとに各社の Deep Research の特徴を比較してみます。

OpenAIのDeep Research:詳細な調査と透明性の高いプロセス

エージェンティックAIとは?Deep Research機能と各社比較

OpenAI の Deep Research の特徴は、最初に調査スコープやまとめ方について質問してから調査を開始する点。また「アクティビティ」という機能で内部での思考プロセスや議論が表示されるため、どのように調査が進められているかが透明です。

OpenAI は1つ1つの技術について丁寧に深掘りする傾向があり、各事例を詳細に調査してまとめます。事例ごとに検索式を作り、情報を探して整理するという逐次的なアプローチをとっています。その結果、各事例について 300 〜 400 字程度の詳しい説明が提供され、公式情報などの信頼性の高い情報ソースが参照されていました。人間が行うと 30 時間以上かかるような作業を数十分で完了させることができます。

GoogleのDeep Research:広範な情報収集と集約

Google の場合も最初にリサーチプランを示しますが、そのアプローチは異なります。 OpenAI が1つ1つ逐次的に調べるのに対し、 Google はまず数十件の情報ソースを一気に集め、それらを集約してレポートを作成するように見えます。そのため、各技術についての説明は数行程度と簡潔になります。深く調べるなら OpenAI、幅広くフラットに調べるなら Google が適しているといえるでしょう。

GenSparkのDeep Research:プロンプト外の要素が影響する課題

GenSpark もリサーチプランを立てますが、興味深いことに、最初の要望にない「技術適合事例の選定」という要素が思考プロセスに入り込んでいました。これがその後の調査プロセス全体に影響し、技術が適合しているかどうかのチェックに多くのリソースが割かれ、本来調べたかった特徴や技術について内容が薄くなってしまうという結果につながりました。
これはエージェンティックAI の課題の1つです。様々なプロセスを数珠つなぎで進めていくため、途中で1つ要素が間違って入るとそれが引きずられ、場合によっては増幅されて、当初の目的とずれてしまうことがあります。

PerplexityのDeep Research:簡素な説明と課題

Perplexity も様々なプロセスを踏んで調査を行いますが、 OpenAI のように詳細に調べることは苦手で、各事例が1〜2行程度の簡素な説明にとどまりました。

Deep Research 比較結果と考察


同じ目的・同じプロンプトでも、各社機能のプロセスとアウトプットには大きな違いがありました。詳しく深く調べたい場合は OpenAI の Deep Research機能が優れていますが、簡単でも良いので幅広く調査したい場合は他のサービスでも十分かもしれません。

OpenAI が詳細な調査を行える理由の1つは、思考プロセスそのものを強化学習で AI に学習させているからと考えられます。これにより逐次的に調査する過程で方向性がずれたり、変なループに陥ったりせずにスムーズに進められるようです。

エージェンティックAIの課題と今後の展望


エージェンティックAIとは?Deep Research機能と各社比較

Deep Research機能は非常に強力なリサーチツールですが、あえて課題をあげるなら、以下のようなものがあります。

  • 1. 一問一答、伝言ゲーム:途中で誤った要素が入ると引きずられ、最初のルールが忘れられることがある
  • 2. 検索ベースでの情報収集:特定サイトの情報を網羅的に調べる、特定業界の会社を全て調査するなどの方法は現状難しい
  • 3. 大規模調査のコスト:数千・数万件の情報ソースを調査すると、トークン量が膨大になり費用が跳ね上がる
  • 4. 調査対象や目的の見直しができない:最初の命令に縛られ、より良い調査方向への逆提案ができない
  • 5. プロセス最適化の課題:1〜4の課題を踏まえてどうプロセスを最適化するかも課題

プロセスの最適化について1つ事例を挙げます。

例えば「 CES 2025 でアワード受賞した企業の中で」という頭文字をつけて先ほどと同じプロンプトで調査を依頼すると、 AI は「 CES 2025 生成AI 受賞」などの検索式で情報を集めようとします。しかし、人間なら CES の公式サイトのアワードページに行き、そこで 「生成AI」 というキーワードでフィルタリングすれば効率的に情報が得られます。

このように、特定領域や目的に合わせたちょっとしたノウハウを導入することで、現状の Deep Research を超える機能が比較的容易に作れます。今後、特定の領域や目的に特化した、汎用的な AI よりも性能の良いエージェンティックAI が爆発的に増えていくでしょう。

こうしたエージェンティックAI を開発する際に必要なのは、専門知識や専門家の効率的なノウハウ、プロセスのすり合わせ、各プロセスのプロンプトの調整など、非構造的な要素の擦り合わせです。これは日本人が得意とする分野かもしれません。日本人はカチカチとシステム化されたものより、車のエンジンや新素材開発のような要素間の結合が強く擦り合わせが重要な分野で強みを発揮してきました。エージェンティックAI の開発も同様に、複雑に結合された要素をうまく調整して最適解を見つけていくプロセスであり、日本人が得意とする領域になる可能性があります。

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講演者紹介

エージェンティックAIとは?Deep Research機能と各社比較

浅野 佑策
リンカーズ株式会社 イノベーション推進事業本部

【略歴】
東北大学工学部卒業( 2006 年)、東北大学大学院工学研究科修了( 2008 年)
株式会社東芝 生産技術センターにおいて半導体製造プロセスの研究開発に従事。
その後、アクセンチュア株式会社にて大手製造業における、工場デジタル化や業務自動化などのデジタルトランスフォーメーションを複数推進。
現職では、メーカーでの研究開発とコンサルティングの経験を活かして、エレクトロニクス領域を中心に、先端技術動向調査、技術マッチング、技術情報を効率的に収集するための技術開発など、製造業向けのイノベーション創出を支援している。

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