• 配信日:2023.03.15
  • 更新日:2024.04.19

オープンイノベーション Open with Linkers

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

化粧品事業を始めた後の富士フイルムの苦労


新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

富士フイルムが初めて上市した化粧品が f2i (エフスクエアアイ)シリーズです。試作品を作り、評価し、開発を進めて 2006 年の9月に発売しましたが、顧客評価は高いとは言えませんでした。鳴り物入りで始めた新規事業の最初の商品が評価されず、売れ行きが悪かったことは、担当者たちに大きなショックだけでなく、事業の危機をもたらしました。

ところが、 2007 年2月に追加発売した f2i リンクルエッセンスはなぜか顧客の評価も高く、そこそこ売れたのです。この理由を分析し判明できれば、化粧品事業の活路になると考えました。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

上の図は当時私が作成したものです。我々の化粧品のユーザーである女性は、年齢とともに肌の悩みが変わってきます。 f2i リンクルエッセンスを購入した顧客は「使うと肌にハリが出る」と評価してくれていました。そこから、私たちはシワやたるみといった悩みを持つ層が購入してくれていると考えたのです。当時、電話通販で直接顧客に販売していましたので、確認したところ 40 〜 60 代の女性が主に購入していることが分かりました。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

ここからは私の想像ですが、(今から15年前の)40 〜 60 代の方は若い頃に写真フィルムを使っていた世代だと思います。すなわち、富士フイルムという会社のことを知ってくれている方だと考えたのです。実際に使ってみて効果がある化粧品を、富士フイルムというよく知っている、化粧品メーカーでは無い企業が作っていることに期待感を感じ、買ってくれているのだと考えました。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

新しい商品を開発するときには、 顧客から求められること「 Must 」、私たちができること「 Can」、そして私たちがやりたいと思えること「 Will 」、この3つが必要です。富士フイルムに当てはめると化粧品事業は、写真フィルム事業で培った技術が応用でき( Can )、企業としても取り組みたい分野( Will )でした。しかし顧客が求める一般的な Must は理解していたつもりだったのですが、「(他社ではなく)富士フイルムには何が求められているか」を分かっていませんでした。それが「効果体感の実現 by 富士フイルムの技術(特にエイジングケア技術)」だということを、 f2i リンクルエッセンスを発売したことでようやく見つける事ができたのです。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

最初に発売した f2i シリーズは、顧客の実現したいこと・解決したいことに到達していませんでした。一方、 f2i リンクルエッセンスは黙っていても顧客が「肌にハリが出る」と評価してくれていて、その効果は富士フイルムの技術によって作られていると顧客に認識されました。そのことが、顧客の価値創造に繋がったと考えられます。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

富士フイルム化粧品事業のケースからいえることは、新規事業の創出は仮説構築・検証の繰り返しが重要であるということです。

事業における決断のタイミング

最初の化粧品販売によって、後にリリースするアスタリフトシリーズ開発の基となる考え方はできました。しかし、だからといって製品開発・販売が順調にいくわけではありませんでした。

事業を進める中で、さまざまな決断をする場面が生まれます。そして決断をするためには、充分な情報が必要だといわれています。しかし、いくら情報を集めても完璧に揃うことはないでしょう。うまく決断をするには、たとえ情報量が充分でなかったとしても、タイミングを決めて決断をすることが必要です。

このように考えると、私たちは化粧品事業を進めるにあたり、刻々と変わる状況に対応し、数多くの決断をしてきたように感じます。

新規事業におけるオープンイノベーションの重要性


新規事業を一社単独で創出するのは非常に困難であり、オープンイノベーションが欠かせません。自社のどの強み(技術など)を使うべきか見極める必要があり、不足している部分は提携相手の強みを生かしながら、新規事業を生み出していくことが求められます。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

新規事業においてオープンイノベーションには主に2つの要素があります。1つは「顧客との価値設定共創」です。これは先述の Must を顧客と一緒に作り上げるオープンイノベーションにあたります。もう1つは「提携相手との価値実現協創」で、使うべき自社の強みと使わない強み、提携相手の強みを生かしながら連携する部分などを見極めながら、新規商品・事業を創りあげるオープンイノベーションです。

「提携相手との価値実現協創」は、提携相手と連携することで、当初の想定を超えたより幅広く、価値のある商品・事業を創出できるようになります。

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Linkers Sourcing (リンカーズソーシング)サービスでは、
全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークや、リンカーズ独自のネットワークを活用して、貴社の課題を解決できる最適なパートナーを探索します。
研究開発パートナー、試作・量産パートナー、生産技術パートナーといった、さまざまなパートナー探索が可能です。

社内技術を異分野/異業種に生かす


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自社内の技術を異分野・異業種で生かすためには、まず社内技術と類似の技術が他業界・他社でどのように活用されているか探すことが発想のヒントになるでしょう。

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Linkers Research (リンカーズリサーチ)サービスでは、
グローバルな専門家ネットワークと独自のリサーチテクノロジーを駆使し、貴社の要望に合わせて、世界の技術やトレンドを調査します。特定領域の深掘調査、競合企業の戦略分析など、目的に応じたカスタマイズの調査も可能です。

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ヒントになりそうな業界・企業を見つけたら、実際に商品・製品開発を行っていくわけですが、その際に、その業界の専門家や顧客の候補になる人に話を聞いてもらったり、仮説を見てもらったりすることもとても重要です。

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Linkers Marketing (リンカーズマーケティング)サービスでは、
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既存事業は最初から完璧なプランを作ることができます。何故なら必要な要素が既に見えているためです。一方、新規事業の場合、完璧なプランを最初から用意することは不可能です。なぜなら、既存事業と反対に必要な要素が全ては見えないためです。

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

新規事業はやってみなければ完璧なプランにたどり着くことはできません。したがって、新規事業を行うなら、まず「やる」と決めることが大切です。そして、どう実現するかを考えながら試行錯誤・顧客検証を繰り返し、プランを修正・実行していくことが成功の道だと思います。

講演者紹介

新規事業で異業種の化粧品に挑戦した富士フイルムの戦略~オープンイノベーションの重要性

中村 善貞 氏
一般社団法人イノベーションアーキテクト 代表理事

【略歴】
京都生まれ、京都大学〜同大学院の専攻は有機化学
1984 年 富士写真フイルム入社、同 足柄研究所にて写真感光材料開発
2002 年 同 新規事業開発本部にて新規事業および同商品開発
2006 年 富士フイルム ライフサイエンス研究所にて機能性化粧品・食品開発リーダー(研究担当部長)
2011 年 同 ライフサイエンス事業部 商品部長、兼 医薬品ヘルスケア研究所 研究担当部長
2014 年 同 R&D 統括本部 技術戦略部 統括マネージャー
2015 年 同 R&D 統括本部 先端コア技術研究所 副所長 兼 経営企画本部 イノベーション戦略企画部 マネージャー
2017〜2022 年 同 イノベーション アーキテクト(社内外の新規事業創出教育および支援)
2018〜2020 年 国立大学法人 香川大学 客員教授(21 世紀源内ものづくり塾 塾長)
2021 年〜 一般社団法人 イノベーションアーキテクト 設立・代表理事(現職)

オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス

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「 Linkers Research 」サービス紹介ページ
リンカーズのグローバルな専門家ネットワークや独自のリサーチテクノロジーを駆使し、貴社の要望に合わせて、世界の技術動向を調査します。調査領域は素材、素子、製品、ITシステム、AIアルゴリズムまで幅広く、日本を代表する大手メーカーを中心に90社以上から年間130件以上の調査支援実績があります。

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