
- 配信日:2025.03.21
- 更新日:2025.03.26
オープンイノベーション Open with Linkers
ディープテック・スタートアップ150社を徹底分析!最新事例を紹介:AI・量子技術など
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『次世代技術を担うディープテック・ユニコーン』のお話を編集したものです。
リンカーズの久留(ひさどめ)より、ディープテックの定義から、ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の具体的な技術事例まで解説します。
記事の最後では、セミナー講演時に使用した資料を無料にてダウンロードいただけますので、あわせてご覧ください。
目次
● ディープテックとは?定義を解説
● ユニコーン企業とは?定義・ディープテックとの関係
● AI 関連ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の割合推移と技術トレンド
● ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の国別内訳:アメリカ、中国、イギリスなど
● ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の解析パラメータ:企業概要、競合企業、特許数
● ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の代表的な技術分類:AI・機械学習など
● ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)が研究する技術の具体例:各分野の注目企業を紹介
・AI技術:使いやすさを追求した最新事例
・ブロックチェーン技術:ゲームやプラットフォーム分野での活用事例
・持続可能なエネルギー技術:バッテリーリサイクル、燃料生成技術
・ AI と量子技術の融合:量子コンピュータの実用化に向けて
・デジタルヘルスケア技術:在宅医療プラットフォーム
● ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の技術トレンドレポートのご案内*より詳しく知りたい方におすすめ
ディープテックとは?定義を解説
「ディープテック」という言葉は、「Deep(深い)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語です。ディープテック(Deep tech)とは、事業化や社会実装を通じて社会的課題を解決すると期待されている先進技術のことを表します。一方で、これらの分野は基礎研究に基づく高度な技術が必要であり、収益化までに長い研究開発期間を要するため、大規模な投資が不可欠です。
弊社が作成したレポートではディープテック・ユニコーン企業を 150 社取り上げていますが、高度な技術を保有しているのは大手研究機関や大学、あるいは大学の研究をスピンアウトして事業化する目的で立ち上がったベンチャー企業がほとんどです。ディープテックの実用化には大規模な投資ができる組織であることも重要な要素となっています。
また技術開発後も既存市場やビジネスモデルへの適用が困難であることに加え、行政や産業界との連携が求められるなど、さまざまな要因が社会実装の障壁となっているのです。
ユニコーン企業とは?定義・ディープテックとの関係
ユニコーン企業の定義も説明します。
ユニコーン企業とは、設立から 10 年以内に評価額が 10 億ドル以上に達した非上場のスタートアップ企業のことです。新規市場の創出や既存産業の変革を通じて、経済や社会に大きな影響を与える企業として注目され、約 1,500 社がユニコーン企業とされています。これらの企業は、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から多額の資金調達を行っているため潤沢な資金があるので、高いリスクを伴う成長戦略や国際展開を視野に入れた戦略の実行が可能となっています。
ディープテックを開発する企業であり、かつユニコーン企業が今後の新規開拓領域になるのではないかと考えられます。

実際にデータを見ると、Deep tech 分野への VC 投資は全体の投資額よりも高い伸び率となっており、VC投資全体に占める Deep tech への投資割合が増加傾向となっていることがわかります。この傾向は今後も続くでしょう。
今回、まずユニコーン企業 1,500 社から Deep tech に関連する企業を絞り込みました。これは何もバイアスをかけずに絞り込むと、 200 弱ぐらいが、現在 Deep tech に関連するユニコーン企業ということになっています。
その中から 150 社を選出しました。選出基準は、本来であれば 200 弱全て大企業をも含めて分析するのが最も公平に解析できる方法です。しかしベンチャー企業ゆえに現在どのような技術の進展度合いかというのが漏れてこない企業があります。いわゆるステルスモードで研究開発をしている企業です。そのような企業の技術はわかりにくいので除きました。
また AI に関する技術がかなりの数あります。今回のテーマは市場の拡大性ということなので例えば、AIに関する技術を持つ企業を 20 も 30 も並べて技術内容を説明してもそれほどの違いがない場合もあります。そういった意味で、可能な限り多岐にわたる技術分野を拾うという目的で、ある程度の指標は設けました。例えば評価額、競合企業の数などをもとに、 150 社を選出して、それぞれの事業内容に伴い、可能性のある産業構造の変化や市場の広がりなどを紹介します。
技術分野に関しては、 AI ・機械学習や新規素材・先進材料、エネルギー貯蔵・生産、バイオ技術など可能な限り広い範囲を対象としたディープテック・ユニコーン企業を取り上げて、それぞれの企業に関して技術を紹介していきます。
AI関連ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の割合推移と技術トレンド

では紹介に入ります。こちらの画像は AI に関連したユニコーン企業の割合を示したグラフです。 2015 年からスタートしており、年を重ねるごとにどんどん増えています。ユニコーン企業というのは一旦上場してしまうとユニコーン企業のくくりには入らないので、このようにパーセンテージが増えたり減ったりしておりますが、全体の数から比較するとはなだらかに増えています。

昨今、皆さんも手に触れる、あるいは会社などでお使いになってるかもしれませんが、単純な AI というのは、やや飽和気味な感覚があります。そのため特別な構造や特徴がない限り、 A Iを開発しているだけではなかなかお金は集まってこないし、生き残れない状況になっています。
それにもかかわらず、これだけ AI に関するユニコーン企業が増えているのはなぜかというと、 AI が当たり前になった前提で AI と何かを組み合わせた技術に取り組んでいるためです。今回、 150 件のベンチャー企業を弊社のシステムの母集団の解析にかけてみました。通常、母集団解析をかけると、いくつかの集団(クラスター)のようなものが出来上がるのですが、今の話から推察されるように、比較的真ん中に集まっているような分散の仕方をしています。というのも AI 技術 × ヘルステックや、 AI 技術 × モビリティなど AI が必ず絡んでくるため中央に比較的数が集まっているグラフになります。
この中で、中央から少し外れたグループがいくつかあります。まずは左上、サイバーセキュリティなどに有効活用されているブロックチェーンの技術や、ブロックチェーンと相性の良いゲーミング技術。
次に右側、バッテリーを含むエネルギー関連の技術というのもあります。一時期はエネルギーの効率化に AI 技術がふんだんに使われていたのですが、ベンチャー企業は上場してしまうユニコーンというくくりではなくなるので、 AI を含まないバッテリーを含むエネルギー関連の企業がグラフに現れてきました。これらは基本的にリサイクルや、持続可能性を考えた様々な取り組みを行っている企業です。
最後に一番下にあるヘルスケア分野。実はヘルスケアと AI は非常に相性がいいので、中央に寄っていても良いのですが、コロナ禍で AI を使った様々な医療技術が発展してまいりました。
その需要を受けて、様々なヘルスケア × AI の企業が上梓し、いま残ってるのは機械学習です。なので膨大なデータに基づいて何らかの医療的なアプローチや、ネットワークを介した在宅医療のプラットフォームなどが残っているというのが現在の状況になっております。
ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の国別内訳:アメリカ、中国、イギリスなど

これから解析を進めるにあたって、まず国別の内訳を見ていきます。画像右側の円グラフからです。ディープテックユニコーン企業の6割ほどがアメリカにヘッドクォーターを置いています。元々アメリカ自体ベンチャー企業の多いお国柄であり、さらにソフトウェア開発が得意であること。それから大学からのスピンアウトというのが非常に多い国ということもあって6割を占めています。
2番目が中国で 27.3% 。こちらには少し特殊なディープテック・ユニコーン企業が含まれています。その背景として、1つは中国自体マーケットが広いのと、豊富な資金が政府や企業から投入されるため、開発あるいはサービスを中国に限定したディープテック・ユニコーン企業が含まれていることにあります。それからもう1つ、ディープテックの社会実装の難しさとして、社会との連携社会、社会に広く浸透する必要という点があるので、行政などの協力が必要になってきます。中国のディープテック・ユニコーン企業は、政府あるいは地域行政と連携して事業展開を行っています。この点については政治情勢や文化的な背景も影響しているかと思いますが、例えば交通についてもモビリティで言うとバスの管理システムを中国全土に展開していたり、セキュリティについては個人認証で顔画像によって 10 億人の中から個人の特定が数秒で終わったりなどのシステムが普及しています。これらは政府の後押しや連携がないとなかなか発展しませんが、国の背景からして中国では普及しやすく伸びやすい分野なのではないかと思われます。
3番目がイギリスです。イギリスは有名大学がかなり力を入れており、オックスフォード大学やケンブリッジ大学のキャンパス内にはベンチャーを立ち上げるための、特にディープテックに関するサポートシステムがあります。そのため大学発のスタートアップやベンチャーがかなり含まれています。
4番目がイスラエルです。イスラエルは軍事産業が盛んで、軍事産業で培った技術を一般の市場に転用しています。例えば技術的なクオリティを下げてヘルスケアに使ったり、ネットワークの構築技術に使ったりしています。またイスラエルのスタートアップが会社を立ち上げるときはアメリカにヘッドクオーターを置くケースが多々見られます。国際情勢を見てもアメリカとイスラエルは非常に緊密な関係のため、将来の市場展開、世界展開を考えてのことでしょう。アメリカの 58 % の中には、いくつかイスラエルの企業も含まれています。
フランスにはEUの研究機関がいくつかありまして、そこからのベンチャー企業が多く見られます。そして環境に配慮していることがEUの特徴でもあり、その手のディープテック・ユニコーン企業が多めです。
最後にインドを見てみます。インドも中国と同じく人口が多いので、オリジナリティにあふれたディープテック・ユニコーン企業がたくさんあります。当然市場はインド国内というスタイルが多いという印象を受けました。またインドの強みはコンピュータ産業です。ソフトウェアやセキュリティを扱っている企業も含まれています。
画像の左側にディープテック・ユニコーン企業の設立年を示しています。1列目が設立年、2列目が企業数です。古い企業は 1997 年から始まっていますが、可能な限り新しい情報を掲載すべく 2024 年に設立した企業も入れています。
ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の解析パラメータ:企業概要、競合企業、特許数
こちらの画像は、ピックアップした 150 社を解析するにあたって用いたパラメータです。今回は企業の解析のため企業名、企業概要はもちろん、もう1つ競合企業というパラメータを盛り込みました。これが何を意味しているかというと、競合企業が全くいない企業と、競合企業が山のようにある企業にわけられるということです。
競合企業がないというのは、全く新しい技術を用いて社会に変革をもたらすような研究開発を行っていて、それを社会に投入しようとしている。あるいは社会実装が非常に難しいために競合企業が存在しないという企業です。
一方で、競合企業がたくさんある企業は、何らかのオリジナリティを持って生き残っていて、投資家からの資金を集めているということになります。この何らかの特徴が一体何を意味しているのかについて、その企業が取得している特許の数を調べて解析しました。すると当然と言えば当然ですが、 150 社のうちのおよそ3分の2にあたる 106 社が何らかの特許を取得していました。特許を取った技術を他社とのアドバンテージとして事業を展開しているということになります。
ディープテック・スタートアップ(ユニコーン企業)の代表的な技術分類:AI・機械学習など

こちらの画像は代表的な技術分類です。ディープテックの技術分類というのは様々な分析レポートで定義されているのですが、今回はまんべんなくジャンルが割り振れるように私どもの判断で技術分類しました。
一番左側の列が技術分類になります。一番右側の列がそれに該当する企業数です。ほとんどの企業が AI か機械学習を用いて、機械学習 × 何らかのテクノロジーで生き残りをかけているということが見て取れます。
中には企業数が少ない技術分類もあります。例えば上から3行目のイマーシブ・テクノロジー、 VR ゴーグルなどの技術は3つしか企業がありません。イマーシブ・テクノロジーを研究している企業は他の技術分野と被らずにオリジナリティのある研究を進めていることがわかります。
他に少ないものでいうと、真ん中くらいにある環境モニタリング・アグリテックもあまり AI とは関係ない技術分類とされています。